ようやく原作キャラを登場させられた……。
『帰還者』。
それは今から一年ほど前に起きた事件の当事者のこと。
帰還者という呼び名は、オカルト的な集団神隠しから帰還した者達を世間ではそう呼んでいたのでそのまま定着したのである。
何故、彼らがそう呼ばれているのかについては、彼らが語ったことから推測される。
なんと異世界に召喚されたということだ。
詳細は省くが、世間は相当盛り上がった
『らしい』なのは、その時の俺は日本にある武術道場にて山籠もりしていたからだ。
俺自身、そういうものに興味がなかったのもあって、全く知らなかった。
だが、新聞に載った写真を見た瞬間、俺もすぐに分かった。
異世界に召喚されて、しかも魔法と呼ばれる力を手にした。
そんな奴らが今まで通り普通に暮らせるわけではないだろう。
本人が意識して普通になろうとしても、周りは『異端』という色眼鏡をかけて、排除しようとするはずだ。
だが、事態は驚くほど急速に終息していった。
今まで絶好のネタだと追及していた世間は、もう原因を探ろうともしないし、知ろうともしない。
まるで、今までのことがすべて夢であったかのように……。
しかし、俺としてはこの現象に心当たりがある。
そもそも、世間は魔法の存在を信じてないからこそ、ああいう報道ができたのだろう。
だから、帰還者が語るファンタジー要素満載の話が嘘だと信じず、妄想の類だと判断したが、不可思議な現象ゆえに追及してしまうのだろう。
要するに、一般人は魔法の存在を認められないのだ。
認めたくないから、必死に否定し、存在しないものとして扱う。
今更、魔法や異世界の存在が出てきても、受け入れられるわけがないのである。
だが、普通に生きているだけだからこそ知らないのであって、この世界にも魔法は存在している。
特に、俺も出場している格闘大会では、魔法や呪術などの神秘的な力を使う者たちがわんさかいる。
彼らは俺のように格闘技一筋で戦うわけではなく、魔法を織り交ぜた独自の戦法で戦っているだけだ。
しかし、その魔法の威力は本物のようで、観客達はその戦いに魅了され、歓声を上げていた。
その光景を見てきた俺にとっては、彼らの言ったことを笑うことも嘘だと断言することもできない。
だからこそ、俺は彼らに敬意を表することにした。
しかし、俺が転校することと彼らの事情は別物だ。
俺としては、よくしてくれた奴等から離れられるなら大歓迎と言ってもいい。
だが、俺が転校したとして、転校先の『帰還者』である彼らが同じような異端であったとして、俺が受け入れられる保証はどこにある?
いや、それだけじゃない。
もしも、親父が薦めてくれた学校というのが、『帰還者』である彼らだけが特殊であって、他の者達が今通っている学校と同じであるならば、正直言って、転校する必要性はなくなる。
それでも推薦してくれたのは、親父の気遣いということになりかねない。
最近は仕事が忙しいとあまり家に帰らないが、毎日連絡は寄越すし、こういうところは考えてくれる人なのだ。
そんな親父を疑うような真似はできない。
それに、今いる学校に未練はない。
むしろ、俺みたいな不良がいるべき場所ではないと思う。
だからこそ、
「ここか……」
俺は転校を受け入れた。
親父に薦められた学校は、『帰還者』がいること以外、いたって普通の高校。
以前までは、マスコミが詰めかけていたそうなのだが、今はもういないとのこと。
だが、こうして来てみると分かる。
これは、俺が想像していた以上に異質な学校だと。
例えば……
「あらぁん? ねぇあなたぁ~いい男じゃなぁい~?」
「ジェリーさん!?」
体をくねくねとさせながら俺に話しかけてきた人間。
制服を着ていることから、この学校の生徒だということが分かる。
だが、それ以外がちょっとおかしい。
頭髪を一本に束ね、先の方をリボンで縛っている。
それだけ聞くなら、女子生徒だと思えよう。
しかし、見た目のインパクトが強すぎた。
先日戦った挑戦者「ブレッド・アーガス」と比べれば密度は小さいが、目に見えるほど鍛えられた筋肉の鎧を纏い、口調は女性でありながら、肉体は一般男性を上回り、軍人のような力強さを感じる。
そして、何よりも顔立ちが完全に男のそれだった。
周囲にいる生徒と比べても、頭一つ分身長も高いため、一見すると女には見えない。
そんな彼……彼女(?)は、俺の腕を掴んで離さない。
そして、顔を近づけてきて、背筋が粟立つような声で話しかけてきたのである。
俺は久しぶりに命の危機を感じた。
なんでこいつは、初対面でこんなに馴れ馴れしくしてくるんだ?
