妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら?   作:カジ

33 / 34
魔ウンテン

 「めぐみん、もう帰っても大丈夫ニャン?」

 

 「いつまでも帰らないわけにはいきませんし、流石にカズマの機嫌もそろそろ治ってますよ」

 

 前回、カズマにイタズラをしてキレさせためぐみん。ここ数日はジバニャンと一緒にゆんゆんの宿に避難していたが、ほとぼりが冷めた頃を見計らって帰ってきたのだ。

 

 「…ただいまで〜す。か、カズマ〜?」

 

 忍び足で静かに屋敷に入り、リビングの様子をそ〜っと確認する。

 

 「カズマ様、アクア様。最高級のお紅茶が入りました」

 

 「うむ、苦しゅうないわ。少ないけど取っておきなさい」

 

 「ありがたき幸せ」

 

 「カズマ様。はい、あ〜ん。おいしいですか?」

  

 「あ〜ん。うん、おいち〜。は〜い、お返しに君も、あ〜ん」

 

 「も〜う、カズマ様ったら〜」

 

 「…な、何をやってるんですかーーー!!」

 

 リビングに見知らぬ複数の執事やメイド達が、カズマとアクアに御奉仕していた。アクアはイケメン執事の頬を札束でペチペチ叩き、カズマは美人のメイドさんに料理を食べさせて貰っている。

 たった数日留守にしただけで、この変貌っぷり。めぐみんは申し訳なさそうにしているダクネスに問い詰める。

 

 「ダクネス!いったい何があったのですか!」

 

 「じ、実はな…」

 

 ダクネスの話を簡単にまとめると、カズマはバニルと新しい契約を交わした。カズマの持つ現代日本の知識に目をつけ、バニルがそれを高く買い取ってくれると言うのだ。

 一括で3億、月々の分割なら百万。それだけの大金が入ることが確定したカズマとアクアは、それはもう浮かれに浮かれまくった。こうして臨時の使用人を雇い、似非セレブを気取っているのだ。

 

 「…はあ、まったくもう。お金があるのはいいですが、流石に調子に乗りすぎです。ウィスパーは何をしていたのですか? こういう時こそ、二人の暴走を止めるのが役目でしょうに」

 

 「ウィスパーならあそこに」

 

 ダクネスが指差した先には、ウィスパーがたらふく料理を食べて酒を飲んでいる姿があった。

 

 「役に立たないやつニャン」

 

 「もういいです、あんな紫唇は放っておきましょう。それより、あなた達ももういいですから。早く帰ってください」

 

 リビングに溢れていた沢山の使用人達。めぐみんに帰らされ、ぞろぞろと屋敷から出ていく。

 

 「ちょっと〜、なにするのよめぐみん」

 

 「せっかくルネッサンスな気分を味わっていたのに台無しじゃないか」

 

 「何がルネサンスですか。似合わないバスローブまで着て、はっきり言って気持ち悪かったですよ」

 

 帰ってきた時は何ごとかと思ったが、お金に余裕がある状況自体はめぐみんも悪くないと思っている。これで心に余裕が出来て、クエストも捗るだろう。

 

 「え?もうクエストなんか行かないよ。俺は商売で生きていくことに決めたから」

 

 「なっ、なんですと!?」

 

 「だいたい、お金があるのに何で働かなきゃならないんだよ。冒険者なんてやめやめ、これからはぬる〜く生きていくさ」

 

 明らかにやる気をすっかり無くしているカズマ。お金というのは、こうも人を堕落させるものなのか。

 

 「カズマ、魔王退治はどうするニャン?」

 

 「魔王退治〜?はっ!そんなもん、他の凄腕冒険者を金で雇って、そいつらにやらせればいい。俺は一番後ろから優雅に戦いを眺めて、最後においしいところを持っていってやる」

 

 「さすがカズマくん、清々しいほどのゲスっぷりでウィス〜」

 

 「魔王をなんだと…!」

 

 カズマのだらけきった考え方に、めぐみんが呆れを通り越して怒りを覚えている。そうじゃないだろうと。魔王との最終決戦はお互いに死力を尽くし、秘めたる力を覚醒させて戦うものだと夢見ていたのに。

