どうしてこんな事になったのか……アベリオン丘陵に向かう一団の中、先頭から2番目、グスターボの斜め後ろを馬に乗り続くネイア・バラハは内心ため息をついた。
本来、聖騎士団というのは守りの要だ。城壁を巧みに使い、街に亜人たちを入れないように戦い方を洗練して来た。故に遠征には向いていない。勿論ある程度は訓練を受けてはいるが。
そんな聖騎士団に突如下されたアベリオン丘陵に出没する冒険者への接触するという任務に、聖騎士見習いであるネイアが選ばれたのは必然とも言えた。
彼女は父親譲りの鋭い観察眼で斥候の様な事を得意としていた。それは聖騎士団では異質な能力で、人によっては忌避する対象にさえなりえるものだった。
とはいえ、今回の様に遠征の様な任務に斥候は欠かせない、しかし外部の人間に頼る訳にもいかず、グスターボの一存でネイアがメンバーに選ばれたのだ。
現に、ここまでの道のりで、彼女の能力には幾度も助けられた。
誰よりも早くモンスターや亜人を見つけ出し、危険がありそうな植物を見抜くことまでも出来る。ネイアが居なければ負傷者が出ていただろう。
グスターボが自身が操る馬をネイアの方に寄せる。
「すまんな、ネイア・バラハ。本来聖騎士見習いの君に斥候のような事を押し付けて」
声を掛けられて、ネイアは顔をグスターボの方に向けると、彼はビクリと肩を震わせた。
(これは、かなり怒っているな……)
ネイアの目を見て、グスターボは内心でそう思った。
そう、ネイアの目はかなり怖いのだ。凶眼と呼ばれる父親譲りのその三白眼に、眉間に寄った皺、相手を射殺すようなその視線は、関わり合いの深い人間でなければまず間違いなく機嫌が悪いと受け取るだろう。
実際は、いつも通りの表情であり、別にネイアの機嫌に関係なくこの表情なのだが、今回遠征という特殊な任務の為に、ネイアの能力を聞きつけたグスターボがネイアをメンバーに抜擢しただけで、本来は副団長と聖騎士見習いが深く関わり合いになることなど無いのだ。グスターボがネイアの事を深く知らないのは仕方のない事だろう。
「構いません。任務ですから」
内心では勘弁して欲しいと思うネイアだが、流石にそれを素直に言葉に出来るほど子供でも無かった。
斥候の役割はかなり神経をすり減らすのだ。今回の任務に同行している騎士はネイアを覗くと12人。その12人の命を預かるのだ、一瞬たりとも気が抜けない。こんな事なら父親の訓練をもっと受けておけば良かった。ネイアは後悔するが後の祭りだ、今は自分が出来る範囲で全力を尽くそうと、気を張りなおした。
「そ、そうか。諜報部の情報から冒険者たちの次の出現場所とおおまかな日時は推測出来ている。恐らく明日の昼には接触出来るだろう。それまでよろしく頼む。まぁ、帰りもあるがな」
グスターボの言葉を聞いて、ネイアに一つの疑問が生まれた。
「あの。その諜報部の人が接触する訳には行かなったんですか?」
「外聞というモノがあるだろう。諜報部は表向きには存在していないようなモノだしな。相手が本当にたった3人で亜人たちを亡ぼせる程の力を持った人間なら誠意を見せなければマズイ事になりかねない。本来は団長が使者を務めるべきだと思うのだが……まぁ、適材適所というやつだ」
グスターボの答えに、しかしネイアの中には更に2つの疑問が生まれた。
1つは聖騎士団団長とはどんな人物なのかという事、聖騎士見習いであるネイアにとっては雲の上の存在の様なものだ。直接お目にかかることなど程んどないし、噂に関しては、その容姿や強さ、後は聖王女様との関係等ばかりだ。人となりは分からない。
もう一つはアベリオン丘陵で情報収集出来るほどの人間がいるのなら、何故――
「では何故、その諜報部の人に斥候役を頼まなかったのですか?私より適任かと思いますけど……」
「それも外聞の問題だよ。聖騎士である我々が諜報部の人間に頭を下げて人員を貸してくれなんて言えないだろう?」
「そういうものですか……」
「そういうものだよ……」
ネイアは眉間の皺を深めつつ、グスターボは腹部を擦りながら、互いにため息をついた。