ブリタさん可愛がり   作:ミソカッスン

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10話・陽光聖典

 暫くの話し合いの末、【鉄の闘志】は、ガゼフたちの少ない手持ちから報酬を貰う事にした。モモンガがアンデットである以上、王城に登城して褒賞を貰うのは面倒事にしかならないと判断したからだ。代わりに敵が珍しいアイテムを持っていた場合、【鉄の闘志】が貰えるという事になった。

 

 作戦はこうだ。【鉄の闘志】とガゼフが正面から敵を引き付け、残りの兵士たちは馬を襲歩させ残りの敵を引き付けそのまま戦場を離脱、王都に帰還する。これは並みの兵士ではアーク・エンジェル・フレイムに太刀打ち出来ないためだ。あの天使たちは物理攻撃に耐性がある。その話をモモンガが王国の兵士たちにすると、ガゼフは武技で武器に魔法の効果を持たせることが出来るが、他の兵士たちには無理だという事だった。故に残りの兵士たちは囮後戦場を離脱するという事に落ち着いた。

 

 「ブリタさん、召喚されたモンスターは経験値をくれない筈です。だから天使たちは出来るだけ無視して召喚主、つまり後方にいる魔法詠唱者(マジック・キャスター)を直接狙いましょう」

 

 モモンガの提案に、しかしブリタは顔を顰めた。

 

 「いや、無理じゃない?相手は天使たちを前衛に後方から魔法で攻撃してくるでしょう?距離を詰める為には先に天使たちを片付ける必要がある筈よ?」

 

 ブリタの意見は最もの様に聞こえる。しかしモモンガの考えは違うようだった。

 

 「ブリタさん、左手の指輪を外して、この指輪と交換してください」

 

 いつの間に取り出したのか、モモンガは指輪をブリタに手渡した。

 

 「これは?」

 

 「今ブリタさんが装備している指輪は筋力5割強化ですが、彼らを相手には必要ないでしょう。今渡した指輪は第5位階までの魔法を無効化する効果があります。それを装備して敵の魔法を突っ切ってください。残りの天使たちは私とガゼフ殿が相手にしますよ。ガゼフ殿もそれで構いませんか?」

 

 モモンガが確認を取ると、ガゼフは頷いた。

 

 「うむ、私は構わん。出来るだけ天使たちを引き付けよう」

 

 「わ、分かりました。頑張ります」

 

 「では、参りましょうか」

 

 モモンガはまるで散歩にでも行くかの様に気軽に、ブリタは緊張の面持ちで、残りの者たちは決死の覚悟で歩み出した。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 「ニグン隊長。ガゼフが出て来ました。見知らぬ人物を二人連れています。どうも冒険者の様です」

 

 スレイン法国の六色聖典の一つ、陽光聖典。それが彼らの正体だ。その隊長であるニグン・グリット・ルーインの元にそんな報告が届いた。

ニグンは頬の傷に手を当てながら思案する。彼には冒険者に敗走した苦い記憶がある、その時の記憶が蘇った。

 

 「その冒険者の階級は分かるか?」

 

 「は…銅級と鉄級のようです」

 

 「銅と鉄?たまたま村にいた雑魚を雇ったか……作戦に変更は無しだ。天使たちを前衛に距離を取って戦う。数人は囮の兵士たちに釣られて追走したように見せかけろ。適当な場所で引き返らせろよ」

 

 「はっ!」

 

 陽光聖典の数多の天使たちを引きつれてガゼフたちの前に立った。勝利の確信と共に。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 事前の作戦通り、モモンガとガゼフが天使たちの相手をするべく剣を抜いた。戦いの火ぶたは直ぐに切られた。モモンガの剣がいとも容易く天使たちを切り裂いていき、その横ではガゼフが武技を駆使して何とか天使たちを抑えている。その戦いを横目にブリタは残りの天使たちの合間を縫って魔法詠唱者(マジック・キャスター)の一団に一気に駆け寄った。

 

 「ふん、ただの自殺願望者か。お前たち、魔法で攻撃しろ!距離を詰めさせるなよ!」

 

 ニグンの命令で陽光聖典たちの魔法がブリタに向かって放たれる。

 

 「<火球(ファイヤー・ボール)>」

 

 「<雷撃(ライトニング)>」

 

 「<氷球(アイス・ボール)>」

 

 「<雷撃球(エレクトロ・スフィア)>」

 

 「<衝撃波(ショック・ウェーブ)>」

 

 「<魔法の矢(マジック・アロー)>」

 

 数多の魔法が一斉にブリタに襲い掛かる、ブリタはその一切を避けずに突っ込んだ。というよりも避けたくともあらゆる方向から魔法が放たれ避けられなかった。

ニグンは魔法の着弾を確認して、不敵に笑みを浮かべる。

 

