妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
「ちょっと待ってください。それは何かの間違いです」
「めぐみん…」
「カズマはせいぜい、パンツを剥ぎ取るくらいのセクハラが関の山。そんな国家転覆を企んだり、ましてや魔王軍の手先なんて大物じゃありません」
「さり気なく俺を小馬鹿にするのやめろ」
わざわざ王都から騎士団を引き連れて現れたのは、検察官のセナ。カズマに国家転覆罪及び、魔王軍の関係者という容疑をかけている。
「検察官殿。仲間という贔屓目なしに見ても、カズマがそのような男とは、私にはとても思えんのだ」
「ダクネス…。いやまて、この後の展開が読めた気がする」
「なにせこの男は私が風呂から上がったあと、ケダモノのようないやらしい視線を向けるだけで何もしないヘタレなのだからな!」
「やっぱりな!お前ら、擁護するならちゃんと擁護しろお!」
まともに庇ってくれないどころか、カズマの不審を煽る二人。元々疑いの目を向けていたセナの視線が、カズマに痛いほど突き刺さる。
周りの皆も、カズマの無罪を主張してコールする。が、国家転覆罪は主犯以外にも及ぶとセナが説明すると、手の平を返したようによそよそしくなった。
「あいつら〜!はっ、これはもしかして妖怪のしわざ?」
「またまた〜。他の皆さんもカズマくんのことは当然心配ですけど、やっぱり自分の身が一番かわいいんでウィスよ。見放されて悔しいのは分かりますが、いちいち妖怪のせいにしないで…」
「いたぞ!」
「オーマイガッ!!」
周りの冒険者達の近くに、黄色い手袋のような妖怪を発見。
「確かあの妖怪は、てのひ」
「皆さんお待たせしました。頼れる妖怪執事、ウィスパーの妖怪紹介コーナーでございます。あの妖怪はですね〜、もちのろん知ってますよ〜。黄色い手袋のような妖怪なので、イエローハンドグローブ。ではなく、ジャンケンで最初はグーじゃなくパーを出すウザいやつ。でもなく…ありました!あれは妖怪てのひらがえし!!」
ブキミー族のてのひらがえし。取り憑かれた相手は、すぐに意見を変えて態度をコロコロ変えてしまう。
「妖怪不祥事案件のいわゆる、俺はお前のこと信じてるからな!って言ってたけど、いざ裁判になると、いや〜、あいつはやると思ってましたよ〜。って裏切るやついるよね〜を、引き起こす妖怪でウィス!」
「最悪だよ!なんてタイミングで出てくるんだ!」
ジバニャンが追い返そうと戦ってくれているが、そもそもてのひらがえしを追っ払ったところで状況が変わるとは思えない。セナはカズマを何としてでも引っ張っていくつもりだろう。
「サトウカズマ、大人しく来てもらおうか」
「くっ…」
ジリジリと、セナが連れてきた騎士に詰められるカズマ。
なんで?なんでこんなことになってるんだ? 俺はデストロイヤーをやっとの思いで何とかしたのに、街を救ったのに、褒美を貰えないどころか一級の犯罪者扱いなんてあんまりだろお! あ、やべ。泣きそう。ちくしょう、こうなったら…
気付いたら、カズマはギルドを出て走っていた。
「カズマくん!?」
「逃げたらまずいニャン!」
「この期に及んで逃げるとは、クロであることを自白したも同然。確保ー!!」
カズマは逃げる、必死に逃げる。しかし、そんな努力も虚しくあっさり御用になった。ジタバタ暴れて抵抗を試みるが、鍛え抜かれた騎士相手には全く意味のないものだった。
「離せ!離せー!俺は無実だあああああ!!」
日が沈み、月が辺りを照らす夜の中。重々しい雰囲気を纏っているのは、アクセルが誇る大監獄。厳重な警戒が敷かれ、脱獄することは叶わない閉ざされた世界。いくつも連なる鉄柵の部屋。看守の機械的な足音が長い廊下に響き渡る。
そのとある房の中、一人の囚人が日記を書いていた。
(脱獄不可能な刑務所、ここに私は入れられた。どうも皆さん、じんめん犬です。なぜ私がここにいるのかって? 私も、当然好きでこんなとこにいるわけではありません)
じんめん犬は思い出す。この世界で初めてカズマに召喚された時のことを。そして、その後の宴会でやらかしたことも。
(確かに、私が粗相をしたのが原因というのもありますが、問題はその後。私を友達と称して、捕まっているのに無理矢理呼び出すあの悪魔のせい。そして意味が分からないのは、私とは殆ど面識がないのに、頭のおかしい少女にまで呼び出されたこと!)
じんめん犬の脳裏に、カズマとめぐみんの姿が浮かび上がる。二人ともじんめん犬の事情などお構いなしに、問答無用で召喚していた。
(あいつらのせいで、私の意思に反して脱獄して罪を重ねてしまったんです!)
