妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
この物語も、これからもどんどん盛り上げていきます!
「は〜、まためぐみんに負けちゃった…」
アクセルの街を、ゆんゆんが肩を落として歩いている。せっかく上級魔法を覚えてめぐみんに勝負を挑んだのに、まさかあんな手を使って来るとは。おかげで気持ち悪い液体塗れになるわ、周りの人から怪訝な目で見られるわで散々だった。
「見てなさいよめぐみん。今度こそ勝って、参ったって言わせてやるんだから」
気持ちを新たにして、ゆんゆんは前を向く。昔からめぐみんに負け越してるだけあって、立ち直りも早い。
そうして歩いていると、いくつかの屋台が並んでるのが目に入る。美味しそうな料理を売ってる店からは香ばしい匂いが立ち込めて、射的などを楽しめる屋台もある。
紅魔の里では見られない風景に、ゆんゆんは物珍しそうに見て回った。
(…いいなあ、みんな楽しそう)
家族連れや友達同士で遊んでいる人達を、ゆんゆんは羨ましそうに見つめている。
(私も友達と一緒に食べ歩きとか、射的とかやって遊んでみたいなあ…)
お祭り騒ぎの中で一人だけ、まるで違う空間にいるような気がする。ゆんゆんだって最近は、一緒にチェスをする友達が出来た。しかし、その姿を見ることは出来ない。一人で遊んでいた頃に比べればマシなのかもしれないが、顔も名前も分からないままというのはやっぱり寂しい。
ポケットの中に一個だけ入ってたチェスの駒を手に、その友達のことを思う。
(あなたって、どんな見た目してるのかな? 一度でいいから見てみたいし、一緒にお話してみたい)
駒をそっと優しく手に包みこんで、ポケットに入れる。ギルドに戻ってチェス盤を広げよう。そうすれば、きっといつものように現れてくれる。
さっそく引き返そうとしたゆんゆんに、とある屋台のオッサンが声をかけた。
「そこのお嬢ちゃん、ちょっと見てかない?」
「へ、私ですか?」
「そうそう。ちょっとでいいからさ、見てってよ」
なんだか断るのも悪い気がして、ゆんゆんはその屋台の品物を見る。
「うちは見ての通り石を売ってるんだ。当然ただの石じゃないよ。パワーストーンっていう、不思議な力が込められた石なんだ」
「パワーストーン…ですか」
「例えばこれ、綺麗な金色だろう?これは持つ人の金運をアップさせてくれる優れ物なんだ」
「そうなんですか?私にはよく分からないんですけど…」
どう見ても普通の石っぽいのだが、店のオッサンは饒舌にまくし立てる。
「それは素人の赤坂さ、いや浅はかさ。一見普通の石でも、しっかり魔力が込められてるもんなんだよ。特にオススメはこれ、幸運をもたらす魔法の石。これさえあれば何もかも思いのまま、友達だってたくさん出来るよ」
「と、友達も?」
「そ、友達も」
友達というワードにゆんゆんが興味を示したのを見て、オッサンはバレないようにニヤリと笑う。何故なら、パワーストーンなどとは真っ赤な嘘。こういった屋台でパチもんを売りつける奴は珍しくないが、実はそれも妖怪の仕業だったりする。
口八丁で人を騙す妖怪、インチキンが取り憑いていた。
「今なら一個10万エリスのところ、お嬢ちゃんだけに特別に2万9800エリスで売ってあげるよ」
「い、いいんですか!?」
「赤字覚悟だけど、お嬢ちゃん可愛いからオジさんサービスしちゃうよ」
最初に高く設定しておいて、後から下げるのは詐欺師の常套手段。本来なら100エリスの価値もないただの石を、ゆんゆんはまるで宝石かのように見つめている。
(これがあれば、私も友達が…)
ゴクッと喉を鳴らし、震える手で財布を取り出す。計画通り、とでも言いたげな悪い笑みを浮かべるオッサン。しかし、ここで待ったをかける者が現れた。
「それ、本物ずら?」
「なんか怪しいズラね」
「な、なんだよお前たちは」
双子だろうか、顔がそっくりな二人の男の子がゆんゆんとオッサンの間に割って入る。
「あんたら、何か証拠でもあるのかい?」
「オラたち、さっきオジさんが小石を拾ってるの見てたずらよ。そんなに凄い石が、そこら辺に落ちてるもんずら?」
「そ、それは…」
「兄ちゃん、これただ石に色を塗っただけズラ」
「ギクッ!?」
絵の具と同時に、化けの皮も剥がされてしまったオッサン。そそくさと逃げるようにその場から立ち去ったが、衛兵に捕まって連れて行かれた。
「捕まっちゃったずら」
「人を騙そうとした罰ズラ」
「あ、あの…ありがとうございます。おかげで助かりました」
この双子がいなかったら、危うくお金を騙し取られるところだった。ゆんゆんは深く頭を下げてお礼を言う。
(あれ?この人達、どこかで…)
この双子とは会ったのは、間違いなく今日が初めて。その筈なのに、不思議とそんな感じがしない。前にどこかで会ったような気もするし、いつも温かく見守られていた気もする。
理由は分からないが、この二人がまったくの他人とは思えなかった。
「…あの、私の勘違いかもしれませんが、どこかでお会いしたことありますか?」
勇気を出して、思い切って聞いてみた。
「ここ最近は毎日会ってるずらよ。あの駒を動かす遊びを…」
「なんでもないズラ!オラたち初対面ズラ!」
慌てて兄の口を塞ぐ弟。もう言ってしまうと、この双子の正体はコマさんとコマじろう。特殊な葉っぱを頭に乗せて、人間の姿に変装している。
(コマじろう、なんで嘘つくずら?)
