妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
「…と、いうことがあったんだ」
「うわぁ…」
「カズマ…」
「待って、ちょっと待って」
先程の出来事をダクネスから聞いたアクアとめぐみんが、カズマを冷ややかな目で見ている。そりゃそうだろう。女子のパンツを強制的に剥ぎ取り、それを振り回し、あまつさえ値段を決めさせて有り金を毟り取ったのだから。
「ぐすっ…しかも、最後にはパンツをクンカクンカして、頭にかぶって
「きっつ…」
「控えめに言ってドン引きです」
「してないしてない!それはさすがに俺でもしないから!」
舌をペロっと出し、せめてもの仕返しを果たすクリス。もはやカズマに対するギルド内の女性全員の評価は、完全に地面にめり込んでいた。
「で、結局どんなスキルを覚えたのです?」
「そ、そうだ!よく見ておけ、俺の新必殺技を!」
カズマは少しでも名誉挽回しようと、スティールをめぐみんに向けて放とうとする。
「カズマくんストッープ!お待ちなさいって!」
「何だよウィスパー、いいとこなのに」
ウィスパーがカズマを引き止め、二人でコソコソ話し始めた。
「カズマくん、あーた今何をやろうとしました?」
「何って、スティールだけど…」
「何言ってんでウィス!どーせこの後、めぐみんさんのパンツ剥ぎ取ってドン引かれるのがオチでウィスよ!」
「だ、大丈夫だよ今度こそ。そう何度もパンツばっかり引き当てるか」
スティールはあくまでも確率のスキル、そう何度もパンツが当たるわけがない。そう思ってスティールを放ったカズマの行動は、ものの見事に裏目に出た。
カズマの手にはめぐみんが履いていた黒いパンツが握りしめられており、公衆の面前で恥をかかされためぐみんは半泣きになっている。
「んもう、だから言ったじゃないでウィスか」
「…ち、違う。これは何かの間違いだ」
スティールには使用者の性格も反映されるのだろう。カズマは少女のパンツが大好きな変態だと、女性陣の間で周知の事実になったのだった。
「カズマ!めぐみんに何するニャン!」
「じ、ジバニャン!この
「ま、待て!話せば分かる!」
「百烈肉球ー!」
「ぎゃああああああ!!」
ジバニャンの百烈肉球をくらい、カズマはギルドの外までふっ飛ばされる。周りの人にはカズマが一人で吹っ飛んだように見えたが、また馬鹿なことをやっている程度にしか思われなかった。
「う、うぅ…何でこんな目に」
「いや自業自得でしょうよ」
顔を腫らしてガクッとカズマは項垂れる。すると、突如として緊急のアナウンスが街全体に響き渡った。
「な、なんだ?!」
「何の騒ぎでウィス?!」
アナウンスを聞いて、ギルドから一斉に駆け出してくる冒険者達。その中にはアクア達の姿もあり、カズマとウィスパーも後に続いた。
冒険者以外の一般人は、全員が慌てて家の中に避難している。街中の冒険者が正門に集まった頃には、アクセルの街が静まり返っていた。
「お、おいめぐみん。これは一体どういう状況?」
「放送を聞いてなかったのですか?緊急クエストですよ」
「き、緊急クエスト!?」
ジバニャンにやられて放送は聞いていなかったが、それにしても緊急クエストとは驚きだ。アクセルの冒険者を全員集めるなんて、よっぽど凶悪なモンスターが相手に違いない。
「カズマくん!ここで活躍して地のズンドコ、いやどん底に落ちた評価を上げるチャンスでウィスよ!」
「よ、よーし!来るなら来い!」
腰の剣を抜いて身構えるカズマ。冒険者達に緊張感が走り、辺りが少しの静けさに包まれる。
「来たぞ!」
誰かが発したその声。ついに敵が来たとカズマはキョロキョロするが、それらしい姿はない。すると、他の皆が空を見ているのに気付く。カズマもつられて空を見上げると、奇妙な群れがこっちに近付いてくるのが見える。
「なあ、ウィスパー」
「なんでウィス?」
「俺の目が節穴じゃなければ、あれは…アレだよな」
「ええ、あれでウィス。全国のスーパーなどでよく見かける…」
カズマとウィスパーは、ふっと笑って顔を見合わせる。そして大きく息を吸い込んで、同時に声に出した。
