妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら?   作:カジ

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長らくお待たせしました。以前のようなペースで書けなくなってきた為、これからは多少時間をかけて、一話ごとの容量を増やして投稿しようと思います。


地獄のお姫様

 「姫様ー!どこにおられるのですかー!?」

 

 地獄のとある小国。かげ老師が、城の廊下を忙しなく飛んでいる。この国の姫が突然姿を消し、今慌てて捜索しているところだ。その辺を歩いている鬼共に聞いてみるが、期待した返事はない。

 

 「困った御方じゃ、いったいどちらに行かれたのか」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 ここで舞台はアクセルに戻る。カズマ達は、かつて探索したキールのダンジョンに来ていた。ここは前にカズマとアクア、そしてジバニャンやインディ達と共にお宝探しをした場所でもある。色々あったが最終的にはアクアが地面のスイッチを踏んでしまい、中が崩れて瓦礫塗れになった。

 その後は当然誰も入れず、結果的にカズマ達が最後に入ったことになるのだが、どうやらそのダンジョンから謎のモンスターが溢れ出ているらしい。

 それだけならカズマを疑うのは筋違いなのだが、アクアがキールというリッチーを浄化した時の魔力がまだ残っているという。

 ただでさえ疑われて立場が弱いのに、そんな物までセナに見つけられたら面倒だ。その為、カズマは証拠隠滅するべく再びキールのダンジョンにやって来た。

 

 「何だあれ、ダンジョンから変なのが出てる」

 

 ダンジョンの中から、仮面を付けた人形みたいな物体がワラワラと溢れ出ている。どうやらあれが、セナの言う謎のモンスターらしい。

 

 「とりあえず、あれを退治すればいいニャン?」

  

 「いや待て、迂闊に近づくのは危険だ。ここは一旦様子を見よう」

 

 セナがわざわざ報告に来るのだから、ただのモンスターではないだろう。見た目は小さいが、何かしらの能力を秘めているかもしれない。

 

 「カズマくん、ここはあたくしにお任せを」

 

 ウィスパーが、ここぞとばかりに格好つけて前に出てくる。

 

 「こんな雑魚モンスターごとき、あたしがねじ伏せてやるでウィス」

 

 「弱そうな相手には強気ニャンね」

 

 「まあ待てって。ここは落ち着いて作戦を」

 

 「は〜ん?カズマくんビビってるんですか〜?こ〜んな小さくてしょぼいモンスターに、あたしがやられるわけ…」

 

 

 ドーーーーーーン!!!

 

 

 謎のモンスターがウィスパーに触れた瞬間、大きな音を立てて爆発した。

 

 「あーあ、だから言ったのに」

 

 「アホニャン」

 

 「ウ、ウィス〜…」

 

 どうやらこのモンスターは触れると爆発するようだ。下手に刺激せず、慎重に行動した方がいい。カズマがそう考えていた時、別のところからまた大きな爆発音が聞こえた。

 

 「ダクネス!? 大丈夫か!」

 

 「問題ない。この程度の爆発、めぐみんの爆裂魔法に比べればどうってことないな」

 

 流石頑強ドMクルセイダー、こういう時は頼りになる。ダクネスを露払いのため盾にして進むことにして、問題はダンジョンに入るメンバーだ。

 

 「カズマ、私は前と同じようにお留守番してますね」

 

 「じゃあ今回はオレっちもここに残るニャン」

 

 「わ、私も残るわよ!ダンジョンはもう嫌…ダンジョンはもう嫌…ダンジョンはもう」

 

 めぐみんとジバニャンが抜け、さらにはダンジョンにトラウマを持っているアクアもイチ抜けした。

 

 「一気に3人も抜けちゃいましたね」

 

 「たくっ、しょうがないなあ。まともな戦力が俺とダクネスだけじゃ不安だし、友達妖怪に来てもらうか」

 

 「あたしは戦力に数えられてないんでウィスね」

 

 ポケットを漁り、ジャラジャラと複数のメダルを取り出す。頼りになると言ったら、やっぱりブシニャンか? いや、オロチやキュウビも捨てがたい。

 

 「カズマくん、誰を呼ぶんでウィス?」

 

 「うーん、たまには違う妖怪を召喚したいよなあ。最近あまり召喚してない妖怪は…あ」

 

 数あるメダルの中から、カズマの目に留まった1枚のメダル。それには黒い着物を纏った少女の絵が描かれていた。

 

