妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら?   作:カジ

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タイトルは分かる人には分かります


約束された勝利の剣

 「いい加減にしてください!もう春ですよ! いつまでコタツに入ってるつもりですか!」

 

 めぐみんが、コタツに入ったまま出てこないカズマに怒りの声を上げる。なにせカズマは冬の間ろくにクエストにも行かず、ず〜っとコタツに入り浸っていた。借金が無くなり、それなりにお金もあるという状況が逆に良くない。

 このままでは本当にダメダメの駄目人間になってしまう。めぐみんとダクネスが無理矢理にでもカズマを引っ張り出そうとするが、ずる賢い小技にやられて手を出せない。

 

 「ゲヘヘへ〜、この俺様を甘く見るなよ。魔王軍の幹部と互角に渡り合ったカズマ様だぞ!ここから出せるもんならやってみろお!」

 

 亀みたいに、スポッと顔をコタツの中に引っ込める。どうやらカズマも、本気でコタツに籠城するつもりのようだ。

 

 「…仕方ありません。そっちがそのつもりなら、こっちも考えがあります。ウィスパー」

 

 「ウィッス」

 

 こうなったら手段を選ばない。ウィスパーはコタツにそ〜っと近付き、布を少しだけ捲る。

 

 「はあぁぁ〜〜〜…」

 

 眉間にシワを寄せた真剣な顔になり、お腹に力を込める。そして、溜めに溜めたものを一気に放出した。

 

 「ふんッッ!!!」

 

 

 ブウゥゥーーーーッッ!!

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 ガタガタガタガタガタ!!!

 

 「ぶっはああああああ!!くっせ、オエエエ〜ッ!こ、殺す気かあ!!」

 

 密閉された狭いコタツの中に、思いっきり屁をかましたウィスパー。数秒の沈黙の後コタツが激しく揺れ動き、我慢出来ずにカズマが這い出てきた。

 

 「お、お前ら…俺に何の怨みが…」

 

 「カズマがいつまでたっても、コタツから出てこないからじゃないですか」

 

 「だからってこの仕打ちはあんまりだろ…!死ぬかと思ったわ!」

 

 ウィスパーの屁は相当な臭さだったようで、カズマの顔が若干青白くなっていた。引き続きコタツに立て籠もれば、また屁をくらわせられるだろう。

 カズマは遂に観念して、皆と一緒にクエストに行くことに決めた。

 

 「…あー、まだ鼻が変な感じする。ウィスパー、お前普段なに食ってんだよ」

 

 「失敬な。ただ朝食に納豆とクサヤとドリアンと、3日前のくつ下を…」

 

 「もういい聞きたくない」

  

 「なんか食べ物じゃないのがまじってた気がするニャン…」

 

 ウィスパーの偏った食生活はさておき、一行はギルドに向かって歩いていく。と思いきや、何故か先頭を行くカズマはギルドとは逆方向に足を進めていた。

 

 「どこに行くんですか? ギルドはこっちじゃありませんよ」

 

 「いや、こっちでいいんだ。ちょっと寄るところがある」

 

 カズマはそう言って、角を曲がった先にある店に入っていく。表には盾と剣を模した看板があり、どうやらここは冒険者御用達の武器屋のようだ。

 

 「いらっしゃ…おう、カズマか」

 

 「おっちゃん、例のもの出来てる?」

 

 「ああバッチリだ。持ってくるからちょっと待ってな」

 

 店主のおっちゃんが店の奥に行き、ガチャガチャと乱雑な音を立てる。そして、右手に一本の得物を握りしめて戻ってきた。

 

 「ほら、これだろ?お前さんのいう刀って剣は」

 

 「おお!これだよこれこれ!ちゃんとそれっぽくなってる!!」

 

 刀、それは日本で古来から使われていた伝統の武器。男子なら、誰もが一度は腰に携えてみたいと考えた事があるだろう。侍の国で生まれたカズマも、それは例外ではなかった。

  

