ブリタさん可愛がり   作:ミソカッスン

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102話・聖王国の動乱

 亜人とモンスターの群れが自国に迫っているという知らせを受けたカルカは直ぐに聖騎士たちを城門へと走らせた。また不幸中の幸いに国家総動員令の発令の承認に必要な主要人物がこの場に集まっており、承認の準備も進められた。

 

 もたらされた情報によれば城壁に迫っている敵の数は1万程度、それもまだまだ後続が来ており、途切れる様子が無いとの事。さらに中には見たことも無い亜人やモンスターも混じっており、中には十傑を超えるのではないかと思われる程の強さをもつモンスターまでいるらしい。

 

 このままでは城壁は2日と持たずに陥落し、城壁を突破した敵は都を蹂躙するだろう。この状況を打開出来る手段は――――カルカはアルシェの方を見た。

 

 カルカはアルシェの方に歩み寄る。先ほどまでアルシェの周りにいた貴族たちは既にその場を離れており、レメディオスも忙しそうに部下たちに指示を与えている。

 

 「アルシェ様、お願いがございます」

 

 「無理」

 

 アルシェはカルカの願いの内容を確認する事もなくきっぱりとそう口にした。そんなアルシェの態度に、カルカは動揺することなく頭を下げた。

 

 「城壁が突破されれば多くの無辜の民の命が奪われる事になります。どうかアルシェ様のお力をお貸しください」

 

 「敵の数が多すぎます。私の魔力では精々時間稼ぎにしかならない。私が亜人たちの相手が出来たのは此方から攻めていたから。それに時間を掛けて魔力を回復していたから。一度に相手に出来る数はせいぜい5~6千程度。そちらの話は聞こえていた。1万を超える大群ではとても防ぎきれない」

 

 「アルシェ様が5千の敵を相手取ってくれれば、残りを聖騎士や兵たちが相手に出来ます」

 

 「乱戦で広域魔法なんて使えない。そんなモノを使えば味方も大勢死ぬ。乱戦の中敵だけを狙い撃てる魔法何て……少なくとも私は習得していない」

 

 アルシェの脳裏にモモンガの骸骨の顔が過った。彼ならばそういう魔法も習得しているかもしれないな、と。しかし彼はアンデットだ。人前に出て、それも宗教色の強いこの聖王国の人間の前でその姿を晒すわけにはいかないだろうし、何よりいくら変わり者とはいえアンデットの彼が人助けなどするかは謎だ。

 

 「敵の後方には味方はいません。敵の後方に狙いを定めれば――」

 

 「私には守りたい者たちがいます。ここでこの国と心中するわけにはいかない」

 

 「…………」

 

 しかし、カルカは頭を上げようとはしない。

 一国の王がただの冒険者に頭を下げる。それもこの場の様に国の重鎮たちが集まる場所で。その意味を分からない者はいない。しかし、それを咎める者もこの場にはいなかった。1人を除いては―――

 

 「カルカ様!!この様な卑怯な冒険者風情に頭を下げるのはおよし下さい!そんな者の手など借りずとも我々が必ず亜人どもを撃退して見せます!!」

 

 カルカが声のした自身の後方に目をやると、先ほどまで忙しそうに部下たちに指示を出していたレメディオスがいつの間にかカルカの背後に立っていた。

 カルカは信じられないものを見る目でレメディオスを見る。彼女は確かに頭脳明晰でも品行方正でもない人物だ。しかし分別はあり決してこんな事をいう人間では無いと思っていた。

 無辜の民たちの命や幸福が何より大切で、それに比べれば自身のプライドなど捨て、他者に頭を下げることなど何とも無い、そんな考えを共有できる友だと思っていた。

 

 「レメディオス、貴方―――」

 

 何を言っているの、その言葉より先にレメディオスは騎士の礼を取る。

 

 「このレメディオスと聖騎士たちにお任せください!!」

 

 レメディオスはカルカの言葉を自身の言葉に感動してのモノと勘違いしたのだろう。直ぐに部下数人を呼びつけると、彼らを引きつれて城門へと向かった。

 

 ショックのあまり数秒間硬直してしまったカルカが、放心しながらふとアルシェの方を見ると、彼女はこめかみに手を当て何やら呟いていた。カルカに聞き取れたのは最後の一言だけだった。

 

 『わかった、直ぐにそちらに向かう』

 

 

 

 

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