(オラたちが妖怪だって知ったら、気味悪がって逃げちゃうかもしれないズラ。そうなったら、もう一緒に遊べないズラよ)
(もんげ〜、それは嫌ずら。分かったずら、オラたちが妖怪ということは内緒にするずら)
正体は明かさず、ゆんゆんの前では人間のままでいよう。騙してるみたいであまりいい気はしないが、せっかく出来た友達を傷付けたくはなかった。
「…あの、どうしました?」
「何でもないずら。これからは気を付けるんずらよ」
「は、はい。ありがとうございました…」
離れていく二人の背中を、ゆんゆんは寂しそうに見送る。ぽつんと一人残されたその様子を見て、コマさんは足を止めた。
「コマじろう、やっぱり置いてけないずら」
「そうズラね」
兄ちゃんなら、きっとそう言うと思っていた。二人はゆんゆんの元へ戻り、コマさんが手を差し伸べる。
「よかったら、オラたちと行こうずら」
「え…い、いいんですか?」
「誰かと一緒の方が、もんげ〜楽しいずら!」
まるで子供が友達を遊びに誘うように、何の躊躇いもなく手を差し出す。あまりにも無邪気な笑顔で言ってくるため、聞いてる方が少しこそばゆい気持ちになる。だけど悪い気は一切しない。
気が付けば、自然とその手をゆんゆんは握っていた。
「私、紅魔族の…ゆ、ゆんゆんです」
「オラ、コマさんずら」
「オラはコマじろう、兄ちゃんの弟ズラ」
名前を聞いて笑われるかもと心配してたが、笑わないどころかその辺については完全にスルーだった。むしろ、自分で自分をさん付けで名乗るコマさんが意外だった。
「え?コマさんはコマさんって名前なんですか?」
「そうずら。オラの本名ずら」
「ご、ごめんなさい!馴れ馴れしく呼び捨てしてしまって…!え〜と、じゃあなんて呼べば…コマさんさん?」
「普通にコマさんでいいずらよ」
知らなければ勘違いするのも無理はない。カズマだって最初はコマが名前で、さんが敬称だと思っていた。
「ゆんゆん右!もっと右ずら!」
「み、右?」
「いや左ズラ!」
「え?え!?ど、どっち!?」
射的屋にて、ゆんゆんが弓矢を構えて人形を狙うが、コマさんとコマじろうのかけ声に惑わされている。
「あー、外しちゃったずら」
「ふ、二人が逆のことを言うから…」
「ここはオラに任せるズラ」
コマじろうがいつの間にかグラサンをかけて人形を狙っている。射的専用の弓矢とはいえ、素人には扱いは難しい。しかし、そこは何かとハイスペックのコマじろう。見事に人形を撃ち落とし、ゆんゆんにプレゼントした。
「え、いいの?」
「もちろん、ゆんゆんにあげる為に取ったんズラ」
「あ、ありがとう…!」
冬将軍人形を嬉しそうに抱きしめる。プレゼント、それも男の子から貰ったのは初めてで、少しドキドキしていた。
「もんげ〜、ソフトクリームはいつたべても美味しいずら〜」
3人並んでベンチに座り、ソフトクリームを食べる。この時期に外で食べるのは少々肌寒いが、コマさんとコマじろうが隣にいてくれるから温かい。
(だ、大丈夫かな?私、ちゃんと話せてるよね…?)