 「よーし。俺の友達、出てこい百鬼姫!妖怪メダル、セット」

 

 「呼んだか、引きニート」

 

 「おおおおっ!?ひゃ、百鬼姫!? いや、これから呼ぶつもりだったけど…」

 

 「呼ばれる前に来たでウィス」

 

 まさかの召喚直前に現れた百鬼姫。見た目はふぶき姫と似ているが、こちらは黒い着物を着ていて、しかも口が悪い。闇の妖術をマスターしたS級妖怪である。

 

 「百鬼姫は、どうしてここに?」

 

 「たまたまこの近くを通りがかっただけじゃ。勘違いするでないぞ。別にカズ…引きニートの顔を久しぶりに見たくなったとか、そういうのではないからの」

 

 「そ、そうなんだ…」

 

 「あら〜、これまた典型的なセリフでウィスねえ。今どきツンデレとか流行らないでウィスよ」

 

 「黙れ、失敗したゆで卵野郎」

 

 「し、失敗したゆで卵野郎…!?」

 

 百鬼姫の毒舌の切れ味は日本刀より鋭い。見事にウィスパーのメンタルを一刀両断にした。

 

 「カズマー、その子だれ〜?」

 

 「ふぶき姫とそっくりですが、双子の姉妹ですか?」

 

 「百鬼姫だよ。ふぶき姫と似ているけど、別に姉妹ってわけじゃない。百鬼姫、こいつらが俺のパーティ仲間のアクアとめぐみん」

 

 「うむ、苦しゅうないぞ。偽女神」

 

 「だ、だれが偽女神よ!?失礼な子ね!」

 

 さっそくアクアに百鬼姫の毒舌が炸裂する。たとえ初対面でも容赦はしない。そして次に、チラッとめぐみんの方を見る。

 

 「ふふん、さあかかってきなさい。私は大人ですからね。たとえ何を言われても、冷静に受け止めてあげますよ」

 

 「そうか、まな板小娘」

 

 「あっはっはっはっ!面白いことを言いますねえ! …黒より黒く闇より暗き漆黒に」

 

 「待て待てめぐみん!全っ然受け止められてないぞ!!」

 

 爆裂魔法を放とうとするめぐみんを、カズマは必死に羽交い締めで抑える。百鬼姫相手にこんなことで怒っていては、たとえ爆裂魔法を一日に何度も撃てても足りはしない。

 

 (私は?私は!?)

 

 流れ的に次は自分の番。息の荒いダクネスが頬を染めて、どんな酷いあだ名を付けられるか期待した目で百鬼姫に熱い視線を送っている。

 

 「カズ…引きニート、私は腹ペコじゃ。お茶菓子を所望する」

 

 (ガーン!私は無視!? いや、それはそれで…イイッ!!)

 

 何故かダクネスだけ無視されたが、真正のドMはこれすらもご褒美だ。

 

 「今は持ってないよ。後でメロンパン買ってやるから、ダンジョン調査に協力してくれるか? あと、もう引きニートじゃないからそのあだ名はやめて欲しいんだが」

   

 「仕方ないのう。では元引きニートでどうじゃ?」

 

 「それもちょっと…」

 

 「胸元が靴紐みたいな服着てる男〜、なんてのはどうでウィス?」

 

 「「黙れ、真っ白クソ野郎」」

 

 「ま、真っ白クソ野郎…!?」

 

 息ぴったりにウィスパーをディスるカズマと百鬼姫。結局カズマのあだ名は、緑マントというとこで妥協した。

 

 「出発前に、こちらの札を持って行ってください。強力な魔力が込められたお札で、これがあればどんな魔法陣も無力化することが出来ます」

 

 セナから札を受け取り、カズマ達はダンジョンに入っていく。

 

 「当たる!私の攻撃が当たるぞー!どんどんかかって来ーい!!」

 

 先頭のダクネスが景気よく仮面人形を破壊しながら進んでいく。ところどころに石の破片が転がってるが、瓦礫で埋もれていたダンジョンはすっかり人が入れるようになっていた。

 

 「ダクネスさんのおかげでサクサク進みますね〜」

 

 「この調子なら、意外と早く片が付きそうだな。セナに怪しまれる前に、さっさと魔法陣を消さないと」

 

 「む、止まるのじゃ。皆の者」

 