 「その剣は刀っていうのか。ブシニャン師匠が持ってるのと似てるな」

 

 ダクネスもカズマの刀を珍しそうに見ている。ブシニャンの刀はネコ用だから小さいサイズではあるが、その切れ味は天下一品の業物。流石にカズマの刀はそこまでの代物ではないが、見てくれだけは負けていない。

 

 「剣も格好いいけど、やっぱり刀が一番だよ。侍の血が騒ぐっていうか」

 

 「危なっ!ちょっとカズマくん、こんな狭いところで物騒なもん振り回さないでくださいよ」

 

 軽く素振りをすると、近くにいたウィスパーに当たりそうになる。今度試し斬りさせてとお願いしたらキレられた。

 

 「後はこの札に銘を書いて、それに貼れば完成だ。それと、他に頼まれてたやつも出来てるぜ」

 

 カズマは刀の他に、もう一つ注文していた物がある。実はそっちの方が本当に欲しかったやつで、カズマは期待に心踊らせていた。

 

 「どうだ?フルメイルの鎧、この街の冒険者にはもったいないくらいの代物だぞ」

  

 「おおおっ!凄く格好いいじゃないか!」

 

 キラキラ輝く新品の鎧。重厚感があり、生半可な攻撃じゃビクともしない屈強さ。凄腕の冒険者にも引けを取らない立派な防具だ。

 

 「おおっ!格好いいでウィスよカズマきゅん!」

 

 「似合ってるニャン!」

 

 新しい鎧を身に纏い、心なしか歴戦の猛者のオーラが滲み出ている気がする。これならば、そんじょそこらのモンスターになんか遅れを取らないだろう。

 

 「カズマくん。装備も一新したことですし、早速クエストに行って試してみましょうよ」

 

 「あ、ああ…」

 

 せっかく新装備に身を包んだというのに、何故か歯切りの悪い返事をするカズマ。

 

 「カズマ、突っ立ってないで早く行くニャン」

 

 「ちょ、ちょっと待って…ふんっ!」

 

 力を入れて足を動かそうとするが、ガチャガチャと鎧が鳴るだけで一歩も進んでいない。

 

 「もう、何やってんでウィスか」

 

 「よ、鎧が思ったより重くて動けんっ…!」

 

 「しょうがないでウィスねえ。押してあげますから頑張って動いてください」

 

 ウィスパーがカズマの後ろに回り、両手で背中を押す。二人で息を合わせ、なんとか前進を試みた。

 

 「行きますよ〜。せ〜の…ふんんんっっ!!」

 

 「うおおおおっ…!あっ、動いた!ちょっと動いたぞウィスパ……あ」

 

 動いたのはいいが、カズマはバランスを崩してしまう。重たい鎧で身動きが取れず、そのまま前のめりで倒れていった。

 

 「うわああっ!?倒れるー!」

 

 「ニャアアっ!?」

 

 ドーーーン!!

 

 運悪く、倒れてきたカズマの巻き添えをくらったジバニャン。下敷きになったジバニャンを救出するため、めぐみん達がカズマの体を起こす。

 

 「ジバニャン!?大丈夫ですか!」

 

 「お、俺の心配も少しはしてくれ…」

 

 「カズマ、早くどいてください!ジバニャンがぺっちゃんこになっちゃったじゃないですか!」

 

 「一人じゃ起きれないんだ。悪いけど起こしてくれ」

 

 皆でカズマを起き上がらせたが、何故か下敷きになったはずのジバニャンの姿が見当たらない。

 

 「あれ?ジバニャンはどこに…」

 

 「ここニャン〜…」

 

 「ここ? あっ!?」

 

 めぐみんが声のする方を見ると、なんとカズマの鎧にジバニャンが貼り付いていた。

  

 「あら〜。ジバニャン、カズマくんにピッタリ貼り付いちゃってますね」

 

 「いや、これどういう仕組みなんですか…?」

 

 「ジバニャン根性あるわねえ」

 

 「ぺしゃんこに潰されるのってど、どんな感じだ!?今度詳しく聞かせてくれ!」

 