「キャベツだあああああああ!!」
「レタスでウィスううううう!!」
「…え?」
「え?」
ウィスパーはレタスと叫んだが、正解はカズマが叫んだキャベツである。空には、夥しいほどのキャベツの群れが飛んでいたのであった。
「ウィスパー、キャベツとレタスの違いも分かんないの?」
「ウィス!?それは、その…カズマくん!キャベツが空飛んでますよ!」
「あ、誤魔化した」
ウィスパーの目が節穴だということは置いといて、それにしても不思議な光景だ。なんたって空を飛んでるキャベツを、皆が必死に捕まえてるのだから。
「ほらほら、何ボーっとしてるの。早くキャベツを捕まえに行くわよ」
「…アクア、この世界のキャベツは飛ぶのが普通なのか?」
「もちろん!ほら、よく言うでしょ。飛ばないキャベツは、ただのキャベツって」
「初めて聞いたわ」
話してる時間ももったいないのか、アクアも急いでキャベツ収穫に向かう。なんでも今年は豊作で、一玉がそれなりに良い値段で取り引きされるらしい。
「カズマくん、行かないんでウィス?」
「…んー、俺は後でいいや」
飛来するキャベツを狩るクエスト。とことん思っていた異世界ライフとは違って、すっかりやる気をなくしているカズマ。
「では、カズマくんはそこであたしの勇姿を見ていてくださウィッス」
虫取り網を持って、やる気満々のウィスパー。ここでキャベツを大量ゲットして、レベルをマイナスから引き上げるつもりだろう。
「大丈夫かウィスパー」
「平気ですよ〜。たかがキャベツに、このあたくしがやられる筈ないでウィス。いざ」
虫取り網を強く握り締め、ウィスパーはキャベツの群れに勢い良く飛び込んで行った。
「キャベツ野郎!覚悟せえやあああああ!!」
2秒後
「…や、やれるだけのことはやりまひは〜」
「ボロ負けじゃねえか!」
キャベツにボコボコにされ、顔を腫らしてふらふらで帰ってきた。しかしウィスパーが弱いのは当然だが、このキャベツ達も中々侮れない。たかがキャベツといえど、野球の剛速球のように自分目掛けて飛んでくるのだ。
まともに当たれば骨折、最悪の場合もあるかもしれない。先程から他の冒険者達も、活きが良すぎるキャベツに苦戦している。
「…か、カジュマくん。この世界のキャベツつよつよでウィス〜」
「他の皆も結構やられてるな。ん?あれは…」
苦戦してる冒険者達をよそに、妖怪達もこのキャベツ狩りに参加しているのが見える。
「空飛ぶキャベツ千斬り!」
「悪い子いねがー!」
ブシニャンとなまはげが飛来するキャベツを斬りまくる。
「ひ〜も〜じ〜」
「お〜つ〜ま〜み〜」
そして斬られたキャベツを、ひも爺やつまみ食いの助が茹でたり味付けをする。何とも絶妙なチームワークで、冒険者達が苦戦するキャベツを調理していた。
「この状況でキャベツを食べるとは、たくましいやつらだ」
「彼らも異世界を堪能してるようでウィスね」
「ちょっとちょっと、そこの妖怪達!何勝手に食べてるのよ、私の取り分が減るじゃない!」
アクアがブシニャン達に文句を言いに行く。部外者の妖怪にキャベツを食べられると、当然その分の報酬が減るのだ。しかしブシニャン達は嫌な顔せず、アクアを食卓に誘った。
「まあまあ、アクア殿も食べるでござる」
「へ?い、いいの?」
「カズマが日頃世話になってるお礼でござる」
「そ、そうよね〜!カズマったら、私に頼りっぱなしだもん。もう私がいないと生きていけない〜、みたいな〜?」
キャベツ狩りを一時中断して、ブシニャン達と一緒にキャベツを食べるアクア。塩気やマヨネーズが効いてとても美味しいみたいで、嬉しそうに頬張っている。
「アクアは後でとっちめるとして、そうか…妖怪の力を借りれば」
「何か思い付いたんですかカズマくん?」
「まあな。ウィスパー、あの妖怪のメダルを…」
「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」
ダクネスが急に声をかけてきてびっくりする。まだ妖怪の存在を知らないから、カズマが一人で話しているようにしか見えないのだ。
