彼は塞の同級生で同じ麻雀部の小瀬川白望にぞっこんであり、また彼女も満更でもない感じであった。
付き合いの長い鹿倉胡桃は彼の事を知っていたが、転校生姉帯豊音や留学生エイスリン・ウィッシュアートはその日初めてその兄に出会う。
宮守編書いてたところだし、キャラの打ち方も固まっているうちに。
出来れば他の人が書いたのを読んで楽しみたかった(
授業終わりのチャイムが鳴り響く、ここは宮守女子高校。
今まで3人しかおらずに、大会に出るなどの目立つ活動が出来ずにいた麻雀部だったが、今年に入ってようやく大会参加規定の5人に届いた。
だが所属するのは全員が3年生、なので全国につながる大会に参加できるのも今年が最初で最後になる訳だ。
大会まではまだ2ヶ月以上ある、いや、2ヶ月しかない。
だから彼女達は監督である熊倉の指導の下、毎日練習に集中するのだった。
当然今日もそのはずだったのだが・・・・・・。
「シロ、エイスリン」
教室に入ってきたのは臼沢塞、1年から所属している麻雀部員である。
彼女は同じく1年から所属しているシロと呼ばれた小瀬川白望と、去年留学生としてやってきたエイスリン・ウィッシュアートの二人に声を掛けていた。
「・・・・・・やっ、塞」
「サエ! キョウモブカツ、ガンバロ!」
だるそうに挨拶をする白望と、片言ながらも元気に返事をするエイスリン。
だが塞は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめーん、今日は部活出られないんだ」
「・・・・・・そうなの?」
白望が怪訝そうな表情で身体を起こす。
エイスリンも、何故か普段から持ち歩いているホワイトボードにキュキュッと「?」のマークを描いている。
別にそれくらい首を傾げて見せれば通じると思うのだが。
「今日は兄貴が帰ってくるのよ。
ちょっと久々だから荷物持ち手伝わないといけなくて」
塞はそう言って頭を下げる。
練習はもちろん大事だと知っているが、家族も家族で大切なのだ。
と、そんな塞の発言にエイスリンは小首を傾げる。
「アニキ? サエ、オニイサンイルノ?」
「そう、いるのよ。
あんなでも兄貴だから荷物持ちくらいはやってあげないとね」
ふぅ、やれやれと首を振る塞、中々珍しい表情だ。
そして白望の方はと言うと。
「・・・・・・お兄さん、帰ってくるんだ」
「大丈夫、安心して、シロには近づけさせないから」
「・・・・・・別にいいのに」
「ダメ、絶対ダメ」
白望の言葉にビシッと言い放つ塞。
一体何事であろうか。
「ほら、麻雀の大会も近いわけだし、シロも練習に打ち込まないと。
だから迎えを手伝うとか言わなくていいからね」
「・・・・・・」
塞の言葉に珍しくつまらなそうな表情をする白望だったが、そこまで言うなら仕方がないという様子で立ち上がった。
「・・・・・・分かった、じゃあ熊倉先生にも言っておく」
「ごめん、ありがとね」
塞は申し訳なさそうにそう言うと、「それじゃ、また明日」と一足先に教室を出るべく扉に向かう。
と、塞が扉に到着する前に廊下から人影が現れた。
「シロ、またダルイとか言ってない?」
「シロ、エイスリンさん、部活に行こー」
この学校一背が低い鹿倉胡桃、そしてこの学校一背の高い姉帯豊音の二人だ。
どちらも白望達と同じ麻雀部に所属している。
どうやら彼女達も白望を連れる為にやってきたらしいが、そこで手前にいる塞に気が付く。
「あ、塞もいたんだ」
「麻雀部員全員揃ってたんだねー。
じゃあ、一緒に行こうか」
そう言って塞の手を取る豊音。
胡桃は、とててててと白望の方に歩み寄りその手を取る。
「ほら行こう。
エイちゃんもね」
「ウン!」
胡桃に引っ張られて歩き出す白望とそれについていくエイスリン。
塞も豊音に引っ張られていくのだが、さすがにそれは止めてもらう。
「あー、ごめんトヨネ。
今日は部活出られないって言いに来たんだ」
「え、そうなの?」
なんだ残念、と言いたそうな豊音に塞は事情説明をする。
とはいえ先程白望とエイスリンにした説明と同じわけだが。
「兄貴が帰ってくるから荷物持ちに行くのよ」
「え、さえってお兄さんいるの?」
エイスリンがしたのと同じ反応。
どうしよう、二度手間かなと思いながらも説明を続ける。
「よく東京に行っててね、大体二週に一度くらいで帰ってきてたんだけどしばらく忙しかったらしくて帰って来てなかったのよ」
「へぇー、そうなんだー」
あんまり興味持たれたくないんだけどなぁ、と言いたそうな塞だがそれに気付かず豊音は興味ありげに喰いつく。
重ねて「どんな人?」と質問が来そうだったが、胡桃の方から先に声が上がった。
「え、お兄さんって・・・・・・あの?」
「ああ、そう、胡桃も何度か会ってるよね」
「会ってるけど・・・・・・うわ、そっか」
何やら眉を顰める胡桃。
何か良くない思い出でもあるらしい。
が、すぐに納得したように頷く。
「分かった、塞はお兄さんをお願い。
私はシロを守るよ」
「うん、任せたよ」
任せて!と胸を叩く胡桃を頼もしげに思う塞。
ただ強いて言うならば、「守るって何?」と豊音の興味を引かせてしまったようなのが気になるところだ。
まぁいい、これ以上の追及を避けるためにさっさと帰ろうと、塞は他のメンバーを置いて教室を先に出る。
「じゃあ、そういう訳で。
熊倉先生にはよろしくね」
「あら、私に何か用かしら?」
不意に声が聞こえて立ち止まる塞。
まさかと振り向くと、そこには彼女達麻雀部の顧問を務める熊倉トシが笑顔でたたずんでいた。
あれ、これってもしかしてまた説明しなきゃならないパターン?
さすがにめんどくさいと思った塞だったが、察しのいい熊倉は笑顔で告げてきた。
「急いでどこへ行くの? 何か用事かしら?
みんなに説明してあるならそちらから聞くから、急ぎなら先に帰ってもいいわよ」
「あ、ありがとうございます、熊倉先生」
こういうところは気の利く、実に助かる先生だ。
感謝しながら塞は挨拶をして昇降口へ向かって歩き出した。
後ろからは豊音達が説明している声が聞こえてくる。
「何でもお兄さんを迎えに行くらしいですよー」
「塞のお兄さん? というと・・・・・・」
あ、何か嫌な予感がする。
咄嗟に塞は走り出した。
のだが。
「塞、ちょっと待ちなさい」
呼び止められた。
びくっと反応して身体が止まってしまう。
聞こえないふりをして走って行ってしまいたかったのに。
「珍しい名字だと思ったんだけど、塞のお兄さんだったのね、臼沢
知られている! あんまり活躍している方じゃないのに!
