「アルシェ様、宜しければ是非聖王国までお越しください。出来る限りのお礼とおもてなしをお約束します。聖王女様もきっとお喜びになるでしょう」
言うグスターボだが、もちろん彼にそこまでの決定権は無い。これは事前に予定されていた台詞だ。件の冒険者が対話が可能そうな相手だった場合、本国に招き入れ、相手の真意を探る。勿論どこぞの国の患者である可能性も高いので護衛という名の見張りをつけ、限定的な場所にしか通さない事が前提でだ。
「え?いきなり、そんな事を言われても……どうする?モモンガさん」
アルシェはモモンガに意見を求めた。自然に聖騎士たちの視線もモモンガに集まる。
「これはアルシェ嬢に提案された話だ。アルシェ嬢が自分で決めると良い。ただ、個人的な意見を言えば、受けて損は無いと思うぞ?一国に恩を売ったのなれば、聖王国で貴族に返り咲くのも可能なのではないか?」
モモンガの僅かに不敬な物言いに数人の聖騎士たちの手指がピクリと反応した。
「私は帝国の人間、どんな武勲を立てても聖王国で貴族位を賜る事は出来ない。それに私はもう貴族に未練は無い」
「そうか。それでどうする?アルシェが招待を受けたいのならば受ければ良いし、面倒なら断れば良い。我々は何者にも縛られない冒険者なのだから」
モモンガの言葉が終わるや否や、一人の聖騎士が荒げた声を上げた。
「貴様!!冒険者風情が聖王国からの―――」
しかし、その言葉は最後まで言い終わることなく、声を上げた聖騎士は吹き飛ばされ、地面を転がった。
彼を吹き飛ばしたのはグスターボだった。温厚な彼にしては珍しく、その顔は怒り、そして焦りに満ちていた。
「愚か者が!!」
今回のメンバーの選抜はグスターボに一任されたものだ。つまり彼の聖騎士の失態は自身の失態でもある。いや、自身の処分だけで済むなら御の字だ。相手はたった1人で亜人たちを半壊出来るほどの実力者だ。下手をすれば自国に多大な被害をもたらしてしまう恐れさえあった。
「部下が失礼な事を申しました。申し訳ありませんでした」
グスターボは深く頭を下げ謝罪した。
もし今後、彼らと何らかの取引や交渉を行うさいに、先ほどの事は間違いなく聖王国側の枷になるだろう。それを少しでも緩和するためには頭の一つぐらいさげる。ただ、副団長の頭では気休めにもならないだろうが。
グスターボが内心冷汗を流していると、モモンガが声を発した、しかしその内容はグスターボの予想とは違うものだった。
「別に気にしませんとも。冒険者なんぞやっていると、そういった態度を取られることにもなれるものですよ」
「そうね~…舐められたら終わりって考えの冒険者も多いから、あんまり褒められた態度じゃなかったけど、買いかぶられるよりマシね。帝国でなんて、いきなり皇帝自ら会いに来たし、その点アンタたちは常識的だと思うわ」
「そう言って頂けると、たすかります」
(皇帝自ら?つまり彼らは帝国の皇帝と繋がりがあるのか?もしや帝国の間者…いや、それにしては口が軽すぎる。ミスリードか?)
頭を下げたまま、思考を巡らせるグスターボを他所にモモンガは会話を進める。
「それでアルシェ。どうする?」
「私は―――」