「陛下、ニンブルです」
執務中のジルクニフに扉をノックする音とニンブルの名乗りが聞こえて来た。
「入れ」
「はっ」
ニンブルは入室し、家臣の礼をとると、発言の許可も待たずに先ほどのフールーダと【鉄の闘志】のやり取りを報告した。
「なるほど……」
(ニンブルは魔法省の地下で行っている実験を知らない。当然の反応と言っていいい。……しかし、モモンガの要望を聞くに、奴は間違いなく魔法省の地下で行っている実験について知っていると思って良いだろう。一体どうやって情報を得たのだ?いや、これは今考えても答えが出ないな。問題は別だ。もしモモンガの研究というものが事実ならばやはり奴は魔法詠唱者の可能性が高い。それもフールーダを上回るほどの魔法詠唱者だ。くそ!かなり厄介な事に……いや?待てよ。そんな人物が魔法省の力を借りたいと接触して来たのだ。これはチャンスではないか?フールーダを超える魔法詠唱者を帝国が確保出来れば周辺諸国への牽制どころかパワーバランスを一気に崩せる。モモンガに恩を売りつつ本人に気づかれぬ様にゆっくりと首輪をつけていく………事は慎重に行う必要がある。もし敵に回してしまった場合被害は甚大な物になるやもしれん。それ以上に最悪なケースが法国のクソどもに取られることか。王国にモモンガの願いを聞くほどの力はないだろう。そもそもモモンガの力を見抜ける脳がないか。あの化け物皇女は気づくだろうが、周りの馬鹿どもが勝手に足を引っ張ってくれるしな。他の国も―――)
「陛下?」
思考の渦に囚われたジルクニフをニンブルの声がすくい上げる。
「ああ、すまない。我が帝国は【鉄の闘志】の要望を受け入れ魔法省の協力を許可――いや、命令する。【鉄の闘志】の研究を全面的にバックアップしろ。上手くいけばカッツェ平野のアンデット問題も解決するかもしれんぞ」
「陛下!?正気ですか!?アンデットの実験、研究などデメリットが多き過ぎます。お考え直し下さい!」
「そうだな。お前になら知られても問題ないだろう。実はな――」
ジルクニフは既に帝国でアンデット実験をしている事をニンブルに告げた。
「何と―――ではまさか、モモンガ魔法省の地下で行われている実験について知っていたのでしょうか?」
「だろうな。この国でも知っている者は極僅かだというのに、どうやって知ったのやら。ぜひその情報収集能力を帝国に貸して欲しいものだね」
「……そんな者を取り込むのはやはり危険では?」
「この私を誰だと思っている。魑魅魍魎が跋扈する王侯貴族を相手に帝国の改革を成した鮮血帝だぞ?力を持った冒険者ぐらい飼いならして見せるさ」
「……かしこまりました。パラダイン様には陛下の許可が下りたと伝えておきます」
「そうしろ。ところでニンブル。爺はタレントでモモンガが第何階位の魔法の使い手か調べていたか?」
「いえ、聞いておりません。ただ、特に反応されたご様子はありませんでした」
「ふむ、そうか」
(おかしいな。私の読み通りモモンガが爺を超える魔法詠唱者ならば、あの爺が大人しくしているはずもない。とすればモモンガが扱えるのは高くても第六位階?いや、それならばどうやってドラゴンを圧倒出来ると言うのだ?あの発言が嘘だったのか?いや、確かにそんな気配は無かった。何か特別なタレントを持っているのか?それとも強力なマジックアイテムを持っている、又は使い捨ての物を定期的に入手出来る伝手があるとか……いや、そんなものは一個人でどうにか出来るものか?……っと、如何な。また考え事に集中しすぎた)
「後で爺にタレントを使った結果を聞いておいてくれ」
「はっ!」
ニンブルは礼をとると、すぐさま部屋を後にした。