この先生は何でも知っているなァ、と思いながら塞は渋々振り返って頷いた。
「・・・・・・はい、そうです、兄です・・・・・・」
その返事に熊倉は両手をポンと鳴らすと嬉しそうに笑う。
「あら、それは丁度いいじゃない。
彼の都合次第ではあるけども、もし打たせてもらえればあなた達にとってもプラスになるじゃないの」
あぁ、やっぱりそういう方向に話が転んでしまった、と何やら残念がる塞。
一緒に打つということになれば、それはつまりあの兄がシロと再会するということに他ならない。
それは避けたい! 避けたい!のだが!
「誰ですか? 臼沢
「若手の麻雀プロよ」
「プロ! さえのお兄さんってプロだったの!?」
「凄いよー!」と駆け寄ってきて塞の手を掴む豊音。
「さえってば、プロのお兄さんと麻雀打ってるから強いの!?
私も打ちたいよー!」
完全に興味を持たれてしまった、これは逃げられない。
「ニモツモチ、テツダウカラ、ワタシモウッテミタイ」
「エイスリンも!?」
これはまずい、と塞は思った。
白望に対して「あんな」態度をとる兄貴が、もし他の女の子に対しても同様なら一体どうなってしまうのか。
そうでなくても、宮守メンバーの反感を買う予感がする。
どうする?と思い悩んでももはやどうしようもない事態。
これはもう、兄貴が少しでも紳士になっていることに期待するしかない!
塞は半ば諦めていた、もうどうにでもなーれ、である。
「えっと・・・・・・もうじき到着するかな」
兄からメールを受け取っているらしく、そこに記された時間と駅前の時計との時間を見比べてそう告げる塞。
結局今日の部活はお休みという熊倉の一言で全員がついてきてしまった。
もういい、実物の兄を見て考えを改めて貰おうとばかりに塞は考えるのを止めた。
「あ、電車来たよ、あれかな?」
豊音の言葉通りホームに入ってくる電車が見える。
兄が遅れていたりメールが間違っていたりしない限り、おそらくあれに乗っているのだろう。
そこから5分もしないで改札から人が出て来る。
あまり利用する人は少ない駅だから降りてくる人数も少ない。
そうして改札を通り抜けてくる人物の中に一人、大きめのリュックとキャリーバッグを携えて出て来る男性が一人。
塞を見つけるとスッと手を上げ笑顔を向けてきた。
「あれがお兄さん?」
「そう、あれが兄貴」
豊音の言葉に頷く塞。
と、その兄の視線が少しばかりずれると同時に表情が変わった。
塞はハッとして振り向く。
「胡桃! シロを守って!」
「了解!」
ビシッと敬礼して胡桃が白望を守るべくその前に立ちはだかる。
そこには、塞の兄に抱きしめられた白望の姿があった。
「ハ、ハヤイ!?」
「え!? 何!? 瞬間移動!?」
エイスリンと豊音が思わず飛び退く。
だってさっきまでこちらに向かって歩いていたところではないか。
距離はまだン十メートルもあっただろうに。
さっきまでいた場所には荷物が置きっぱなしになっているので間違いない。
そんな一同の反応を意に介することなく、塞の兄
「・・・・・・久しぶりだ、シロ、結婚しよう」
「いきなりプロポーズ!?」
きゃー!と楽しそうな悲鳴を上げる豊音。
エイスリンも両目に手を当てながら、指の隙間からその様子を見ていた。
それを受けて白望は小さく首を横に振る。
「・・・・・・ダメ、大会が近いから恋愛に
「あっさり断った!」
プロポーズ失敗の瞬間を目撃するとは!と驚く豊音。
だが彼は諦めなかった。
「じゃあ、大会が終わったら結婚しよう」
「・・・・・・ダメ、残った高校生活を堪能したいから」
「じゃあ、高校を卒業したら結婚しよう」
「・・・・・・ダメ、大学生活を堪能したいから」
「じゃあ、大学を卒業したら結婚しよう」
「・・・・・・ダメ、社会に出て働くから」
「シロの分は俺が稼ぐ。
いっぱい稼いでシロにいっぱい楽をさせてやるから。
シロがどれだけダルそうにしてても、俺はシロを愛し続けるから。
だから結婚しよう」
「・・・・・・ん、それなら・・・・・・」
「待てぇい! バカ兄貴!」
「げぶぅ!?」
手持ちのカバンを頭に叩き込む塞。
兄はあっけなくギュルンギュルンと吹っ飛び、地面に横たわった。
なお固く抱きしめられていたはずの白望は全く巻き込まれることなくたたずんだままだった。
「まったく、少しは紳士になってるかと思ったら・・・・・・。
人前で久しぶりに会った女子を抱きしめた挙句結婚しようとか! バカじゃないの!?」
「・・・・・・酷いな、我が妹よ・・・・・・」
ゆらぁと立ち上がる兄。
ダメージは重そうだが怪我はしていない様子だ。
「シロも。
最後には押し切られて結婚受けようとしてたでしょ。
ダメよ、こんなバカ兄貴に言いくるめられちゃ」
プンと怒りながら白望にも文句を言う塞。
「そーだよシロ!」と胡桃も話に乗っかったのだが、白望は何やら首を傾げて返事をする。
「・・・・・・楽させてくれるって言うし、私がダルくしててもいいって言ってくれるんだよ・・・・・・?」
「だからって受けちゃダメー!」
うがー!と怒る。
宮守の頼れる中心人物で、そこそこ長身で美人で、みんなに慕われている小瀬川白望。
うちの兄貴みたいな人間に引っ掛けられるにはあまりにもったいない人材なのだ。
第一高校生が結婚の話とかまだ早いっての!