 目の前のこのダメ男ときたら、自分が楽をすることしか考えていない。

 

 「それに、俺はこの前死んだばっかりで疲れてるんだ。せめてもう少しくらいゆっくりさせてくれ」

 

 「…分かりました。では湯治に行きましょう」

 

 「湯治?」

 

 「ええ。アルカンレティアという、温泉で有名な街があるんです。そこならば、カズマの疲れも綺麗さっぱり癒えますよ」

 

 温泉。そう聞いたカズマは、少し心が揺らぐ。温泉で有名な観光地なら、あわよくば混浴もあるかもしれない。そしてあわよくば、現地の美しいお姉さん方と裸の付き合いが出来るかもしれない!

 

 「温泉かー、俺は別にどっちでもいいんだけどー、皆がどうしても行きたいっていうなら〜…

よし行こう」

 

 「判断が早い」

 

 カズマが何を考えてるか、長い付き合いのウィスパーは手に取るように分かった。

 

 「アルカンレティア!いいじゃない!是非みんなで行きましょう!!」

 

 何故かアクアはやけに乗り気だったが、全員でアルカンレティアに行くことに決定した。

 

 (…はあ、まさかまたあの街に行くことになるとは。これは相当覚悟して行かねばなりませんね)

 

 提案した張本人のめぐみんだったが、その思惑はずいぶんと不安に満ちているものだった。

 そして翌日。カズマは出発前に、ウィスパーと一緒にバニルがいるウィズの店に立ち寄った。商売契約を交わしてるバニルには、数日留守にすることを報告しないといけない。

 

 「む、小僧とホニョホニョか。こんな朝早くにどうしたのだ?」

 

 「これから温泉旅行に行くんだよ。何日か留守にするから、契約の返事はもうちょっと待ってて貰えるか?」

 

 「ああ構わんぞ。混浴という淡い夢を期待しているのを、邪魔するわけにもいかんしな」

 

 「べ、別に期待してねーし!」

 

 心を見透かされて、カズマは動揺する。

 

 「それよりあの〜、わたしの相方が黒焦げになっている方が気になるんでウィスけど…」

 

 カズマとウィスパーの足下に、黒焦げで瀕死になっているウィズが転がっている。バニルがため息を吐き、カズマ達がここに来る直前のことを話した。

 どうやら例によって、ウィズがまた使えない魔道具を勝手に仕入れたらしい。それも大量に。

 

 「まったく、このポンコツ店主に店を任せていたら永遠に黒字にならん。むしろ今まで潰れなかったのが不思議なくらいだ」

 

 「そ、そんなに酷いのか…」

 

 「売れば売るほど赤字になると言われてますからね。ウィズさんの店…」

 

 せっかくバニルが店の景気をよくしようと努力してるのに、それを無にするどころかマイナスにしてしまうウィズの商才。大悪魔と恐れられるバニルも、ほとほと困り果てていた。

 

 「そうだ、温泉旅行に行くのだったな。ちょうどいい、このポンコツも一緒に連れて行ってやってくれ」

 

 「いいのか?これでもウィズは一応店主だろ?」

 

 「カズマくん、何気に酷い」

 

 「これ以上、またおかしな物を仕入れられても困るからな。それに、こやつを連れていけば…

一緒に風呂に入れるかも」

 

 「責任持って預からせていただきます」

 

 「カズマくん、欲望に正直過ぎでウィス…」

 

 いつの間にかウィズを背負い、男前な声で応えるカズマ。背中に当たる柔らかい感触を楽しみつつ、アクア達のところへ向かう。

 

 「悪い悪い、ちょっと待たせたな」

 

 「遅いわよ!カズマがもたもたしてるから、お目当ての馬車が行っちゃったじゃない!」

 

 馬車の待合所に来たが、アルカンレティア行きの馬車はほとんど残っていない。あるのはくたびれたお爺さんの馬車と、せいぜい二人か三人乗りの小さな馬車だけだった。

 

 「ま、まあまあ。まだ俺たちが乗れるやつが 一台残ってるんだからいいじゃないか」

 

 「もー、いい馬車で快適な旅をしたかったのにー」

 

 目当ての馬車に乗れなくて、アクアは頬を膨らませて不満そうだ。

 