 ド根性ネコと化したジバニャンだったが、しばらくすると普通に鎧から出てきた。

 カズマも重すぎる鎧を外し、これを着てクエストに行くのを残念ながら諦める。こんな重い鎧を装着してクエストに出た日には、その場から動けずモンスターの袋叩きに合うのがオチだ。

 

 「ま、まあ。俺にはこの刀があるし、鎧なんか着たら重くて俊敏に動け回れないからな。これで良かったんだよ、はは…」

 

 無理矢理自分を納得させ、カズマは刀を腰に差す。何はともあれ、これで攻撃力もグンと上がった。いざ、モンスター共の待つクエストへ。そう意気込んだ矢先、刀が他の剣に当たって次々と薙ぎ倒していった。

 

 「す、すいません!すぐ直します!」

 

 ウィスパー達にも手伝って貰い、全部元通りにする。今度は刀が当たらないよう注意して、慎重に店の出口へと向かう。

 しかしそこでも刀がドアに当たり、店から中々出ることができない。ようやく外に出たカズマだったが、その使い勝手の悪さに早くもうんざりしている。

 

 「…なんか、思ってたのと違う」

 

 「そもそも、カズマくんが使うには長いんでウィスよ。なんでもうちょっとお手軽なサイズにしなかったんでウィス?」

 

 「だって、武器は大きい方が格好いいし…」

 

 「いや全然格好良くないでウィスよ、今のカズマくん」

 

 「もう大人しく諦めて、ちゃんとした大きさに変えてもらうニャン」

 

 「うぅ、刀は侍の魂なのに…」

 

 武器屋を後にしたカズマ達は、ギルドで新しいクエストを探す。しかしカズマはテーブルに突っ伏して、サイズを新調した刀を見つめていた。

 

 「ずいぶん小さくなりましたね、侍の魂」

 

 「ほっとけ!」

 

 小気味よい音を立ててアスパラを貪るめぐみん。カズマの刀は当初の面影は無く、扱いやすいように小ぢんまりとしたサイズに変わっていた。

 

 「…ちくしょう、こんな変わり果てた姿になっちまって。せめて名前だけは格好いいの付けてやるからな」

 

 「サトウさん、サトウカズマさんはいらっしゃいますか?」

 

 「あれ、セナさんだ。何しに来たんだろ」

 

 声のする方を見ると、入口のところでセナがカズマを探している。手を振ってやるとこちらに気付き、クエストを探していたアクアとダクネスも戻ってくる。

 

 「依頼したいクエストがありまして、リザードランナーを討伐して欲しいのです」

 

 「リザードランナー?」

 

 リザードランナー、普段は大人しくて害のない二足歩行のトカゲ。今は繁殖期で、姫様ランナーというメスの取り合いをしている。その求愛の仕方が独特で、他の生物と競争するのだ。

 一番足の速いオスが姫様とつがいになれるのだが、手当たり次第に他の生物を挑発するので被害が出ているという。

 

 「はた迷惑なモンスターだな。まさか、俺にそれをどうにかしろと?」

 

 「二度の魔王軍幹部討伐、他にも度重なる危機を乗り越えたあなたの事を、自分は大変高く評価しています。今回もその手腕で、モンスターから街の人々を守ってください!」

 

 なんか凄く買いかぶられてるようだが、正直カズマはあまり乗り気ではなかった。今回はめぐみん達に連れられて、仕方なくクエスト選びに来ただけだ。

 お金もまだ余裕があるのに、そんな厄介なモンスター相手にしたくない。

 

 「あー、今日はちょっとお腹の調子が…」

 

 「せっかくクエストを用意してくれたところ悪いんですが、それはカズマには荷が重いです。なまじお金があるから働きませんし、レベルも私達の中で一番低いですから役に立ちません」

 

 「ちょっと待て、なんで俺が一番低いんだよ。そういうめぐみんは何レベだ?」

 

 「26ですよ。雑魚などは私が一掃してますからね」

 