「久しぶりに会ったのに酷い言い分だな、我が妹よ」
「久しぶりに会っていきなりあんなこと言い出す兄貴が悪い」
後ろから声を掛けられて怒った表情のまま振り向く塞。
一見するとそこそこなイケメン、それでいて180cmほどの身長。
確かに白望と並んでいても見劣りの無い容姿だ。
が、その中身が良くない。
今でも覚えている、兄が白望と初めて出会った日の事を。
たまたまその日は買い物を頼まれていた塞。
学校の帰りに済ませてしまおうとスーパーに立ち寄ったのだ。
そのルートがたまたま白望の帰り道と同じだったので二人で途中まで並んで歩いていたその日、個人的な用事だか何だかでたまたまその辺りをうろついていた兄貴と出会ったのだった。
「ああ、兄貴」
すいっと手を上げると兄もこちらに気付いた様子。
ああ、ついでだからシロにも紹介しておかないと。
そう思った塞は兄の方を手で指し示しながら白望に告げた。
「シロ、あれは私の兄貴、臼沢
「・・・・・・お兄さん、いたんだ・・・・・・」
返事はしながらもあまり興味無さそうに返事をする白望。
そして続いて兄の方へ、と振り向くといつの間にか兄の姿は消えていた。
あれ?とキョロキョロ周囲を見回してみると、目に入ったのは白望を抱きしめた兄の姿だったのだ。
「・・・・・・え? ちょ、兄貴?」
何してんの?という問い掛けよりも先に、兄は言った。
「・・・・・・俺と結婚してくれ」
「・・・・・・と言う訳なのよ! どう思うこれ!?」
怒りを露わにする塞。
エイスリンはその時の様子をホワイトボードに描いていた。
その場にいなかったはずなのに妙に再現度が高い。
塞はその絵をバンバンと叩きながら宮守メンバーに「どうよ!? これどうよ!?」と熱く問い掛ける。
その様子に豊音もエイスリンも、むぅと押し黙ってしまう。
「・・・・・・確かにこれはちょっとね」
「ニホンデハ、プロポーズッテ、コンナナノ?」
「それは違うよ、エイちゃん。
あの人が特殊なんだよ」
胡桃の補足も加えて、豊音とエイスリンもようやく兄への反発を胸に抱いたようだ。
「いきなり結婚を迫って女の子に迷惑をかけるなんて最低だね!
プロポーズって言うのはもっとこう・・・・・・ロマンチックじゃないとね!」
豊音がプンプンと怒った様子でそう力説する。
何か憧れているシチュエーションでもあるのかもしれない。
エイスリンも珍しく怒っている様子だ。
「シロガイヤガルコト、シチャダメ!」
そう言って同意を求めるように白望の方に視線を移す。
が、そこにはキョトンと首を傾げる白望の姿があった。
「・・・・・・そんなこと言われたの初めてだから、ちょっと嬉しかったよ」
「そりゃ、そんなこと言われるの初めてでしょうよ。
あれはシロも私も高校生になって間もなかった頃なのよ?」
塞がそう言うが白望の傾げられた首が戻ることは無い。
「・・・・・・別に嫌じゃなかったのに・・・・・・」
「違うわシロ!
あんたは兄貴に抱きしめられてときめきを感じたと思ってるかもしれないけど、同じ胸の高鳴りだとしてもそれはときめきじゃないわ、嫌悪感と恐怖によるものよ!
だって初対面の男に抱きしめられたら普通そういうものを感じるはずでしょ!?」
くわっと睨むかのような勢いでそう断言する塞。
気が付くといつの間にか白望は兄に肩を抱かれていた。
「違うな、我が妹よ。
俺とシロが結ばれることは運命なんだ。
だから俺に抱きしめられたシロが胸にときめきを感じても可笑しなことは無いんだぞ、シロ」
「・・・・・・そうなの?」
「可笑しなことを吹き込むな! バカ兄貴!」
再び頭にカバンを叩きこもうとするが、あっさりと片手で払い落された。
どうする? 何とかこのバカ兄貴を黙らせるいい方法は無いものか。
塞はしばし考え込む。
が、そこに豊音から意見が投げ込まれた。
「そうだ! 私達お兄さんと麻雀打ちたいからってここまで来たわけじゃない?
なら麻雀で決着をつけよう!」
その意見に宮守一同にパァッと笑顔が浮かぶ。
「そうだね! 私もまだ打ったことないし、お兄さんを退治してやろう!」
胡桃がそう言うとエイスリンも頷く。
「マージャンウテル、シロマモレル、イッセキニチョウ!」
そうと決まれば!と一同は空の荷物持ちをしつつ麻雀が打てる一番近い場所、学校へと案内をし始めた。
塞はやれやれと頭を抱えながらそれについていくのだった。
そして到着した宮守女子高校麻雀部室。
空と卓を囲むのは豊音、胡桃、エイスリンの三人だ。
「コテンパンに倒すよー」
「コテンパンに倒すよ!」
「コテンパンニ、タオス!」
三人の心は一つになっているようだ。
「よかろう、返り討ちにしてやろうではないか。
それに我が妹の部活メンバーの実力を知るにもいい機会だ」
不敵に笑う兄、こちらもやる気満々のようだ。
塞はそんな兄をため息交じりに見守りながら、豊音に声を掛ける。
「トヨネ」
「ん、何?」
「トヨネの事だから心配はしてない、けど一応忠告しておくよ」
事の成り行きをめんどくさそうにだが見守ろうとしている塞。
だがその一言を告げる時だけは、いつになく真剣な表情になっていた。
「この試合、「先負」だけは使っちゃダメよ」
その一言に豊音は驚いた表情で言葉を返す。
「え、何で? っていうか私の「能力」バラさないでよ!」
もっともである。
特に豊音の「先負」は名前から能力が推察される恐れがある。
だが塞は余裕そうに告げた。
「平気よ、兄貴はそう言うのに詳しくないから」
「・・・・・・フフッ、言ってくれるな我が妹よ。
あまり俺を舐めるなよ?」
余裕そうな塞に対し、こちらも余裕そうに笑って返す兄。
妹を見返す為か、彼は平然と言ってのけた。
「「先負」だろう? 知っているとも。
確か他に・・・・・・「戦車」とか「隠者」とか「魔術師」があるやつだ」
「ほら、平気でしょ?」
「・・・・・・ん? あれ? 「弓兵」とか「騎乗兵」とか「暗殺者」があるやつだっけ?」
「・・・・・・そうだね、平気そう」
「あ、あれか、「ジョット」とか「らせん階段」とか「カブト虫」があるやつか!」
警戒してたのがバカらしくなったのか、豊音は頷いた。
が、すぐにもう一つの疑問を問い質す。
「あ、それでなんで「先負」使っちゃダメなの?」
豊音の強力な武器「六曜」、即ち「友引」「先負」「先勝」「仏滅」「大安」「赤口」。
豊音はそれらにちなんだ能力を所持している。
中でも「先負」と「友引」はよく使っているものだ。
そのうち一つを使うなとはどういうことか。
豊音の問い掛けに塞は少し視線を逸らしながら答えた。
「・・・・・・兄貴の「能力」相手に、
東一局0本場 親・エイスリン ドラ{中}
親順
エイスリン→空→胡桃→豊音
エイスリン 25000
配牌