「私のクルセイダーとしての力を見たら、きっと仲間に欲しいと心を入れ替えるだろう。その時は、良い返事を期待しておくぞ」
剣を抜き、凛として構えるダクネス。その佇まいに、思わずカズマは見惚れてしまう。
「いざ、出陣!」
向かってくるダクネスに反応したのか、キャベツ達もダクネスに突進する。ここから激しいバトルが繰り広げられるかと思いきや、ダクネスの剣は空振るばかり。やはり、攻撃はからっきしというのは本当だったか。
「やっぱ全然駄目じゃねえか」
「キャベツの体当たり貰いまくってますね」
しかし、クルセイダーという実力は伊達ではない。他の冒険者が一撃で倒される体当たりを、ダクネスは何発も耐えている。
やがて他の冒険者への攻撃が弱まり、ダクネス一人にキャベツが一斉に群がっていく。
「か、カズマくん!ちょっとやばウィと思いますよ!」
「ああ!さすがにあれだけの数、いくらダクネスでも耐えられるわけ…」
この時、カズマはとんでもないもの見た。ダクネスの顔をよく見ると、苦痛に歪んでるのかと思ったが、なんとニヤついていたのだ。
「まだ…まだあっ!もっと!んもっとお!」
周りはダクネスの奮戦に歓声を上げているが、そんな良いもんじゃないとカズマは思った。あれはただ、喜んでいるだけだ。
「さて、そろそろ私の出番のようですね」
ここにもややこしいのがいた。一気に多くのキャベツを葬れるのが嬉しいのか、めぐみんがウキウキで爆裂魔法の詠唱をしている。
「待て待て!今それをやったら、ダクネスまで吹き飛んじまうぞ!」
「大丈夫です、多分。彼女なら耐えられます、多分」
「多分かい!」
めぐみんの爆裂魔法が、ダクネスもろともキャベツの群れを消し去る。ダクネスは鎧が殆ど壊れたが、ニヤニヤしているので大丈夫だろう。俺の心配を返せ。
残ったキャベツ達を収穫し、これでキャベツ収穫祭りは無事に終えたのだった。
「…んまい」
その日の夜。収穫したキャベツの炒めものを口にする。確かに美味いが、わざわざ異世界でキャベツ狩りをやりに来たのではない。
「オレっちは、キャベツよりチョコボーが良いニャーン!」
「あ、ジバニャン。キャベツの時どこいたんだ?全然見なかったけど」
「ジバニャンは私の出番が来るまで、ずっと側で守ってくれていたんですよ」
カズマとウィスパーは見ていなかったが、ジバニャンはめぐみんに近寄るキャベツと必死に戦っていた。迫りくるキャベツを、百烈肉球で叩き落としていたのだ。
「プハァー!働いた後の一杯は格別でウィスー!」
「お前はボコられていただけじゃねえか」
「カズマこそ、どこにいたのですか?途中から見かけませんでしたよ」
カズマはクリスから教えて貰った潜伏スキルを使っていたのだが、それに加えてカゲローの力も借りていた。カゲローは影の薄さが取り柄の隠密のプロ。潜伏スキルとカゲローの影の薄さを合わせれば、それは最早透明人間同然。
誰にも気付かれることなく、こそこそとキャベツを収穫してたのだ。
「あなた中々やるわね、流石クルセイダーだわ」
「あの鉄壁さは普通のクルセイダーではありません。私の爆裂魔法をくらっても無事とは驚きです」
「そ、そうか?私は盾になるしか能がないからな。あれくらいは当然のことだ」
アクアとめぐみんがダクネスを称えている。ダクネスも謙遜しているが、満更でもなさそうに照れている。
3人が仲良く会話しているのを見て、もうダクネスの仲間入りを防ぐ方法は無いとカズマは諦めた。
「カズマ、あなたも意外にやるじゃない。いつの間にかキャベツを大量に集めていたみたいだし」
「人知れず仕事を遂行する、まるで暗殺者ですね」
「よっ!この華麗なるキャベツ泥棒!」
「やかましいわ」
アクアとめぐみんに褒められるが、ちっとも嬉しくない。
「改めて、私はダクネス。クルセイダーだが、攻撃は期待しないでくれ。その代わり、皆の盾や囮役なら喜んで引き受けよう」
アクアとめぐみんがパチパチと拍手し、カズマも仕方なく手を叩く。ダクネスがカズマをキラキラした目で見るが、カズマは視線を逸らしてキャベツをヤケ食いしたのだった。