妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら?   作:カジ

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狙撃ッ!

 「アクアー!!」

 

 「いやああああ!開始早々食べられたああああ!!」

 

 冬眠から覚めてしまったジャイアントトードを狩りに来たのだが、アクアがさっそくカエルの口の中に放り込まれている。

 

 「アクアも食べられてしまいましたか。カズマ、私は後でいいですから、先にアクアを助けてあげてください。カエルの中は結構温かいので、しばらくこのままでいいです」

 

 爆裂魔法を既に撃ち終わって、めぐみんはカエルの口から呑気に顔を出していた。冬の時期に活動するカエルも中々だが、食われた状況を利用して暖を取るめぐみんもたくましい。

 カズマ、ウィスパー、ジバニャンはお目付役のセナと一緒にカエルから逃げ回る。

 

 「ちくしょう!カエルはまだたくさんいるし、セナさんだけじゃ餌が足りない!」

 

 「はい?!なんで私を囮に使おうとしてるのですか!そもそも私はただの監視役で、あなた達の為に犠牲になる気はああああああああ!?」

 

 セナの体にカエルの長い舌が巻き付き、そのまま吸い込まれるようにカエルの口に入っていく。何度もカエルに食べられてるアクアは情けない悲鳴を上げているが、初体験のセナは何故か喘ぐような変な声を出していた。

 

 「どうするんでウィス!?」

 

 「オレっち達も食べられちゃうニャン!!」

 

 「大丈夫だ二人とも!俺に任せろ!」

 

 カズマはアーチャーのスキル、狙撃を覚えていた。弓を素早く取り出し、弦を強く張り詰める。

 

 「…俺の後ろに立つな」

 

 「おお!様になってますよカズマくん!」

 

 「狙撃顔ニャン!」

 

 口数少ない殺し屋の如く、カズマは目の前の哀れな獲物を睨みつける。

 

 「その澄まし顔に、風穴開けてやるぜ。狙撃ッ!」

 

 手を離すと矢はビュンッ!と風を切り、真っ直ぐの軌道を描いて飛んで行く。…仕留めた。そう確信したカズマは、静かに口角を釣り上げた。

 

 スカッ!!

 

 「…あれ?」

 

 「いや思いっきり外してますよ!?」

 

 「その顔で狙撃下手ニャン!?」

 

 確かにカエルの眉間を狙った筈なのに、矢は明後日(あさって)の方向へ飛んでいった。狙撃は幸運値が高いほど、命中率が上がる。本来ならカズマにとってうってつけのスキルの筈なのに。

 

 「き、きっと指先が微妙にズレたんだな。次こそは…当てるぜ」

 

 「またその顔になるニャンね」

 

 「俺の後ろに立つな。狙撃ッ!」

 

 しかし、またもやカズマの矢は外れる。こうなれば数を撃つしかない。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだ。半ばヤケクソ気味に、カズマはとにかく撃ちまくった。

 

 「うおおおお!狙撃狙撃ソゲソソソソゲキイイイ〜ッヤ!!」

 

 だが、何度やってもカエルには一本も当たらない。カエルの周りには、外れた矢が刺さりまくる一方だった。

 

 「全っ然当たらないニャンね」

 

 「これだけ撃って当たらないって、逆に難しいと思いまウィス」

 

 「はあ…はあ…そ、狙撃…ソゲ…狙撃ってなんだっけ?」

 

 「狙撃言い過ぎてわけ分からなくなってるニャン」

 

 いわゆるゲシュタルト崩壊を起こしている。幸運値が高いにも関わらず、狙撃スキルが効果を発揮しないという不可解な現象。これはもう、間違いない。

 

 「こんだけ狙撃してるのに、矢が一本も当たらないなんておかしいだろ。これ絶対妖怪の仕業だ」

 

 「はあ?矢が狙ったところに飛んでいかないなんて、ごくごく普通のことじゃないですか。自分の下手さを妖怪のせいにしないで…」

 

 「いたー!!」

 

 「うそーん!!?」

 

 カズマの近くに、りんごの顔をした狩人みたいな妖怪がいる。

 

 「お前はアチャ」

 

 「ア〜〜チャチャチャチャチャ!ホワッチャア!!この妖怪はえ〜、りんごの見た目してるから…Appl○の社員!ではなく、椎名◯檎!でもなく…そう、あれは妖怪アチャー!!」 

 

 アチャー、取り憑いた人を失敗(あちゃー)な結果にさせる妖怪。

 