{四五九九③⑦⑦2455南西} {北}
塞の言葉に不安を抱きながらも始まった対決。
配牌を受け取り、エイスリンはその手の完成形に思いを馳せる。
{九九九③④⑤⑦⑦23456} {
(・・・・・・コノテハ、コンナカンジ。
ダケド・・・・・・)
普通に手を進められれば、今見えた形がエイスリンの上がり形だろう。
しかし彼女はちらりと上家の豊音に視線を向ける。
(・・・・・・コノキョクハ、タブン、トヨネノホウガハヤイ)
普段であればそれを考慮して豊音の手の妨害も考えるところ。
だが今回は豊音と共通の敵として、塞の兄
ここは豊音の邪魔をせず、しかし手を崩さずに普通に進めて行くのがいいだろう。
{北}を切り出す。
空 25000
配牌
{二三四七
こちらは宮守メンバーに敵視されている空。
だがその敵意を彼は心地よく受け止めているようだった。
まずは良いとは言えない配牌と第一ツモ。
セオリー通りか、まずは不要な字牌{西}から捨てる。
胡桃 25000
配牌
{一六八②②
牌が縦に重なる、七対子辺りでも目指そうか。
まずは既に捨てられているしと{北}を切る。
豊音 25000
配牌
{二六六③④⑤⑨24
さっそく赤牌ツモ、なかなか好形だ。
(まずは宣戦布告ってことで)
北家だが{北}を捨てる。
これで空の捨て牌が{西}、他の三人が{北}を捨てた形になる。
露骨な包囲網、だが空は好戦的に笑った。
「いいねぇ」
2巡目。
エイスリン手牌
{四五九
予測していた上がり形に絡まない牌。
字牌から先に捨ててもいいのだが、エイスリンはあっさりそのままツモ切りした。
空手牌
{二三四七七①②②⑧⑨
ツモが振るわない様子。
だがそこでがっかりする様子を見せては、例え端くれであろうともプロは名乗れない。
手牌に収め、{發}を切り出す。
胡桃手牌
{一六八②②⑧⑧
一面子完成。
七対子じゃなくても行けるかなと考えながら{一}を捨てる。
豊音手牌
{
面子のタネが増えた。
{⑨}を切り出して手を広く構える。
3巡目。
エイスリン手牌
{四五九九③⑦⑦
カンチャンが埋まって手が進む。
すでに一枚切られている{西}を切り出した。
空手牌
{二三四七
こちらは二面子目が完成。
だが他の形があまりよくない。
{1}を捨てる。
胡桃手牌
{六八②②⑧⑧1678
対子が新たに増える。
鳴いて手を進めることもできるが、リーチ宣言をしないで手の進行を隠す彼女は鳴きも好まない。
新たに{白}が重なれば手を横に広げていくことも考えるが、そうでなければ七対子一本に絞った方がよさそうだ。
空に続いて{1}を切る。
豊音手牌
{二四六六③④⑤245[5]
無駄ヅモの{白}。
だが豊音は笑みを浮かべ、それを手の中にしまい込む。
(ここで切るのはー・・・・・・これっ!)
パシッと切り出したのは、面子を崩す{③}。
この手、豊音は一体どう進めるつもりなのか。
4巡目。
エイスリン手牌
{四
有効牌ではないが、ここはより不要な{南}を切る。
空手牌
{二三
面子が横に伸びた、ととらえられるか。
{9}を捨てて絶一門にするが、{
不要なら捨ててもいいだろうが、下手なタイミングで鳴かせて誰かに中ドラ3を献上するのは避けたい。
胡桃手牌
{六
(うん、七対子に決めようかな)
{678}の面子はどれかが重なり次第他の牌を捨てる形で整理することにする。
萬子も対子に決め打つため、胡桃はここで{六}を捨てた。
「ポン!」
同時に豊音が手牌を晒す。
豊音手牌
{二四④⑤245[5]78白} {横六六六}
そして切り出すのは{白}・・・・・・ではない。
{5}を手に取って河に捨てた。
5巡目。
エイスリン手牌
{四五八九九
新たに横に伸びる面子のタネだ。
先程一度手に止めた{八}をここで切り捨てる。
空手牌
{二三四五七七七①②
ペンチャンツモで新たに面子が完成した。
今のところ特に不思議はない、自然に手を進めているように見えるが果たして何かしているのか。
{①}を捨てる。
{
胡桃手牌
{八八②
七対子を目指していて困る瞬間、待ち牌選択だ。
このツモって来た{⑥}を手牌に加えるか否か。
だが二枚切れで聴牌したら狙いやすそうな地獄単騎の{西、ドラの中}、面子になっている{678}はどれも対子候補として悪くない。
ここは{⑥}をそのままツモ切りすることにした。
そして再び豊音が動く。
「チー!」
豊音手牌
{二四24[5]78白} {横⑥④⑤横六六六}
えっ?、と胡桃が豊音の捨て牌に目を向ける。
豊音捨牌
{北⑨③} {5}
そして新たに切られる{二}。
({③切って横⑥④⑤}チーって、面子出来てたんじゃない)
さすがにここは鳴かれないと思ったのだが。
しかしここまでくれば豊音が何を狙っているのか分かる。
面子を崩してでも鳴かなければならない理由。
豊音は「友引」を狙っているのだ。
特に利用している「先負」と「友引」の内、「先負」の方を禁止された以上「友引」を使いたくなるのは理解できる。
とはいえ。
(でも・・・・・・いくらさえと言えども「先負」を使ったら
対面に座る塞の兄、空。
豊音の「能力」を負かすほどの何を持っているというのか。
6巡目。
エイスリン手牌
{四五九九③④⑦⑦234
不要牌、そのままツモ切りする。
空手牌
{二三四五七七七②②⑦
こちらも不要、ツモ切りした。
胡桃手牌
{八八②②⑧⑧6
狙い通り、面子の一つと重なってくれた。
後はどれを切り出すか。
({西は狙い打つのに便利、
この二つは最後まで天秤にかけるとして・・・・・・)
ここで悩むのは{6と8}のどちらを切り出すか、だ。
胡桃は自分の手牌に視線を落とし、くすっと笑う。
(・・・・・・{八⑧8}を対子で揃えるって言うのも面白いかもね)
確信を持ったものではなく、どちらかと言えば遊び心のような決断。
だがそれも決して悪いことではない。
楽しく打とうという気兼ねも必要だ。
{6}を切る胡桃。
「チー」
またしても上がる豊音の声。
(さっきからよく私から鳴くなぁ)
豊音手牌
{四24[5]白} {横678横⑥④⑤横六六六}
面前で進めても良かったのではないかと思える形の喰いタン。
{四}を切って残り手牌は4枚だ。
7巡目。
エイスリン手牌
{四五九九③
大分まとまってきた。
ここで{九}を落としてタンヤオ手に進めて行きたいところだが、そこから手が進まなくなることをエイスリンは見抜いている。
ここでの最善手は{5}切り、エイスリンはそれを選択する。
のだが。
(ソロソロ、トヨネガアガル)
ちらりと豊音の方に視線を向ける。
ここでまた一鳴き入るのだろうか。
空手牌
{二三四五七七七②②⑦
またしても無駄ヅモ、そのまま捨てる。
そして胡桃。
胡桃手牌
{八八②②⑧
(えー!)