 「えっ、ま、マジか…」

 

 めぐみんにボロクソに言われたが、カズマより高レベルのめぐみん相手には何も言い返せない。

 アクアはステータスカンストしてるし、ダクネスもバニルの人形を沢山倒したからレベルが上がっている。

 

 「お、おいジバニャン。レベルいくつだ?」

 

 「えーと、15ニャン!」

 

 「なっ!?い、いつの間にそんな」

 

 「クリスマスを無事に成功させたから、多分そのおかげニャンね」

 

 「それで上がるの!?レベルシステムどうなってんだよ!」

 

 納得いかないところもあるが、これでジバニャンにも抜かれてしまった。

 

 (ジバニャンがレベル15でウィスか。ちなみにわたしのレベルは…?)

 

 冒険者カードを見て、ウィスパーもレベルを確認する。以前は何故かマイナスまで落ち込んでいたが、あれから変化はあったのか。

 

 (え〜と、何なに? 冒険者ウィスパー、

 死亡済み……)

 

 「死んどるやんけワレええええ!!」

 

 「うわっ!?ど、どうしたウィスパー!」

 

 急に大きな声出したウィスパーに、カズマはビックリする。ウィスパーの冒険者カードには、赤い字で大きく死亡済みと書かれていた。何故まだ生きてるのに死亡と判断されたのか分からないが、これはレベルどうこう以前の問題だ。

 

 (くっそー、ウィスパーが一番レベル低いと思ってたのに。これじゃあ結局俺が一番低いじゃないか)

 

 死んでしまってはレベルを比べようがない。今のカズマのレベルは13。ダントツで最下位である。

 

 「よ、よーし。たまにはクエストに行くか!お前ら、すぐに準備しろ!」

 

 半ばヤケになりつつ、カズマもやっとクエストに行く決心を固めた。

 

 「う〜ん…」

 

 「どうしたんですカズマくん。トイレなら今のうちに済ませてくるでウィス」

 

 「いや、そうじゃなくて。刀の銘をどうするか悩んでるんだよ」

 

 道中、カズマは小さくなった刀を振りながら名前を考える。初めて自分の刀を手にするんだし、せっかくなら威厳のある名前にしたい。

 虎徹や物干し竿、和道一文字みたいな、そんな感じのを…

 

 「ちゅんちゅん丸」

 

 「はい…?」

 

 「それの名前はちゅんちゅん丸です。私が決めました」

 

 めぐみんが勝手に決めるが、そんな変な名前は絶対に却下だ。無視して他の名前を考えよう、と思ったらすでにちゅんちゅん丸と書かれた札が刀に貼られていた。

 

 「ああああっ!?おまっ、何してくれてんだよ!!」

 

 「ふっ、礼には及びませんよ。これからそのちゅんちゅん丸を使って、思う存分暴れ回ってください」

 

 「ふざけんなああああああ!!」

 

 シャレにならないことをしてくれたが、こうなってはもう取り返しがつかない。カズマの愛刀は、ちゅんちゅん丸に決定した。

 

 「…はあ。この刀でもし魔王を倒したら、伝説の武器として飾られたりするのか…」

 

 「何ともシュールな光景でウィスね」

 

 博物館で子供達が、展示されてるちゅんちゅん丸に群がる様子を想像する。名付け親のめぐみんは満足そうだが、カズマは勘弁して欲しかった。

 刀のことはそれぐらいにして、一行はリザードランナーの群れを発見する。狙撃のスキルを持っているカズマが木に登り、上からその様子を探った。

 

 「姫様ランナーは他より大きいから分かりやすいな。てことは、その近くにいて離れないやつが王様か?」

 

 姫と王をやれば、群れは統率が無くなりバラバラになる。カズマは矢を弓に装着し、外さないよう狙いを定めた。

 

 (よ〜し、動くなよ〜…今だ、狙撃ッ!!)

