その日はあっという間にやって来た。
一瞬だったように思う。俺達は守るべきものを守るために戦い、死んでいった。
「.......最上さん」
返事はない。いつもみたいに笑ってくれるあの人はもういない。
不思議と落ち着くともう涙は出なかった。何度もこの光景を視ていたからだろうか。
ふと、隣に楓奏が立って、一緒に最上さんを見る。あぁ、お前は生きててくれたんだな。
「最上さんも進さんも、ダメだったのに。どうして私は生きてるんだろう」
どうしてだろうね。
そんなの理由はひとつだよ楓奏
「守りたいと、俺たちが思ってしまったからだ」
お前を、お前達を守りたいと。
"強く生きろよ"
地面に転がる黒い物体が、そう囁いた。
◇
ーー間に合わなかった。
戦闘中に迅を庇ったあの人を目の前で見ていたのに、手を出すなというあの瞳に私は動けなかったのだ。
「恐らく、あと半年もしない内にまたくるぞ。出来るだけ備えておかないとやられる」
私があの日戦闘に出たのは、その場所に迅や最上さん達がいると聞こえたからだ。
私のSEもこんなところで役立つなんて。
「とりあえず爆発事故という形で処理をしたが…」
大きな被害は出なかったものの、後処理は大変だろうなと他人事のように考えた。
賑やかだったボーダーのこの基地も、いつのまにか静かになって殺風景だ。
迅に叩かれた事もあったし、顔を見せるのは気まずかったのだけれど、ぶっちゃけ今はそれどころではないようだ。
陽太郎という赤ちゃんが生まれたのは聞いていた。顔でも見るか、なんて言われて思わず頷いてしまった私は、すやすやと眠る赤ちゃんを見てこんなに尊いものが存在していいのかと震えた。
「おれはこいつを守りたい」
迅が陽太郎の頬を触って呟いた。
「…私も、守りたいと思った」
中学生が言うようなセリフと空気じゃないよまったく。
重い空気の私達とは正反対に、陽太郎は可愛い顔して眠り続ける。
「楓奏は家族を守るんだ。それで、おれは陽太郎とお前を守る」
「意味分からない。そしたら誰があんたを守るの」
「おれは一人で大丈夫」
「言うと思った。馬鹿」
ぺしっ、と迅のおでこにデコピンしてやる。
最上さんが人ではなくなってしまったあの日からずっと、彼は前髪を上げ最上さんの真似をしている。
私にはやっぱり嵐山にしか見えないけれど。
「いたっ」
「この前叩かれたお返し」
「…悪かったよ」
ううん、私もごめんなさい。
陽太郎がゆっくり目を開いて私の姿を捉えた。大きな声で泣いて、尚更この元気な赤子を生かしてやらなくてはと心でじんとした。