妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
アクセルの中心部を、カズマは特に用事もなくぶらついていた。妖怪ウォッチを忘れたことには気付いていたが、今さら取りに帰るのも面倒くさい。
(ん?あいつらは…)
道の端っこでウロウロしてる二人組の男。彼らは冒険者仲間のダストとキース。
初めて合った時はダストがカズマに、最弱職のくせに上級職の美少女に囲まれて羨ましいと因縁をつけてきた。カズマも最初は相手にしていなかったのだが、ダストがあまりにも言い寄ってくるため、調べたら妖怪ムカムカデに取り憑かれていたのだ。
ムカムカデを追っ払ってダストは正気に戻り、因縁をつけたことをカズマに謝罪。それからは一緒に宴会したりするくらいの仲にはなったのだが、二人は今なにをしてるのだろう。
「よっ、何してんの?」
「うおっ!?」
「か、カズマ!?脅かすなよ…」
普通に声をかけただけなのに、二人の様子がおかしい。妙にソワソワして挙動不審だし、何かやましいことでもしてるのか?
「…カズマ。同じ街の男冒険者として特別に教えてやる」
「何を?」
「…男冒険者にサービスする、サキュバスが経営してる店の話しだ」
「…聞こう」
その日の夜、用事を済ませたカズマが帰って来た。
「ただいま〜。うおっ、なんだなんだ? 今日はやけに豪勢だな」
食卓に並べられた蟹や酒の瓶を見て、思わず喉を鳴らす。
「お帰りなさいカズマくん。ダクネスさんのご実家から、超〜〜〜〜〜ウォウウォウ高級な蟹をいただいたんでウィスよ!」
「遠慮せずに、今日はいっぱい食べてくれ」
ゴクッ…確かに美味そうだ。まるで霜降り肉のような圧倒的な重厚感と輝き。やばい、止まらん。一口食べただけで、やめられない止まらない。
「今日はじゃんじゃん飲むわよー!」
「わ、私も飲みたいです!いいじゃないですか今日くらい!」
「だーめ!お子様にはまだ早いのよ!」
「カズマもどうだ?一杯やるか?」
「ああ、もちろ……はッ!!」
ダクネスにお酌をして貰う直前、カズマは大事なことを思い出した。昼間にサキュバス店に行った時、夢が見られなくなるからあまり飲み過ぎるなと注意を受けていたのだ。
我慢、ここは我慢だ佐藤カズマ。たとえアクアが凄く美味そうに飲んでいても我慢だ。危ない危ない、俺は長男だから耐えられたけど、次男だったら我慢出来なかった。
「…あー、今日はやっぱりやめとくよ」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「い、いやそうじゃなくて、今日は昼間に知り合いと飲んでたから…」
「そうだったのか。ならその分、どんどん食べていいんだぞ」
カズマの嘘を素直に信じるダクネスに、流石に少し罪悪感を感じる。
(くそっ、俺はいったい何をしてるんだ)
罪悪感と葛藤に駆られ、カズマは目の前の仲間たちを見た。
「見てみて〜、デストロイヤー!」
「おお〜!あのワシャワシャ感をこうまで再現するとは!」
「これはもはや芸術だな…!」
「カズマくんカズマくん!あたしなんか鼻からお酒を飲めるんで…ぶへええっ!!」
「汚いことするニャン!」
楽しそうにはしゃぐ仲間たち。そうだ、何を迷ってたんだ俺は。かけがえのない仲間と過ごす時間が、何よりも大切じゃないか。
そのことに気付いたカズマはふっと笑って、立ち上がった。
「よし、俺は先に休ませて貰うよ。後はお前らで楽しんでくれ」
え? 俺はこういう男ですが何か?