俺にそっちの趣味はないぞ!
と叫びたい衝動を抑えつつ、俺は一歩下がる。
だが、彼……彼女は逃がさんとばかりに、距離を詰めてきた。
「待ってぇ~そこの坊やぁ。わたくしぃ、あなたのことが気に入ったのぉ。だから、これから一緒にお茶でもどうかしらぁ?」
そう言いながら迫ってくる彼に、俺の顔は引きつっていただろう。
今持てる技術をすべて使ってでも、こいつを排除しなければと本能が警告してきた。
しかし、転校初日で問題を起こすのはどうかと思い、
「シッ!」
「あふんっ!」
掴もうとしてくる腕をすり抜け、首筋に手刀を落とす。
俺が回避したことに目を見開く間もなく、彼……オカマは気絶した。
「ふぅ……まさかジェリーさんみたいなのが日本にもいたとは……」
冷や汗をかきながら、とりあえず通行の邪魔にならないところまでオカマを運び、俺は校舎へと入っていく。
ちなみに、この学校の制服はブレザーであり、男子もスカートではなくズボンである。
だが、オカマはその例外に当てはまった。
理由は分からないが、彼の場合は性別が曖昧なために、あえて男女どちらとも取れるようにしているらしい。
まぁ、「オカマだから」と思っておこう。
それ以上考えるのは、何かを越えてしまいそうだったからだ。
「一先ずは、先生に会いに行こう」
そうして俺は、周りの視線を集めつつ、職員室へと向かっていった。
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「初めましてですね! 小嶋竜平君! 私があなたの所属するクラス――『特別クラス』の担任、畑山愛子です!」
「よろしくお願いします畑山先生。小嶋竜平です。迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
たどり着いた職員室にて、俺が所属する『特別クラス』の担任である畑山愛子先生に出会った。
年齢は二十代半ば(身長百四十センチほどなので、まったくそうには見えなかったが……)といったところで、髪ボブカットにした愛嬌のある女性である。
他の教職員に嫌われているわけではなさそうなので、人柄としては安心できそうだ。
「それでは! 今からホームルームが始まるので、その時に自己紹介をしましょう! 心の準備はできていますか?」
「大丈夫です。普通にやりますよ」
「なら安心ですね! クラスは最上階の隅にありますので案内しますね!」
「お願いします」
特に当たり障りのない会話の後、畑山先生の後について行き、ある教室の前にたどり着いた。
何やら騒がしいのだが、気にしない方向で行こう。
「では、私はホームルームを始めてきますので、呼ばれたら入ってきてくださいね?」
「分かりました」
そして、畑山先生が中に入っていく。
俺は一人、廊下に取り残された。
適当にジャブを繰り返して、気持ちを落ち着ける。
(ふぅ……今のところはオカマがいたくらいで、あとは普通だな……このクラスもそれなりに普通だといいが……)
「小嶋君、入ってきてもいいですよ~」
「はい」
俺は息を吐いて、扉を開けた。
するとそこには、先ほどまで騒いでいた生徒たちの姿はなく、全員席に座っていた。
そして、俺が入ってきた途端全員の視線が集中する。
視線には、俺に対する興味や警戒心、敵意などが含まれていた。
それにため息を吐きつつも、俺ははっきりとした声で自己紹介を始めた。
「『特別クラス』の皆さん、初めましておはようございます。小嶋竜平です。父はとある企業の会長、母は専業主婦をしており、俺自身は武術をたしなんでおります。もしかしたら、迷惑をかけてしまうかもしれません。それでも良くしてくれたならば幸いです。卒業までの間、よろしくお願いします」
俺が自己紹介を終えると、生徒達はポカーンとした表情を浮かべていた。
おそらく、俺の態度に驚いたのだろう。
まぁ、理解はできる。
パッと見、不良でしかない俺がこんな自己紹介をしたんだ。
しかし、それも束の間、すぐに拍手が起こった。
どうやら、俺の挨拶は好評だったようだ。
