バハルス帝国の関所では驚くことに一切の混乱が無かった。事前に冒険者組合から連絡を受けた帝国は直ぐに関所に増援の騎士たちを送った。関所の騎士には勿論、関所に並ぶ人々にも事前連絡を徹底し、混乱を防ぐ為に奔走した。その結果、列に並ぶ人々はドラゴンの姿を見ても冷汗を流し固唾を呑みながらも、決して取り乱すことは無かった。
ドラゴンたち、もとい【鉄の闘志】の姿を確認した騎士たちは、金髪の端正な顔立ちの男の騎士を先頭にすぐさま駆け寄ると、声を掛けた。
「【鉄の闘志】のブリタ殿とモモンガ殿ですね。私は帝国4騎士が一人、ニンブル・アーク・デイル・アノックと申します。お二人と従魔には貴族用の検問所をお通りして頂くよう国から仰せつかっております。我々に付いて来て頂けますか?」
「了解いたしました」
至って冷静に答えるモモンガの横でブリタは顔を引きつらせ「帝国4騎士……」と呟いていた。しかしニンブルに付いて行った先ではさらに驚かされることになる。
貴族用の検問所は、とても関所の施設とは思えない程豪華絢爛だった。ニンブル曰く、以前の貴族たちが贅の限りを尽くした名残であり、お恥ずかしい限りだという事だったが、ブリタを驚かせたのはそんな豪華絢爛な内装や装飾品などでは無く、そこで待っていた人物だった。
「やぁ、よく来てくれたね。二人とも、さっ、そんなところに立って無いでソファーに腰を掛けてくれたまえ」
その金髪の男は向かいのソファーに優雅に座っており、口調、仕草、衣装、装飾、そして何より、その身に纏うオーラが高貴な存在だという事を主張している。
ブリタが呆けていると、モモンガが促されるまま腰を掛けたのでブリタもそれに続いた。それを確認するとここまで【鉄の闘志】を案内したニンブルは、向かいの男の後ろに回り込むと従者の様に控えた。4騎士と呼ばれる程高位の地位に居る人間がその様に振舞う人物。つまり、目の前にいる人物こそは。
「さて、先ずは自己紹介をさせてもらおう。私は、ジルクニフ・ファーロード・エル=ニクス。この国の皇帝である」
「鮮血帝……」
ブリタがポツリと零したその言葉に、ジルクニフはニコリと笑う。
「世間ではそう呼ばれることもあるな」
「あ、し、失礼いたしました!」
「構わないとも、それと楽にしてくれ。この場は公式な物じゃないし、連絡もせずに突然接触した無礼を働いたのは此方の方なのだからな」
「は、はひ……」
王族どころか下級貴族さえ会話をしたこの無いブリタにとっては皇帝など雲の上の存在、そんな生涯自分とは何の関わり合いもないと思っていた立場の人間が突然目の前に現れたのだ。ブリタの緊張は計り知れない。
「まぁ、突然皇帝が目の前に現れて緊張するなというのも無理な話か、では時間も無いので早速本題に入らせて貰おう。そなたたち、私に仕える気は無いか?」
ジルクニフの突然の提案に、未だガチガチに固まっているブリタをおいてモモンガが受け答えをする。
「仕える?それは冒険者を止めて帝国の騎士になるということでしょうか?」
「そうだ、正確に言えば、貴殿らが従えているドラゴンを我が国の戦力としたいというのが本音だ。当然ドラゴンの活躍の分は貴殿らの報酬に上乗せするし、今後強力な魔獣を従える事が出来た際はさらに報酬を支払う。それに、もし貴殿らが特別な方法で魔獣を従えているのなら、そしてその方法が他の者にも実行できるものなら、その方法自体を国で買い取ろう。そうだな、帝国金貨で2000枚でどうだろうか?」
「金貨2000!?」
ブリタが目を金貨の形にして驚愕するが、一方その横でモモンガは冷静だ。
「方法はタダでお教えいたします。しかし、恐らく真似するのは難しいかと存します」
「ほう?」
ジルクニフはモモンガという人間を値踏みする。ブリタという女は金貨2000枚という金額に簡単に篭絡されそうになっていた。アダマンタイト級冒険者とはいえ当たり前の反応だった。しかしこのモモンガという人物は違った。それだけの大金を提示されてもまるで動揺を見せなかったのだ。ジルクニフはモモンガの言葉の続きを待った。
「我々は、道具やタレントを使って魔獣を従わせているわけでは御座いません。単純に力を見せつけることで彼らを従えています。ドラゴンは元々強いオスを中心とした群れに所属していました。そのボスを倒すことで彼らは私たちの配下に下りました。ハムスケ……森の賢王の方も、まぁ似たようなものです」
「……要するに、貴殿らはドラゴンをも圧倒する程の力を持っている、と?」
「そうなりますね。ただし、ドラゴンと言ってものピンキリです。私が知る限り
「なるほど………その
「そうですね。大雑把にでは御座いますが、大体150ぐらいでしょうか」
「「「「150っ!?」」」」
その場に居るモモンガが以外の人間の声が見事にハモった。その声にはブリタの声も含まれていたが、それに気づいた者はいない。
「そりゃいくら何でも法螺が過ぎますぜ。そんなもん人間に対処できる強さじゃない」
ジルクニフの後ろに控えていた一際大きい男が、とても皇帝の護衛とは思えない口調で言葉を発した。
「バジウッド、控えろ」
「あ、すみません。つい……」
「構いませんよ。しかし、難度150は決して人類で対処出来ない強さじゃない。例えば噂に名高いこの国の魔法詠唱者、フールーダ・パラダイン老ならば、事前に氷属性に耐性を持たせて、他の魔法省とかいう機関の魔法詠唱者たちと力を合わせて、弱点である炎属性の魔法を使い続ければ、犠牲は出るでしょうが確実に倒せるでしょう(相手が一匹ならな)」
モモンガの説明にジルクニフの眉毛がピクリと動いた。
「ほう、貴殿は随分と我が国の魔法省に関して詳しいのだな」
「世間一般に公開されている程度の情報しか存じませんよ。実は今回、我々がこの国を訪れたのはその魔法省に用があったからなのです」
「……その話、詳しく聞かせて貰えるかな?」
ジルクニフは背もたれから背を離し、前傾姿勢なってモモンガの言葉に耳を傾けた。
今現在、深い設定は考えずに書いております。まるで詳しい設定を考えずに思い付きを口にしてしまうモモンガ様みたいですね……それアカンやつや。