ボーっとしながら読んでください。
モモンガはユグドラシル最後の日をナザリック地下大墳墓の地表部分にある入り口の上でゴロンと仰向けに横になり、空を眺めながら過ごしていた。
本来ナザリック周辺は常に厚い雲に覆われていて、青空など見えないのだが、どういう訳かサービス最終日のその日は、澄み渡るような青空だった。おそらくバグの一種だろうが、モモンガはそれをGMに連絡することをしなかった。ただこんな空を眺めながら最後の時を過ごすのも悪くないかと思うだけだった。
流れる雲を眺めながら、モモンガは現在の時刻を確認する。
23:59:50
「明日は4時起きか……サーバーダウンしたら直ぐに寝ないとな」
23:59:58
23:59:59
モモンガはサーバーダウンのタイミングでそっと目を閉じた。
00:00:00
00:00:01
モモンガが目を開けると、先ほどまでと変わらぬ青い空が広がっていた。
本来ならばサーバーダウンと共に真っ暗な画面が表示されるはずなのだが……
「サーバーダウンが延期になった?」
モモンガが身を起こすと違和感に気が付いた。
自分はナザリック地下大墳墓の入り口の上で横になっていた筈なのに、地面が柔らかい。モモンガが目視と手探りで確認すると地面は草の生えた土の地面に変わっていた。
「なんだコレ?どんなバグだ?転移か?……もしかして……」
(噂にあったユグドラシル2の先行テスト?)
あんな都市伝説を真に受けるなんて、自分でもどうかしていると思うが、そうであったならどれほどうれしい事か。モモンガはとにかく状況を確認するため、コンソールを開こうとするが反応がない。
「コンソールが開かない……おいおい、運営。最後くらいしっかりしてくれよ」
ログアウトすら出来ない状況で、モモンガが次に考えたのが運営に連絡することだったが、GMコールも使えない。さて、どうしたものかと悩んでいると、草原に一陣の風が吹いた。
風がモモンガの骨の頬をくすぐる。その風は大地に生える草の匂いをモモンガに届けた。
「コレ何の匂いだ?……まて、匂いだと?」
味覚や嗅覚は電脳法で禁止されている。いくらあの運営でも法に触れるようなことはしないだろう。というより、むしろその辺は厳しい方だった。ちょっとしたことで垢バンされたという話はネットで嫌という程見て来た。
それからあれこれと思案したモモンガが辿り着いた答えは、異世界転移だった。
他人に話せばアニメの見過ぎだと笑われるような答えだったが、モモンガにはそれが一番しっくりきた。
その答えに辿り着いたモモンガが次に確かめたのは魔法の存在だ。コンソールやショートカットキーが使えない以上魔法も使えないかと思ったが、どうやらこの世界でも魔法が使えるらしい。
使い方こそユグドラシルとは大きく違っているが、ユグドラシルで覚えた魔法は問題なく使えるようだった。
その後もモモンガは様々な実験を繰り返し、気づけば日が沈み、そして再び昇っていた。
あらかたの実験が済んだモモンガは次の行動に移ることにした。
それは周辺の探索だ。モモンガがインベントリから周辺の探索に必要なアイテムを取り出そうとした時、遠くから何やら声と騒音が聞こえて来た。モモンガはアイテムでの捜索を中断し魔法で目を飛ばすことにした、
「<
モモンガが唱えたの遠くの場所を視認出来る魔法だ。モモンガは視覚を音の聞こえた方に飛ばす。
暫く進めるとそこでは戦闘が行われていた。
オーガ一体とゴブリン二体を相手に人間の女が戦っているようだ。
モンスターの方はユグドラシルでも最初期の頃に相手をする雑魚モンスターだ。どうやらこの世界にはユグドラシルモンスターが存在するらしい。
片や女の方はというと、縮れた赤毛に雀斑のある素朴な顔、筋肉はそこそこついているが、装備があまりにもひどい。今日ユグドラシルを始めたプレイヤーかと思う程だ。防具らしい防具は装備しておらず、武器はマジックアイテムでも何でもなさそうな鉄の剣のみ。案の定女は苦戦していた。
女の正面にはオーガが、後方には二匹のゴブリンが退路を断っている。逃げることさえ困難なようだ。
おそらくプレイヤーではなく、この世界の人間だろうと考えたモモンガは彼女を助けることにした。
この世界の情報が欲しかったためだ。言葉が通じるかどうか分からないが、オーガやゴブリンよりは幾分ましだろう。
そう判断したモモンガは魔法ですぐさま戦闘が行われている場所に転移する。
「<
モモンガがそう唱えると姿が掻き消え、次の瞬間には戦闘が行われている場所に現れた。
モモンガは女の後ろから声を掛ける。
「手こずっているみたいですね。手を貸しましょうか?」
出来るだけ丁寧な言葉遣いを心がけて問いかけた。
女は少しだけ振り向くがオーガから視線を離せないのだろう、そのままの姿勢で応える。
「お願い!報酬は銀貨20枚で良い?」
と言うわれてもモモンガには銀貨の価値が分からない。しかし、自分の命がかかったこの場面でそこまでケチるとも思えないのでおそらく相場だろうと考えた。もとより欲しいのは情報で、金は、まぁ貰えるのならありがたく貰うといったスタンスだ。
「了解しました。それで構いませんよ」
会話を終えるか終えないかのタイミングでゴブリンたちが動き出す。標的はモモンガでは無く女のようだ。モモンガはすぐさま魔法を唱えた。
「<
モモンガが魔法を唱えると10個の光弾がモモンガの周辺に浮かび上がった。モモンガが手を前にかざすとその光弾は5つずつに分かれてゴブリンたちを襲う。ゴブリンたちは背後から襲い来るその光の球避けることが出来ず一瞬で倒された。
「ふむ、ゴブリンの強さはユグドラシルのゴブリンと同じ程度かな」
モモンガはゴブリンの死体をしばらく眺めるが、その死体がアイテムやデータクリスタルになることはなかった。どうやらユグドラシルのままなのは強さだけのようだ。
ゴブリンたちに興味をなくしたモモンガはオーガと女戦士の方に注意を移した。
彼方は未だに攻防が続いているようだ。下手に攻撃魔法を使うと女にフレンドリーファイアしてしまう恐れがあるため、モモンガは支援魔法を唱えることにした。
「<
女の体が魔法の光で包まれる。
「へ?」
突然の事で女は呆けてしまっている。このままでは隙だらけなのでモモンガが後方から説明した。
「魔法であなたの能力を底上げしました。オーガ程度なら簡単に倒せるはずです」
「オーガ程度って……」
女は半信半疑の様だが呆けてばかりもいられない。すぐさま鉄剣を正眼に構えた。
オーガが吠えて女に棍棒を振り下ろした。女は横にひらりと避けて、反撃出る。セオリー通りオーガの足の健を狙って剣を振った女は自分の攻撃に驚くことになった。
女の攻撃はいともたやすくオーガの足を切り落としたのだ。オーガは唸り声をあげ膝を付いた。女はあわてて剣を構え直すと次の一閃でオーガの首を落とすことに成功した。
「うそ……こんなに簡単にオーガを倒せるなんて」
「ね?言った通りだったでしょう?」
モモンガが女に声を掛けた。
「ええ、本当に驚いたわ。ありが――」
女は声の主の方を振り向いて、そこで初めて彼の姿を目にした。
恐ろしいオーバーロードの姿を。
「おっきゃあああああ!!」
平原に女の悲鳴が響き渡った。
アニメ四期楽しみですね。