 「やはりただの自殺願望者だったようだな。ガゼフともう一人に意識を集中しろ。全身鎧の方は思ったより強い、油断するなよ!」

 

 ニグンが意識をブリタからモモンガとガゼフの方に切り替えたその時、魔法の着弾に伴い上がった煙の中から人影が飛び出して来た。もちろんブリタだ。ブリタは油断した陽光聖典との距離を一気に詰めて大剣を振るった。横なぎんい放たれたその一撃は数人の敵を薙ぎ払った。

 

 「ば、バカな!無傷だと!?」

 

 戦士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)の戦いは、その距離によって有利不利が一転する。今は完全に戦士の距離だ。陽光聖典たちはなす術もなく、いとも容易く切り伏せられていく。

 

 「あの女、何者なんだ……」

 

 「ニグン隊長、我々はどうすれば?!」

 

 「私の上位天使をぶつける!監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)かかれ!!」

 

 ニグンの号令に合わせて上位天使がブリタに襲い掛かる。モモンガとガゼフの二人とは距離が離れていしまっている為、援護は期待出来ないだろう。そう思ったのだがいつの間にか距離を詰めていた二人がブリタと上位天使の間に割って入った。

 

 「き、貴様たち!いつの間に!!」

 

 「術者が死ねば、召喚されたモンスターは消滅する。そんな事も知らなかったのか?」

 

 モモンガの言葉にニグンがブリタの方を確認すれば、天使を呼び出した殆どの魔法詠唱者(マジック・キャスター)は地に付していた。

 

 「ブリタさん、こういう時は指揮官から狙うのがセオリーですよ」

 

 「オッケー、そいつが指揮官ね」

 

 モモンガの指示でブリタはニグンに駆け寄る。ニグンは慌てて上位天使に自身を守るように指示する、が―――

 

 「監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)!その女を止めろ!」

 

 「させるか!」

 

 ガゼフが吠えて上位天使に斬りかかる、ガゼフの一撃は上位天使に弾かれるも足止めにはなったようだ。その隙にモモンガの一撃が上位天使を切り裂いた。

 

 「ば、バカな。上位天使が……」

 

 「よそ見している場合?」

 

 ニグンが気が付けばブリタは大剣の射程範囲の内だった。ブリタの攻撃を何とかかわしたニグンは懐に手を入れた。

そこには一つのマジックアイテムがあった。スレイン法国の本国がもしもの時にと持たせた魔封じの水晶というアイテムだ。そのアイテムを使えば最高位天使が召喚される。そうすれば形勢逆転だ。ニグンは懐から魔封じの水晶を取り出して掲げた。

 

 「ドミニオン―――」

 

 しかし、魔封じの水晶が発動するよりも先に、ブリタの大剣がニグンを切り裂いた。

ニグンの手から零れ落ちた魔法の水晶をモモンガが拾い上げる。

 

 「これは、魔封じの水晶か。なるほど、魔法だけじゃなくてユグドラシルのアイテムもある訳か」

 

 「た、隊長が…」

 

 「う、嘘だ」

 

 残った陽光聖典の面々が騒めく中、突如空にヒビが入った。その異様な光景は陽光聖典の隊員にさらなる不安を与える。

ヒビは一瞬で消え、空は静寂を取り戻す。

 

 「何だったの、あれ?」

 

 ブリタが呟くと、モモンガがその問いに答えた。

 

 「何者かが戦場を覗き見しようとした者がいたみたいですね。私の攻性防壁が起動したので殆ど覗かれてはいないと思いますが」

 

 モモンガの答えに反応したのは、ブリタでは無く残った陽光聖典の隊員たちだった。

 

 「まさか、本国が我々を……」

 

 項垂れる敵を前にモモンガが発した言葉は無情な物だった。

 

 「さ、ブリタさん。残りの敵も片付けちゃいましょう」

 

 「……そうね」

 

 ブリタが大剣を構えて前に出ると、それを制止する声が掛かった。

 

 「待って欲しい」

 

 それは敵からではなくガゼフの声だった。

 

 「出来れば残りの敵は捕虜として生かして捕らえたい」

 

 モモンガは少し考えて陽光聖典の方を見た。

 

 「大人しく投降するなら命は助かるだろう。どうする?」

 

 一切の抵抗は無かった。全員が大人しく投降し、モモンガ達はそれを認めた。

モモンガはそれを確認すると後方に視線を移した。

 

 「まぁ、囮部隊が引き付けた敵がまだまだいるしな。経験値としてはそれで充分だろう」

 

 こうして、残りの陽光聖典たちの運命は決まった。

 

 

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