学生時代は友達も少なく、めぐみんからぼっち呼ばわりされるくらい一人でいることが多かった。
つまらない話をして退屈させてないかな? 今日で終わりって言われたらどうしよう…。
考えれば考えるほど不安でいっぱいになり、言葉にしようにも、重いって思われるだけなんじゃないか。
「ゆんゆん、どうしたずら?」
「さっきから元気ないズラよ」
「へ? な、なんでもない。なんでもないよ、あはは…」
慌てて取り繕うが、挙動不審さは隠しきれていない。
「…今日はありがとう、凄く楽しかったわ。それで、その…迷惑じゃなければ、また私と一緒にお話したり、遊んだりしてくれますか?」
言った。まるで告白するくらい勇気を振り絞って。目の前の少女の健気な願いに、二人は顔を見合わせて微笑む。
「迷惑なんてないズラ」
「オラたち、もう友達ずら!」
嘘偽りなど微塵も感じさせないコマさんとコマじろう。抱えていた不安が払拭され、ゆんゆんの顔がパアッと明るくなった。やっと本当の友達になれた気がして、年相応に可愛い笑顔を見せる。
ソフトクリームを食べ終わった三人は、再び歩き出す。すると、何やら盛り上がってる一団を発見する。アダマンタイト砕きというイベントをやっているみたいなのだが、その中心に見知った顔があった。
「あ、カズマさん」
「よっ、ゆんゆん」
「あの、何をしてるんですか…?」
カズマと複数人の男達の下に、何故かめぐみんが取り押さえられていた。
「アダマンタイトは爆裂魔法なら余裕で破壊出来るみたいだからな。それをどこからか嗅ぎ付けて来やがって。後は見ての通りだ」
「くっ…か弱い乙女一人に、この仕打ちはあんまりです」
この街の住民にはとっくにめぐみんの性格は知れ渡っている。頭のおかしい爆裂魔法使いというあだ名と一緒に。
人もまばらに捌けて、めぐみんは立ち上がり服をパッパッと払う。
「き、奇遇ねめぐみん!こんなとこで会うなんて、やはりライバルとして戦う運命にあるんだわ!さあ勝負よ!」
いつものようにさっそく勝負を仕掛けるゆんゆんだが、めぐみんが何だかジト〜ッとした目で見てくる。
「まったく、ゆんゆんもすみに置けませんね」
「な、なんのこと?」
「男の子を二人も侍らせているくせに、デート中にも関わらず勝負を挑みに来るとは。ぼっちだったゆんゆんも、ずいぶん偉くなったものです」
「なっ!?ち、違うわよ!この二人は友達、ただの友達だからあ!!」
顔を赤くしてゆんゆんは否定しているが、めぐみんもあまり面白くない様子だ。
「ふーん。ま、べつに? ゆんゆんが誰とお付き合いしようと勝手ですけどね」
「も〜、めぐみん〜!」
コマ兄弟は普通の友達だが、めぐみんのせいで変に意識してしまう。恋人と勘違いされるのは正直悪い気はしないが、まだ出会ったばかりでそれは早すぎる。
(でも、もしかしたらいつかは…)
チラッとコマ兄弟を見て、目が合って思わずカアッと赤くなった。当の本人達、コマじろうは何となく察していたが、コマさんはゆんゆんの気も知らず首を傾げている。
「なあ、あの二人ってコマさんとコマじろうだよな?」
「そうニャン。頭に葉っぱが乗ってるから間違いないニャン」
「へ?そ、そうなんでウィス?」
見た目の面影も残ってるし、何より決定的な証拠が頭にある。ウィスパーはともかく、カズマとジバニャンは正体に気付いていた。
カズマはコマ兄弟を手招きして、ゆんゆんと出会ったところからの話を聞く。
「なるほど。事情は分かったけど、二人はそれでいいのか?正体を隠して友達のフリをするなんて」
「フリじゃないずら。ゆんゆんとは正真正銘友達ずら」
「おっとそうだな、ごめん。俺が言いたいのは、ずっと正体を隠し続けるのかってことだ」
カズマの問いに、二人は何も言えない。もし、万が一拒絶されたらどうしよう。その一抹の不安が頭の片隅に残り、決心がつかない。そんな兄弟を安心させるよう、その肩にそっと手を置く。
「大丈夫、ゆんゆんを信じろ。俺も出会って間もないけど、友達思いのいい子だってことくらい分かる」
友達を口実にゆんゆんが奢ったり、そのお金を稼ぐためにバイトしたり。友達思い過ぎて不憫なところもあるが、それが彼女の良いところなのだろう。
だからめぐみんも、何やかんや言いながらゆんゆんのことは目が離せないでいる。
「ね〜めぐみん〜、勝負してよ〜」
「はいはい、分かりましたよ。…はぁ、もう勝負にこだわるほど子供じゃないんですけどね」
