妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
「どういうことよ!責任者出てこーい!!」
アクアが何やらギルドの受付とモメている。どうやらクエストの報酬が、レンタルしていた檻の修理代で天引きされてしまったようだ。
「檻を壊したのって、確かあいつだよな?」
「ええ。あの人が檻をひん曲げてしまったせいで、弁償させられてるみたいでウィス」
「アクアも運が無いニャンね」
せっかく体を張って達成したクエストなのに、大幅に天引きされては自分が総取りした意味がない。今度出くわしたら一発ぶん殴ってやると、アクアは指の関節を鳴らした。
「佐藤和真はどこだあああ!!」
「お、噂をすれば」
ミツルギがカズマを見つけて、こっちに向かって歩いてくる。
「探したぞ!君のことは色々と聞いて…」
「オラアアア!!」
「ぶほおおおっ!!」
早速アクアに一発お見舞いされ、ふっ飛ばされたミツルギの顔が凹んだ。アクアにしてみれば、どの面下げて現れてるんだという話だ。
「よくものこのことやって来たわね!檻の修理代、30万エリス!今すぐ払いなさい!」
「…は、はい」
ちゃっかりと元の報酬より多い金額をせびっている。アクアの機嫌もようやく良くなり、酒を嬉しそうに呷っていた。
「で、俺に何の用?」
「…それなんだが、頼む!僕の魔剣を返してくれ!虫がいいのは分かってるが、そこをなんとか!」
ミツルギはプライドを捨て、頭を深く下げてお願いする。あれが無いと、今後の冒険者生活に大幅に支障をきたす。チート武器頼りの転生者には、無くてはならない物なのだ。
「あー、魔剣キログラムだっけ?あれなあ…」
ポリポリと頬を掻き、言葉を濁すカズマ。よく見ると魔剣を持っていないことに気付き、ミツルギの額に冷や汗が流れる。
「さ、佐藤和真…?僕の魔剣は?」
カズマは何も言わず、フッと笑って大量にお金の入った袋を見せつけた。
「どちくしょおおおおおおおお!!」
ミツルギは大急ぎでギルドから出ていき、街の質屋をくまなく探し回ったのでした。
「結局何だったニャン?」
「さあ?」
騒がしいのがいなくなり、ようやく静かに食事が出来る。と思ったら受付のお姉さんが、ギルド内の冒険者に今すぐ正門に集まるように指示を出した。特に、カズマのパーティーは絶対に行くようにと。
「何で俺達だけ名指しされたんだ?」
「んー、とりあえず行ってみるでウィス」
正門に集まる冒険者達。その視線の先には、数日前に現れたベルディアの姿があった。
「うわ、またあいつか」
「ウィス〜…あたしあの人苦手なんでウィスよね」
ついでに呪いをかけられたウィスパーは、ベルディアがすっかりトラウマ気味になっている。
「…俺が言うのもなんだが、貴様等には人の心が無いのか?この人でなし共ォ!!」
「え?な、何であの人あんなに怒ってんの?」
急に現れて覚えのない怒りをぶち撒けられても、カズマには何の事だかさっぱり分からない。
「しらばっくれるな!そこの紅魔の娘が、あれからずーーーっと!我が城に爆裂魔法を撃ち込んでいるのだぞ!」
「…なに?」
まさかの事実を伝えられ、カズマはめぐみんに視線を移す。図星なのか、めぐみんは気不味そうにさっと視線をそらした。
「あちらさんはああ言ってるが、本当か?」
「…し、知りません。誰かと勘違いしてるんじゃないですか?」
「…ふーん。ウィスパー、あの妖怪のメダルを」
あくまでもしらを切るめぐみん。白状させる為カズマはウィスパーから、バクロ婆のメダルを受け取った。
「バクロ婆、めぐみんに取り憑いて」
「ババーン」
「ちょっ、ちょっと待っ…はい!あの人のお城に、毎日爆裂魔法を撃ち込んだのは他の誰でもない…そう!この私です!」
「やっぱりお前じゃねえか!」
バクロ婆に取り憑かれると、どんな隠し事も洗いざらい吐いてしまう。カズマはめぐみんの頭に、グリグリと拳を押し付けた。
「痛たたたた!ご、ごめんなさい!ほんの出来心だったんです!」
「ったく、何でよりによってあいつの城に撃ち込むんだ」