 「カズマ、なんでウィズを連れてるニャン?」

 

 「え?いや、ほら、せっかくの旅行なんだし、人数は多いほうが楽しいだろ?」

 

 「…ん。あれ?ここは…」

 

 「カズマくん、ウィズさん起きましたよ」

 

 ウィズが目覚め、カズマが状況を説明する。

 

 「バニルが厄介払い…じゃなくて、店主の仕事で日々大変だから、たまには温泉でもどうかな〜って」

 

 「温泉ですか?いいですねえ、誘ってくれてありがとうございます」

 

 「でもどうするのよ。この人数だと席が1人分足りないわよ」

 

 馬車に座れるのは四人まで。余った一人は後ろの荷物用の台に乗らなければならない。ウィズが気を使って荷台に乗ると言ったが、ここは公平に決めるべきだ。

 

 「それじゃあ、手っ取り早くじゃんけんで決めるのはどう?」 

 

 「いいと思います」

 

 「私も、異論ない」

 

 アクアの提案で、5人でじゃんけんをすることに決まった。飛べるから座らなくてもいいウィスパーと、めぐみんの膝に乗るジバニャンは除外。

 

 「じゃん〜けん…ぽんっ」

 

 カズマがチョキ、それ以外はパーを出して、カズマの一人勝ちが確定する。

 

 「よし、まずイチ抜けだな」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ!勝ち抜き戦なんて言ってないでしょ。5人でじゃんけんして、誰か一人負けるまで続けるわよ」

 

 「中々終わらんわ、そんなじゃんけん」

 

 カズマの一人勝ちが納得いかず、アクアが新たなルールを提案する。しかしそれでは時間がかかるので、カズマとアクアが一騎打ちをすることになった。

 

 「三回勝負して、一回でも俺に勝てたらアクアの勝ちでいいぜ」

 

 「ほんとにいいの?ねえカズマ、確率の計算って知ってる?後で言い訳しても遅いんだからね!」

 

 じゃんけんぽん、じゃんけんぽん、ジャンケンぴょん! 三回やって、全てカズマのストレート勝ち。

 

 「どういうこと!?絶対ズルしたでしょ!

じゃなきゃ三回連続で負けるなんてありえないわ!こんなのおかしいじゃない!」

 

 「おかしいなら笑え」

 

 「プークスクスクス!!」

 

 「泣け」

 

 「うわ〜〜〜ん!!」

 

 「おもちゃかお前は」

 

 アクアが泣きの一回を懇願して、仕方なくもう一度勝負してやる。

 

 「ブレッシング!これで私の運気は上がったわ!」

 

 「汚え!そんなのありかよ!」

 

 「運も実力のうちよ。さあ勝負よカズマ!」

 

 「…ああいいぜ。こうなったら、俺も本気でやってやる」

 

 魔法で運気をアップさせたアクアに対し、カズマもこれまで以上の気合を見せる。

 

 「ね、ねえカズマさん…?じゃんけんよね?

ただのじゃんけんをするのよね…?なんか髪が異常に長くなってるんですけど…」

 

 カズマの髪が天へと高く伸び、筋骨隆々の姿に変貌する。足を大きく開き、右拳を力強く握りしめる。

 

 「方法は分からニャいけど、強制的に成長したニャン…!」

 

 「これ以上は駄目でウィスカズマくん!一体、この先どれほどの…!」

 

 「待って待って!何する気!?ねえ何する気!?」

 

 「最初は…グー。じゃん、けん…グーーー!!」

 

 「ひいいいい!?」

 

 ありったけを込めたカズマの右拳。アクアの顔面を無慈悲に砕いたと思われたが、寸前のところで止まっている。カズマはグー、ビビったアクアの手はぎこちないチョキの形をしていた。

 

 「はい俺の勝ちー」

 

 「ず、ズルい!そんなの反則よ!納得いかない〜!!」

 

 地面を転がりながらアクアは駄々をこねる。この後も何度かカズマと勝負をしたが、結局はカズマの全勝だった。

 

 「もういいだろ、そろそろ行くぞ」

 

 「いや〜!私が勝つまでやるの〜!」

 