 次の角を曲がれば魔法陣があるキールの部屋。というところで、百鬼姫がカズマ達の足を止めた。

 

 「どうしたんだよ百鬼姫」

 

 「あれを見るのじゃ」

 

 そ〜っと向こう側を覗いて見ると、いかにも怪しげな風貌の人物がいた。自分と同じ仮面を付けている人形を作っているところを見ると、この者がモンスターを出現させていたに違いない。

 

 「あいつだな」

 

 「どうするカズマ。攻撃してもいいか?」

 

 「全員で飛びかかれば行けるでウィス」

 

 「そ、そうだな。よーし、じゃあ行く…」

 

 「そこに隠れている者共。コソコソしてないでさっさと出てこい」

 

 気配を読まれたのか、あっさりと隠れていたことがバレてしまった。カズマ達は仕方なく、物陰から姿を現す。

 

 「これはこれは、変わったパーティもいるものだ」

 

 仮面の人物は人形を作っていた手を止め、スッと立ち上がった。

 

 「ようこそ、我がダンジョンへ!我輩は地獄の公爵であり、全てを見通す大悪魔。魔王軍幹部…バニルである」

 

 「ま、魔王軍のくゎん部でウィス!?」

 

 「ヤバい!ここは逃げるぞ!おいダクネス!!」

 

 「ふんっ。バニルだかバニラだか何だか知らんが、女神エリスに仕える者が逃げるものか!」

 

 まさかこんなところで魔王軍幹部と遭遇するとは。カズマとウィスパーはこの場から一刻も早く立ち去りたいが、ダクネスは剣を構えて逃げようとしない。

 

 「まあ待て、我輩はお前達と事を構える気はない。確かに我輩は魔王軍幹部であるが、結界を維持してるだけのなんちゃって幹部だ。無闇矢鱈に人間に危害を加えたりせぬ」

 

 バニルは人の悪感情を食す悪魔。ゆえに、その悪感情を生む人間を殺すことはしない。

 

 「なるほど、お前達が普通にここまで来れたということは、ダンジョン内の瓦礫はあらかた片付いたということか。そうかそうか、それは良かった。主のいないダンジョンを見つけたは良いものの、何故か瓦礫に埋もれてて難儀してたのでな。人形共を作り、掃除していのだ」

 

 「また手間のかかることを。目的はなんだ」

 

 「聞きたいか? そこの娘が連絡もなく留守にしていた時、心配で心配で堪らなく部屋をウロウロしていた男よ」

 

 「はあ!?」

 

 「そ、そうだったのか。なんかすまないな」

 

 「ち、ちげーし!そんなことしてねーし!」

 

 まるで見てきたかのように的確に当てられ、カズマは動揺する。

 

 「我輩には破滅願望があってな。必死に我輩を倒した冒険者達が、やっとの思いで宝箱を開けるのだ。金銀財宝を期待したが、中身はスカと書かれた紙一枚。それを見て落胆する冒険者の悪感情を食して滅ぶのが夢なのだ」

 

 「うわ〜、なんとも悪趣味でウィス」

 

 「やはりこいつはここで倒しておくべきだ」

 

 「まあまあそう焦るな。いつかその男に、バッキバキに割れた腹筋を見られたらどうしようと心配している娘よ」

 

 「ば、バッキバキになど割れてない!デタラメを言うなあ!!」

 

 これが全てを見通す大悪魔の能力か。流石は魔王軍幹部、今回も一筋縄ではいかないみたいだ。

 

 「か、カズマくん。とりあえず戦う気はないようでウィスし、ここは大人しく魔法陣だけ消してさっさと帰りましょうよ」

 

 「む、なんだ?この奥の厄介な魔法陣はお前達の仕業か? 前にパーティメンバー全員で屋敷で寛いでいた時、おなら騒動が起きて自分が犯人にも関わらず、そこの男のせいにしたホニョホニョよ」

 

 「ギックウ!?ちょ、ちょっとあーた!なにバラしちゃってんでウィスか!!か、カズマくん。あいつの言うことは全部噓、噓でウィスから…」

 

 「やっぱりお前かああああああ!!」

 

 「ぎゃああああ!お許しをおおお!!」

 

 やってもないおならの罪を被されたことを知ったカズマは、ウィスパーにお仕置きの雑巾絞りの刑に処した。

 

