「楓奏!迅!おはよう!!」
小学校の昇降口で、キラキラ輝く笑顔を見せながら挨拶してきたのは嵐山准だった。
昇降口では他の生徒が少しざわつく。迅と楓奏が一緒に登校するだけでもコソコソ陰で言われる程だというのに、人気者の嵐山が挨拶し、なおかつ親しくしてくるなどコソコソ話のレベルでは止まらないかもしれない。
「お、おはよう」
若干疲れた面持ちで嵐山を見つめ、そのまま上履きに履き替える。周りからの視線が痛い。
ーー良かった、嵐山くんと同じクラスじゃなくて
同じクラスだったとして、クラスからの視線はもっと痛いだろうな、そこまで考えてゾッとした。
「嵐山と楓奏って仲良かったんだ」
迅が靴を仕舞って嵐山と楓奏を交互に見た。
三人とも上履きに履き替えて教室に向かう。クラスは隣同士、途中までは一緒なので同じ方向だ。
「別に、わたしは仲良いとは思ってないよ。この前公園でばったり会った時にちょっと話しただけだし」
「なっ!おれは仲良いと思ってたんだが……」
シュン……とした嵐山に慌てて「あー!でも仲良くなった気もするかな!」と訂正を入れた。
「嵐山くんってどこか近寄り難い空気があったから」
「……確かに、嵐山はさ、アイドルみたいな気質あるよ」
「そうか?うーん、嬉しくはないな」
普通は喜ぶところじゃないのか、本気で嬉しくなさそうな顔を向けられ、やはり嵐山は変わったヤツだなと再認識した。
「そうだ、楓奏、迅、俺のことは呼び捨てでいいぞ!」
「うん、そうしようかなって思ってた。いつの間にかそっちが呼び捨てになってたし」
「良かった!呼び捨てだともっと仲良くなれる気がするよ!」
多分、いや、絶対に自分よりも、迅よりも変なやつだ。
だが、話していくうちに"これが嵐山"なのだと分かるのに時間はかからなかった。
*
それは誰が見てもわかるくらいで、唯一知らないのはまさかの本人だけだろう。
そんな彼女が楓奏に目をつけるのは時間の問題だった。
「出水楓奏さん!私と勝負しなさい!」
「……はい?」
それはあまりにも唐突で、楓奏の頭にははてなが飛び交っていた。
「いいこと!あなたがあの嵐山くんと一緒に登校なんておこがましいのよ!きーっ!羨ましい!」
「あー、そうですかぁ……」
どことなく小南に似ているなぁと思いながら、助けを求めるつもりで迅の方を見た。
迅は目が合うとサッと逸らし、そそくさ逃げるように教室を出ていってしまった。
ーーこんにゃろ……!
逃げやがったな、と思うと同時にバンッと机を叩かれ驚く。中原がじっとこちらを見て動かない。
「あの、私が中原さんと勝負する理由ないんですけど」
そう言うと、中原が今度は腕を組み怒った表情を見せた。
「あるわ!!嵐山くんと仲良くしてるからよ!あなたみたいなぽっと出のやつに嵐山くんが仲良くしてるのは、嵐山くんが優しいだけなんだからね!いい、どちらが嵐山くんにふさわしいか勝負よ!!!」
「え、ぇぇぇぇ…………」
ーー最悪だ
めんどくさい事になったな、誰か助けてくれ。楓奏の心の叫びは誰にも届かず消えた。
「私が勝ったら嵐山くんは私のもの!あなたが勝ったらーーまぁないでしょうけど。悔しいけれど嵐山くんは譲るわ」
「なんで????」
「とにかく!今日の放課後、学校近くの公園で待ってるから!!」
ビシッと突きつけられた指を「人に指さすのは危ないよ。印象悪いし嵐山に嫌われるよ」と指摘するとスッ…と下げたので、根はいい子なんだろうな。優しい目を向けた。
*
サァーッ…
向き合い対立している楓奏と中原を、舞った砂がかっこよく演出している。
『放課後、学校近くの公園で待ってるから!!』
昼休みに彼女が宣言した通り、中原は放課後すぐに公園で待機していた。
「まさか本当にいるとは」
「あなた中々やるじゃない……!このわたしを一時間近く待たせるなんてっ!」
宣言された側の楓奏はというと、普通に勝負を忘れて迅と嵐山と遊んでいた。
思い出した頃には放課後から一時間近く経っており、乗り気ではないものの迅と嵐山を連れて公園に来たのがここに至る経緯だ。
「一人で来いって言わなかった私が悪かったにしても」
中原は楓奏の後ろに控える迅を見た後に、隣に立つ楽しそうな顔をした嵐山を見て顔を赤くした。
「どーして嵐山くんまで連れてくるのよ~!!ばか~!!!!」
「そー言われましても……」
うへぇ、めんどくささが小南以上だな。早く帰りたいと思ったのが通じたのか後ろから迅が声をかけた。
「なぁ、俺らもう帰ってもいい?」
「はぁ!?なんで!置いてくの?私を?」
「いやほら、嵐山がここにいてもなぁって」
「じゃあ嵐山は帰して迅だけここに残れば?」
「……そんなに一人が嫌かよ」
はぁ、ため息をつく迅に当たり前でしょ、と腰に手を当てる。
「こんなめんどくさい事に私一人で巻き込まれるなんて癪に障るわ、どうせなら迅も巻き込まれときなよ」
「えー」
迅の嫌そうな声が聞こえたが聞こえないふりをして無視した。
「二人とも、俺もここに残るぞ。なんだか楽しそうだし!」
話を聞いていた嵐山がにっこり笑う。本人がそう言うなら、と迅も引き下がった。
「ちょっと!三人で仲良く話してるんじゃないわよ!わ、私も混ぜなさいよ!」
三人が固まって話しているのに痺れを切らしたのか中原が大声を出した。
積極的なのか消極的なのか分からないそれに、少し可愛らしさを感じた。
「いいぞ!中原さんも一緒に遊ぼう!」
「え"っ」
そんな中原の叫びに答えたのは嵐山だった。
予想外の返事に楓奏は変な声が出てしまった。迅は声は出さなかったものの、楓奏の方を見て「まじか……」と呟いた。
「えっ……!い、いいいいいの!?あ、ああ嵐山くんっ……!」
「…?あぁもちろんだ!」
「勝負はどうした勝負は」
嬉しそうに嵐山に駆け寄る中原と、頭を抱える楓奏。
結局は嵐山に丸く収められてしまったが、早く帰りたいという気持ちは相変わらずであった