 「妖怪不祥事案件で言うところのいわゆる、ちゃんと狙ってるのに全然当たんないですけどー!を引き起こす妖怪でウィッシュ!!」

 

 「くそー!こいつのせいで俺の矢が外れてたのか!」

 

 「あちゃーな感じになっちゃったね。アーチャーだけに」

 

 「やかましいわ!!」

 

 アチャーを追い払わないといけないが、その前にカエルに食べられているアクア達を助けてやらねばならない。さっきまで騒いでたアクアとセナも、体力の限界か静かになってるし、めぐみんに至ってはもう帽子しか見えない。

 

 「カズマくん、友達妖怪を呼んでなんとかして貰いましょう!」

 

 「よーし、出てこい!俺の友だ」

 

 カエルの長い舌がカズマの胴体に巻き付く。

 

 「え?」

  

 「へ?」

 

 そして、勢い良く後方に引っ張られる。

 

 「ぎゃああああ!嘘だろおおおお!?」

 

 「カズマくーーーん!!」

 

 絶叫と共に、カズマが遠くまで離れていく。後ろを見るとカエルが口を開けて待機していて、カズマの額に冷や汗が流れる。

 

 「カズマが食べられたニャン!?」

  

 「いや、あれを見てください!」

 

 とうとうカズマも犠牲になったかと思いきや、よく見ると両手両足で口が閉じないよう支えており、ギリギリのところで踏ん張っていた。

 

 「ぐおおおおっ!食われてたまるかああああ!」

 

 アクア達みたいに、粘液塗れになって醜態を晒すのは死んでも嫌だ。カズマは持てる力を振り絞り、飲み込まれないよう必死に耐える。

 

 (くそっ!こんなのいつまでも持たないし、かと言って妖怪を召喚しようにも両手が塞がってるから無理だ!)

 

 マズい、これはマジで全滅する。最悪の展開が頭をよぎった時、一筋の眩い光が出現した。

 

 「ライトオブセイバー!」

 

 強烈な光の剣が、カズマ達を捕食していたカエルを次々に抹殺していく。その救出劇は一瞬の出来事であり、この場にいた全てのカエルを薙ぎ払った。

 

 「た、助かったのか…?」

 

 「そ、そのようでウィス〜…」

 

 突然の出来事に、呆気に取られるカズマ。巻き添えを食らっているウィスパー。アクア達も無事のようで、動けないめぐみんに魔力を分けてあげる。

 

 「それにしても、今のは誰の魔法だったんだ?」

 

 「物凄い威力でしたねえ。きっと助けてくれた方は凄腕の魔法使いでウィス」

 

 「あそこに誰かいるニャン」

 

 カズマ達の視線の先に、カエルの屍に囲まれた一人の女の子が佇んでいる。腰に短剣を携え、黒のマントを羽織った黒髪の少女。

 

 「助けてくれてありがとう、おかげで助かったよ」

 

 「い、いえ。別に助けたわけじゃ…ただ、ライバルが、その…」

 

 カズマがお礼を言うと、何故か恥ずかしそうにもじもじしている。めぐみんのことをチラチラ見てるし、変わった子だと思った。

 

 「ライバルってだれニャン?」

 

 「もしかして、あたくしのことでウィ」

 

 「絶対違う」

 

 ウィスパーの冗談はさて置き、カズマから魔力を分けて貰っためぐみんが立ち上がる。目の前の少女と相対し、静かに見つめていた。

 まず口火を切ったのは、黒マント少女の方だった。

 

 「久しぶりねめぐみん!約束通り、強くなって帰ってきたわ!永きに渡ったあなたとの決着を、ここでつけてあげる!さあ、私としょ」

 

 「すみません誰ですか?」

 

 「ぅぶ…えええええ!?」

 

 せっかく気合を入れたのに、まさか忘れられてるとは思っていなかった。

 

 「わ、私よめぐみん!紅魔の学校で一緒だったじゃない!成績もめぐみんが一番で、私が二番だったでしょ!」

 

 「え?めぐみんが一番?」

 

 カズマが意外そうにめぐみんを見る。めぐみんはこれでも、学生時代は成績はいつもトップだったのだ。

 

 「一番なんてめぐみん凄いニャン!」

 

 「ふっ、もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

 

 「この子とめぐみんの二人しかいなかっただけじゃないのか?」

 

 「にゃにおう!」

 

