せーのっ、御幸くん! 作:槙明
進路適性検査と書かれた紙が配られた。
担任曰くその紙の結果によって学校側も進路について考えるのだと言う。
ーー進路かぁ
鉛筆を手に取り一問目の質問から一つずつ書いていくが、正直進路なんてまだ考えても仕方ないと思う。
私は前の席に座る彼をチラりと見た。悩んでいるのか彼の手は止まっている。
野球に一生懸命な彼の事だ、きっとプロ野球選手になる夢も頭のどこかにあるだろう。
というかまず、こんな紙切れ一枚で進路を左右されるような人ではない。
適当に書いてしまえばいいのに。
かくいう私も頭の中ではプロになる夢がないわけではない。きっと本気でやれば叶えられるかもしれないだろうけれどーー私は将来何がしたいのか今はまだ分からない。
「書き終わったら後ろから集めてくださいねー」
担任の声を皮切りに私の列が最初に動き出した。
あまり埋められなかったけどもういいか、これで出してしまおう。
一番後ろの席に座るクラスメイトが順番に紙を集めた。
御幸くんの紙が少し見えて、私と同じようにあまり書けていないのが分かった。
「御幸くん全部書かなかったんだね」
「進路とか今から考えるの早すぎじゃね」
「そうだね」
「まだ迷う時間欲しい」
私ももう少し迷っていたいかな。
入学して1ヶ月しか経ってないのに進路なんて考えていられないよ。
「とりあえず将来の夢はお嫁さんって書いといた」
「お嫁さんて」
「女の子の憧れじゃん?」
「俺もそれ書けばよかったなー」
いやいや、御幸くんがお嫁さんて。それは違うだろ。
。* ❤︎… …❤︎*。
中間テストがもうすぐ始まるから勉強会しよう。
突然ルナが言い出して、私とユミコはファミレスへと連れていかれた。
勉強嫌いのルナが突然テストに向けて頑張りたいなんて言うので、私とユミコは顔を見合わせて「明日雨だね」なんて言った。
「勉強は確かに嫌だけど、テストで赤点取ったら大会出られないって言われたじゃん!」
ルナが泣きそうな顔で英語の教科書を取りだした。
「そうなの?」
ちなみにユミコは陸上部なのでバレー部の事情を知らない。
「赤点取ったら練習に参加もダメって顧問がね…でもまさかそれでルナがやる気出すとは思わなかった」
「だってせっかくベンチ入りしたのに赤点取ったから出られないとか、それ酷すぎない?」
それなんて拷問?ルナは教科書をテーブルに叩きつけた。
でも確かに、部活を頑張ってせっかくベンチ入り出来たのだから大会には出たいよね。
「何でもいいけど、私今日早めに帰るからね」
「え、なんで?」
ユミコはニヤリと笑って「夜は彼氏とデートだから」と言った。
数秒の沈黙の後、私とルナは目を数回瞬きさせて「…は?」と呆けた顔になった。
「う、うそ!いつの間に彼氏が出来たの!?」
「誰!?」
「野球部のヤマナカくん。C組の。付き合ったばかりだから言いそびれてたわ」
ヤマナカくんといえば最近熱心に部活を取り組むようになったと御幸くんから聞いたことがある。ユミコと付き合ったことによりやる気が生み出されてるのだとしたら、納得だ。
「デートって夜にどこ行くの」
「ヤマナカくん寮生活だから、デートって言っても近くで会って話すだけ」
「なんかキュンキュンするねそれ…」
「こら人の惚気話聞きに来たんじゃないよ!あんたら勉強すんでしょーが」
ユミコは照れ笑いしながらルナと私にビシッと言った。
はーい、とわざとらしく返して教科書を開くも、数分後にはまた惚気話に戻っていた。