表情に出さないようにするのが精いっぱい。
今しがた豊音に鳴かれた{6}だ。
(対子選択ミスしちゃった・・・・・・)
まぁ、七対子を目指していればよくあることである。
仕方がないと思いながらツモ切りした。
「チーするよー」
「え、また?」
豊音の鳴きに思わず声を上げてしまった。
豊音手牌
{2白} {横64[5]横678横⑥④⑤横六六六}
{白}を切って裸単騎。
「ぼっちじゃないよー」
これで決まりだ。
次巡、豊音はあっさりとツモ上がった。
豊音手牌
{2} {横64[5]横678横⑥④⑤横六六六} {
「タンヤオ赤1、500・1000!」
子でかなり安い手。
だがこれが豊音のスタイルだ。
まずは一歩リードを取る。
空から「へぇー」と声が上がった。
「かなり無理矢理な上がりだね。
それとも、何か確信をもって狙ったのかな?」
「もちろん、最初からこの形で上がるつもりでしたよー」
空の言葉にフフンと笑って返す豊音。
その言葉に空も笑って返した。
「なるほど、なかなか楽しめそうだ。
なら・・・・・・」
手牌と山を崩し、卓に流し込みながら言葉を続ける。
「次はこちらの番だ」
東二局0本場 親・空 ドラ{5}
豊音 27000
配牌
{七七八九九①
まずはこのリードを広げていきたい。
空を蹴落とすにしても、空が親番のこの局はツモでも多く点数を削れるので狙いどころだ。
(今回は・・・・・・鳴かない方がよさそうかなー)
{①}を切り出す。
2巡目。
豊音手牌
{七七
早くも一盃口完成。
最悪カンチャン待ちも覚悟していたのでこれはありがたい。
役牌だが構わずに{白}を捨てる。
3巡目。
豊音手牌
{七七八八九九
{中}を切って早くも一向聴。
このままいけば平和一盃口にドラも絡んで満貫も見えてくる。
早い巡目でさっさと上がれるならそれに越したことは無い。
そう思っていたのだが。
「フッフッフッフッフッ」
空が何やら笑い出した。
「・・・・・・オモイダシワライ?」
「いや、違うよ」
首を傾げるエイスリンに返事をしたかと思うと、
「この局は宣言通り勝たせてもらうよ」
空は手牌から牌を抜き出し、それを高らかに掲げる。
「ルルィィィィィィィィィィチィィィィィィィ!!!」
そしてズギャォーン!とでも表すのが相応しそうな派手なモーションで牌を捨てた。
空捨牌
{南①9} {
「・・・・・・え? リーチ? もう?」
一瞬呆気にとられたが確かにそれはリーチ宣言。
チャリーンと千点棒を取り出しながら空は笑い続ける。
「はっはっはっ、だから言っただろう、この局は勝たせてもらうと」
余裕気な空。
それが少しばかり気に入らなそうに見ていた豊音だったが、すぐにこっそりと笑みを浮かべる。
4巡目。
豊音手牌
{七七八八九九④⑤44
ほら来た、聴牌。
こちらも早かったのだ、追いつけない道理はない。
ましてやこの状況は豊音の得意とするところ。
相手がリーチを宣言した直後にこちらにも聴牌が入り、追っかけリーチをしたら上がれる。
豊音の「六曜」の一つ、「先負」!
先程塞に「使っちゃダメ」と言われたが、いくら仲のいい塞の言葉でもそれは認められない。
(やってみなきゃ分からないんだよ、さえ。
「使っちゃダメ」「負けるから」なんて言われてあっさり下がれるほど・・・・・・)
「追っかけるけどー」
え?と驚いた表情を浮かべる塞を無視し、豊音は{8}を横向きに切り出す。
(私はまだ、大人じゃないんだよっ!)
「とおらば、リーチ!」
パシンッと力強く切り出された牌を見て、空も驚いた表情を浮かべた。
「追いつくのか・・・・・・。
ふむ・・・・・・」
さすがに即座に追いかけリーチを掛けられることは想定していなかったようだ。
フフンと笑って見せる豊音の表情と捨てられた牌を見て暫し考え、やがて空は「なるほど」と頷いた。
「俺がリーチをしたら即座に追っかけリーチを掛けられるのか。
さっきの鳴きとはまた違った能力だな。
そして・・・・・・それが「先負」か」
「そうだよー。
先制した相手を後ろから
だからね、お兄さん」
くすっと笑いながら豊音は、空の次のツモを指さした。
「次のお兄さんのツモ牌で、私の上がりだよー」
自慢げに笑う。
それを可愛いと取るか。
それとも、当然のように自分の上がりを宣言する様を恐ろしいと取るか。
対戦相手からしたら後者でもおかしくは無い。
だが、空の反応は違った。
フンッと軽く鼻で笑ったのだ。
「・・・・・・なるほど、塞が止めさせたわけだな」
そう言って空は手牌に手を添える。
「ロン、だ」
「・・・・・・えっ・・・・・・?」
次の自分のツモ牌を見る必要もない、と言いたげに手牌を倒した。
空手牌
{三三②③④⑦⑧⑨23479} {
「リーチ一発・・・・・・ん、裏ドラ1つ。
それと・・・・・・」
「それと・・・・・・は無いよ、兄貴。
「ああ、そうだな、7700だ」
塞のツッコミを受けながら、空は点数を申告する。
その晒された上がり形に、同卓の全員が表情を顰めた。
(即リーのカンチャン待ち!? もったいない!)
(ステパイニ、{9ト二}ッテコトハ・・・・・・)
(まだ4巡目なんだし、平和三色とか目指しても良かったんじゃ・・・・・・?)
一体何故そんな形で上がりを?
