薬草採集は順調に進んだ。順調すぎて些か不穏であった。本来ならモンスターが跋扈する森の深い部分に差し掛かってなお、一度もモンスターと遭遇していないのだ。森の様子がおかしいというのが何度かこの森に薬草採集に来たこのあるンフィーレアの意見だった。しかし、モンスターが溢れているならともかく、逆にいないのであれば薬草採集がしやすいからと、警戒をしつつも薬草採集を続行することとなった。
この時森で起きている異変の原因は、何者かが東の巨人という、森の東部をテリトリーにしていたモンスターを討伐したことに起因していた。支配欲が強く傍若無人なそのモンスターが居なくなったことにより、元々南部にいたモンスター達の多くが東部に移動したのだ。南部には森の賢王のテリトリーがあり、西の魔蛇や東の巨人のテリトリーの隙間にある小さな生存圏しかなかったモンスター達にとって、ボスのいなくなった東部に移り住むのは当たり前だった。
とはいえ、全てのモンスターが移住したわけではない。例えばそう、南の森の主である森の賢王などは移り住む理由がないのだから……
「やばい、何か大きな魔物が近づいてくるぞ」
ルクルットがその気配に気が付いたのは、周囲に他のモンスターの気配が無かったからだろう。いち早く気が付いた彼らは武器を手に取りンフィーレアの囲み周囲を警戒する。
「森の賢王でしょうか?」
「おそらく……」
場の緊張感が高まる中、モモンガが落ち着いた声をあげる。
「では、事前の打ち合わせ通り、森の賢王の相手は我々【鉄の闘志】が致します。【漆黒の剣】の皆さんはンフィーレアさんを安全なところまでお連れしてください」
「了解しました。お二人とも、お気を付けて」
代表してペテルが答えると、彼らは来た道を引き返した。
「さてブリタさん。今回は討伐は無しという事なので経験値は貰えません。ちゃちゃっと終わらせちゃいましょう」
「ちゃちゃっと、ねぁ……」
気軽に言ってくれると思いつつも、ブリタも今までの戦いで大分自信が付いていた。モモンガも戦えるこの状況で自分たちが負けるとは思えなかった。
(相手は伝説の魔獣なのにねぇ……)
すっかりモモンガに毒されたなと苦笑しながら、ブリタは大剣を両手で握り正眼に構えた。
次の瞬間、木々の隙間を縫って鞭の様な攻撃がブリタを襲う、ブリタはそれを寸でのところで避けた。その鞭は、今度は横なぎにモモンガを狙う。モモンガが剣でその鞭を剣で弾くと、鞭はしゅるしゅると木々の隙間を戻っていった。
『某の初撃をいなすとは、お主たちやるではゴザらぬか』
(ゴザる?)
モモンガが、声の主の口調に疑問符を浮かべているとブリタが声を上げた。
「あら、荘厳な口調の割に姿を隠したまま攻撃してくる何て、実は案外臆病者なの?」
『言うではゴザらぬか、では某の姿に畏怖するが良いでゴザる!』
二人、いや、おそらくは一人と一匹の真剣なやり取りを横目に、モモンガは全く緊張感を抱けずにいた。
(荘厳なの?あの口調が?)
そんな空事を考えているモモンガをよそに、それは遂に姿をあらわした―――