モモンガがプレイヤーだと判明した後のクレマンティーヌは余計に従順だった。何かを企んでいるのか、モモンガの強大な力に屈したのか、スレイン法国で過ごした時間がそうさせたのか。とにかくクレマンティーヌはモモンガに言われるままにブリタに武技を教えた。結果としてブリタはさらに3つの武技の習得に成功した。<不落要塞>これは要塞の上位互換にあたる武技でより精度の高い防御を可能にする。<流水加速>精神を一時的に加速させ反応速度などを上げることが可能だが、脳に疲労が蓄積するため長時間の使用は避けるべきだそうだ。<回避>その名の通り一時的に敵の攻撃を回避しやすくなる武技だ。
「モモンガ様、残念ながらブリタ様は<超回避>並びに<疾風走破>は習得できません出した。恐らく適正が無かったのかと思います」
クレマンティーヌはモモンガに深々と頭を下げる。
「ふむ……レベルが足りなかったのかもしれない。ブリタさんのレベルが上がった時にもう一度試してみよう」
「かしこまりました」
そんな2人の会話にタオルで汗を拭いながら歩み寄ってきたブリタが加わる。
「私にまで様を付けるの止めてくれない?鳥肌が立つんだけど」
「……モモンガ様がお許しになれば、そのように」
「だってさ、モモンガ」
「別に好きに呼べば良い。というか私の事も呼び捨てで構わん」
「いえ、流石にそれは恐れ多すぎます。では、これからはブリタさんと呼ばせて頂きます」
「さんもいらないし、出来ればその口調も元に戻して欲しいんだけど。正直気持ち悪いのよ」
クレマンティーヌは黙ったままモモンガを見た。許可を求めているのだろう。
「構わん。崩した口調で話すことを許可する」
「っは!」
クレマンティーヌは礼をするとブリタに向き直る。
「という事で普通に喋るけど、気持ち悪いは酷くなぁ~い?私傷ついちゃうなぁ」
「出会った時がその口調だったから違和感しかないのよ」
「ところでブリっちゃんに一つ聞きたいんだけど」
ブリタはその言葉に嫌そうな顔をする。
「普通に呼び捨てで呼んで。ブリッちゃんは何かイヤ」
「りょ~か~い。それでブリタはぷれいやーなの?」
「私が?もちろん違うわよ。クレマンティーの話ではぷれいやーは強大な力を持っているんでしょ?私と戦ったアンタなら分かると思うけど、大した事なかったでしょ?」
クレマンティーヌは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐにケラケラと笑い出した。
「私と互角かそれ以上に戦える人間が大した事ないって事もないっしょ。それにぷれいやーは必ずしも強いとは言いきれないみたいなのよね。れべるきゃっぷ?ってのに届く前に降臨されたぷれいやーはこちらの世界でれべるあっぷを行って強くなるらしいわよ。かの13英雄のリーダーがそうだったと聞いたわ」
「そう、だとしても私はぷれいやーじゃないわ」
「ふーん……それじゃあもしかして従属神とか?」
「「従属神?」」
ブリタとモモンガがの疑問の声がハモった。
「クレマンティーヌ、従属神とはなんだ?」
「っは!従属神とは神、つまりぷれいやーと共に降臨され、ぷれいやーに絶対の忠誠を誓う方々の事です」
モモンガはその説明を聞いて従属神の正体を推測する。
「ふむ……もしかして、NPCの事か?」
「おそらく、神が従属神の事をえぬ・ぴー・しーと呼んだ事があると記録が残されております」
「NPCもこの世界に?その従属神とやらは自分で考え動く事が出来るのか?」
クレマンティーヌは質問の意味が分からず、少し考えてからありのままを説明した。
「おそらく可能です。現にスレイン法国の中枢ではスルシャーナ様の従属神が現在でもご存命とか、ただ私は従属神に謁見できるほどの位にありませんでしたので、直接お会いした事がありませんので確実な事は申せません。申し訳ございません」
クレマンティーの説明に、モモンガは無い目を見開いた。
「なんだと?現在でもNPCがいるだと?600年前の話では無かったのか?」