一同が驚いた表情を浮かべる中、熊倉が「あらまぁ」と声を上げる。
「そういえば昔そんな役があったって聞いたことあるわ、ずいぶん懐かしいわねぇ」
「おや、ご存知でしたか。
さすが監督ですね」
空がフフッと笑う。
相手のリーチ宣言牌で上がった時、かつて付いた一翻役。
今は無きローカル役の一つ。
その名は。
「
これが俺の武器なんですよ」
その名を聞けば、現代では誰もがイカサマ技の方を想像してしまう役の名前。
それこそが、豊音の「先負」をも完全に封殺する彼の武器なのだ。
東二局1本場 親・空 ドラ{中}
この局も、4巡目という圧倒的な早さで空の捨て牌が横向きになる。
「ルルィィィィィィィィィィチィィィィィィィ!!!」
空捨牌
{西②8} {
(何なのかなー、そのモーションは)
(・・・・・・バカみたい)
そんな空の大仰な仕草を呆れた目で見る豊音と胡桃。
エイスリンも珍しくウザそうな表情をしているように見える。
目立ちたがり屋なのだろうか。
(・・・・・・とは言え、呆れてばかりもいられないかなー。
こんなに早くリーチされたんじゃ追いつけないし、かと言って「先負」が効かないんじゃ追いかけることもできない・・・・・・)
豊音 19300
手牌
{一一二八八
豊音の手牌はまだこの形、聴牌に至っていない。
この局は無理かなーと考えながら{1}を捨てる。
そんな豊音の様子をくすっと笑うのが一人。
胡桃 24500
手牌
{一二三四六七八
(トヨネ困ってるね。
でも大丈夫、この局は私がやるよ)
{八}を切り出す。
空の「燕返し」が相手のリーチ宣言牌で上がるというものなら、リーチ宣言をしない胡桃はまさに彼の天敵と言えるだろう。
そして2巡後。
胡桃 24500
手牌
{一二三四六七
{一}を切ればタンヤオ平和の聴牌。
ドラが絡まないから本当に安手にしかならないが、調子に乗っている様子の空の頭を抑えるには悪くないだろう。
聴牌気配を悟らせない、静かなる胡桃の攻撃だ。
{一}を捨てる。
「おや、聴牌かい」
「・・・・・・えっ?」
思わず声を掛けてきた空の方を向いてしまう。
聴牌が悟られた・・・・・・?
「ど、どうして?」
切り出しも同じテンポだし、表情も変えていない。
聴牌を悟られないことが彼女の利点だというのに。
「いやなに」
彼はフッと笑うと手牌を倒した。
「俺の上がり牌が出てきたからさ」
空手牌
{二三五五[五]⑦⑦123白白白} {
「ロン、リーチ白赤1、9900」
リーチをしていないのに上がられた!
この状況では「燕返し」という役は該当しないというのに!
驚いた様子の宮守一同。
ただし塞は除く。
彼はそんな彼女達の様子を見ながら告げた。
「ただの「燕返し」だけで勝てるんだったら、俺は全国大会で優勝していただろうし、最初のプロ試験であっさり合格していたんだがねぇ」
おそらく過去に誰かに同じことをされたのだろう。
先制リーチを掛け、他家のリーチ宣言牌でなければ上がれないという弱点を突かれた攻撃を。
塞に聞けば彼の年齢がすぐに分かるだろうが、見た感じ塞とは少しばかり離れているように見える。
一体何年かけ、何度プロ試験を受けてきたのだろうか。
その過程で元々どれだけの実力者だった空が、どれだけ成長したというのだろうか。
彼の言葉の重みに、一同は思わず息を呑んだ。
東二局2本場 親・空 ドラ{③}
空 42100
大分リードが大きくなってきた。
余裕気に{南}を切り出す。
宮守メンバーとしてはどこかで流れを断ち切って崩していかなければならない。
胡桃 14600
配牌
{①
一通まで伸びれば理想的。
鳴きを利用しない胡桃にとっては、この配牌であろうとも混一は目指しにくいところだ。
まずここは染め手は狙わず{北}を捨てる。
豊音 19300
配牌
{一五六⑦⑦1
ちらりと空の方に視線を向ける。
(・・・・・・相手がリーチしなくても、聴牌したら上がられる・・・・・・。
ってことは、常にこっちが先制を取っていかなきゃいけないってことだよね)
空は先程から早い聴牌が続いている。
手が安いのはありがたいが、既にここまで点差を付けられていることを考えるとそれでもきつい。
東二局0本場のような好配牌でも来てくれなければ面前では追いつけない可能性がある。
(「友引」ならなんとかなるんじゃないかな。
東一局では上がれたんだし、もう一度これで行くよー!)
鳴きに狙いを定める。
役牌の{白}は重なるか不明だが一先ずとっておくとして、まずは{南}を捨てる。
エイスリン 24000
配牌
{
配牌とツモを受け取り、まずはこの手の
{三四五[五]①②③④⑤⑥789} {
上がりはこの形。
(デモ、オソイ・・・・・・テンパイスルノ、13ジュンメ・・・・・・)
わずかに表情を顰めるエイスリン。
聴牌速度が早い空とそれに追いつこうとしている豊音が相手では、自分の上がりは間に合わない。
(トヨネ・・・・・・マケナイデ)
彼女に出来る援護は無い。
だからエイスリンには{西}を切り出しつつ、豊音の手の先を案じるしかできないのだった。
2巡目。
空はツモった牌を手牌に収めて、その端から{中}を切り出す。
胡桃手牌
{①
(これは・・・・・・混一までいけるのかな?)
少しばかり悩みながら{中}を手放す。
筒子が伸びてくれなくても、代わりに索子がいい感じに面子になってくれればいいのだが。
豊音手牌
{一五
{北}を捨てる。
鳴きで手を進めるのならこの手牌では{白}が重なるのを期待するか、もしくはタンヤオくらいしかない。
エイスリン手牌
{三五[五]八①①
対子にはなったが有効なツモではない。
一先ず{發を捨てるが、この9}もいずれ捨てられるだろう。
3巡目。
空は{⑧}ツモ切り、手が進まなかったようだ。
胡桃手牌
{①
筒子が横に繋がった。
混一に行けるかもという期待と{12}のペンチャンが面子にならなそうな予感を感じて{1}を捨てる。
豊音手牌
{一五六六⑦⑦12255
不要牌の{發}。
だがここは先に{1}を切った。
チラッと空の捨て牌に視線を向ける。
(あの{⑧が⑦}だったら鳴けたんだけどなー)
エイスリン手牌
{
一応面子がつながる有効牌。
空と豊音の勝負に割り込めるとは思っていないが、それでも万が一もつれ込んだ時の為に最善手を進める。
{八}切り。
4巡目。
空はツモ牌を手牌に収め、少しだけ考えた様子を見せる。
そして{3}を抜き出して捨てた。
胡桃手牌
{①②
{123は面子をあきらめたが、代わりに4[5]6}の面子が見えてきた。
カンチャン整理の続き、{2}を捨てる。
「ポンっ!」
豊音から声が上がった。
豊音手牌
{一五六六⑦⑦559白發} {横222}
{一}を切り、タンヤオ対々に一歩手を進める。
エイスリン手牌
{三
一盃口になりそうな好ツモ。
だがこの{三-六}はツモることが出来ない。
諦めてそのままツモ切りする。
5巡目。
空は{二}をツモ切り。
胡桃手牌
{①②
不要牌だ、そのまま捨てる。
豊音手牌
{五六六⑦
{55に繋がり、3-6}のチーも可能になった。
ここは{9}を切る。
エイスリン手牌
{三四五[五]①①
エイスリンの手の進行には関わらない無駄ヅモだ。
(ソノカワリ、トヨネノテガススム!)
