妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
女性陣が風呂で粘液を洗い落としてる間、カズマはギルドの受付でクエストの報酬を受け取る。
「おお、いっぱい貰えましたねえ!」
「お金持ちニャン!」
ウィスパーとジバニャンは呑気に喜んでいるが、皆で山分けすれば手に残る分は当然少なくなる。命懸けで働いたのだから、もっと貰えないと割に合わない。
「なあウィスパー、手っ取り早く金になりそうなクエストなんかないか?出来るだけ簡単なやつで」
「そう言われましてもねえ、ペーペーの初心者が出来そうなやつなんて中々ないでウィスよ」
ジャイアントトードを倒していくらかレベルが上がったものの、まだまだ駆け出しの冒険者。高難度のクエストをクリア出来るレベルには程遠い。
「だよな〜。やっぱり地道にやっていくしかないか」
「まあ、新しい助っ人が入ってくるまで待ちましょう」
「カズマ、次はどんな人が入って欲しいニャン?」
めぐみんが入ったから、とりあえずアタッカーは確保出来た。後は敵の攻撃を受け止めてくれるタンクがいれば、俺達が無茶して敵の囮になる必要もなくなる。
しかし、タンクは敵の攻撃をその身で受ける役割。つまり敵にひたすらボコられるポジションだ。数ある職業の中から、そんな罰ゲームみたいな役を選ぶ物好きなんて、そう簡単に現れるはずが…
「仲間募集の張り紙を見たんだが、まだ受け付けているだろうか?」
マジ?このタイミングで声をかけるということは、つまりはそういうことだよね?
突如後ろから声をかけられ、その声色で綺麗な女性だと察した。心臓がドキドキと高鳴り、鼓動が早くなっていく。
(お、落ち着け俺。ここで変にきょどったら、童貞だと思われるぞ)
「いや、実際その通りじゃないでウィスか」
「は、ハイ!まだ募集してますよ…」
「声裏返ってるニャン」
緊張感と期待を胸に、カズマはゆっくり振り向く。するとそこには、綺麗な金髪を束ねた若い女性が…
「…しょ、しょうか。しょれはよかった」
「あれええええ?!」
てっきり若い女性かと思ったが、振り返るとそこにいたのは、金髪で鎧を着たお年寄りの女性だった。
「いやいやおかしいおかしい!さっきの声と全然違うし!」
あの声は紛れもなく若い女性のものだった。それがまるで、たった今急に年をとったみたいに。
「ウィスパー、これ絶対妖怪の仕業だろ」
「いやいや、人間とは日に日に年老いていく生き物。ある日急に60才くらい老けるなんてよくある…」
「あってたまるか!きっと妖怪が…ほらいた!」
「ウィシュー!?」
妖怪ウォッチで光を当て、隠れている妖怪の姿を発見する。金髪の女性の横でボロボロの杖を持ち、薄汚いローブを着た老婆の妖怪がいた。
「お前はしわ」
「はーいちょっと通りまーす。こっからはあたしのターンでウィス!!もちろん知ってますよ〜、お婆ちゃん系妖怪なので…バーババ!じゃない、ババロア大好き!違う。お前のようなババアがいるか、でもなく…」
「早くしろよウィスパー」
「お前待ちニャン」
毎回毎回知ってると言いながら、妖怪パッドでカンニングするウィスパー。カズマとジバニャンも呆れながら待っている。
「ぜぇ…ぜぇ…あ、ありました!あれは妖怪しわくちゃん!あらゆるものを皺くちゃにし、時には人の若さまでも吸い取っちゃう妖怪でウィス!」
しわくちゃんに取り憑かれ、この金髪の女性は若さを吸い取られてしまったのだろう。着ている鎧が重いせいか、辛そうに腰を曲げている。
「しわくちゃん、その人から離れてくれるか?せっかく仲間になりに来てくれたのに、これじゃあ一緒に戦えないだろ」
「綺麗なお姉さんがお婆ちゃんにされて、残念なんですよねカズマくん」
「下心見え見えニャン」
「う、うるせえ」
確かに二人の言う通り美人さんを期待していたが、いきなりお年寄りにされたら普通に迷惑だ。ここは妖怪ウォッチを持っている自分が、何とかしてあげるしかない。
「悪いけど、そうはいかないねえ。もっともっと若さを集めて、若返らなきゃいけないからねえ」
しわくちゃんは人から若さを吸い取って、昔の頃の若くて綺麗な姿を取り戻すことが目的。その為には、もっと多くの若さを集める必要がある。
しわくちゃんはその場から逃げ出し、カズマ達は後を追う。しわくちゃんは逃げながらも、ギルド内の人々から若さを吸い取っていく。
「あれ〜?何だか文字が読みにくく…」