 「アクアさん、完全に駄々っ子でウィス」

 

 「あんまりわがままばっかり言ってると、ここに置いて行くからな」

 

 「ゔぅぅ〜〜〜〜っ!!」

 

 半泣きで悔し涙を見せているアクアだったが、しばらくして荷台行きになることを渋々認めた。アクア以外の四人は馬車内の席に座り、いよいよアルカンレティアへの旅が始まる。

 

 「今日は天気がいい。優雅な旅になりそうだ」

 

 子供の頃、父に王都へ連れて行って貰ったことがあるダクネスは懐かしさに浸っている。

 

 「それじゃあ、お願いしまーす」

 

 「はあぁ〜い…ゴホッゴホッ」

 

 「大丈夫でウィスかねぇ」

 

 「なんか頼りないニャン」

 

 御者は年老いたお爺さんで、カズマとウィスパー、ジバニャンは少し心配になる。少しふらつきながら運転席に座り、プルプル震えた手で手綱を握る。

 すると、目がカッ!!と見開き、老人とは思えぬ力強い声で叫んだ。

 

 「おっしゃあ!ぶっ飛ばすぜベイベー!!」

 

 「へ?」

 

 突然の豹変ぶりに、呆気に取られるカズマ達。手綱を勢いよく打ち鳴らすと、馬が甲高い(いなな)きを囀る。

 

 「うわああっ!?」

 

 「酷い運転ウィス!」

 

 「いきなり飛ばし過ぎニャンー!」

 

 猛スピードで馬車が走り出す。荒すぎる運転に、馬車の中は激しく揺れる。

 

 「ひいいい!落ちる―!!」

 

 荷台のアクアは振り落とされないよう必死にしがみつく。

 

 「こ、これ絶対妖怪の仕業だろー!」

 

 「はっはっはっ、ま〜たそのようなことを仰る。ちょっと調子に乗って、スピードを出しすぎちゃうなんて運転あるあるでウィス。そんなことまで妖怪のせいに…」

 

 「いた!」

 

 「いるんか〜い!!」

 

 カズマがウォッチを照らすと、お爺さんの近くに妖怪が。

 

 「はいはい〜!物知り妖怪ウィスパーの出番でウィス!あ〜、あの妖怪はあれですよ。山がハンドル持ってるんで、いかにもまあ運転とか関係してそうな感じではありますが」

 

 「答え出たぞ」

 

 「え?あっ、ありました!あれは妖怪魔ウンテン!!」

 

 「どけどけ〜!そこどけウンテン〜!!」

 

 ゴーケツ族、魔ウンテン。とにかく速く走ることが第一で、安全運転は二の次。

 

 「取り憑いた人に危険な運転させちゃう妖怪で、妖怪不祥事案件のいわゆる…普段大人しいのに、ハンドル握ると性格変わる人っているよね〜。を引き起こす妖怪でウィス!」

 

 「ハンドルじゃなくて手綱だろ!すいませーん、もうちょっとスピード緩めて貰ってもいいですかねー!?」

  

 「俺は地獄の案内人だぜ!ふぉーーーー!!」

 

 「駄目だ話にならねえ」

 

 「完全にハイになってるニャン!」

 

 御者のお爺さんは魔ウンテンに取り憑かれたせいで、馬車を爆走させている。カズマの説得にも耳を貸そうとしない。

 周りの人々も、いつもなら道行く馬車を温かく見送ってくれるのだが、安全運転を度外視した馬車の走りに近寄れずにいた。

 

 「今の馬車、めぐみんが乗ってたような…」

 

 遠ざかって行く馬車を、ゆんゆんが後方から見つめている。つい先程、勝負をしようとめぐみんの屋敷に向かったのだが、すでに出発した後だったから戻ってきたところだ。

 

 「す、すいません。あの馬車はこれからどこに行くんですか?」

 

 近くにいたおじさんに、馬車の行く先を聞く。

 

 「アルカンレティアだよ。カズマ達、これから温泉旅行に行くんだってさ」

 

 「あ、アルカンレティア!?温泉旅行…」

 

 アルカンレティアと聞いてビクッとするが、仲間と一緒に温泉旅行に行くめぐみんが羨ましくもあった。

 