{5}をツモ切り、豊音の方に視線を向ける。
「ポンっ!」
彼女の期待通り、豊音は鳴いた。
豊音手牌
{五六六⑦⑦4白發} {55横5横222}
もう役牌には目を向けない、{發}切り。
エイスリン手牌
{三四五[五]①①
再び回ってきたツモ番。
こちらも無駄ヅモなのでツモ切りする。
6巡目。
空はツモった牌をそのまま切る。
またしても手が進まなかったようだ。
そしてその代わり。
「ポンだよー」
豊音が動いた。
豊音手牌
{五⑦⑦4白} {六横六六55横5横222}
少し考え、{白}を捨てる。
もう一鳴きで聴牌だ。
エイスリン手牌
{三四五
こちらも手の完成形に絡まないツモ。
そのまま{七}を捨てる。
7巡目。
空は手牌から{發}を捨てる。
胡桃手牌
{①②
索子が横に伸びた。
{東}を切り出す。
豊音手牌
{
む、と豊音の手が止まる。
({五}・・・・・・は、誰かの手牌に固まってそうな気がする。
そうでなくても面子として使いやすいし溢れづらい。
{⑦か4・・・・・・できれば4}の方がいいかな?)
空の捨て牌には{3}。
手牌から抜き出した位置から考えて索子の面子は無いか、もしくは下の方で完成していると思われる。
豊音が{2と5}を鳴いていることもあり、空でなくてもツモれば切られやすいだろう。
ここは{五}を捨てる。
エイスリン手牌
{三四五[五]①①
一応手が進んだ。
{9}を捨てる。
8巡目。
「フッフッフッ」
再び笑い出す空。
どうやら豊音より先に聴牌が入ってしまったらしい。
「待たせたね」
「・・・・・・別に待ってなかったんだけどー」
むしろ先に聴牌しておきたかった。
既に8巡目、いつリーチの声が掛かってもおかしくなかったが先を取られたのは残念だ。
「ルルィィィィィィィィィィチィィィィィィィ!!!」
ドギャーン!と相変わらず派手なモーションでリーチが掛けられる。
空捨牌
{南中⑧3二發} {
胡桃手牌
{①②
どうしようかと思っていたところにこのツモ。
索子が伸びるのかな?と思いながら空の捨て牌に視線を向ける。
(確か、{⑧}はツモ切りだったはず・・・・・・。
安牌だし、筒子には見切りをつけて受け入れを広くした方がいいかな)
筒子の一通は狙えなくなるが、リーチが掛かっている以上高い手を狙って行くのもきつい。
それにこの手、{⑧を切り出せば③④⑥⑦2457}で平和聴牌、役無しでも構わないのなら{さらに⑤36}も受け入れ可能になる。
(いくら人が聴牌したらその捨て牌で上がれるからと言っても、これだけ受け入れが広ければ狙い打つことはできないでしょ)
胡桃は{⑧}を切り出す。
そして。
「チー!」
(え、トヨネ?)
豊音が晒した。
豊音手牌
{⑦4} {横⑧⑥⑦六横六六55横5横222}
聴牌に取ったら振り込むんじゃ?
そう考えた一同だったが、豊音はわずかに汗を浮かべながらも不敵に笑う。
(危険は承知、でも本当に攻めて倒せないかどうか試してみないと!)
やるだけやる。
それでどうしても無理だったら降りる。
幸いまだ点棒はある。
もう少しくらいだったらくれてやる、くらいの勢いで豊音は{⑦}を捨てた。
これで聴牌、{4}単騎待ち!
「ぼっちじゃないよー」
豊音は対面の空に笑いかけた。
空も、笑って返した。
「残念、ぼっちだったな」
空手牌
{一二三九九九②
「ロン、リーチドラ1」
カチャッと裏ドラを返す。
現れたのは{八}だった。
「裏3で満貫だ、12600」
「な、ちょ、待って!」
パッと手を上げたのは胡桃だ。
そして空の捨て牌を指さしながら言う。
「この{⑧}ってツモ切りでしたよね?
手牌に取っておけば
{一二三九九②
こんな形で聴牌できたんじゃ・・・・・・?」
確かに捨て牌と組み合わせればその平和形も可能だったろう。
ツモ牌の詳細は分からないが、それでも聴牌する巡目は変わらなかったのではないだろうか。
ましてや平和が付く分手が高くなるし狙わない理由も無いはずだ。
しかし空は首を横に振る。
「残念、{⑦}はその後に引いたんだ。
あの時点では{⑦⑧⑨}の面子が完成していたから{⑧}をツモ切りしたんだよ」
「じゃ、じゃあ、何でその後{⑦}を手牌に留めて単騎待ちにしたんですか?」
今度は豊音が質問を重ねる。
空はフフッと笑いながら返事をした。
「あのだねぇ、さすがにそれだけ鳴いていれば残った手牌はかなり透けるよ。
{2と5を鳴いて}その間の牌が一つしか無ければ{3か4}の単騎だなってのは分かるし。
左右の二人と俺に筒子が二面子ほど入っていれば、君の手牌には少ないだろうなって予想もつくし。
俺が{⑧}切ったのを確認した直後に手牌に視線を落とせば、チーなら出来たか近いところの牌が欲しかったんだろうなってのも分かるし。
{⑨}が対子で対々狙いって可能性もあったけど、タンヤオも絡められる形をより警戒しただけさ。
さっきの巡で{⑦⑦の対子に⑥}をツモって、ポンもチーも出来る形にしたってところじゃないかね?」
空の言葉に、わずかだが血の気が引く。
完全に見透かされている、思考も手牌の形も。
なんてことだろう、と豊音は今更ながら空の認識を改めた。
相手が聴牌したらその時捨てた牌で上がれるなんて能力に頼りきりかと思ったら――いや、頼ってはいるのだろうが――手牌読みの技術もかなりのものだ。
むしろ能力一辺倒ではプロになれないだろうし、彼自身ただの「燕返し」だけでは勝てなかったと言っていたではないか。
今更ながら無意識下で、プロを相手にしていながらどこか慢心していたことを思い知らされた。
今の振り込みで豊音の点棒は残り6700。
目が覚めるには遅すぎたかもしれない、それでも彼女はしっかりと意識を取り戻したのだ。
(もう追いつけないかもしれない)
完全に意識が切り替わった。
(それでも・・・・・・ただではやられないよー!)
