1.出会い/泣き虫退治
小学生の頃、同じクラスに迅悠一という男子がいた。
彼は誰とも群れず、一人でどこか遠いところを見つめているような、そんな男の子だった。
かくいう私も似たようなもので、話しかけられれば答えるし、遊びに誘われれば行くが、決して自分から輪に混ざろうとはしない。
私達は全く関わったことがなかったが、お互い確実に"こいつとは仲良くなれない"と思っていた。
「こいつが前に言ってた迅悠一。な、
学校が終わり、そのままボーダーに直接顔を出した私は、笑顔で笑いかける最上宗一に引きつった笑みを返した。
「……」
「……」
お互い無言で見つめ合う。恋に落ちたとかそんなんじゃなくて、最悪だと心の底から思っているのだ。
確かに以前最上さんが面白い子を見つけたとか言ってたような気はした。
したけど、それがこいつだなんて__
「何」
「……いや、別に」
睨み合いが続く中、先に言葉を放ったのは相手だった。
無愛想な表情に冷たい言葉。私も似たようなものだが、全くもって印象が悪すぎる。
どうして最上さんはこんなやつを連れてきたんだ。
「そんな顔でこっちを見るなよ、大丈夫。すぐに仲良くなれるさ、お前達なら!」
相変わらずニコニコして私達の頭を荒く撫でるこの人に、その時だけは迅も私も同じ感情を抱いた気がした。
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:泣き虫退治
楓奏も迅も変わり者であった。それ故に学校では友達がいない。
遊ぶ友達も話しかけてくれる人も、誰も。
楓奏は勝手に似たもの同士だと思っているが、向こうはどうだろう。
一人ぼっちの二人が自然と友人になる展開があれば良いのだが、生憎それすらない。
ーー何か見られてるな
授業中、楓奏の斜め後ろの席から熱い視線を感じた。
その席は迅の席で、彼がこちらを見ているのはすぐに分かった。
最近ボーダーに加入した迅は、小南も混じえ良く三人で話す(喧嘩する)ようになったとはいえ、ここまで熱烈に見られる、いや、睨まれるのは初めてだ。
背中に何か付いてるのだろうか、それとも何か怒らせるようなことでもしただろうか、休み時間になったら聞いてみよう。
例えどんなに気に食わない相手であっても、自分に非があるのなら謝らなければ気が済まない。
そう心に決めた時だった。ガタッ、と椅子の音がして思わず振り向いた。
「……体調が、悪いので……保健室に行ってきます」
立ち上がったのは迅だった。真っ青な顔で慌てて教室を出て行ってしまった。
急なことに教室はざわめき、先生も焦った表情をしている。
「心配だから誰か見てきてくれる!?」
先生の言葉に更に教室がざわめく。変わり者の迅を追いかけて行く人なんてここには誰もいないだろう。
楓奏は軽くため息をついて挙手をした。
「私が行きます」
クスクス、と笑い声と話し声が聞こえてくる。
「変人と変人コンビ」「お似合い」「変な奴には変な奴だよな」
「静かに!!……じゃあ、出水さんお願いしてもいい?」
「はい」
クラスメイト達の声を聞こえないふりして、楓奏もまた教室を出て行った。
迅は保健室の扉の前で蹲っていた。というのも、保健室は養護教諭不在のため閉まっていたのだ。
蹲ったまま壁に寄りかかって泣いている迅に、楓奏は「泣き虫」と冷たく言い放った。
「…っ……なきむしでいいよ、もう……」
「私が良くない。泣き虫嫌いだし」
「……知らないよそんなの」
「で、どんな未来が視えたわけ」
迅はパッと顔をあげて楓奏を見つめた。
「俺が未来視えるって言ったっけ…?」
楓奏は静かに迅の隣に座った。
「最上さんから聞いた。私も似たようなもんだから、仲良くなれるだろって。……まぁ、私は未来は視えないけど」
「そう……」
数秒の沈黙。
保健室の壁には爪を綺麗にとか、辛いことは我慢しないで、とか、様々なポスターが貼られている。
重ねて貼っているのか被って見えないのもあるが、その雑さにここの保健室は生徒のことをそこまで気にしてないんだなということまで分かった。
「今日私の事をじっと見てたのは何か視えたから?」
何となくポスターを読みながら聞いてみた。
保健室の壁なのにプラネタリウムのポスターが貼ってある。場違いが過ぎるが、少し面白い。
「…うん、君が死ぬのと、最上さんが死ぬのを視た」
「へー」
「驚かないの」
迅にとっては予想外の返事だったのだろう、不思議といったようにハテナを浮かべた。
「別に、未来は作れる変えられる、だし」
それに対して楓奏はキョトンとした様子で答えた。
「なにそれ」
「私の考え」
「変な奴だな」
それはお互い様、と言うと顔を見合わせて小さく笑った。
初めて学校で笑ったかもしれない。
先程の教室内でのクラスメイトたちを思い出す。
『変人コンビ』『変な奴には変な奴』
それもそれでいいのかもしれないな、とおもう。
「最上さんが死んじゃったら悲しいなぁ」
「未来は作れる変えられるじゃなかったっけ」
「そうだけど、やっぱり死なないとは言いきれないでしょ、私も最上さんも。いつでも死ねるような環境にいるんだし」
「それは俺もだよ」
「じゃあ死ぬときは一緒に死ぬ?」
「ぜっっっっったいいやだ」
全力で首を振る迅が面白くて、もっと早く仲良くすればよかったなと今更考えた。
迅の涙もいつの間にか引っ込んで、少し顔色も良くなった気がする。
「……迅の視えたものは私には視えないけど、それを一緒に変えることは出来るよ」
「君はーー」
「?」
「……楓奏は、不思議だ。すごく不思議で変な奴」
唐突に悪口を言われたのかとムスッとする。
迅はそれを訂正するように「でも、」と続けた。
「そこがいい。今まで出会った人達と違うところがいい。ボーダーの人達も皆、初めてなんだ。…母さんが死んでから俺、ずっと悲しかったけど最近は少し前を向けるようになったよ」
はにかむように笑った迅が輝いて見えた。
勝手に似たもの同士だと思っていたが、楓奏にこの輝きはない。
ーーあぁ、私は迅とは違うや
「それは良かった」