 「ふむふむ、なるほど。お前達の仲間のプリーストの仕業か。まったく、はた迷惑なことをしてくれたもんだ。我輩が直々に…手を下すとしよう」

 

 バニルから恐ろしい殺気を感じ、カズマ達は冷や汗を流す。人間には手を出さない主義だが、それはあくまで人間に対してのみ。恐らく、アクアの正体を見破っている。魔王軍幹部の本性を垣間見て、是が非でもここを通すわけにはいかない。

 

 「くそっ!こうなったらやるしかないか!」

 

 「やめておけ。お前達の腕では、我輩に勝つことなど…」

 

 「な、なんだ?」

 

 バニルの視線が、カズマの隣に移動する。そこには、先程から状況を静観していた百鬼姫の姿があった。

 

 「これはこれは姫様、随分とお久しぶりで。お元気そうで何より」

 

 「お前もな、顔の上半分仮面野郎」

 

 「姫のおディスりも相変わらずなご様子」

 

 「え!?知り合い!?」

 

 百鬼姫とバニルが実は顔見知りということを知り、カズマは驚きを隠せない。

 バニルは地獄の公爵、そして百鬼姫は地獄の小国のお姫様。過去にバニルが百鬼姫の城を観光に来た際、たまたま城の庭を散歩していた百鬼姫と出合ったのが始まり。それからは度々手土産を持って訪れるようになり、百鬼姫も暇な時の遊び相手にしていたというわけだ。

 

 「おい仮面、今はお前と遊んでる暇はない。早く用事を済ませて、このカズ…緑マントにメロンパンを買ってもらうのじゃ」

 

 「ほほう、その男に。ふ〜む…」

 

 バニルは腕を組み、何かを考えてる。そして、口角を上げて悪魔らしい笑みを浮かべた。

 

 「はははっ!そうか、そういうことか!」

 

 「な、なんだ?急に笑い出したぞ」

   

 「おい仮面、気でも狂ったか?」

 

 「いえいえ、我輩は至って正常ですとも。そこの男に並々ならぬ恋心を抱いてる姫よ」

 

 「んなっ!?」

 

 とんでもない事を暴露され、真っ赤になった百鬼姫に皆の視線が集まる。

 

 「おい貴様!ふざけたことを言うでない!」

 

 「ふざけてなどおりません。感情を無くしたなどと言いつつ、実は気遣って貰いたくて、わざとそういう設定にしている姫よ」

 

 「ち、違うのじゃカズマ!ああいや緑マント!こ、ここれは…!!」

 

 「まあ、それは薄々気付いていたけど」

 

 百鬼姫との付き合いはそこそこ長い。彼女が感情を無くしたらしいというのは知っていたが、甘いお菓子を食べた時はとびきりのいい笑顔になるなど、普通に感情を表していたこともある。

 

 「さあ、そこを退いてくれますかな? 本当は名前で呼びたいのに、タイミングをすっかり見失ってあだ名で呼んでしまっている姫よ!!」

 

 「あああああああああ!!!」

 

 百鬼姫が赤くなった顔を両手で覆ってしゃがみ込んでいる。能力はバクロ婆と似ているが、バニルは悪感情を食すために手当たり次第に暴露するから余計にたちが悪い。

 

 「な、長年隠してきた私の秘密がぁ…」

 

 「へー、百鬼姫さんも結構可愛いところあるんでウィスね〜」

 

 「黙れ、真っ白クソゴミウンコ野郎」

 

 「し、辛辣ゥッ!!」

 

 名前で呼びたいのはカズマだけで、他の者、特にウィスパーは心底どうでもいいと思っている。

 

 「さあ姫よ、これ以上暴露されたくなかったら、大人しくそこを…っ!?」

 

 百鬼姫から鋭い妖術の攻撃が飛ばされ、バニルは体を仰け反ってギリギリで回避した。

 

 「…もう許さん。お前はここで、私が退治してやるのじゃ!!」

 

 「フハハハ!面白い!受けて立ちましょう!」

 

 百鬼姫とバニル、地獄の姫と公爵が激しい攻防の火花を散らす。

 

 「なんだか凄いことになったな。カズマ、私達も百鬼姫に加勢しよう」

 

 「待てダクネス、あの二人の間に入るのは危険だ。俺達はとりあえず、アクアが作った魔法陣を消すぞ」

 

 バニルの相手を百鬼姫に任せ、カズマは当初の目的を遂行する。

 