 「…いいなあ。皆と旅行かぁ、私も行ってみたいなあ」

 

 「じゃあ、行くずら」

 

 「へ?」

 

 「行きたいなら、行けばいいんズラ」

 

 「こ、コマさん!コマじろうさん!?」

 

 いつの間にか隣にいたコマ兄弟。今は人間ではなく妖怪の姿だが、妖怪ウォッチに触れたゆんゆんも見えている。

 

 「ゆんゆん。もう少し、自分に正直になってもいいんずら」

 

 「コマさん…うん!」

 

 コマ兄弟に背中を押され、ゆんゆんは残っている一台の馬車に乗り込む。

 

 「すいません!あ、あの前の馬車を追ってください!」

 

 「ま、前の?よ、よく分からんが了解!」

 

 御者のおじさんは戸惑いながらも、快く引き受けてくれた。

 

 「オラたちも!」

 

 「もちろん行くズラ!」

 

 「よーし、待ってなさいよめぐみんー!」

 

 こうして三人も、爆走馬車を追いかけアルカンレティアを目指す。

 そして肝心のカズマ達は、何やらモンスターの大群に追われているところだった。

 

 「なんかモンスターがいっぱいこっち来てるんだけど!?」

 

 「あれは走り鷹鳶だぜボーイ!硬い獲物目掛けて突っ走る習性があるクレイジーなモンスターだ!ヒャッハー!!」

 

 ハイになってる御者のお爺さんが説明する。今は繁殖期らしく、群れをなしてチキンレースの真っ最中。本能的に硬い獲物を狙ってるのだが、今この場にそんな物なんて…

 

 「カズマ!あの獣達、血走った目で私を見つめている!繁殖期で興奮したオス共め、その荒い息づかいがここまで聞こえているぞ!」

 

 「やっぱりお前かよ!」

 

 走り鷹鳶は、ダクネスの鎧と高い防御力につられて走っている。あの数の群れに突撃されたら、こんな馬車など一溜まりもない。

 

 「お爺さん、馬車を止めてくれ!俺達があいつらを何とかするから!」

 

 「悪いが、それは出来ねえ。俺の心のブレーキはとっくに外しちまってんのさ」

 

 「外れてるのは頭のネジだろ」

 

 お爺さんは馬車を止める気はなく、逆にスピードを上げてきた。

 

 「こうなったら走りながら戦うぞ!ウィズ、御者のお爺さんを守ってくれ!」

 

 「わ、分かりました!」

 

 「めぐみん、いつでも爆裂魔法を撃てる準備を!」

 

 「了解です!」

 

 「おいアクア!お前は……アクアがいない!!」

 

 いつの間にか、荷台に乗っていた筈のアクアの姿が見当たらない。

 

 「アクアのやつ、こんな時にどこ行ったんだ!?」

 

 「カズマくん!あそこ!」

 

 ウィスパーが指差す方向を見ると、後ろの方でアクアが泣きながら走っていた。どうやら、気付かないうちに馬車から落とされたらしい。

 

 「待って〜〜!お願いだから乗せて〜〜!!」

 

 必死に馬車を追いかけるアクア。その後ろから、走り鷹鳶の群れが砂煙を起こして迫っている。

 

 「アクアーー!お前のことは忘れない…!」

 

 「諦めるの早すぎるわよー!!」

 

 「ボトムレス・スワンプ!」

 

 ウィズが魔法を放ち、巨大な沼を出現させる。それにより、大半の走り鷹鳶を仕留めるのに成功した。

 

 「おお!ナイスだウィズ!」

 

 「さすがでウィス!」

 

 「まだ駄目です、さすがに全部は止めきれません。…ですので、アクアさん!」

 

 「ハァハァ…な、なに〜?!」

 

 「後は頑張って走ってください!」

 

 「えーーーー!?」

 

 意外とスパルタなウィズに軽く絶望する。その後、死ぬような思いで全力疾走したアクア。何とか馬車に追いつき、命からがら生還した。

 

 「し、死ぬかと思った…!」

 

 「よし、残りは適当なところに追いつめて、めぐみんの爆裂魔法で…うわあっとお!?」

 

 少し大きめの石に躓き、馬車がガタン!!と激しく傾く。

 