 

 まさに今、カズマが指を離そうとしたその時。不可解な出来事が起きた。

 

 「なんだ!?リザードランナー達が一斉に走り出したぞ!」

 

 急に走り出すリザードランナーの群れ。競争相手はいない筈なのに、まるで得物を追いかけるように猛スピードで駆けていく。

 

 「何がどうなって…まさか、妖怪の仕業か!」

 

 「はいはい、お約束のセリフありがとうございます。急に走り出すなんて、別に変わったことじゃありませんよ。あたしだって、突然夕日に向かって走り出すことくらいあるんでウィスから。そんなことまで妖怪のせいにしてたら、いつか妖怪名誉毀損で訴えられ」

 

 「いたーー!!」

 

 「マジかよ!?」

 

 ウォッチを照らすと、リザードランナーの先頭をひた走る妖怪がいた。

 

 「ほらウィスパー、出番だぞ」

 

 「え?ああはいはい!当然知ってますよ〜、ええと…暴走スニーカー野郎!ムキムキダッシュ男!真っ昼間からパンツ1丁で走り回るやばいやつ!! はあはあ…あ、ありました!あれは妖怪ばくそく!!」

 

 ばくそく。とても足が速い妖怪。こう見えてもプリチー族である。

 

 「ばくそく、いったい何をしてるんだ…?」

 

 「うおおおっ!たとえ異世界のモンスター相手でも、足の速さなら負けんぞー!!」

 

 どうやらリザードランナーとかけっこする為に現れたらしい。足の速さに自信があるばくそくにとって、絶対に負けられない勝負。

 しかしこれでは狙いが定まらない。こっそり姫様と王様を倒せばそれで終わりだったのに、ずいぶんと余計なことをしてくれたものだ。

 

 「ばくそくー!今はクエストの途中だから、邪魔しないでくれー!」

 

 カズマが木の上から、リザードランナーを率いてるばくそくに声を飛ばす。

 

 「おおカズマ!何か言ったかー!?」

 

 「だからー!今クエストやってるからーー!!」

 

 「え?なに?よく聞こえん!!」

 

 方向転換して、ばくそくがカズマのところまで走ってくる。当然、後ろを走っていたリザードランナー達も一緒だ。

 

 「バカっ!こっち来んな!!」

 

 慌てて矢を放つが、肝心の姫様と王様に当たらない。

 

 「ここは私が!黒より黒く…って、あ、あれ?」

 

 速すぎるトカゲ達に、めぐみんの詠唱がまったく追い付かない。呆然としてるめぐみんの横を瞬く間に通り過ぎていく。

 

 「ひえええ!?助けてえええ!」

 

 「くっ!こんなに多いと、私一人では止めきれん!」

 

 うずくまって泣いてるアクアをダクネスが守るが、2、3匹足止めするのが精一杯だ。

 

 「うおおおっ!狙撃狙撃狙撃〜〜!!」

 

 もう当てずっぽうで、矢をとにかく射ちまくるカズマ。その内の一本が、飛んできた姫様ランナーの頭を偶然にも射抜く。

 

 「や、やった。…って、え?」

 

 討伐した姫様ランナーが、走ってきた勢いのままカズマの木に激突する。激しい揺れが起き、カズマは思わず足を滑らせる。

 

 「うわああっ!?」

 

 「危ないカズマくん!」

 

 間一髪、落下する直前にカズマはウィスパーにしがみついた。

 

 「…ふー、助かったよウィスパー」

 

 「いえいえ、危ないところでしたねえ。あのまま落ちてたら、間違いなく死んでたところでウィス」

 

 「こ、怖いこと言うなよ。とりあえず、早く下ろしてくれ」

 

 「はい、すぐに……ハウぁッ!?」

 

 突如、ウィスパーの顔が険しいものに変わる。眉間にシワを寄せ、冷や汗を流してぷるぷる震えている。まるで何かを我慢しているみたいだ。

 

 「ど、どうしたウィスパー!」

 

 「この感じ…来る!やつが来るでウィス!」

 

 「やつ…?ま、まさか!やめろウィスパー!耐えろ!耐えるんだ!」

 

 「うぐぐっ…!も、もう…無理でウィスーー!!」

 

 

 プッブウウゥゥゥゥ〜〜〜〜!!!