 「ときめき百鬼夜行!」

 

 「バニル式殺人光線ー!」

 

 二人の戦線をコソコソと通り過ぎ、カズマ達はキールの部屋に入って魔法陣をゴシゴシと消していった。

 

 「どこじゃ!どこに隠れたのじゃ!」

 

 「やれやれ、少し煽り過ぎたか。姫をまともに相手するのは流石に骨が折れる」

 

 上空を飛んでる百鬼姫を物陰でやり過ごし、どうしたものかとバニルは考える。

 このまま戦っていても埒があかない。ダンジョン制作もまだ途中だし、何より魔王からの任務がまだ残っている。これ以上時間を割くわけにはいかない。ここでバニルは、一計を講じた。

 

 「百鬼姫!無事か?」

 

 「カズマ!あ、いや…緑マント」

 

 「これからはカズマでいいよ。それよりあいつは?もう倒したのか?」

 

 「ま、まだじゃ。どこかに隠れて、この近くにいるはずなんじゃが…」

 

 辺りを見回すカズマ達。いつどこから飛び出して来るか分からない。異様な緊迫感に包まれながら探していると、ダクネスが何かを発見する。

 

 「皆、あれを見ろ」

 

 ダクネスの指差す先には、黒いタキシードの裾が物陰からほんの少し見えていた。

 カズマ達は顔を見合わせ、静かに接近する。そして、ダクネスが剣を大きく振り被って斬りかかった。

 

 「たあああっ!!」

 

 「やったでウィス!?」

 

 「バカッ!そんなフラグになるようなセリフを言うな!」

 

 倒した姿を確認せずに、やったか!?などのセリフは言うべきではない。そして、カズマの悪い予感は的中することになる。

 

 「こ、これは…」

 

 そこにバニルの姿はなく、ただ土の山と殻のタキシードが脱ぎ捨ててあるだけだった。

 

 「いったい、どこに…」

 

 「フハハハ!愚か者め!」

 

 呆然とするカズマの後ろから聞こえるバニルの声。気付いた時には既に遅く、カズマは飛んできた仮面の敵襲を受けた。

 

 「カズマ!?」

 

 「カズマくん!?」

 

 「くそっ!バニルの仕業か!」

 

 バニルの仮面を付け、カズマは何も言わず俯いている。やがて肩が震えだし、大きく高笑いする。その口から発する声は無情にも、バニルのものだった。

 

 「残念だったな!この小僧の体は我輩が乗っ取った!」

 

 「か、カズマくんが乗っ取られたでウィス!」

 

 「おのれっ!カズマから離れるのじゃ!」

 

 百鬼姫が妖力で仮面を引き剥がそうとするが、それは悪手だった。

 

 「ぐおおっ!?や、やめた方が賢明ですぞ姫。無理に剥がせば、この小僧の精神は崩壊すること間違いなし!」

 

 「くっ!?」

 

 ダクネスも、百鬼姫でさえ何も出来ない。歯がゆいこの状況を見ているしかなかった。

 

 「さて、我輩はお前達の仲間のプリーストをシメに行くとしよう。お前達はせいぜい指を咥えて眺めてるがいい!!」

 

 「待つのじゃ!」

 

 「二人とも、追うぞ!」

 

 「ウィスー!」

 

 カズマの体を借りて、バニルはダンジョンの外に駆け出す。ダクネス達も当然後を追った。

 

 「ハハッ!この姿でいきなり現れれば、油断して何も出来まい!キツイの一発お見舞いしてくれるわー!!」

 

 目前に迫る外の光。バニルは声高々に、ダンジョンから飛び出した。

 

 「どこだああああ!忌々しいプリース」

 

 「セイクリッドエクソシズム!!」

  

 「ぎゃああああああああ!?」

 

 ダンジョンから出た途端に、アクアから強烈な魔法を浴びせられた。

 

 「あれ?カズマ?」

 

 「アクア、カズマに魔法を撃ってどうするんです」

 

 「人間には無害だから大丈夫よ。でもおかしいわね、確かに邪悪な気配がしたのに」

 

 「そのカズマは魔王軍幹部のバニルに操られているんだ!」

 

 「ダクネス!」

 

 魔王軍幹部のバニル。その名を聞いて、セナや他の集まっていた冒険者達がざわめいた。

 