日本にいた頃も、何度も刑務所のお世話になったじんめん犬。まさかこっちの世界に来てまで刑務所に入るとは思わず、カズマとめぐみんに対して怒りが溜まっている。
「あーもう、思い返してもムカつきます! ちっくしょおおおおお!!」
「おい!うるせえぞ!」
「ひえっ!?す、すいません…」
隣の住人から壁をドン!と叩かれ怒られる。じんめん犬は静かに、自分の布団へと戻る。今度カズマに合ったら、めぐみんの事も含めて苦情を言ってやる。
そう決意した時、扉が開かれる音が聞こえた。重い扉が開く重低音、また哀れな新入りがやって来たのだろう。
「おうおう!新入りかコラァ!」
「お前みたいなひょろいのがここに来るなんて、シャバでいったい何したんだあ!」
「聞いてんのかオイ!!」
「へー、結構可愛いじゃねえか。俺のタイプだ」
先輩達から新人への手洗い歓迎が始まる。ガンガン鉄格子を蹴ったり、汚い言葉を飛ばす。大抵の者はこの迫力にビビり、大人しく囚人生活を送る。じんめん犬もその一人だ。今度入って来たのは若い男か? 囚人達の歓迎に気圧され、驚いた声を上げている。
「ここだ、入れ」
どうやらその者はじんめん犬と同房らしい。鉄格子が開かれ、寝る直前だったじんめん犬は体を起こす。
「あ、あの…よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。分からないことがあれば、遠慮なく聞いてくださ…」
会釈した顔を二人は上げる。すると、相手の顔を見て目を丸くした。
「じ、じんめん犬!?」
「カズマさん!?なんでここに!?」
入っきたのは、なんとカズマだった。じんめん犬と同じように、縞々の囚人服を着ている。思わぬところで再開した二人。さっそく文句を言おうと思っていたじんめん犬だが、カズマの事情を聞いて、さすがに同情したのか何も言わなかった。
「ちくしょう。なんで裁判もまだなのに、こんな監獄に入れられなきゃならないんだ。日本に帰りたい…」
「カズマさんも大変だったんですねえ」
「…ああ。最悪の場合、死刑になるかもしれないって」
中世ヨーロッパのように、貴族や王族が権力を持っているこの世界。領主の屋敷を吹き飛ばし、魔王軍幹部の容疑までかかっているとなれば、カズマの判決はまず死刑で間違いないだろう。優秀な弁護人や後ろ盾の無いカズマには、負け戦に等しかった。
「そういえばカズマさん、妖怪ウォッチはどうしたんです?」
「あれだけは調べられるわけにはいかないからな。連行される直前に、こっそりウィスパーに渡したよ」
妖怪ウォッチに触れると妖怪が見えるようになる。セナに妖怪の存在がバレるとますますカズマの立場が危うくなるから、それだけは回避しなければならなかった。
しかし、これでは妖怪を召喚して助けて貰うことは出来ない。どうしようか悩んでるカズマに、じんめん犬が耳打ちする。
「カズマさん、こうなったらもうあれしかありません」
「あれって?」
「脱獄するんですよ」
「だ、脱獄!?」
「しっ、声が大きいです」
まさかじんめん犬の方から脱獄を提案するとは思ってなかった。だがここは鉄壁の要塞。脱獄は容易ではない。
「でも、どうやって脱獄するんだよ」
「それは、これです」
じんめん犬は、布団の下に隠してあったスプーンを取り出した。食事の際、食堂から密かに持ち出したやつだ。
「このスプーンで穴を掘って、監獄の外に出るんです」
「こんな普通のスプーン一本で、穴なんて掘れるのか?」
「大丈夫です。実はもうすでに、脱獄用の穴を掘っているんですよ」
じんめん犬は布団を移動させると、その下に穴が空いていた。まだ作業は途中らしいが、あともう少しで外に出られるという。
「看守が巡回に来るかもしれませんので、カズマさんは念の為ここで待っててください。外へと通じる穴が出来たら、すぐに呼びます」
「あ、ああ分かった。頼むぞじんめん犬」
じんめん犬が穴に入り、カズマはバレないように布団で塞ぐ。
(とりあえず出られるのはいいけど、その後どうする? 指名手配とかされるかもしれないし、そうなるとあの屋敷を手放さなくちゃいけないし…)
悩んでるカズマをよそに、じんめん犬は地面を掘り進む。
(まったく、カズマさんはいい時に来てくれましたよ。急に牢屋が空になれば、脱獄したのがすぐバレてしまいますからね。私が遠くまで逃げる時間を稼ぐために、せいぜいカズマさんには囮になってもらいましょうかねえ)
悪い顔を浮かべるじんめん犬。カズマがここに来た経緯には同情したが、まだ許してはいなかった。
(お、もうすぐ出口…!)
