夏だって、と扇風機に顔を当てて涼む彼に「こんな暑いんだから夏でしょ」なんて馬鹿みたいな返事をした。
小学六年生になった私達は、早いものでもうすぐ始まる夏休みを今か今かと待ち構えていた。
「運動会明後日だよ、晴れるといいね」
私は迅の隣に座って首振りモードの扇風機がこちらに回ってくるのを待った。
「俺出ないからどうでもいい」
「そっか」
「楓奏は出るんだ」
「私は、家族がいるから」
そっか、と迅が私の真似をした。
私には家族がいる。迅と違って玉狛に住んでいるわけじゃないし、学校や生活に関しては縛りがある。もし、私が玉狛にいる人間だったならば、迅とその日を過ごしていたのかもしれないな。
「中原さんがリレー出るんだって。嵐山の為に一位とるって頑張ってた」
「へぇ、嵐山も変なやつに好かれるよな」
「ほんとにね」
わたしたちもその変なやつに含まれるんだよ、なんて。
「楓奏も何か一位とってきてよ」
はぁ?そんな雑なお願いあるか?
扇風機と一緒にこちらを向いた迅に、私はぽかーんとアホみたいな顔をした。
「…私パン食い競争しか出ないよ」
「いいじゃん、パン食い競争で一位。らしいよ」
「らしいってなによらしいって…!」
それはあれか、私がパンを食わえたまま走る姿が似合ってことか。お魚くわえたどらねこてきな。
「まぁとにかく俺の分も楽しんできなよ」
「…うん」
途端に寂しくなって声が小さくなる。
彼は明後日から少し遠くへ出かけるらしい。最上さんと二人で。
何となくそれが彼のSEに関わる事なのではないか、と分かってはいたのだが誰も教えてくれる気配はない。きっと私に言えばついていくと言い出すからだろう。
馬鹿だなぁ。着いてくわけないのに。
「ちゃんと帰ってくるんだぞ!」
「何それ嵐山の真似?似てなさすぎて笑える」
「やっぱ帰ってくんな」
*
雲一つない空に全員が声を揃えて晴れてよかったねと言う。快晴の運動会日和となり、うちの中原さんも気合十分だ。
「何だ、こんないい天気なのに迅くん休みなのね。もったいないわぁ」
「迅がいたらうちのクラスは優勝間違いなしだったのにな!」
迅がいないことに寂しそうにする二人に、私は体調不良で休みで~と言い訳をした。二人は体調不良は仕方ないと納得してくれたが、やはりあいつがいないと寂しいな。本人には言わないけど。
「今日は気合入れていくわよ!なんたって"最後"の運動会なんだから!!」
中原さんはギュッと頭の鉢巻を結び直していった。そうか、小学校最後の運動会か。
中学受験して都会の中学に通うという中原さんにとっては完璧な最後だ。
「私も、がんばるか」
同じようにギュッと鉢巻を結び直した。
私には、一位を取ってお土産だと渡さなければならない人達がいるので。