 「ぐっ、くく…いきなり浄化魔法をぶっ放すとは。だからアクシズ教は嫌いなんだ」

 

 「しぶとい奴ね。さっさと浄化されなさい!」

 

 「そう何度も喰らうか!」

 

 アクアが魔法を続けて放つが、カズマの体を操ってるバニルには掠りもしない。身体能力を限界まで引き上げているのだ。

 

 「ええいカズマ!目を覚ませ!」

 

 「元に戻るのじゃカズマぁ!」

 

 「ハッ!攻撃出来るものならやるがいい!小僧の体が傷付くだけだ!」

 

 ダクネスと百鬼姫が取り押さえようと頑張ってるが、カズマの体を気にして思うように行かない。このままバニルのいいようにやられるだけなのか。皆がそう思い始めた時、アクアが声を上げた。

 

 「ちょっとカズマ〜!そんな寄生虫にいつまで操られてんのよー!いつも私に偉そうなこと言ってるくせに、バーカバーカ!バカズマー!!」

 

 「ふっ、何を言うかと思えば。そんなことで我輩の支配を」

 

 「どぅわあ〜れがバカズマだこの駄女神がああああああ!!!」

 

 「な、なに!?」

 

 アクアの声でカズマの意識が戻り、バニルを驚愕させる。これがアクアの計算なのか分からないが、カズマの意識を取り戻すことに成功した。

 

 「わ、我輩の支配に耐えるとは…」

 

 「こっちはなあ、子供の頃から沢山の妖怪に取り憑かれてきたんだ!魔王軍の幹部だか昆布だか知らんけど、簡単に体を許すほど…ヤワじゃないんだよおおお!!」

 

 長年の経験で、取り憑きに対する耐性が出来ていたカズマ。体はまだバニルが乗っ取ったままだが、想定外の出来事にバニルも慌てている。

 

 「仕方ない、こうなれば別の者に…」

 

 「させるか!」

 

 バシッ!!

 

 「き、貴様!これは!?」

 

 「強力な封印の札だ!これでお前も逃げられないぜ!」

 

 「ば、馬鹿な!今こうしてる間にも、お前の体には激痛が走っているのだぞ!」

 

 「痛でででで!そ、そうみたいだな…あだだだだ!?」

 

 バニルの支配に抗うのは容易ではない。油断すればすぐにも気絶しそうな苦痛だが、カズマは必死に耐えていた。

 

 「アクア!俺が抑えてる内に、こいつを浄化しろ!」

 

 「わ、分かったわ!もうちょっとだけ頑張りなさい!」

 

 「ま、待て小僧!本当にいいのか!?プリーストの魔法が届く前に、お前を激痛でショック死させることだって出来るのだぞ!」

 

 「…いいや、お前は絶対にそんなことはしない。そうだろ?」

 

 「き、貴様…」

 

 「やれ!アクアーーーー!!!」

 

 「セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!!」

 

 アクアが渾身の力を込めた浄化魔法は、カズマ及びバニルを包み込む。もはや逃げられないと悟ったバニル。破滅願望が思わぬ形で叶うことになったが、これはこれで有りかもしれない。そう、受け入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 

 後日カズマは、ギルドで褒美を受けた。魔王軍と関係していると思われていた者が、自らの危険を省みず幹部討伐に貢献したのだ。当然疑いは見事に晴れ、デストロイヤーの件も含めて借金は帳消し。加えて、4000万エリスを報奨として受け取った。

 

 「やりましたねカズマくん!」

 

 「お手柄ニャンー!」

 

 「ああ!これで俺は…自由だあああああ!!」

 

 グラサンをかけて右拳を高く突き上げるカズマ。自由の翼を得た喜びを全身で表現している。

 

 「よくやったのうカズマ!あっぱれじゃ!」

 

 バニルに感情のことをバラされた百鬼姫だったが、今やすっかり開き直ってカズマの右腕にぎゅう〜っと抱き着いている。

 

 「…ちょっと、引っ付き過ぎじゃありませんか?」

 

 めぐみんが面白くなさそうに、丸いほっぺたを膨らませている。

 

 「なんじゃ、妬いておるのか? ぺったんこ」

 

 「ムカッ。カズマ、この失礼姫に爆裂魔法をかましてもいいですか?」

 

 「ま、まあ落ち着け。こう見えて悪気はないということも、ないかもしれないかもしれないだろ?」

 

 「何を言ってんでウィスか」

 