「あいたた…腰が」
受け付けのお姉さん達も、しわくちゃんに若さを吸い取られてお婆ちゃんにされる。
「ああああああ!!受付のお姉さん方がああああ!」
若くて綺麗なお姉さんがしわしわのお婆ちゃんになって、カズマが絶叫する。
「ちっくしょう!好き放題やりがって!」
「カズマくん!モヒカンのおっちゃんも、しわっしわのお爺ちゃんに!」
「そうか」
「男には塩対応ニャンね…」
もうこれ以上しわくちゃんの好きにはさせない。しわくちゃんがある場所に逃げ込み、カズマ達も突入する。
「しわくちゃん!そこまで…」
「きゃああああああ!」
「な、なんで入って来るんですか!?」
しわくちゃんが逃げ込んだのは、何と女湯。カズマは気付かずに女湯に飛び込み、アクアやめぐみんと鉢合わせしてしまった。
「こ、この変態!いくら私が美しいからって、女湯に堂々と入るなんて何考えてんのよ!」
「は、早く出てってください!」
二人は急いでタオルを体に巻いて、裸を見られないように隠す。そして入ってきた
「ま、待て!ぶへっ!勝手に入ったことは謝…痛っ!でもここに妖怪が…ひでぶっ!」
「アクアさん!めぐみんさん!二人とも餅ついて…あいや落ち着いてゲヴォッ!」
話しを中々聞いてもらえず、ボコボコにされるカズマとウィスパー。ジバニャンが間に入って状況説明して、何とか分かって貰うことが出来た。
「どんな妖怪なの?」
「人から若さを吸い取って、お年寄りにする妖怪だ。アクア、もしやられたら、その胸が萎んでお婆ちゃんになるぞ」
「ええ?!」
「めぐみんも……悪い、何でもない」
「カズマ、後で話しがあります」
暗に子供体型を指摘され、めぐみんのこめかみにピキッと線が走る。
警戒しながら辺りを見回してみるが、しわくちゃんの姿がない。恐らくどこかに隠れて、隙きを見て襲うつもりだろう。
「とにかく、アクアとめぐみんは出た方がいい。ここは俺達に任せ…」
その時、しわくちゃんがお湯の中から勢い良く飛び出した!
「シュビドゥバ、シュワシュワ!!」
「ぐわああああああ!!」
「カズマ!?」
「大丈夫ですか!?」
しわくちゃんの杖から発する、しわくちゃビームをくらってしまったカズマ。アクアとめぐみんも、自分達の身代わりになったカズマを心配して駆け寄った。
「…あー、何だって〜?」
「カズマーーー!!」
「か、カズマが…カズマお爺ちゃんになってしまいました!」
若さを吸い取られ、一瞬にして80代くらいまで老けたカズマ。顔がしわしわになり、杖を付いて腰を曲げている。
「くっ!しわくちゃん、なんて恐ろしい妖怪なのかしら…!」
「ひ〜っひっひっ。お前達からも、若さを吸い取ってやるぞい〜」
しわくちゃんがビームをアクアに向けて放つ。しかしアクアは、近くにいたウィスパーを咄嗟に捕まえた。
「ゴッドガーディアン!」
「ぎょえええええええ!?」
アクアに身代わりにされ、ウィスパーも皺だらけのお年寄りになる。
「…あ、アクアさん。あたしを盾にしないでくれます〜?」
「何言ってるの、女神を守れたことを光栄に思いなさい」
基本的に自分第一で行動するアクア。たとえ誰かを犠牲にしてでも美を保とうとするその性根に、カズマお爺ちゃんは呆れていた。
「ちっ、それなら次はこっちの小娘じゃ」
「めぐみんはオレっちが守るニャン!」
「ジバニャン…!」
めぐみんを守るため、ジバニャンが堂々と前に出てくる。小さな背中ではあるが、めぐみんはとても頼もしく思えた。
「かかって来なさい、若いの」
「臨むところニャン、古いの」
ジバニャンが顔の濃いハードボイルド風に決める。この風呂場が静けさに包まれ、二人の視線が熱い火花を散らす。
そして、二人の気が重なった瞬間、ジバニャンが先に飛び出した。
「百烈肉球ー!」
百烈肉球はジバニャンの必殺技。拳を高速で突き出し、相手をノックアウトさせるのだ。
「シュビドゥバ、シュワシュワ!」
ジバニャンの百烈肉球に、しわくちゃんも杖からビームを出して対抗する。二人の攻撃が重なり合う直前、それは起こった。
「ニャニャアッ!?」
まず一つ。足元の石鹸に気付かず、ジバニャンは足をつるっと滑らせる。
「なんと!?」
二つ。それによって偶然にも、しわくちゃんの攻撃を掻い潜る。
「うわっ!?」
「え?ちょ、ちょっと…いやああああああああ!!」
三つ。流れビームをめぐみんはギリギリで避け、運悪くその線上にいたアクアに被弾!