「何で?それはもちろん、そこにお城があるからです!」
「やかましいわ!」
今までは草原に撃ち込むだけで満足していたが、大きくて硬い城に爆裂する快感を覚えてしまったのだろう。それはそうと、一発撃ったらダウンするめぐみんだけで犯行出来る筈がない。共犯者がいるに決まってる。
「…ジバニャン?」
ギクッ!ジバニャンの体がビクつく。特にめぐみんと仲が良いジバニャンは、よく一緒に行動していることも多い。
「お、オレっち…何も知らないニャン」
「そうか、チョコボー没収な」
「アクアも一緒に行きましたニャン」
「ちょっとジバニャーン!?」
チョコボーの犠牲になったアクアは、カズマに頬を引っ張られて半泣きになっている。ベルディアのせいでクエストが出来なくなった腹いせに、むしゃくしゃしてやったそうだ。
「次に俺の知らないとこで変なことしたら、二人ともハナホ人の刑にしてやるからな」
「すみませんでしたー!」
「それだけはご勘弁を!」
ハナホ人の恐ろしさを知ってる二人は、速攻で地面に手を付いて謝った。女の子にとって、ハナホ人はそれ程恐ろしい妖怪なのだ。
「俺が怒ってる理由は他にもある。貴様等は、仲間の仇を討とうという気は無いのか?自分を盾にして、呪いを受けたあのクルセイダーは見事な者だ。敵ながら称賛に値する。それを貴様等は…」
冒険者の群れの中に死んでる筈のクルセイダーを見て、ベルディアの口が止まる。呪いを受けて、今頃はとっくに亡き者になってる筈なのに。
呆気にとられてるベルディアと目が合って、ダクネスは一歩前に出てくる。
「魔王軍幹部にそこまで言って貰えるのは、少し照れるな」
「き、貴様…!何で生きて」
ダクネスにかけた呪いは、そんじゃそこらのプリーストレベルでは解けない呪いだった。しかし残念、この街には女神のアクアがいるのだ。魔王軍幹部の呪いなど、アクアにしてみれば大したことが無かったのだ。
「プークスクス!ねぇ見た?あのデュラハンったら、来るわけない私達を待ち続けたみたいよ!超ウケるんですけど〜!」
「無駄に煽るな!」
相変わらず人の神経を逆撫でするのが好きなアクア。相手が相手だけに、カズマも冷や冷やしている。
「カズマくん!これ以上あの人を怒らせたらまずいでウィスよ!」
「早く謝った方がいいニャン!」
「そ、そうだな。よし、ちょっと行ってくる」
相手は魔王軍幹部だが、今回の件はこちらが悪い。爆裂魔法の苦情で来ているなら、一言誠意を込めて謝罪すれば、少しは機嫌を直してくれるだろう。
「ふん、今になって謝罪とは。まあいい、聞くだけは聞いてやろう」
「えー、この度は、俺の仲間が大変なご迷惑をかけてしまい、真に…ごめん!ごめん!一旦ごめーん!」
「カズマくん!?」
「何やってるニャン!?」
明らかに反省の欠片もない謝罪をするカズマ。嘗めてるとしか思えない態度に、ベルディアの血管がブチブチ切れる音がする。
「…貴様、ふざけてるのか?」
「い、いいえ!そんなことは決して…!」
自分でも何であんな謝罪をしたか分からない。これはきっと妖怪の仕業だ。あんなふざけた謝り方をさせる妖怪は、あいつしかいない。
「やっぱりお前か!一旦ゴメン!」
ウォッチをかざすと、黄色い布に人を小馬鹿にしたような顔の妖怪がいた。彼の名は一旦ゴメン。適当に謝って反省しない、ウザい奴を引き起こす妖怪である。
「おい一旦ゴメン、今はマジでシャレにならない状況なんだよ。頼むから引っ込んでくれ」
「分かった分かった〜、もうしないよ〜」
お?意外に物わかりがいいか?一旦ゴメンが側を離れ、もう一度ベルディアに向き直る。怒りの黒いオーラが漂っていて、次失敗すればもう許して貰えないだろう。
カズマは咳払いを一つして、襟を正す。
「次は無いぞ。俺も忙しいんだ、早くしろ」
「は、はい。この度は、俺の仲間が大変な事をしてしまい真に…ごめんごめんw一旦ごめーんw」
「貴様ああああああ!!」
「違あああああああう!!」
一旦ゴメン、お前だけは絶対に許さない。絶対にだ。カズマは大急ぎでベルディアから離れ、アクア達の元に戻る。
「もー、余計怒らせてどうするのよ」