「じゅ、従属神はアンデットだと聞き及んでおります。600年の時を過ごされても不思議では無いかと」
モモンガの口調が少しだけ厳しくなったのを感じたクレマンティーヌの肩に力が入る。
「なるほど、ではそのスルシャーナとやらは?今も生きているのか?他のぷれいやーやNPCは?」
「残念ながら6大神は既にお隠れになっております。スルシャーナ様も500年前に8欲王との戦いで亡くなったと伝わっております」
「PVPか……スルシャーナや他の神の復活は試みなかったのか?」
クレマンティーヌは首を横に振る。
「申し訳ございません。明確な記録は残されておりません。ただ、当然試みた筈です。国の中枢に位置する者や従属神ならば詳細を知っている可能性が高いのですが……」
「そうか」
その後もモモンガはプレイヤーやNPC、それにスレイン法国の情報を次々とクレマンティーヌに訊ねていく。クレマンティーヌはスレイン法国に身を置いていた頃は漆黒聖典第9席次という意外と高い地位にいたそうだ。それもあって彼女の知識はかなりのもので大いにモモンガの役に立った。
「ブリタさん、私は恩にはお恩を、仇には仇を返すべきだと思っています。クレマンティーヌには武技と知識を貰いました。でしたらその恩を返すべきだと考えています」
「つまり?」
「クレマンティーヌがスレイン法国に追われているというのなら、こちらで保護しようかと」
「本気?コイツ大量殺人犯じゃない?その鎧の冒険者プレートが証拠でしょ」
クレマンティーヌはビクリと肩を震わせる。
「それは我々もでは?スレイン法国の特殊工作員を何人も殺していますし、先ほどの、ズラ何とかという組織の人間も殺しているではありませんか?」
「いやいや、アイツらは別でしょ?罪もない村を亡ぼしたり、誘拐したり。殺されて当然の奴らじゃない」
「それは個人の決めることですか?裁判などで決めるべきことでは?それにクレマンティーヌが殺した冒険者たちが何の罪もない善良な冒険者だとどう証明するのですか?」
モモンガの物言いにブリタがたじろぐ。
「いや、そんな事言われても……」
「それに帝国との戦争では王国は毎年、国民を徴兵して戦わせているのでしょう?戦争になったら何人も殺すこともあるでしょう、当然相手は大罪人でも何でもなくただの兵士、または民です。それらは良いんですか?」
「それとこれとは話が別で……」
「どう違うのですか?同じ人の命でしょう」
「ぐっ……」
ブリタは口が立つ方ではない、モモンガのこの言い分を言い返すほどの語彙を持ち合わせていたなかった。
「わかった!わかったわよ!!モモンガの好きにすれば良いわ!!ただし、これからは無為な人殺しは止めるよう言い含めておいて!これは絶対よ!!」
モモンガがクレマンティーヌ向き直り訊ねる。
「だ、そうだ。約束出来るか?」
クレマンティーヌは片膝を付いて頭を垂れる。
「はっ!ご命令とあればこのクレマンティーヌ、今後無為に人間を殺さないことを誓います」
「ふむ、よろしい」
クレマンティーヌの返事ににモモンガは満足そうに頷く。
「とは言え、お前を連れまわるわけにもいくまい。トブの大森林内に拠点を設置し、お前にはそこにいて貰う。あと、その冒険者プレートだらけの鎧は脱いでおけ、自分から私は殺人鬼ですと言っている様なものだ」
「畏まりました」
クレマンティーヌが鎧を脱ごうとするとそれをブリタが慌てて制止する。
「ちょっとちょっと、そんなビキニアーマーみたいな鎧を脱いだら裸になっちゃうでしょうが!」
「ちょっとブリタ邪魔しないでよ。モモンガ様の命令を実行出来ないじゃん」
尚も脱ごうとするクレマンティーをブリタが止める。
(宿では下着姿が当たり前なブリタさんでも裸はアウトなのか……)
そんな事を考えているとブリタがモモンガを睨んできた。さっさと止めさせろとその視線が訴えてくる。
「クレマンティーヌ、私の配慮が足りなかった。今すぐ脱ぐ必要はない。先に拠点を設置する。着替えは後で適当なものを見繕って渡すからそれに着替えろ」
「了解しました。モモンガ様」
クレマンティーヌは鎧を脱ぐのを止め、頭を下げた。