(あー、ちくしょう。妙にドキドキして眠れねえ)
ベッドの中で寝返りを何度かうつが、なかなか寝付けずにいるカズマ。早く良い夢を見させて貰おうと深呼吸するが、逆に段々と目が冴えて来てしまっている。
(…風呂でも入るか)
夢の中といえど、エチケットは忘れちゃいけない。俺は紳士な男なのだ。
湯船に浸かり、一日の疲れを癒やす。少し落ちついてきたせいか、瞼が重く感じる。入浴中の睡眠は危ないと知りつつ、少しだけならとカズマは眠ってしまった。
・・・・・・・・
「カズマ、あ〜ん。どう、美味しい?」
「うん、美味しいよ。頭がちょっとキーンってするけど」
「良かったあ。まだまだあるから、いっぱい食べてね!」
綺麗なお花畑の真ん中で、ふぶき姫にかき氷を食べさせて貰っているカズマ。ふぶき姫は凄く楽しそうで、何とも微笑ましい光景だった。
「ねえ、カズマ。私のこと…好き?」
「へ?そ、そりゃもちろん…」
「カズマ〜。そんな子は放っといて、私と遊びましょ〜」
「えんらえんら!?」
煙の妖怪、えんらえんらがここで乱入。カズマをふぶき姫から引き離すように、腕に手を回して抱きしめている。
「ちょっと!カズマは私とデート中なんだから邪魔しないで!」
「カズマ。そんなお子様より、大人の私の方が魅力的でしょ?」
胸を腕にぎゅ〜と押し付けられてドキッとしたが、カズマはすぐにキリッとした表情に変えた。
「…俺はいつでも、いいぜ」
「も〜!カズマったらデレデレしちゃって〜!」
カズマの腕を引っ張り合い、どっちがカズマに相応しいかモメる二人。するとそこにフゥミンや乙姫、人魚など他の女性妖怪も加わり、ハチャメチャな状態になった。
「こらこら。慌てなくても、全員まとめて可愛がってやるよ」キラーン
「きゃ〜!」
「カズマー!」
黄色い声援が自分に向かって飛び交う。これこそまさに、夢に見たハーレム状態。なんて素晴らしいんだろう。まるで夢を見てるようだ。
…ん? 夢?
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッッ!!!
「ぶっはあっ!?」
湯から勢いよく顔を出す。危うく風呂で溺れ死ぬところだった。
「ゲホッゲホッ!ハァハァ…ゆ、夢?」
「いい夢見れたかい?」
「ば、バク!?」
目の前にいたのは、夢を食べる妖怪のバク。
「ずいぶん楽しそうな夢を見ていたようだねえ。ごちそうさん」
「あっ、こら待て!」
バクはスゥーと姿を消し、どこかに行ってしまった。夢を食べられたせいで、さっきまでどんな夢を見ていたかイマイチ思い出せない。凄くいい夢を見ていた気がするのに、バクのやつ〜!!
「も、もしかして、サキュバスの夢を食べたんじゃないだろうな…。冗談じゃないぞ!高い金払ったのにちくしょー!!」
悔し紛れに床を叩くが、手が痛くなるだけで虚しいからやめた。こんなことなら、我慢せずに酒を飲んでおけばよかった。仲間より欲望を優先したバチが当たったということか。
「…はあ、上がって寝よう」
すっかり萎れてしまったカズマ。しかし、ドア越しに誰かが着替えているのが見える。体の凹凸からして、まずめぐみんはありえない。じゃあアクアか?いや、雰囲気から見て多分違う。そうすると残るは一人…そうだ、あれはダクネスだ。
「…なるほど、本当のお楽しみはこれからだったのか」
まったく、ヒヤヒヤさせやがる。そうとなれば、俺はドーンと待ち構えていようではないか。この際ダクネスでもなんでもいい。それに、前々からエロい体してると思ってたし。
さあ、思う存分楽しませて貰おうか!!
ガラッ
「さあー、風呂だ風呂だー」
バッシャーン!!
「ウィス?」
出てきたのはダクネスではなく、八頭身姿のウィスパーだった。シルエットと全然違うやつが現れて、カズマは湯船の中でズッこける。タオルで体をパァンパァン!と叩いて、オッサンみたいな登場だ。
「くっそー!この小説ではそんなおいしい展開は無いって分かってた筈なのにー!!」
「何を言ってんですかカズマくん」
曲者ー!皆のもの、であえであえーい!!