「人に謝るときは、ちゃんとごめんなさいしなきゃ駄目ですよ」
「う、うるせえ!元はと言えばお前らが悪いんだろが!」
アクアとめぐみんの二人だけには、文句を言われたくはない。それより、あのベルディアを完全に怒らせてしまった。もう謝っても許して貰えないだろう。
「貴様らに地獄を見せてやる。来い!アンデット共!」
地面から配下のアンデットナイトが続々と這い出てくる。ただでさえベルディア一人だけでも苦しいのに、数の差までこちらを上回られてしまった。
「奴らを血祭りに上げろ!」
ベルディアの号令で、アンデットナイトが向かってくる。身構える冒険者達。これから血みどろの大乱戦が繰り広げられる…と思ったが、アンデット達はアクア一人に群がって行く。
「な、何で私だけー!?日頃の行いは良い筈なのにー!」
「いや悪いだろ」
アンデットの本能的に、女神であるアクアに救いを求めているのだろう。しかしこれは好都合。アクアが敵を引き付けている内に、こちらは作戦を立てられる。
「めぐみん。あの群れに向かって、爆裂魔法撃てるか?」
「うーん、あんなに動き回られると狙いが…」
つまり、一点に集められれば問題ないということか。カズマが考えを巡らせていると、アクアがアンデットを引き連れてこっちに向ってくる。
「私だけ狙われるの不公平よ!こうなったら道連れにしてやるー!」
女神とは思えない言動だが、それは今に始まったことではない。
「よしアクア!俺に着いてこい!」
「え?わ、分かったわ!」
二人でアンデットを引き連れ、ベルディアの所まで全力疾走する。そして目の前まで接近したタイミングで、カズマとアクアは素早く二手に分かれた。
「馬鹿め、甘いわ!」
「何っ!?」
ギリギリまで引き付けて、最後はベルディアごとめぐみんの爆裂魔法で倒す算段だった。だがそれを読んでいたベルディアは、すぐにその場を離れた。
「残念だったな。所詮冒険者の浅知恵よ」
(しまった!ここで逃げられるとまずい!誰か、誰かあいつの動きを…)
そう思った瞬間、何者かがベルディアの動きを止めた。
「あたくしを、お忘れじゃありませんか?」
「ウィスパー!」
ウィスパーがベルディアを後ろから羽交い締めにして、逃げ出せないように引き止めている。
「は、離せ!このほにょほにょ野郎!」
「さあ、俺と一緒に地獄に行こうぜ」
ウィスパーは、ベルディアと共に心中するつもりなのだろう。その顔は、覚悟を決めた漢の顔だった。
カズマくん、ジバニャン、皆さん。さよならでウィス…………
「カズマくん!あたしに構わずこいつを」
「今だめぐみん!ウィスパーに構わずやれー!」
「ってあんれえええ!?」
「最高のシチュエーションです、感謝しますよカズマ!」
「嘘嘘!今のは嘘ー!やっぱり構ってくださウィスー!」
本当にウィスパーのことに、まったく躊躇う様子もないカズマとめぐみん。確かに格好つけて構うなと言ったが、ここまでとは思わなかった。
「エクスプロージョン!」
「ぐわああああああ!!」
「ぎいいやああああああ!!」
赤黒い爆炎が二人を包み、凄まじい爆風が吹き荒れる。地面が盛大に抉れたその場所には、立っている物陰は誰もいなかった。
「…す、凄え。あの頭のおかしい子がやりやがったぞー!」
「魔王軍幹部を倒しちまうなんて!」
「やるじゃねえか、頭のおかしい子!」
歓喜の渦に湧き上がる冒険者達。しかし頭のおかしい子呼ばわりされためぐみんは、カチンと来ていた。
「カズマ、あの人達の顔と名前覚えておいてください。後で仕返しに行きますので」
背中に乗るめぐみんを宥めて、カズマは辺りを見回す。アンデットを全滅させ、魔王軍幹部を一人葬った。勝った、俺達は勝ったんだ。犠牲は出したが、これでウィスパーも報われるだろう。
雲一つない青空に、ウィスパーの笑顔が浮かんでいた。
「…まさか、今のでこの俺を倒したつもりか?」
「何っ!?」
「配下を全滅させたのは褒めてやろう。次はこちらの番だ。精々、楽しませて貰おうか」
戦いはまだ、終わっていなかった………
「っあー、死ぬかと思ったでウィスー」