 いつも中2病全開な言動に、極度の爆裂魔法狂い、そして今の粘液塗れの姿を見ると、どうにもトップの成績を誇ったとは信じ難いものがある。

 と、ここで若干蚊帳の外だったセナがコホンと咳払いした。

 

 「今日のところは引き上げますが、私はまだあなたを疑ってることをお忘れなく。…あー、お風呂入りたい」

 

 「私も、カエル肉を運んで貰わなきゃいけないから帰るね…」

 

 セナとアクアがこの場から去り、カズマ達が取り残される。カズマだって腹部と両手足に粘液が付いており、早く帰りたかった。

 

 「めぐみん、本当にこの子覚えてないのか?」

 

 「はい、名乗りもしない人をいちいち覚えてませんね。紅魔族なら紅魔族らしく、高らかに名乗りを上げる筈です。そうすれば、私も思い出すかもしれません」

 

 「うぅ〜、分かったわよ…」

 

 めぐみんと二人きりでもあまりやりたくないのに、知らない人の前でやるのは一層恥ずかしい。少女は覚悟を決めたように深呼吸して、ポーズを決めながら口上を立てる。

 

 「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者!そしてゆくゆくは紅魔族の長に…」

 

 「聞いての通り彼女はゆんゆんと言って、紅魔族の長の娘で私の元同級生です」 

 

 「へー」

 

 「やっぱり覚えてるじゃない!」

 

 忘れるどころか、むしろゆんゆんのことはガッツリ覚えていためぐみん。忘れたふりをしたのも、ちょっとからかっただけだ。  

 気を取り直してもう一度勝負を申し込むゆんゆんだが、めぐみんに面倒くさそうに断られて泣きそうな声を出している。

 

 「ゆんゆんさんと言う方は、やけにめぐみんさんにライバル意識持ってますね」

 

 「ライバル意識というより、なんだかめぐみんに構って貰いたくて必死な感じがするニャン」

 

 「ねえ〜、勝負してよ〜」

 

 「もう、しつこいですね。分かりましたよ」

 

 結局めぐみんが折れた形になり、ゆんゆんとの勝負に付き合うことなった。

 

 「私はもう魔力が殆どないので、勝負方法はゆんゆんの得意な体術にしましょう」

  

 「い、いいの?めぐみん、体術の授業になるといつもサボっていたのに」

 

 「まあ、ハンデというやつですよ」

 

 不敵に笑うめぐみんに対し、ゆんゆんもムッとして勝負を受ける。

 

 「カズマくん、どっちが勝つと思います?」

 

 「うーん、パッと見ではゆんゆんの方が有利だと思うけど、勝負内容を決めたのがめぐみんだからなあ。なにか企んでる気がする」

  

 「行くわよめぐみん!手加減しないからね!」

 

 「灘神影流(なだしんかげりゅう)の恐ろしさ、思い知らせてあげます」

 

 自信満々に構えるゆんゆんと、コオオオォォという異様な呼吸音を発しているめぐみん。体術勝負を挑んできたのは意外だったが、ここは遠慮なく勝たせて貰う。

 徐々に間合いを詰めるゆんゆんだったが、近づくにつれてめぐみんの今の状態がどうなってるのか理解した。

 

 「…ねえめぐみん、一つ気になることがあるんだけど」

 

 「なんですか?」

 

 「めぐみんの体が、ヌルヌルの液体塗れになってるのは、私の気のせいじゃないわよね…?」

 

 「安心してください、ゆんゆんの目は至って正常です」

 

 「そ、それに…まさかとは思うけど、そのヌルヌルの体で寝技を仕掛けたりとかしないわよね…?いくらめぐみんでも、そんなこと…」

 

 ゆんゆんの声が震えている。勝負の世界は非情とはいえ、まさかそんな卑劣な手段は使ってこないだろう。そんなゆんゆんの甘い考えを打ち砕くように、めぐみんは笑顔で言った。

 

 「私たち、かけがえのない親友じゃないですか。共に苦難を分かち合い、友情を深めましょう」

 

 「清々しいほどいい笑顔でウィス」

 

 「さすがめぐみん、そこに痺れるニャン…」

 

 「憧れないけどな」

 

 戦意を削ぐ為の作戦であって欲しいと切に願ったが、めぐみんは容赦なくゆんゆんに向かって突進した。

 

 「いやああああ!来ないでええええ!」   

 

 「待〜て〜」

 

 逃げながら必死に降参するゆんゆんだったが、あっさりめぐみんに捕まってしまう。体中を気持ち悪い粘液でベドベトにされ、泣きながら帰っていった。

 