 百鬼姫は妖怪だが、可愛い女の子に好かれるのは悪い気はしないのであまり強く言えない。

 

 「それより、百鬼姫はよかったのか?あのバニルってやつ、知り合いだったんだろ?仕方ないとはいえ、倒しちゃったわけだし」

 

 「ふむ、そのことか。なに、気にすることは無いのじゃ。どうせ…」

 

 「姫様〜!!」

 

 遠くから百鬼姫を呼ぶ声が聞こえる。ギルドの壁をすり抜けて現れたのは、百鬼姫のお付きのかげ老師だった。

 

 「なんじゃ、髭もじゃか」

 

 「なんじゃではありません!心配したのですぞ!」

 

 「分かっておる。すまぬなカズマ、私はここで帰らねばならんのじゃ」

 

 「ああ、今回はありがとうな。またよろしく頼むよ」

 

 「必ずまた呼ぶのじゃぞ!」

 

 手を振って笑顔で帰っていく百鬼姫。無感情を装ってた頃に比べると、かなり親しみ易くなったと言えるだろう。

 

 「あ、いたいた。カズマさ〜ん」

 

 「よおウィズ」

 

 「聞きましたよ、バニルさんを倒したんですって? 凄いですね」

 

 そっか、ウィズはバニルと同じ魔王軍幹部だったっけ。同僚がやられたわけだし、気にしてないといいけど。

 

 「カズマさん、ちょっと店に来て貰いませんか?合わせたい方がいるので」

 

 合わせたい方とは、いったい誰のことだろう。ウィズに連れられるがまま、カズマは店に到着する。

 

 (思えば、バニルもそこまで悪いやつじゃなかったな。あいつの人を殺さない主義を利用して、上手くいったから良かったけど、非道なやつだったらやられてた)

  

 心を読まれてからかわれたりするが、魔王軍幹部という肩書が似合わないやつだった。もし違う形で出会えていたら…そう考えても仕方ない。カズマは、店のドアを開けた。

 

 「へいらっしゃい!存分に店内を見て回るが良い!!」

  

 「思いっきり生きとる」

 

 店に入った途端、生きていたバニルがご機嫌な挨拶を交わす。しかしこいつ、アクアの浄化魔法を受けたのではなかったのか。

 

 「フハハ、悪魔が浄化されるなんて御免なのでな。直前に我輩自ら消滅してやったのだ。おかげで、ほれ。残基が減って二代目だ」

 

 仮面に刻まれたⅡの文字を見せてくる。この復活したバニルは魔王軍幹部ではなくなり、まったくの無害だから大丈夫だとウィズは言う。

 

 「我輩は元々幹部を辞める機会を伺っていたからな。結果的に良い方向に転がったということだ」

 

 「はあ…まったく、相変わらず食えないやつだな」

 

 「まあそう言うな。図らずとも、辞める機会をくれた礼だ。一つ忠告、とまではいかないが、言っておくことがある」

   

 「なんだよ」

 

 「…精々、今を存分に楽しめ」

 

 さっきまでの人を食ったような態度は消え、意味深なことを言うバニル。

  

 「はあ? それってどういう…」

 

 「以上!我輩は業務に戻る!」

 

 「あっ、おい!」

 

 気になることだけ言って、バニルはカズマから離れていく。今を楽しめとは、どういう意味なのか。

 

 「カズマくーん!早く戻ってきて下さいよー!」

 

 「みんな盛り上がってるニャンよー!」

 

 「ああ、今いくよ」

 

 バニルの言ったことが気になるものの、カズマはウィスパーとジバニャンと一緒にギルドに戻って宴会を楽しんだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今日の妖怪大辞典!

 「カズマくん、今日の妖怪は?」

 「百鬼姫!」

 「カズマ!また来たのじゃ!」

 「地獄の小国のお姫様。最近は表情豊かになったものの、やっぱりカズマくん以外はあだ名で呼んでるようでウィス」

 「他の皆はなんて呼んでるんだ? たとえば、ウィズ」

 「片目巨乳」
 
 「セナ」

 「メガネ巨乳」

 「受付嬢のルナ」

 「リボン巨乳」

 「巨乳ばっかでウィスね」

 「じゃあ、最後にめぐみん」

 「地平線」

 「穿て!エクスプロー」

 「に、逃げろー!!」

 「今日はここまででウィス!!」
  
 
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