「ニャアアアアン!!」
「ぐわああっ!」
そして四つ。石鹸の滑りの勢いを利用した滑走で、ジバニャンはしわくちゃんに体当たりをかます。その衝撃で杖を手放してしまい、それをキャッチしためぐみんがへし折った。
「う…お、おお!元に戻った!」
「カズマくん、復っ活!そしてあたくしも復っ活!」
「うわああああああん!良かったよおおおお!さっきまでしわしわのお婆ちゃんに…胸が、胸がああああああ!!」
杖を破壊したことで、奪われていた若さが本人達に戻ってきた。特にアクアは戻れたことが嬉しいようで、心の底から号泣している。
「ああ、せっかく集めたのに…」
「さあて、この私をあんな目に合わせた罪をどうやって償わせようかしら〜?」
「ひ〜!命だけはお助けを〜」
「まあ、待てアクア」
指の関節をバキバキ鳴らして、しわくちゃんを浄化しようとするアクア。しかしカズマは、しわくちゃんをどうこうするつもりはなかった。
一時的に老人になったことで、年を取ることの大変さが分かった。体の節々が痛くなり、声も聞き取りづらい。しわくちゃんは若さを追い求めていただけで、今回はそれがちょっと暴走しただけだと。結果的に誰も大事にならなかったので、今回は大目に見てやろうと言ったのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!それじゃあ私の気が済まないのよ!」
「お前の気なんか知るか。あんまり駄々をこねると、そのタオルをひん剥いて、風呂場から外に追い出すぞ」
その言葉を、風呂場の出入り口付近で誰かがこっそり聞いている。その情け容赦ないセリフに体をゾクゾク震わせ、頬を赤く染めて息遣いを荒くしていた。
「カズマくん。そもそもここは女湯なので、むしろ出ていくのはあたし達の方では?」
「そうよ、早く出てってよ変態引きニート」
アクアには後でビームをくらったことをイジってやるとして、他の人が来る前にカズマ達は女湯から退散する。
風呂場を出たところで、しわくちゃんに花子さんを紹介した。花子さんは妖怪界では有名なプロデューサー。これまで、何人もの妖怪達をプロデュースしてきた実績を持つ。
花子さんが開発した美容クリームのおかげで、しわくちゃんの見た目が若返り、老いらんという花魁風の綺麗な妖怪になった。
「おー、凄く綺麗になったじゃん」
「見違えたニャン」
「もはや別人でウィスね」
しわくちゃん、もとい老いらんはカズマ達に感謝し、嬉しそうにこの場を後にしたのであった。
「いや〜、大変な騒ぎでしたね」
「まあ、皆元に戻ったみたいで良かったよ」
受付のお姉さん達や、モヒカンのおっちゃんも元の姿に戻ってる。何が起きたかよく分かっていないみたいだが、これでしわくちゃん騒動は幕を閉じたというわけだ。
「あー、色々あって疲れたな。今日はもう寝るか」
「その前に、少しよろしいか?」
「はい?あ…」
カズマに声をかけたのは、メンバー募集に来た金髪の女性だった。今は元の若い姿に戻っており、思ってた通りの美人さんだった。
「あの時はすまない。何故か急に体の調子が悪くなってな」
(おおいウィスパー!やっぱり綺麗な人だったぞ!)
(良かったですねカズマくん)
思わずテンションが上がるカズマ。あの二人と違ってまともそうだし、こんな綺麗な人なら大歓迎だ。アクア達と話し合うまでもなく、即決でメンバーに入って貰おう。
「私はダクネス、クルセイダーだ。是非前線に放り出して、ひたすらこき使ってくれ」
「はい!……え?今なんと?」
おっかし〜な〜?聞き間違いかな〜? 後半部分に変なセリフが出た気がするが、老人になったせいでまだ耳が遠いようだ。
「ああ、すまない。間違えた」
「で、ですよね〜!びっくりしましたよ〜!」
「謎の液体でぬるぬるになるまで酷使してくれ」
「もっとびっくりしたわ!」
我慢出来ずについ大声でツッコんでしまった。何なんだこの人は、顔も赤いし、ハァハァ息遣いも荒いし。
「ハァ…ハァ…あ、あの女性二人は、あなたのお仲間だろう?あんな年端もいかない少女が、ぬるぬるになってまで戦うなんて…羨ましい!あ、間違えた。嘆かわしい!」
何をどう間違えたらそうなるんだ。あ、この人駄目だ。俺の危機管理センターが警報を鳴らしまくってる。
「あちゃー、ま〜たとんでもないのが来ちゃったでウィスね」
冗談じゃない、問題児はアクアとめぐみんだけで沢山だ。適当に理由付けて、さっさとお帰りいただこう。
「いや〜、うちみたいなパーティーに、あなたはもったいないですよ」
「私は構わん」
「俺は最弱の冒険者だし、他の二人もポンコツで…」
「臨むところだ」
くっ!折れねえ!何でそうまでして、うちのパーティーに執着するんだ!
「…言いにくいのだが、私は体力や耐久性には自信はあるが、攻撃の方はからっきしでな。他のパーティーでも長居は出来なかったんだ。だが安心して良い、盾や囮なら誰にも負けない自信はある。だから、遠慮なく私をしごき回してくれ!ハァ…ハァ…!」
どうしよう、美女に迫られてるけど嬉しくない。目が血走っている、怖いよお。
「こいつ怖いニャン!」
「どうするんですカズマくん?」
とりあえず俺は、疲れていることを理由にその場を後にした。妖怪が取り憑いてるかもと思ったが、ウォッチをかざしても反応なし。
どうして俺の周りは、あんな変な女ばかり集まるのだろう。と、カズマは布団に包まって頭を抱えていた。