せーのっ、御幸くん!   作:槙明

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1年生
1.


 

 

 

東京に生まれ東京で育った私は、本来なら東京のそこそこ頭のいい高校へ入学する予定だった。

__というのも、私にはずっと通いたかった本命の都立高校があって、入試の日を待ち遠しく待っていたのだ。

 

 

ーーしかし、なんということでしょう。入試当日、私はインフルにかかり試験を受けられなかった。

 

故に、私は滑り止めで先に受けていた私立高校に行くしかなく、本命の高校で華やかな高校デビューをするという夢は綺麗に消え去った。

 

 

 

 

「…しつれいしまーす」

 

 

 

青道高校に入学して数週間。友達も出来たし部活も入った。

委員会もやりたかった訳では無いがなんとなく保健委員になって、それなりに充実した生活を送っていると思う。

 

「誰もいない?」

 

委員会が決まって早々、保健室にこれを置いてきて欲しいとどっさり書類を渡された私は渋々それを了承しここにやってきた。

入口に不在の札がかかっていないので、てっきり先生がいるのかと入ってみたが誰もいない。

 

扉は空いているし勝手に入るのも悪いとは思ったのだが、書類を置くだけだったので置いたらさっさと帰ろうと思っていた。

 

「だれ」

「うわっ、こっちのセリフなんですけど」

 

保健室を数歩歩いて声をかけられる。椅子に座った男子が私を見て誰、と聞いたのだ。

こちらのセリフだと思いつつ、彼の顔には見覚えがあった。

 

ーーいや、それよりも

 

「血、凄い出てる。転んだの?」

「ん」

「早く消毒しなくちゃダメだよ、待ってて」

「え、いい。先生来るまで待つし」

「ダメダメ、傷口からバイ菌入っちゃう」

 

これでも一応保健委員だし、と笑えば彼は「あ」と声を上げた。

 

「もしかして同じクラスだったりする?」

「え」

 

私は救急箱をガサガサ漁りながら彼の顔をマジマジとみた。

正直もう入学してから数週間経つというのにクラスメイトの顔を覚えきれていない。ましてや男子なんて。

 

「ごめん、ぶっちゃけ分かんない」

「そか」

「でも見覚えのある顔だなって思ったからそうなのかもね、何組?」

「B組」

「同じクラスじゃん」

 

ウケる。お互いなんだか見たことあるなくらいの認識で、まさか同じクラスだとは思わなかった。

 

「足出して」

 

消毒液を取り出し傷口に塗っていくと「くっ」とか「しみる…」とか聞こえてくるので悪戯心で思い切り塗りたくってやると「おいバカ!!!」と止められた。素直にごめんなさいだ。

 

「それより、どうして同じクラスって思ったの?」

 

傷口に絆創膏を貼れば小さくお礼を言われる。いえいえ、こちらこそ適当な手当でごめんなさい。

 

「委員会決める時に、すんげー嫌そうな顔してた子がいてさー。そいつに顔似てたからもしかしてって」

 

こんな顔で、と彼は恐らくその時していたであろう私の顔を真似してみせた。

 

「私そんな酷い顔してた?」

 

信じたくないけどその酷い嫌そうな顔が私だと言われるとそうかも、と思ってしまう。それくらいに委員会に入るのが嫌だったんだよね。

 

「めちゃくちゃ嫌そうな顔するのに断んないんだなって思った」

「いやー、あれだけ周りからお願い!ってされると断りにくいって言うか」

「それもそうか」

 

うちのクラスには俺がやります!みたいなタイプの人間が少なかったのもあって、殆どの人間がめんどくさいからやらないという雰囲気だったのだ。勿論私も。

 

たまたま担任と目が合った私はげっ、と慌てて目を逸らしたがそれも虚しく「富永さん保健委員とか、どう…?」と言われてしまった。

周りからの早く終われという圧も厄介だったし、仕方なく、本当にしかたなーく保健委員になったのである。

 

「まぁ、引き受けたのは私だし、やることはやるよ」

「がんばれよー」

「他人事だ」

「俺には関係ないし」

 

そう言われればそれまでだ。

 

「つーか時間平気なの、部活とか」

「うん、今日は休みだから。えーと…そっちは?」

「そろそろ戻るよ」

 

そう言えば、彼の名前を聞いていなかった。同クラで名前を知らないなんて申し訳ないけど。

 

「じゃあ私も戻るね、怪我には気をつけて」

「…御幸一也」

「え?」

「御幸一也、名前。手当ありがとな」

 

名前を教えてくれたのか。

 

「私は富永凪沙。じゃあね、また明日」

 

御幸一也、御幸くん。忘れないようにしよう。

 

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