せーのっ、御幸くん! 作:槙明
ポツリ、頬に冷たい水滴が当たった。
上を向くとさっきまで晴れていた空はいつの間にか曇っていて、次第に小さな雨粒がぽつりぽつりと降ってくる。
「雨だ…」
濡れるのは嫌だから、急いで昇降口に駆け込んで雨が止むのを待った。
今日の降水確率は10%くらいだったのにな。
当然傘なんて持ってないし、これから帰宅しようとしてただけに大変困ったことになった。
「あれ、富永?」
「川上くん」
昇降口の段差に座って雨が止むのを待っていると、部活中か終わったのか分からないが、野球部の川上くんがやってきた。
彼は他クラスだけど、昼休みに中庭にいた所を私がたまたま声をかけたことからしばしば交流している。
ルナにつれられて野球部をよく見に行っていたから川上くんも私の事は知っていたらしい。
「どうしたの?」
「雨だから室内で筋トレ。階段走やってたんだ。富永さんはどうしたの、部活休み?」
「今日は部活早く終わったの。だからもう帰ろうと思ってたんだけど…」
ザァァ…
明らかにさっきより強く降る雨に顔を引きつらせた。
「もしかして傘持ってないとか」
「うん、実はそうなの。帰ろうと思った時に丁度降ってきちゃって……」
「俺ので良ければ貸すよ、待ってて持ってくる」
「ええ!?別にい__」
別にいいよ。
私が断る前に川上くんはタッと走って行ってしまって引き止められなかった。
ーー行っちゃった…
引き止めようと伸ばした手は空を切って、まぁいいかと私は再び外を眺め始めた。
次第に強くなっていく雨が私の心を曇らせる。
つい先程まで部活をしていた私は、その時に聞いてしまった三年生の陰口を思い出した。
『あの富永凪沙ってバレーの強豪校にいたらしいよ』
『だから今スタメンなの?うちらだって3年間頑張ってきたのに…』
『入学早々有り得ないよね』
ぎゅっと握ったスカートの裾が手汗で湿った。
どうして私がこんなこと言われなくちゃいけないんだろう。
「富永、傘持ってきた。…富永?」
「っ、あぁごめん。わざわざ良かったのに」
傘を片手に川上くんは「女の子に濡れて帰れって言うのはなぁ…」と苦笑した。
イケメンか。
「でも私に傘渡したら川上くん使えないんじゃ」
「いや俺寮だから。寮までなら誰かと相合傘すればいいし」
「そっか…本当にありがとう。明日返すから!」
「いつでもいいよ。それより気をつけて帰れよ」
「うん」
ありがてぇ、ありがてぇ。
私が傘を差して校門に行くまで、彼は昇降口で見送ってくれていた。
どこまで優男でイケメンなんだ一体。