クレマンティーヌは手足を縄形のマジックアイテムで高速された状態で草原に転がっていた。始めのうちは縄を切ろうとあれこれと試してみたが、何をやっても傷一つ付けられなかった。やがて諦めて無気力に仰向けに寝転がり夜空を眺めながら先ほどのアンデットの事を思い出していた。
「……死の神……」
クレマンティーヌがぼそりと呟いたのは、彼女がかつて所属していたスレイン法国が崇める6柱の神の一柱、命ある者に永遠の安らぎと永遠の絶望を与えるという死の神、スルシャーナの事だった。言い伝えられているスルシャーナの容姿とモモンガの鎧の下の姿が似ていたのだ。あのアンデットはモモンガと名乗っていた。スルシャーナが復活したのだとすれば偽名を名乗る理由がわからない。可能性はないとは言えないが、それよりも考えられるのは100年に一度の揺り返し。
「モモンガは……いや、モモンガ様は……」
クレマンティーヌは自らが導きだした答えが正しいのか、何度も考えるが答えは出ない。クレマンティーヌが考えるのを止め、ただ夜空を眺めていると。草原に闇の門が開かれた。これはクレマンティーヌがこの場所に転移させられた時に使われた魔法だ。彼女は直ぐにそこから何が出てくるのか理解し、手足を縛られたままで可能な限り姿勢を正した。
クレマンティーヌの予想通りそこから現れたのは1人の冒険者と冒険者プレートを身に着けたアンデットだった。モモンガとブリタがクレマンティーヌに近づくと彼女は頭を垂れた。
「……何をしている?」
モモンガが訊ねると、クレマンティーヌはそのままの姿勢で答えた。
「ご尊顔を拝謁するご許可を頂けるまでは、頭を垂れております」
意外な答えに【鉄の闘志】の2人はお互いに顔を見合わせる。
「命乞い?意外ね。アンタみたいなタイプは死ぬその時まで傲岸不遜な態度を崩さないと思っていたわ」
「……どう思われても構いません」
ブリタの挑発にもクレマンティーヌは姿勢を崩さない。
「ふむ、構わない。面を上げろ」
クレマンティーヌは二度目の許可を待つか迷う。本来なら二度目の許可が出て初めて頭を上げるべきだが、モモンガにその習慣が無ければ失礼になる。少し迷ってクレマンティーヌは顔を上げた。
「ご尊顔を拝謁する機会を頂き、恐悦に御座います」
真面目な口調で喋るクレマンティーヌにブリタが寒いとばかりに腕をこする。
「本当に何なの、その喋り方?気持ち悪いんだけど」
「……モモンガ様と会話をするにあたり、この口調が最も適切だと判断致しました。もしご気分を害されたのでしたらお詫びいたします」
「私と?……ふむ、理由を聞こうか」
「その質問に答えるには、一つ私の質問に答えて頂く必要が御座います。質問をする許可を頂けますか?」
「許可する」
「ありがとうございます。では僭越ながら……モモンガ様はぷれいやーであらせられますか?」
思いがけない質問にモモンガの動きが止まる。ブリタは質問の意味が分からず首を傾げている。
「プレイヤー……その言葉は知っている。私がプレイヤーかどうかはお前がどういう意味でプレイヤーという言葉を使っているかによる」
「……ぷれいやーとは、100年毎に現れるとされる強大な力を持つ神の事です」
「神だと?」
「はい。私が元々所属していたスレイン法国は、600年前に降臨された6柱の神、6大神に仕えておりました。その他にも500年前に現れ世界に混乱と破壊をもたらした8欲王、200年前に魔人との戦いで活躍した13英雄の内の数人、同年に現れ様々な発明をもたらした口だけの賢者などがぷれいやーではないかと推察されます」
モモンガはその説明に首を傾げる。
「それのどこが100年毎なんだ?虫食いだらけじゃないか」
「確認されていないだけで降臨自体はなされているのではというのがスレイン法国では一般的な見解です」
「ふむ……ブリタさんはご存じでしたか?」
不意にモモンガに話を振られ、ブリタは少し焦りながら答える。
「私?一応、今の話に上った6大神とか、8欲王とか、13英雄とかは知っているわ。ただ、どれもおとぎ話みたいなものね。何百年も前の話なんて誰にも分からないもの。……いや、確か帝国のフールーダは300年生きてるって噂があったかな?なんでも魔法で老化を遅らせているとか?まぁ眉唾だけどね」
そうですか、と呟いて、モモンガはクレマンティーヌに向き直る。
「それで、お前は何故私がプレイヤーだと考えたんだ」
「6大神の1柱にスルシャーナ様という死の神がいらっしゃいます。言い伝えられているスルシャーナ様とモモンガ様の容姿が酷似しておりました。それに加え何が起きたのか分からぬ合間に私を圧倒して見せたそのお力。更には見知らぬマジックアイテムまでお持ちでしたので、もしやと思ったので御座います」
「スルシャーナ……」
モモンガは頭の中で知り合いや有名なプレイヤーの名前を思い出せるだけ思い出す。しかし、頭の中の名簿にスルシャーナの名は無かった。
「そのスルシャーナの種族はオーバーロードだったのか?」
問われ、クレマンティーヌは申し訳なそうに首を横に振った。
「申し訳ございません。種族名までは記録に御座いません」
「……そうか」
何やら考え込むモモンガに、クレマンティーヌが再度問いかける。
「それで、モモンガ様。御身はぷれいやーであられるのでしょうか?」
モモンガは正直に答えるか少し迷ったが、ここまでのやり取りでクレマンティーヌも確信を持っているだろう。ならば今更嘘をついてもしょうがないかと、正直に答えることにした。
「そうだ、私はプレイヤーだ」