「なんだ?アレ……」
御者台からカルネ村を視認したンフィーレアが思わず漏らした言葉がそれだった。
ンフィーレアの知るカルネ村は何処にでもあるような小さな村だ。魔物が蔓延るトブの大森林に面している割には塀すらない、拭けば飛ぶような村、それが彼の記憶にあるカルネ村だ。だが現在彼の目に見えているカルネ村はまるで別物だ。四方を石造りの高い塀に囲まれて六ケ所には物見櫓を兼任しているのだろう尖塔が存在している。まるでエ・ランテルの城塞の様だが、カルネ村は重要拠点などではない。第一、彼が以前この村を訪れてから現在までの期間で制作できるような物では無い。では、一体どうやって作ったのか。
色々な考えがンフィーレアの頭をよぎる中、ペテルが声を上げた。
「あれが、カルネ村ですか……信じられないぐらい立派な塀ですね。塀と言うかまるで城塞だ。エ・ランテルの城塞にも引けを取らないのでは?」
「ぼ、僕が以前この村を訪れた時はあんな物はありませんでした」
ンフィーレアの発言に【漆黒の剣】が驚きの声を上げる。
「アレだけの塀だ。作るのに2・3年は掛かりそうだが。バレアレさんが前にこの村を訪れたのは一体何年前ですか?」
「そこまで前では……それにアレだけの塀を作るとなれば国家事業です。カルネ村にそこまで人やお金、資材や時間を掛ける価値があるとも思えませんが……」
「それではアレは一体……」
そんな彼らの話を横に聞きながら、ブリタは冷や汗を流していた。彼女はあの塀の正体を知っている。あれはモモンガがカルネ村の復興に手を貸すときにモモンガがはっちゃけた結果だ。本人はあくまで
モモンガは村人が寝静まると鎧を消し、拠点制作系魔法なるものを使用しだした。最初は石造りの建物が作れるだけのその魔法だったが、なにやら応用を思いついたモモンガは色々と実験を始めた。その結果があれだ。ホクホク顔のモモンガを横目に、村人の安全が確保できるならまぁ良いかと流していたブリタだったが冷静に考えれば面倒事の火種にしかならないだろう事に今更気が付いた。だが、後の祭りだ。
塀を作ったモモンガは村人が起きてくる前にゴーレムを用意して、塀の細かい場所を補強させたり、尖塔内部に家具の作りしたり配置にこだわったりしていた。起きて来た村人たちにはモモンガはあんな恰好をしているが実は凄い
ブリタが他の者たちにバレないようにため息をついていると、村の正面にある立派な門から数体のゴブリンが姿を現した。このゴブリンたちはブリタも知らない。ゴブリンに気が付いた一同は戦闘態勢に入る。
「おいおい、ゴブリンが出て来やがったぞ!どうなってるんだあの村は!?」
ルクルットが弓を構えると、周囲の草むらががさりと音を立て、そこからさらに数体のゴブリンが姿を現す、全ての個体が武器を有しており冒険者たちの緊張感が高まる。
「ちょっと、ルクルット!囲まれてしまってるじゃないですか!?」
「全然気が付かなかった。コイツ等ヤバイぞ!」
【漆黒の剣】の一同が戦々恐々としていると、正門から出て来たゴブリンたちが武器を構えたまま近づいて来て、先頭のリーダーらしきゴブリンが口を開いた。
「兄さんたち、武器を収めて貰えませんかね?こちらとしても荒事は避けたい。特に奥の二人、お二人からはヤバイ気配をビンビンと感じる」
余りに流暢に人の言葉を喋るゴブリンに驚きつつも、ペテルは後ろにいる【鉄の闘志】を見る。確かに、道中に見た彼らの実力ならこの状況を打開出来るだろう。情けないが戦闘は彼らに任せ、自分たちは護衛対象のンフィーレアの守りに徹した方が良いか。そんな事を考えていると村の正門の方から幼さが残る女性の声が聞こえた。
「ゴブリンさんたち、どうしましたか?」
正門から姿を現した少女を見たリーダーらしきゴブリン、それとンフィーレアがそれぞれ彼女の名を呼んだ。
「エンリの姉さん」
「エンリ!!」
エンリと呼ばれた少女は自分を呼ぶ二つの声のうち、ンフィーレアの声に反応した。
「ンフィー!」
エンリとンフィーレアは互いに走り寄り手を取り合った。それを見た【漆黒の剣】の面々は安堵し、警戒を緩め構えていた武器を下ろす。
片や【鉄の闘志】は会話を聞かれないように仲間たちと距離を取り声を潜めていた。
「ねぇ、モモンガ。あのゴブリンたちって?」
「ええ、私が渡したアイテムで呼び出した者たちの様ですね。しかし、あの時の少女と彼が知り合いとは、驚きました」
「そんな事より、結局アンタの正体を見た彼女の記憶はいじってないんでしょ?大丈夫?」
モモンガはブリタに訊ねられる今の今まで完全にそのことを忘れていた。
「―――あっ」
完全に忘れていたという感じの間の抜けた声を聞き、ブリタはやれやれと首をふる。
「まぁ、彼女しっかりしてそうだったから大丈夫だと思うけど、念の為に後で口止めしておきましょう。妹ちゃんも一緒にね」
「……そうですね」
そんな事を話しながら、二人は嬉しそうに手を握りあう少年と少女の姿を眺めていた。