 

 

 「ぐはああああ!!くっせええええええ!!」

 

 ウィスパーの屁を、顔面でもろに食らってしまったカズマ。その拍子でしがみついていた手を離してしまい、真っ逆さまに落ちていく。

 

 ドーーーーーン!! ベキッ!!

 

 えげつない落下音が聞こえ、ウィスパーが急いでカズマのもとに飛んでいく。

 

 「いや〜、すいませんねえ。ついうっかり出ちゃいまして。大丈夫ですかカズマくん。…カズマくん?」

 

 ……………チーン

 

 「カズマくーーーーん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ようこそ、死後の世界へ。佐藤和真さん」

 

 死後の世界。ああ、またここに来てしまったのか。カズマはゆっくり体を起こし、女神様を見る。物腰穏やかで、優しそうな美人の女神だ。アクアも見た目は良いが、あれは中身が残念過ぎる。

 カズマは少しずつ、死んだ経緯を思い出した。

 

 「少し、落ち着きましたか?」

 

 「はい。やっぱり、俺は死んだんですね… え!?おならで!?俺おならで死んだの!?」

 

 「え、ええまあ。正確には、落下による衝撃ですが」

 

 「でもおならが原因なのは間違いないですよね!?最悪だよ!おならが原因の死とか残念にも程があるだろ!」

 

 トラクターの勘違いといい、今回の件といい。なんでこうも死に様が残念なやつばかりなのだろう。

 

 「…ずいぶん、大変な思いをされたようですね。せっかく日本から、遠い異世界へと来てくれたのに。せめて来世は、不自由なく生活出来るように転生させてあげましょう」

 

 慈悲深い光り輝くオーラが溢れ出ている。本物だ、本物の女神様だ。これがもしアクアなら、俺の死因に腹がよじれるほど笑い転げているに違いない。

 

 (…でも、そうか。もう会えないのか)

 

 カズマの脳裏に映るのは、ジバニャンやウィスパーの妖怪達。そしてアクア達を始めとする、アクセルで出合った人々。

 

 (…何だかんだ言っても、楽しかったな。お別れは寂しいけど、転生先で無事にやっていくから心配すんな。お前らも、元気でな…)

 

 目に滲む涙を拭い、カズマは温かい光に包まれる。別れの寂しさと、転生先の期待を胸に、カズマは新しい世界へ旅立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー完ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なに勝手に終わってんのよ!カズマー、早く帰ってきなさーい!!」

 

 「アクア!?」

 

 「せ、先輩!?」

 

 突如アクアの声が鳴り響き、転生の儀式が中断された。

 

 「カズマ聞いてる?あなたの体はもう蘇生して治ってるから、いつでも戻ってこれるわよ」

 

 「え?マジ?」

 

 「だ、駄目です!カズマさんはもうすでに一度生き返ってますから、天界の規定で二度蘇生することは出来ません!」

 

 「え、そうなの? アクアー、なんか規定とやらで無理っぽいんだけどー!」

 

 「大丈夫大丈夫ー!私が許すからー!」

 

 そんな軽々しく規定を曲げられても困ると、目の前の女神様は頭を抱えている。先程もアクアのことを先輩って言ってたし、日頃から悩まされているのだろう。

 

 「それに早く戻らないと、ウィスパーがディープな人工呼吸しちゃうけどそれでもいいのー?」

 

 「女神様ーー!どうか、どうか今すぐ俺を帰らせてくださいいいい!!」

 

 「わ、分かりましたから!落ち着いてください!」

 

 カズマに肩を激しく揺さぶられ、女神様は仕方なく特例として蘇生することを許可してくれた。

 

 「はあ…もう、こんなこと滅多にないんですからね」

 

 「な、なんかすいません。色々と無茶を言ってしまって」

 

 「…カズマさん」

 