 「うわああっ!?」

 

 「ダクネス!」

 

 「今度はダクネスが落ちたニャン!?」

 

 馬車から身を乗り出して、走り鷹鳶に夢中になっていたダクネスが落車する。カズマは素早く、馬車の中に用意されていた縄を投げた。

 

 「ダクネス!これに掴まれ!」

 

 「すまないカズ…マあああああっ!!」

 

 縄を掴んだはいいが、ダクネスは爆走する馬車に引きずられる形になってしまった。カズマはダクネスと繋がってる縄を離さないよう、必死に踏ん張る。

 

 「ぐおおお…!だ、大丈夫かダクネスー!」

 

 「んああああっ!!ガリガリ引きずられて鎧から変な音が聞こえる!おまけに縄が体に食い込んで…ッ!み、見るな!こんな私を見るなああああ!!」

 

 「案外大丈夫なようでウィスね」

 

 乱暴に引きずられて、石や硬い地面に体を擦り付けられる。しかも縄が変な風に体に巻き込み、偶然にも亀甲縛りの格好になっていた。

 

 「カズマくん!このままじゃ色々とアウトでウィス!」

 

 「分かってる!もうこうなったら、無理矢理にでもお爺さんを魔ウンテンから引き離して…」

 

 「大変ですカズマさん!」

 

 「どうしたウィズ!」

 

 「さっき馬車が揺れた衝撃で、お爺さんが頭をぶつけて気絶してしまいました!」

  

 「な、なんだってーーー!?」

 

 大きなたんこぶを作り、御者のお爺さんが手綱を握ったまま気を失ってる。おかげで魔ウンテンもどこかに行ったが、大ピンチなことに変わりない。

 

 「ウィズ!悪いが御者を頼む!」

 

 「は、はい!」

 

 「カズマくん、どうするんでウィス!?」

 

 「ど、どうするって言っても…ん?」

 

 ふと、後ろを振り返るカズマ。その先にはトンネルがあり、入口は広いが出口は先細っているのが分かる。

 

 「ウィズ!あのトンネルに入ってくれ!」

 

 「トンネルに?わ、分かりました!」

 

 「カズマ、何をするつもりですか?」

 

 「あのトンネルで、走り鷹鳶を一網打尽にする。出口が狭いから、あの数の群れが一度に出てくることはない。上手く出れなくて渋滞してるところを…」

 

 「私の出番というわけですね!」

 

 「そういうことだ!行くぞ!」

 

 走り鷹鳶を引き連れ、カズマ達の馬車がトンネルに入っていく。それを、後ろから追いかけていたゆんゆんの馬車が目撃する。

 

 「あれ?あのトンネルに入っちゃった」

 

 「どうしますお客さん」

 

 「え、え〜と…」

 

 「ゆんゆん!ここは迷わず追うずら!」

 

 「う、うん!おじさん、私達もあのトンネルに入ります!」

 

 ゆんゆん達を乗せた馬車がトンネルに入った頃、カズマ達はそろそろ出口に差し掛かっていた。

 

 「もうすぐトンネルを抜けるぞ!めぐみん、準備はいいか!」

 

 「いつでもいけます!」

  

 外の光がだんだん近付いてくる。トンネルを抜け、カズマの狙い通り走り鷹鳶たちは出口付近で立ち往生している。

 

 「今だめぐみんーーー!!」

 

 「エクスプローーーー」

 

 「めぐみーーーーん!!!」

 

 「ジョン!!って、ゆんゆん?」

 

 

 

 ドオオオオオオオオオオン!!!

