side:カルカ
「銅級冒険者のアルシェ?」
カルカにもたらされた情報は耳を疑うようなものだった。
「はい、間違いありません。ここ最近アベリオン丘陵の亜人どもを討伐して回っていたるのはそのアルシェという冒険者のようです」
ケラルトは至って真面目な表情で報告を続ける。彼女の性格を考えても冗談を言っているわけでは無いだろう。
「冒険者組合の話ではこの国の冒険者組合を訪れた事はないようです。また冒険者登録を行ったのは最近で、登録した場所は帝国の冒険者組合だとのことです」
「帝国?帝国の人間なのかしら?」
「詳しくは現在調査中ですが、アルシェの他に2人の冒険者が目撃されています。そちらは王国のオリハルコン冒険者チーム【鉄の闘志】というチームらしいとのことです」
「王国の?王国のオリハルコン冒険者チーム2人と帝国の銅級冒険者が聖王国の近隣で亜人たちを討伐して回っているの?」
「いえ、実際に戦っているのは銅級冒険者のアルシェのみの様です」
「……意味が分からないわ」
「私もです」
カルカが資料と睨めっこをしていると、その場に居たもう一人の女性が会話に加わってきた。
「そもそも、冒険者如きにその様な事が出来るはずもありません。亜人が討伐されているという情報が間違っているのでは?」
彼女はレメディオス・カストディオ。ケラルトの姉であり、聖王国騎士団団長である人物だ。
「姉様、その情報は既に精査済みです。アベリオン丘陵の亜人の数がここ数日で激減しているのは間違いありません。10傑の様な有名な個体の死骸こそ発見されていませんが、統率力を失った亜人たちが散り散りに行動をしていることから、討伐された可能性はかなり高いでしょう」
長年亜人たちの侵攻に悩まされてきた聖王国の人間にとっては喜ばしい報告の筈だが、この場にはそれを手放しに喜ぶ人間は居なかった。特に、レメディオスの表情は険しい。
「それでは何か?我々聖騎士団はたったの3人の冒険者…いや、そのアルシェとかいう冒険者1人に劣るというのか?」
問うレメディオスの声には強い怒気が込められていた。
「そうは言いません。聖騎士や守りに当たっている兵や民たちは亜人たちの侵入を防ぐという意味では大変重要な戦力ですし、現にここ最近は亜人の侵攻を許していません。アルシェという冒険者1人では攻め込まれた場合、城壁を守り抜くことは出来ないでしょう。まぁ、その冒険者にこの国を守る意思があるかは知りませんが」
「当たり前だ。民たちも国を守る為訓練を行っているからな」
レメディオスはケラルトの答えに満足そうに頷いている。
「……とは言え、守りにほぼ全ての戦力を割かなければいけない状況にあったこの国では亜人の討伐部隊などを編制するわけにはいかなかったでしょう。冒険者がこの国の問題を一気に解決してくれるならありがたい話ではあります……相手の正体や真意が分かれば、ですけどね」
「正体は銅級冒険者のアルシェとかいう奴なのだろう?分かっているじゃないか?」
レメディオスの能天気な台詞にケラルトは眉を顰め、カルカは苦笑している。
「さっき姉様もおっしゃった通り、銅級冒険者程度にそんな事が出来る訳もありません。冒険者登録した目的は定かではありませんが、本来の役職は別のところにある人物だと推測できます」
「煩わしいな。冒険者組合に言って、呼び出したらどうだ?相手が冒険者登録しているというなら、組合からの呼び出しには逆らえないだろう?」
「そもそも、我々に冒険者組合に命令する権利がありませんよ」
「何故だ?奴らとてこの国で活動しているのだ。国の命令を聞くのは義務では無いか?」
「―――冒険者組合は独立した組織です。下手に命令すれば冒険者全てを敵に回すことになりますよ?」
「ではこちらから出向くか?亜人どもの数が減った今ならそれぐらいの数は避けるだろう?」
「姉様の意見にしては建設的に思えますね。勿論危険もありますが……カルカ様、如何致しますか?」
カルカは暫く考えた後、顔を上げて口を開いた。
「分かりました。此方から接触を図りましょう。レメディオス、グスターボ副団長を呼んできて貰える?」
「はっ!」
カルカは3人の冒険者に接触させる人物として聖騎士団副団長であるグスターボ・モンタニェスという人物に白羽の矢を立てた。
立場を考えればレメディオス本人に向かわせるべきかもしれないが、彼女は説得や対話というモノにあまり向いていない、その点グスターボならば適任だろうと考えた結果だ。
こうして冒険者たちと接触し、目的や正体を聴取する役目を仰せつかったグスターボは、痛む腹部を擦りながら部下数名と共にアベリオン丘陵に向かって出立した。