庭ーーと呼べるほどのものではないが。
で繰り広げられるチャンバラは、大人と子供の遊びにしてはやけに真剣で鬼気迫るものであった。
「いいか!そこを避けながら足をかけろ!」
ーーいち、
「いいぞ!」
ーーに、
「もういっちょ!」
ーーさん!
ーーパンッ
大きく響いた音と同時に、忍田が楓奏の竹刀を背後で受け止めた。
完全に一本取れるつもりでいた楓奏は酷く驚いた顔を忍田にむける。
「今のは危なかったな……、きちんと教えた事が出来てるし満点だ!」
「……傷一つないくせによく言うよね」
ボロボロの楓奏に対し無傷で笑う忍田。これで満点ならかなり甘い採点だと思う。
「今日の稽古で確信した。楓奏は強くなった。ここに来た頃に比べたら、自分でもそう思うんじゃないか?」
「まぁ、そりゃ、来たばっかの時に比べたらね?……って、ここに来たのは強くなりたかったからだし」
「そうだったな、懐かしいなぁ」
昔を懐かしむように優しい瞳を向けられ、楓奏も自然とあの日を思い返す。
*
ボーダーは機密組織であり、誰もその存在を知らないし知られないようにしている。
故に、二年前この場所に楓奏が来た時はその場にいる全員が迷子だと思った。
ボーダーの外に子供一人置いておく訳にはいかないと、とりあえず室内に招き入れるが、大人達はどうしたもんかと頭を悩ませていた。
「えーと、迷子?」
最初に声をかけたのは林藤で、その問いかけに楓奏は首を横に振った。
「迷子じゃない。ここに来たら強くなれると思った。だからきた」
「…は?」
全員ぽかんと口を開けた。
何を言ってるんだこの子は、小学生だから仕方ない、子供だから仕方ないにせよ、自分の意思でここに来たのは確かだった。
「つーか平日の昼だぞ、学校はどうした」
「学校は、こわいからいや」
「怖いって……助けてくれ忍田、どうしたらいいか分からねぇ」
現在ボーダーには林藤、忍田、小南ーーはお昼寝中だが、三人がいる。
他はあいにく席を外しており、残念ながら楓奏の事はこの二人が処理するしかない。
「どうして学校が嫌なのか、差し支えなければ教えて欲しい」
忍田の問いかけにこくんと頷くと、楓奏は自分の事を説明し始めた。
「人の声が聞こえるの、みんなの声が」
「…ふむ」
触れたものの声が聞こえる。楓奏は眉一つ変えずに口にした。
この話だけを聞くと随分頭のおかしな少女に思えるが、ここは機密組織だ。
しかも非現実な事を取り扱っている。
「その能力が嘘か本当かは分かんねーけど、それが本当だとして、ここに来たのは正解だな」
林藤は急いで最上と城戸に連絡を入れた。
*
そして現在、最上と迅と楓奏、そして小南がぼんち揚を齧りながら当時のことを語っていた。
「ふーん、それでボーダーに入ったんだ」
「うん。…あっ!」
迅が楓奏の持つぼんち揚の袋に手を突っ込んだ。
中身は最後の一個しか残っていない。取られまいと袋をサッと迅から引き離すが、時すでに遅し、空っぽになってしまった。
「酷い……」
一人項垂れる楓奏に、最上が話を戻すように話し始める。
「でもま、迅が来ちまったから楓奏のサイドエフェクトもインパクト薄くなっちまったよな~」
「いいの!!」
楓奏のサイドエフェクトは簡単に言えばテレパシーのようなもので、聞こえると言うのは何でもかんでも聞けるわけではない。相手に触れて初めて聞こえるのだ。
「人の感情を何となく読み取る、とかは良くあるけど。それの延長線上で楓奏のサイドエフェクトは出来てる。インパクトは薄くても使い勝手はいいと思う」
特に外交とか。迅がフォローするように言った。
「…いつか役に立てるかな、この力も」
誰かの為になれたらいいな、と楓奏は呟く。
「なれる!楓奏はすごいんだから!!」
何故か誇らしげにそういう小南を見て、小さく笑った
(気色悪いなんて、ここじゃ誰も言わなかったな)