 女神様はくるっと振り返り、人差し指を口元に当てて言った。

 

 「この事は内緒ですよ。私達だけの…秘密ですっ」

 

 「は、はい…」

 

 女の子らしい可愛い笑顔を見せられ、ドキッと心臓が高鳴る。決して色物じゃない、これぞ王道のメインヒロインたる姿。せっかくの異世界生活だというのに、何かが足りないとは思っていたんだ。その答えは、ここだ。求めていたものは、ここにあったんだ。

 カズマの体が光に包まれ、女神様が段々遠ざかっていく。

 

 「め、女神様!せめてお名前を!」

 

 離れたくない。とでも言うように、カズマは必死に手を伸ばす。

 

 「私は女神エリス。カズマさん、あなたのこと、いつでも見守っていますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え、エリス…様」

 

 「ん〜〜〜、カズマきゅ〜〜〜〜ん!!」

 

 「…っ、ぎゃあああああああああ!」

 

 目を開けると、今まさにウィスパーが人工呼吸する直前の顔が迫っていた。慌てて払い除けたが、戻ってくるのがあと1秒遅かったら、最悪のタイミングで目覚めていたことだろう。

 

 「んも〜、そんなに驚くことないじゃないでウィスか」

 

 「ハァハァ…び、ビックリし過ぎて、危うくまたエリス様のもとに行くところだった」

 

 「エリス?カズマ、あの子に会ったの?元気してた?」

 

 カズマはアクアの顔をジッと見つめる。同じ女神なのに、この違いは何なのだろう。

 

 「な、なによ。そんなに見つめられると照れるじゃない…」

 

 「チェンジお願いしまーす」

  

 「ちょっと!こんな完璧女神を捕まえてチェンジってどういう意味よ!」

 

 もはやいつも通りのアクアと言い合いの光景。またここに帰って来てしまったと、安心やら不安やらが一気に押し寄せる。

 

 (…でもまあ、もうちょっとこの世界で頑張ってみるのもいいかもな)

 

 色々と問題が起きたが、リザードランナーのクエストはこれで完了だ。カズマが姫様ランナーを倒したから、しばらくは大きな群れはなせないだろう。

 死にかけてまで(実際死んだが)苦労して達成したクエストだ。セナからたっぷり報酬を貰わねば割に合わない。一行は屋敷に戻り、カズマは疲れた体を癒やすべく風呂に入る。

 

 (そういえば、帰る途中めぐみんやけに大人しかったな。俺ともあまり目を合わせなかったし、そんなに俺が死んだことがショックだったのか? ふっ、まだまだ子供だな。仕方ない、後で慰めてや…)

 

 脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入る直前。鏡に映し出された自分の姿が目に入る。一回チラッと見て、驚いてすぐに二度見する。

   

 「…な、何じゃこりゃあああああああ!!」

 

 カズマは大急ぎで脱衣所から出て、アクア達が寛いでるリビングにドドドドド!!と走り出す。

 

 「めぐみんはどこだ!あのロリっ子はどこにいる!!」

 

 「めぐみんならしばらく旅に出るとか言っ…わあああああっ!?」

 

 腰にタオル1枚巻いただけのカズマの姿に、ダクネスは赤面して悲鳴を上げる。

 

 「ちょっとカズマくん。女の子もいるんですから、そんな格好で走り回らないでください」

 

 「自信があるのはいいけど、自己主張激しい男は嫌われるわよ」

 

 カズマの下腹部に、聖剣エクスカリバーと落書きがされている。これをやったのはめぐみんであり、カズマがキレることを見越してすでに避難していた。

 死んで心配させたことによる、めぐみんのささやかなお返しである。

 

 「ちっくしょう!こうなったらめぐみんにも、耳なし芳一もビックリするほど体中に落書きしてやるうううう…って、あ」

 

 「…ふっ」

 

 タオルがスルリと落ちて、カズマの聖剣(笑)を見たアクアに鼻で笑われたのだった。

 

 

 

 

 

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