どこか獰猛な笑みを浮かべる豊音。
空はそれに、やはり笑顔を返すのだった。
それから幾度とない点棒のやり取りが繰り返される。
決着がついた時、宮守一同は呆然としていた。
唯一人笑っているのは空だけ。
それほどの圧倒的点差で、決着はついた。
豊音 38300
エイスリン 35000
胡桃 26600
空 100
「フッ、さすがは塞のクラスメイトだ。
今日のところは引き分けにしておいてやるよ」
「いや、兄貴負けてんじゃん、圧倒的に。
あと教室違うし、クラスメイトじゃなくてチームメイトだから」
そんなやり取りが余計に脱力を誘い、エイスリンも胡桃もあんぐりと開けた口が塞がらなかった。
なんとか気を取り戻した豊音が「えーと」と声を上げる。
「・・・・・・なんで途中からいっぱい点棒減らしちゃったのかな・・・・・・?
手加減したようには見えなかったけどー・・・・・・」
豊音の言葉に空は変わらない笑顔で返事をした。
「手加減とは失礼な。
これは・・・・・・そう、これが俺と君達との実力差だ!」
「なんで下の方が威張ってるの?」
塞のツッコミに笑う空。
もはやこれ以上問い詰められない、あまりにも痛々しくて。
どうしてこんなことになってしまったのか。
そもそも空の能力「燕返し」は自身が聴牌しなければ発動できないものだ。
東二局3本場では空が中々リーチを掛けず、その間に胡桃が聴牌を取った。
もしやダマテン?と疑いつつも聴牌に取ったが上がられることは無く、逆にあっさり空から上がり牌が出たのでありがたく上がったのだ。
そんな感じで胡桃が聴牌することもあれば、豊音が圧倒的に早く上がりを取ることもあった。
仮に豊音も胡桃も聴牌に至らなかったとしても、この卓にはエイスリンがいる。
誰も上がれないということは彼女が上がりを取るということだ。
また空の致命的な点として、「燕返し」を利用する為にはリーチをしなければならない。
つまり鳴けないのだ。
仮に手牌に役牌が対子で存在していてもそれを他家がスパスパ切っていったら、鳴けない空はせっかくの対子を捨てるか頭として利用するしかできなくなるのだ。
そうして振り込んだりツモられたりで点棒が削られ、東二局以降上がりを取れなかった空は箱割れギリギリまで点棒を失うこととなったのだった。
「・・・・・・いや、それでもプロとして女子高生相手にこの点差は・・・・・・」
言ったら傷つくかなと思いつつ、事実として塞がそう言うと空はようやく笑顔を崩し、不貞腐れたような表情になった。
「いや、半分くらい覚悟してたんだよ。
プロっつってもまだ1年くらいだし、男子リーグの間でも下の方だし、女子とやったらボコボコにされるし。
去年出てきた天江衣とか言う高校生に見えない子供と交流戦やった時には東場でトバされたし。
大体もう統計学上はっきり出てるからはっきり言うけど、この世界は女子の方が麻雀強いんだよ。
麻雀の神様とやらは絶対男だね。
女の子を贔屓してデレデレしてやがるんだ」
そんなことを言う空の頭に、なにやらコツンと置かれる。
何?と振り向くと、そこには白望が立っていた。
どうやら空の頭に手を乗せたらしい。
いや、その手が一応拳になっているところを見ると、拳骨をしたつもりなのだろう。
余りにだるそうな仕草で力が入っていなかったから痛くなかっただけで。
キョトンとする空に白望は言った。
「・・・・・・言い訳するなんて男らしくない。
もっと強くなって見返してくれないと・・・・・・」
確かに白望の言う通り、今の言葉は男らしくなかった。
不貞腐れていようが事実だろうが、だ。
少しばかり呆然としていた空だったが、やがてすくっと立ち上がり、またしても白望を抱きしめた。
「やっぱりいい女だな、シロ。
俺と結婚してくれ」
「またプロポーズするの!?」
豊音がガターンと椅子から立ち上がりながらそう言う。
と同時に、エイスリンと胡桃が白望と空の間に割って入った。
「はいはい、お兄さんは負けたんだから当分シロに近づいちゃダメっ」
「シロ、マモルヨー!」
その言葉に、ぐぬっと悔しそうな表情を浮かべながらも引き下がる空。
負けた時に具体的にどうするかは決めていなかったはずだが。
しかしそれを口にはせず、空は大人しく頷いた。
「・・・・・・分かった、当分シロには近づかないよ。
その代わり・・・・・・」
そして、いつになく真剣な表情で空は、白望の目を見つめながらはっきりと告げた。
「・・・・・・来月、また麻雀で大会があるんだ。
その大会でもし俺が優勝したら・・・・・・その時は・・・・・・
俺と結婚してくれ、シロ」
またプロポーズを!と睨みつけてくる胡桃とエイスリン。
もっとも背の低い二人に睨まれようが怖さは全く感じない、可愛いものであるが。
「シロも嫌だったら嫌だってはっきり言わないと・・・・・・」
豊音もそう言いながら空と白望の間に割って入る。
だが、白望の表情を見て豊音は少しばかり身を引いた。
ほんのりと頬を赤く染め、珍しく笑顔を浮かべていたから。
「シロ・・・・・・」
まぁ、うん、確かに今のプロポーズはちょっと格好いいと思ったけど。
豊音に限らず宮守メンバーがどれだけ引き留めようが、最終的に結論を出すのは白望なのだ。
なら、白望がいいっていうならそれでいい。
なんとなく奪われるような気がして少し寂しいが、大好きな白望が出した結論に文句は言えない。
白望は思わず宮守メンバーが見惚れるような笑顔のまま、返事をしたのだった。
「・・・・・・ダメ、残った高校生活を堪能したいから」
「あ、やっぱり断るんだ」
やれやれと塞は首を横に振った。
まぁ、ここから宮守メンバーと兄によるシロの取り合いが始まるのでしょう。
塞ぐの反対は空ける、らしい。
空の読み方を探してたら「うつお」があったからこれでいいかなーと。
シロと結婚しても「 」にはならないだろう(
ってか途中から「そら」って読まれてないかなーと思いつつ振り仮名増やしてたんですけど、しつこいかと思って途中で止めました。
意味はからっぽ。
色んな物を受け入れる純粋な心を持ってほしいという意味を込めた名前、多分。
そんな親の思惑通りにはいかず、彼は心がからっぽで何の感情も持っていないかのように何にも無感動な性格に育ってしまった。
学校の成績が良くても、麻雀の大会で優勝しても、妹が照れながら誕生日ケーキを作ってくれても、変わらない無表情でそっけない言葉を告げるだけ。
しかしある日シロと出会い、その心が愛で満ちるのを感じ、そこから世界は一変する。
そう、そんな過去があったとは妹すら記憶違いなのではと疑うくらいに彼の性格は変わり、今ではあんなに元気になってしまったのだよ!
とかいう過去を付け足したらきっと人気が出るに違いない、知らんけど(