せーのっ、御幸くん! 作:槙明
大会お疲れ様、と廊下ですれ違った人やクラスメイト達が口々に労ってくれて、今日は朝から心が満たされていた。
「はよ、富永」
「おはよう御幸くん」
「大会お疲れ」
「ありがとう、御幸くんも練習試合続きだったよね、お疲れ様」
「おー」
それだけ言うと御幸くんは机に顔を戻して何やらノートに書き始めた。覗き込むと野球関係のものみたいだ。
「御幸く」
「凪沙~!おはよ!てかお疲れ!!ルナから聞いたよ~!優勝?おめ!」
「シード権取ったんだよね!次の総体がんばれ!!」
御幸くん。そう言おうとしたのを遮られて私は諦めた。
「ナナミ、ユミコおはよ。ありがとう」
続々と友人が来ては机を取り囲んで祝ってくれる。私だけの力じゃないから、と言うとそんなこと言って~と言われ苦笑いした。
沢山祝ってもらってなんだけど私はあまり言うほど活躍してない。申し訳なさすぎる……
「A組のバレー部の子が凪沙凄かったって言ってたよ。一年生の誇りだってさ」
「大袈裟だよ」
だってブロックしか自信もって言える活躍がないんだもん
「やっぱり将来はプロ選手?」
「どうだろう、まだわかんないや」
本当は、バレーをやりたくて青道に来たわけじゃない。
なんなら本命の高校でのんびりとJKの生活を送りたかったよ。
…というのを彼女たちに言ったら幻滅されるだろうか。
くそー、あの時インフルにさえなっていなければ。
「おーい富永~、大会おつかれー!おめでとー!」
「わ、ありがとぉーー!!」
廊下から他クラスの男子が手を振ってくれた。
ただシード権を得ただけでこの盛り上がりようはスゴすぎる。春高勝ったらどうなっちゃうの。というかあの人たちは誰なんだ。どこのクラスなんだ。
「すごい盛り上がりだな」
ぼそ、と御幸くんが言った。
「うん、ちょっとびっくりしちゃうよね」
知らない人から祝われるのも変な気分だ。というかこの学校の情報網が気になる。田舎のコミュニティと同じ原理なのかすぐ話が広まっていくのはちょっと怖いのですが。
「あ、やべ一時間目始まる!今日小テストなんだよねー」
御幸くんが慌てて書き込んでいた手を止めノートをしまった。
小テスト……?
「え!?嘘!知らないんだけど!」
「先週言ってたよ」
「さいっあく!」
大会に気を取られててすっかり忘れてた。そう言えばそんなこと言ってた気も……
一時間目ってしかも数学だし、終わったー!
絶望に浸る私を見て、御幸くんがニヤニヤとしてるのが見えた。ちくしょー。
その後の小テストの点数は、聞くまでもなく私が勝った。