泣き腫らした目を向けて「何それ」と一言だけ言う彼に、修学旅行のお土産だと買ったわけのわからない人形とお菓子を渡してやった。
「キモい」
「は、可愛いでしょこの人形」
「無理、センスなし」
いらないなら返せ、人形を取ろうと手を伸ばすが、サッと隠され、一応貰っておくと可愛げなく言われた。泣き腫らした目で見られるとなんだかいけない事をしている気持ちになるな。
「……あのさ楓奏。ボーダー辞めない!」
「突然すぎない?」
「ごめん、でも今言っとかないと言うタイミング逃す」
私がボーダー辞めたら、未来でも変わるのか。いや、変わるんだろうな。迅の言うことだし。
「辞めるのを勧めるなんてどうしたの」
「楓奏には、家族がいるから」
「……」
そうだ。私には家族がいる。切なそうな顔で見つめられ、少し動揺した。
私は私の死を必要ならば受け入れると言ったが、その後はどうなるのか考えたことなかった。親は、弟は。迅はそれを思って言ってくれていたのか。
「ごめん、おれ勝手なこと言った」
「……ううん、私の方が勝手だった」
ごめん、と二人の声が重なる。変なの、笑われたのにつられ私も笑う。
このまま生きたい。……やっぱり死ぬのは嫌だなぁ。
*
あっという間だった小学校生活。流石の卒業式には出席したようで、迅の姿を見て何故か嵐山が泣いていた。泣くところはそこじゃないだろ。
「はぁ、これで皆んなとお別れかぁ。寂しくなるわね…」
中学受験も無事終わり、ここを卒業すれば私達とも会えなくなる中原さん。
次に会うのは同窓会よ、なんてウィンクされ、何だかもうこのウザさともおさらばかと思うと寂しくなった。
「楓奏と迅は中学一緒だったな!来年からもよろしくな!」
嵐山がビシッと言うと隣で「きぃぃぃ!!うらやましぃぃぃ!!」と中原さんが叫んだ。なんかごめんな。
「卒業しても友達よ!!」
「...うん」
友達だよ。ずっと。
中原さんの潤んだ瞳につられそうになった。
**
中学生なったら、小学生の頃よりも外出の許可を得るのが楽になった。
簡単に外に出られるようになったので、ボーダーに行くことにした。
迅の姿が見当たらなくて、小南に聞いたら部屋に篭ってると教えてくれた。
ーー寝てるのかな
寝てたとして、起こしたら申し訳ないしとりあえずドアに聞き耳立てて様子を伺ってみようと耳をあて澄まして聞いた。
「うぅっ、ひっく」
ーー寝てない。けど泣いてる?
そっと耳を離してどうしよう、と考えた。
大体なぜ部屋でこもって泣いている?誰かに殴られでもしたのか。慰めるべき?そっとしておくべき?
私はうぅん、と悩んだ末、部屋に入ること決めた。
「おいこら泣き虫」
「っ!?」
堂々と部屋の入る私を見て迅は目を見開いた。
最近彼の泣き腫らした目ばかり見る。いつもの透き通る瞳はどこへ行ったのやら。
「わたし、泣き虫嫌いなの」
「しってるよ...ぐすっ」
鼻をすすって更に瞳を潤ませた迅を見て、無性にイラついた。
「馬鹿みたい。いつまで泣いてるの」
「楓奏はなにも視えないからわかんないんだよ!!おれのきもちなんて、わかんないからそうやって言えるんだ」
「なら分かるように言えばいいじゃん。どうしていつも一人で解決しようとするの?」
去年の夏祭りの時だって、本当は私に何を言いたかったの。
「今はまだ、何も言えない」
私達は知らない内にすれ違っていた。
「……大嫌い」
迅は何も言わないまま涙を流し続けて、私はただそこに立ち尽くす。
何も言わない。教えてくれない。
彼はそうやって私を一人にしてしまうのだ。