 「めぐみんさんったら、同級生相手にも容赦ないでウィスねえ」

 

 「勝負というからには、負けるわけにはいきません。戦利品として、マナタイトも手に入ったことですし。カズマ、私はいらないので借金返済にでも使ってください」

 

 マナタイトは魔力が込められた結晶で、魔法を使う時に肩代わりに出来る。しかしめぐみんの爆裂魔法の魔力を補うには、大きさが全然足りなかった。相変わらず燃費の悪い魔法だというのに、それ以外を覚える気は全くないという。

 ゆんゆんのようにレパートリー豊富な魔法使いが羨ましいが、今さらそんなことを言ってもしょうがない。

 

 「とりあえず、さっさと帰って風呂にでも入るか。カエルに飲み込まれかけたせいで、腹回りや手足がベトベトだよまったく」

 

 「カズマ、お風呂には私が先に入らせて貰いますよ」

 

 「おい待て、なんでめぐみんが先なんだ」

 

 「カズマはお腹と手足だけで済んでますが、私は全身カエルの粘液で汚れてるんですよ。それに、女性ファーストという言葉を知らないんですか?」

 

 「聞いたことないな、どんな食べ物だ?」

 

 カズマは都合の良い時に女性の立場を利用されるのは嫌いだ。ジバニャンが先にめぐみんに譲るようカズマに文句を言っているが、今回ばかりはそうはいかない。

 カズマとめぐみんの視線が交差した瞬間、ほぼ同時に家に向かって走り出した。

 

 「こうなったら早い者勝ちだ!先に着いた方が風呂に入る権利がある!」

 

 「望むところです!」

 

 全力で走る二人を、ウィスパーとジバニャンも急いで追いかける。

 

 「さあ始まりました、カズマくんとめぐみんさんの一騎討ちレース。実況はあたくし、皆のアイドルウィスパーでお送りしま…おーーっと!めぐみんさんコケた!転んでしまいました!これは色んな意味で痛い!しかし負けじとカズマくんの足を掴んで転倒させる!物凄いデッドヒートを繰り広げています!!」

 

 「うるさいニャン!!」

 

 実況役を気取るウザいウィスパーに、ジバニャンが怒りのハリセンで吹っ飛ばす。そうこうしてる間に、カズマとめぐみんは屋敷の玄関を開けていた。

 

 「ちょっと!なんでもう脱ぎ始めてるんですか!?」

 

 「勝つ為なら俺は手段を選ばない男だ!悪いが先に入らせて貰うぞ!」

 

 「だ、だからって…いくらなんでも目の前で、カズマに羞恥心は無いんですか…?」

 

 「ああ大丈夫大丈夫。めぐみんのことは子供としか思ってないから」

 

 ビキィッ! 

 

 めぐみんのこめかみに鋭い筋が入る。確かにカズマから見たらまだ子供かもしれないが、たかだか3つしか違わないくらいでそんなこと言われるのは心外だ。

 

 「そうですか。そっちがそう来るなら、私だってカズマを男扱いしません!子供かどうか、その目でしっかり確かめて…」

 

 「めぐみん落ち着くニャン!」

 

 「年頃の娘がそんな簡単に肌を晒しちゃ駄目でウィス!」

 

 ウィスパーとジバニャンが止めに入るが、頭に血が登っためぐみんは聞いていない。負けじとカズマに対抗して、服をポイポイ脱ぎ捨てる。

 そして、タッチの差で先に風呂の扉に手を伸ばしたのはカズマ。勢い良く扉を開き、中に駆け込む。

 

 「よっしゃああああ!俺の勝ち…」

 

 「カッポン!!

 

 「だあああああ!?」 

 

 まさかの先客がいて、カズマは思いっきりズッコケてしまう。のぼせトンマンが風呂に入って寛いでいた。

 

 「な、なんで、人んちの風呂に勝手に…」

 

 「お風呂あるところに、オレありだカッポン。丁度いい温度にしといたから、許して欲しいカッポン」

 

 そう言って、のぼせトンマンはお風呂から上がって帰って行く。

 

 「丁度いい温度って…」

 

 まるでマグマのように、グツグツと煮えたぎっているお風呂の湯。熱い系妖怪の丁度いいは、人間には余裕で死ねるレベルだ。

 

 「…街の銭湯行くか」

 

 「…そうですね」

 

 さっきまで張り合っていたのが急にバカらしくなり、カズマとめぐみんは気不味い空気の中、服を着て銭湯に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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