帰ってきたら運動会の話をしようと思っていた。
中原さんが出場種目の殆どを嵐山と一緒に一位総ナメしたこととか、私はパン食い競走でパンをくわえたままこけたこととか。(これは小南にめちゃくちゃ笑われた)
だから帰ってくるのを待っていた。けれどそれから数日経っても最上さんたちが帰ってくる気配はなく、林藤さん達に聞いてもわからないの一点張りだった。
「折角のお祭りなのにねー、まだ体調不良って可哀想」
りんご飴を片手に中原さんが呟いた。
今日は年に一度の夏祭りの日で、私は弟と行こうと思っていたが弟は友人と行くと誘いを断り、それを聞いた中原さんが私を誘ってくれたののだ。
別に一人でも良かったけど、誘われたから仕方ない。誘われたから。
第一こういう人が多い場所は声が聞こえてしまうから苦痛だし、行きたくなんてない……っていうと言い訳がましいか。
「あ、あれ嵐山くんじゃない?」
不意に中原さんが視線を横に持っていった。
「え、どこ?」
「あそこ!ちょっと私行ってくる!」
「えぇ...」
お前の嵐山センサーどうなってるんだよ。私は嵐山を見つけられないまま、隣からいなくなった中原さんに呆れる。
一人になってしまったし、とりあえずこの人混みから抜けよう。
私は人をよけながら端へ端へと歩き、いつの間にか小高い丘に立つ神社へと落ち着いていた。
「ここなら一安心かな」
「人多すぎ」
「ほんとにね、こんなに人多いなら来なければよかった」
「おまけに楓奏はコミュ障だからなー」
「コミュ障は余計なお世話!......って迅!?」
よっ、と片手を上げた彼は驚く私とは反対に悠々とした態度で笑った。どうしてここに、と思わず口にすると「帰ってきたから」と当たり前の返事が返ってきた。
「あとは、楓奏探してたらここにいるって聞いたからきた。」
探す?首を傾げると「話したいことがあるんだ」と真剣な顔をされ、私は息を飲んだ。何を話したいのか、なんとなく分かってしまったからだ。
「祭り抜けてさ、近くの公園行こうよ」
その公園には誰もいないから、という迅の言葉に頷いた。
*
夜の公園に小学生が二人。とんだ非行少年だ、と迅が笑う。ベンチに腰掛けて珍しく綺麗に輝く星々を眺めた。本題に入るまでの時間が長くて、唐突に口を開いた迅にビクッと肩を震わせた。
「あー、と。何から言ったらいいかわかんないけど、とりあえずただいま」
「うん、おかえり」
「それで、えっと」
「ハッキリ言ってよ」
「あー…。あのさ、楓奏は後数年後に死ぬよって言われたらどうする」
それは、私はもう死ぬということだろうか。
「それが必要な死なら受け入れる」
「それが小学生の答えかよ…」
そう言われても。
だってそういう生き方をしてきたのだから、仕方ないではないか。
「はぁ、それだけ?話って」
「いや、結構前に楓奏と最上さんがしぬ未来を視た話しただろ。あれが着実と確定に近付いてて、俺は…」
「それを阻止したいの?」
「うん、」
無理だよ。無理かな。
私も迅も空を見る。特に意味はない。綺麗な星だなって空を見上げる。
「私が死ぬことで誰かが救われるなら、それでいいかなって思うよ」
「簡単に死ぬなよな…」
「死ぬ気はないよ勿論」
「おれだって死なせないよ。最上さんも楓奏も」
うん。頑張ってね。
恐らくこの先に待ち受けているであろう私達の戦いに、まるで他人事のように答える。
空に星が流れた。