 

  

 

 大轟音を立て、パラパラとトンネルの破片が飛び散る。作戦通り走り鷹鳶は討伐したが、カズマとめぐみんは呆然と眺めていた。

 

 「…今、ゆんゆんの声が聞こえたような気がしたんですが」

 

 「…気のせいだろ」

 

 「カズマさん。後ろの方で誰かの声がしたんですが、何かあったんですか?」

  

 ウィズの声がけにすぐに答えず、二人は何とも言えない表情で崩れたトンネルを見つめる。

 

 「…あー、うん。大丈夫大丈夫」

 

 「元気に手を振ってますよ…」

 

 夕焼けを背に、馬車は目的地へ進む。そしてとうとう、アルカンレティアの街が見えてきた。魔ウンテンの爆走運転のせいで色々と酷い目に合ったりしたが、そのおかげか予定よりかなり早く到着した。

 

 「つ、着いた…!」

  

 「酷く疲れたでウィス〜…」

 

 「早く休みたいニャン…」

 

 着いた頃にはもう夜になり、カズマ達はボロボロのヘトヘトになっている。こんな状態ではろくに歩けない為、今日のところはすぐに休んで、観光は明日からに決まった。

 

 「宿のほうはどうなってるんだ?」

 

 「御者のお爺さんが、さっきようやく目を覚ましたわよ。お客さんを色々危険な目に合わせて申し訳ないから、代わりに知り合いの良い宿を紹介してあげるって」

 

 それはありがたい。お爺さんは魔ウンテンに取り憑かれていただけだし、走り鷹鳶はダクネスにつられて寄ってきたから少し悪い気もするが。ご厚意は受け取っておこう。

 

 「それじゃあ早速その宿に行きましょう。早く寝て、明日から…」

 

 「め、めぐみん〜…」

 

 「ゆ、ゆんゆん!?」

 

 暗闇の中、ふらふらのゆんゆんが棒を付きながら現れた。爆裂魔法の余波を受けたゆんゆんだったが、何とかトンネルから脱出。馬車もほとんど半壊し、満身創痍でやっと追いついたのだ。

 

 「や、やっと会えたわね…!今日こそ、長年の決着を〜…」

 

 「ゆんゆん、しっかりするずら」

 

 もうゆんゆんも体力が残っていない。倒れそうになるところを、コマさんとコマじろうに支えられている。

 

 「とりあえず、勝負は明日にしませんか?お互い疲れてますし」

 

 「そ、そうね…」

 

 「それと、格好には気を付けた方がいいですよ。あの変態が先ほどからチラチラ見てますからね」

 

 「格好…?きゃあ!」

 

 爆裂魔法の余波を受けたせいで、ゆんゆんの服がボロボロになっている。ところどころ破けて、結構際どい感じになっていた。

 

 「カズマ、見ちゃダメニャン!」

 

 「みみ、見てねーし!」

 

 「じゃあ指の隙間閉じたらどうでウィス?」

 

 「もう、しょうがないですね」

 

 めぐみんは自分のマントを外して、ゆんゆんに渡す。

 

 「久しぶりにここに来たんですから、少しはゆっくりしましょう。温泉でも浸かって」

 

 「めぐみん…」

 

 「久しぶり?めぐみん、前にもここに来たことあるのか?」

 

 「ええ、まあ…」

 

 「そうなのか。その割には、なんか浮かない感じだけど」

 

 めぐみんだけじゃなく、ゆんゆんも少しそわそわしている。温泉で有名な観光地なんだから、もっと嬉しそうにしても良さそうなのに。

 

 「ようこそアルカンレティアへ!旅のお方よ!」

 

 「仕事探しはアクシズ教が一番!」

 

 「今なら、100人入っても大丈夫!!」

 

 「な、なんだなんだ!?」

 

 いきなり複数の現地住民に囲まれるカズマ達。歓迎は嬉しいのだが、何故かやたらとアクシズ教を宣伝してくる。

 

 「アクシズ教は素晴らしいですよ!今一番トレンディで、ナウなヤングにバカ受けです!」

 

 「アクシズ教に入るだけで宝くじにも当たるし、札束風呂にだって入れるんですよ!」

 

 「おかえりなさい冒険者様。入信にする?冒険にする?それともせ・ん・れ・い?」

 

 「アクシズ教以外の選択肢はないのか」

 

 詰め寄ってくるアクシズ教の人達に、カズマは嫌な予感がした。

 

 「お、おいアクア。ここってまさか…」

 

 「ふふん、気付いた?そうよ、ここは水の女神を崇める地。つまり、アクシズ教団の総本山なのよ!!」

 

 アクシズ教の総本山。よりによって、変わり者の巣窟に足を踏み入れてしまった。カズマは疲れがドッと出て、早くも帰りたくなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。