「な、何よ。その意味深な言い方」
「だって、私は…」
めぐみんは頬を染め、カズマの腕を抱きしめる。
「このカズマと一緒にお風呂に入った仲ですからね」
「え、えええええ!?」
「はああああああ!?」
衝撃の事実にゆんゆんは驚いた声を上げるが、同じくらいカズマも驚いている。
「ちょっと待てえ!いつ入った!?お前と風呂に入った覚えなんか無いぞ!」
「何を言ってるんですか。ほら、しわくちゃん騒動の時ですよ」
・・・
「あれかーーー!!」
周りから若さを吸い取るしわくちゃんを追いかけて、カズマは女湯に突入したことがある。その時、入浴中のめぐみんとアクアと鉢合わせしてしまった。確かに、一緒にお風呂場に入っている。
「ま、嘘はついてませんからね」
「…お前、勝つ為にはほんとに手段を選ばないな」
「め、めぐみんがそこまで進んでいたなんて…」
実際は誤解があるのだが、色々と先を越されていたショックでゆんゆんは凹んでいる。
「悔しいと思うなら、ゆんゆんもその二人とお風呂に入ったらどうですか?」
「え?わ、私が二人と…」
一瞬だけ、その様子を妄想してみる。うぶなゆんゆんにとっては、それだけで赤面ものだった。
「もんげ〜、それはさすがに恥ずかしいずら〜」
「オラたちには、まだ早いズラね…」
コマ兄弟も、女の子と一緒に入るのは恥ずかしいようだ。
「きょ、今日のところは私の負けにしといてあげるずらああああああっ!!」
「語尾が
ゆんゆんが泣きながら走っていく。その背中を、コマ兄弟が追いかける。めぐみんは手帳を取り出し、今日も勝った証として丸印を付けた。
「ゆんゆん、元気出すずら」
「次はきっと勝てるズラ」
「うぅ…ぐすっ、うん」
「おーい、ちょっと待ってくれー!」
コマ兄弟に慰められて、ゆんゆんはトボトボ歩く。その後ろから、カズマが走って追いついてきた。
「ど、どうしたんですかカズマさん?」
「いや、大した用じゃないんだ。ゆんゆん、ちょっと手を貸して」
「…は、はあ。なんですか?」
カズマはゆんゆんの手を取り、妖怪ウォッチにちょんと触れさせる。
「これは妖怪ウォッチ。これに触ると、妖怪を見ることが出来るんだ」
「よ、妖怪…?」
「説明するより、見た方が早いな」
カズマはコマ兄弟の頭の葉っぱを取る。すると、ボンッ!と煙が二人を包みこんだ。そして、コマ兄弟の本当の姿をゆんゆんは目撃した。
「…ゆんゆん」
「オラたち、実は妖怪だったんズラ…」
風呂敷袋を背負った、白と黄色の狛犬の妖怪。少しオドオドしてる兄弟に、ゆんゆんは一歩、二歩と歩み寄る。
膝を曲げて両手を広げ、優しく包むようにして抱きしめた。
「かわいい〜〜〜!!もう、それならそうと早く教えてくれたら良かったのに〜!」
「も、もんげ〜…」
「ゆんゆん、いきなり激しいズラ…」
拒絶されたらどうしようなんて、そんなことを悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい気に入られている。愛らしい見た目に、まるで人形を抱いてるみたいなふわふわ感。ゆんゆんはすっかり夢中になっている。
「…コマさん、コマじろうさん。ずっと、一緒にいてくれる?」
「もちろんずら!」
「ず〜っと一緒ズラ!」
人間と妖怪。種族の壁を超えた微笑ましい光景に、思わずカズマも頬が緩む。そして、咳払いをして大事なことを伝える。
「…あー、ゆんゆん。一つ言い忘れたことがある」
「言い忘れたこと?」
「妖怪は基本的には普通の人には見えない。ゆんゆんだって、妖怪ウォッチを触るまでは見えなかっただろう?」
「は、はい。それがどうか……はっ!?」
賢いゆんゆんは、カズマが何を言いたいのか察した。
「そう。周りの人から見たら今のゆんゆんは、激しく独り言を喋ってるイタい子に見えるから、これからは気を付けた方がいいぞ」
ザワザワと周りの人の奇異な視線を感じる。カズマやめぐみん達はもう馴れているが、ゆんゆんは羞恥心で顔から火が出るような思いをしたのであった。
「コマさん達って、よくもんげ〜って言うけど、あれはどういう意味なの?」
「もんげ〜は岡山弁で、物凄いって意味ずら。驚いたときに使うことが多いずらね」
「岡山弁っていうのがよく分かんないけど…」
「せっかくだからゆんゆんもオラ達と一緒に言ってみるズラ」
「え!?わ、私はべつに…」
「「もんげ〜!!」」
「も、もんげ〜…///」