上から光が差し込み、じんめん犬は必死にスプーンでかき分ける。地面がポロポロ崩れてきて、とうとう穴が開通した。
「やったー!脱獄成功…って、あれ?」
監獄の外に出たかと思ったが、そこはカズマとじんめん犬の牢屋の前。つまりまだ監獄の中。地面を掘っている途中、方向感覚が分からず、予想と全く違う場所に出てしまった。
「何やってんだよ」
「こ、こんな筈じゃ…」
カズマの呆れ声が聞こえ、脱獄計画が音を立てて崩れていくのを感じるじんめん犬。しかし、彼の災難はここからだった。
「そこで何をしている!!」
巡回に来た看守に見つかり、じんめん犬は捕まってしまう。
「この穴、まさか脱獄しようとしてたのか!」
「ち、違います!こ、この穴は…しゅ、趣味で掘ってただけです!」
「何が趣味だ!くだらん言い逃れをするな!」
「本当です!ねえカズマさん!これは何かの間違いですよねえ!」
カズマに助けを求めようと、じんめん犬は必死に訴える。じんめん犬と目が合ったカズマは何かを考え、サッと視線をそらした。
「お前もこいつの仲間か?」
「いえ、全っ然知りません」
「え!?」
予想外の裏切りに合い、じんめん犬は目を大きく見開く。
「たまたま同じ牢屋に入れられただけの他人ですね。僕と彼は、まったくの無関係であります」
「か、カズマさん!あんた鬼かあ!!」
クズマ、カスマなどと罵倒するが、そもそもじんめん犬もカズマを囮にしようとしたのでお互い様だ。
「脱獄しようとした罪は重い!貴様を最下層の牢獄にブチ込んでやる!」
「ちっくしょおおおおおおおお!!」
長い廊下にじんめん犬の絶叫がドップラー効果で響き渡る。その姿を見届けたカズマは、やれやれといった感じで布団に転がった。
「寝よ」
真夜中の監獄。皆が眠りに落ちた頃、白い物体が飛び回っていた。
「ここも違う、ここも違う。あっ、いや違うわ」
牢屋を一つ一つ見て回り、中の住人を確かめる。
(ん、なんだ? 看守の巡回か?)
妙な気配を感じたカズマは、薄っすらと目を開けた。
「ウィッス」
「…。うわっ!?」
「しー!大きな声を出しちゃ駄目でウィス」
カズマの口を抑え、人差し指を立てるウィスパー。驚いたカズマだが、次第に冷静さを取り戻した。
「ぷはっ!何だウィスパーか、いきなり顔を近づけるなよ。宇宙人の襲来かと思った」
「どういう意味でウィス」
言いたいことをグッと堪え、ウィスパーは壁をすり抜けて一度外に出る。しばらくすると、ウィスパーとアクアの声が聞こえて来た。
「アクアさん、カズマくんのお部屋見つかりましたよ」
「カズマ、ここにいたのね」
「どうしたんだ二人とも。こんな夜中に」
ウィスパーは壁をすり抜けて中に入り、アクアは台を使って少し上の鉄格子から中を覗いている。
「心配だから見に来たに決まってるでしょ。めぐみんが爆裂魔法で周囲の注意を引き付けているから、今のうちに脱獄するわよ」
そう言ってアクアは、針金を一本中に落とした。
「それで鍵を開けて、あとは潜伏スキルとか使えば上手く逃げれるわ。それじゃあ、また後で合流しましょう」
アクアは急ぎ足でその場から去っていく。残ったカズマは針金を見つめ、そして鍵を見てため息をついた。
「…ダイヤル式だよバーロー」
針金をポイっと投げ捨て、カズマはふて寝する。
「諦めるには早いですよカズマくん!こうなったら地道に数字を揃えていくしかないでウィス!」
「8桁のダイヤルだぞ。何通りあると思ってるんだよ」
「え?え〜と、だいたい…一億通り?」
「おやすみー」
「起きろ!」
翌日、昼前。カズマが中々起きないから、検察官のセナが起こしに来た。どうやらこれから事情聴取をするらしい。カズマは眠い目を擦って伸びをする。
「なんかあまり眠れなかったな…。行こうウィスパー」
「さ、31111110…31111111…31111112…」
「一晩中やってたのか…」
涙ぐましい努力だが、ここで力尽きて爆睡する。カズマはウィスパーを置いて、セナと共に事情聴取に向かった。
数時間後、カズマが肩を落として帰ってきた。取り調べでしくじったせいで、明日の裁判は不安しかない。
「…やばい、このままじゃ明日ほぼ確実に死刑判決だぞ。どうしようどうしよう、ウィスパー。なんか良い方法…」
「52111111…52111112……あーーーーもう!!さっさと開けよこの鍵野郎ーーー!!」
鍵に八つ当たりしてるウィスパーを見て、カズマは裁判に備えて早めに寝るのであった。
今日の妖怪大辞典!
「カズマくんが捕まってるので、アクアさん。今日の妖怪は?」
「え、私? ん〜と、てのひらがえし!」
妖怪てのひらがえし。とりあえず、相手を褒めるところから始まる。
「さすが水の女神アクア様!聡明で美しく慈悲深い、まさに女神の中の女神様です!」
「ふふ〜ん。分かる〜?そうよね〜、分かる人には分かっちゃうのよね〜。隠しても隠しきれないカリスマオーラってやつが」
「なわけあるかあ!お前なんかより、エリス様の方がよっぽど女神様らし…」
「ゴッドブロオオオオオオオオ!!」
「ぎゃああああああ!!??」
「次回も、お楽しみにでウィッス」