「おや、この声は」
「アクア?」
時代劇みたいな招集をかけるアクア。風呂場にまで聞こえてきて、これはただ事ではないとカズマとウィスパーは急いだ。
「おいダクネス、何かあったのか?」
「いや、私も知らな…ひゃあ!?」
向かう途中でダクネスと合流。ダクネスは腰に布一枚という底防御力装備のカズマを見て、女の子らしい悲鳴を上げた。
「な、なんでそんな格好なんだ…!」
「さっきまで風呂入ってたんだよ。そういうダクネスも、なんで着替えを持っているんだ?」
「…わ、私も風呂に向かう途中だったんだ。そうか、カズマが先に入っていたのか。危うく鉢合わせるところだったな」
「ちっ、アクアめ。余計なことを」
「何か言ったか?」
「いやなにも」
ボソッと恨み節を言うカズマ。せっかくのチャンスだったのに。これでつまらないことで呼び出したらただじゃおかないぞ。
廊下を曲がると、アクアとめぐみん、そしてジバニャンがいた。その3人に囲まれるように、誰かもう一人いるみたいだ。
「あ、3人ともこっち…ってここにも変態が!?」
「誰が変態だ!」
「カズマ、大変です!」
「だから変態じゃねえ!」
「変態じゃなくて大変ニャン!」
アクア達に囲まれて怯える少女。サキュバス族らしく、恐らくはカズマを狙って現れたのだろう。アクアの話によれば侵入してきたところを、この家に張られた結界に引っかかったらしい。
「この私の屋敷に忍び込むなんて、いい度胸してんじゃない」
「大人しくしていれば、楽に滅してあげますよ」
アクアとめぐみんはサキュバス退治に乗り気なご様子。しかし、その横でカズマは汗を流していた。
(あれ?これってもしかして…いや、絶対そうだわ)
恐らく、このサキュバスの子がカズマに夢を見せにきたのだろう。自分のために、こんなか弱い女の子を見殺しには出来ない。
「ちょ、ちょっと。カズマ何してるの?」
カズマはサキュバスの子の前に立ち、まるで守るように両手を広げた。
「に、NIGERO…」
「お、お客さん…?」
妙に渋いダンディな顔になり、低い声で言い放つカズマ。
「はあっ!?ちょっとカズマ正気!?」
「カズマ、可愛くてもそれは悪魔なんですよ」
「もしかして、カズマは既に操られているんじゃないか?」
ダクネスの予想は外れているが、カズマにとってはその方が都合が良かった。
「俺が奴らを引き付ける間に、早く逃げるんだ」
「で、でも…」
「…俺のことは振り返らずに、行け」
ファイティングポーズを取り、カズマは小刻みにステップを刻む。アクア達は操られてる(と勘違いしてる)カズマを解放すべく、というより案外ノリノリな感じでボコボコにしようと指を鳴らしている。
「…仲間といえど、容赦はしないぜ」
カズマが拳を握り、奇声を上げて飛びかかった!
「いくぜ!ヒャオオオォォォオウオウオウ!!」
この後、あっさり瞬殺されたカズマ。結局良い夢を見ることも出来ず、ボコボコにされて踏んだり蹴ったりな一日だったが、サキュバスの子を無事に逃がすことが出来たので良しとしよう。
そして翌日。
「あー、違う違う。胸はもっと大きめで、身長はそうだなあ、俺より少し低いくらいがちょうどいいな。ってコラ!なんで顔がウィスパーなんだよ!」
「まぼ〜」
「カズマくん、まぼ老師を呼んで何してるんでウィス?」
カズマはまぼ老師を召喚して、自分が理想とする女の子の幻を作っている最中だった。サキュバスが駄目なら、まぼ老師の力を借りよう。もう幻でも何でもいいから、とにかくこの欲求不満を解消したかった。
「えー、ちょっとそれ虚しくありません?」
「お、俺だって、俺だってなあ…」
「ウィス?」
「俺だって、女の子とイチャイチャする幻が見たいんだーーー!!」
「幻でいいんすか?幻でいいんすか?」
次からは皆がいない時にサキュバスを呼ぼう。悲しい絶叫の中で、カズマはそう決意したのである。
今日の妖怪大辞典!
「カズマくん、今日の妖怪は?」
「えーと、バク!」
「ワシは眠らせた者の夢を食べる妖怪じゃ。お前の仲間の夢を食べてやろうぞ」
バクの煙を吸い、眠らされるアクア達。
「ふふ。落ちていく落ちていく、夢の中へ。さあ、どんな夢を見ているかの?」
(はーはっはっ!私は紅魔族でも史上最強の爆裂魔法使い、めぐみん!!今の私は、一日に何度でも爆裂魔法を放つことが出来るのです!必殺、百裂エクスプロージョン!!)
「な、なんじゃこの夢は。こんな頭のおかしい夢を食べたら腹壊すわい」
(くっ、騎士の私によくもこんな真似を…殺せっ!!)
「…こっちはこっちで、特殊な夢を見とるし」
(ついに、我がアクシズ教が世界を牛耳る日が来たわ。この女神アクア様の前に、頭を垂れて蹲いなさい!!)
「…女神とは思えぬほど欲まみれの夢じゃな。もうええ、こんな奴らの夢なぞ食えるか」
「バク、呆れて帰っちゃいましたね」
「仲間として誇らしいような、情けないような。複雑な気分だ…」