中には、口笛を吹いて囃し立てる奴もいたけどな。
「はい! 新しく入った小嶋君です! 皆さん、仲良くしてあげてくださいね~」
「「「「「「「「「「は~い」」」」」」」」」」
「では、小嶋君はあそこの席でいいですか?」
「大丈夫です。目が悪いと言う訳ではありませんので」
「それならよかったです! 席の近い玉井君に相川君。小嶋君をよろしくお願いします!」
「「りょうか~い」」
それからは普通に授業が始まった。
数学の授業。
現代文の授業。
英語に日本史。
それらはつつがなく終わった。
途中、なんだか様子のおかしい先生や、英語の先生が泣きながら教室を飛び出してしまったが、それは些細なことだ。
「さて、昼休みか……」
午前中の授業が終わり、昼休みへと入ったところで、俺は持ってきていた荷物から弁当とシェイカーを取り出す。
弁当は筋肉がつくようにと、おにぎりに野菜とささみのサラダ。
シェイカーはプロテインを飲むためだ。
戦う者として、日々の肉体改造は欠かせない。
そのために、こうして毎日欠かさないようにしている。
そして、いつも通りシェイカーでプロテインを飲み始めた時だった。
「なぁ、小嶋だよな?」
「ん? そういう君は玉井君と相川君……であってるよな? それと君は……」
「敬称なんてつけなくていいぜ。俺は玉井
「俺は相川
「仁村
「淳史、昇、明人か……改めてよろしく頼む」
俺は三人の名前を覚えつつ、会話を続けた。
「なぁ、小嶋。お前のその飯、めっちゃストイックというか、筋肉に良い奴ばっかりだな」
「それでそのガタイ……前の学校では運動系の部活に入っていたのか?」
「いや、趣味で武術を学んでる。親父の実家がそうだし、親父自身が俺に教えてくれていた。それからは癖になってる」
「へ~もうムッキムキなのにさらにムッキムキになるのか……
「龍太郎……あそこにいるガタイの良い彼か?」
「そ、空手部に入ってる。ちなみに、一緒に飯を食べてる谷口
「羨ましいぞくそがぁ……!」
「なるほど……」
そう言いつつ、俺は食事を進めていく。
いつも通りの旨い飯を、ゆっくり味わって食べる。
すると、三人とも俺のことをじっと見つめてきた。
特に、俺は気にせず食べていたが、あまりにも見てくるので、ついに俺は口を開いた。
まぁ、どうせ俺のことが気になったとかだろう。
だが、それを遮るように、俺が持ってきたバッグの中から爆音が漏れ出た。
まるでゴングを鳴らすような音と歓声のような音声。
これは俺のスマホの着メロだった。
「うるっさ! なんだこの音!」
「すまん。スマホの電源を切るのを忘れていたようだ。授業中に使ってはいけないが、スマホ自体は持ってきてよかったと聞いて、油断していたようだ」
「な、なんか……ごめんな?」
そして、俺はスマホを取り出し、画面を見る。
すると、そこには【着信:Mr.ジョン】の文字が表示されていた。
それを見た瞬間、俺は反射的に通話ボタンを押してしまった。
「もしも――」
『ヘイチャンプ!! ビッグニュースだぜ!! 予選の中継をつけな!! びっくりすると思うぜ!!』
キーン!! という盛大な音割れと共に、俺が出場している大会の実況役「Mr.ジョン」の声が聞こえた。
そして彼の指示通り、スマホを操作して、大会の予選中継を再生した。
そこには……
『ハッハー! チャンプに繋げたところで実況に戻るぜ!! 皆様お待たせいたしました! これより始まりますは、本日のメインマッチ! 第一回戦の開幕です!』
そして、画面に映ったのは大量の観客と、先日俺が参加していた大会にも使用されていたスタジアムだった。
相変わらず、やかましいながらも盛り上げることには成功している実況に耳を傾ける。
……が、突然のことに理解が遅れたものの、持ち直したクラスメイトの視線が集まってしまった。
「な、なぁ小嶋。それってなんだ? しかも今チャンプって……」
「すまん話している暇はない。次の対戦相手が決まるかもしれないんだ」
「つ、次? 対戦相手? いや、何のことかわからねぇんだが……」
困惑する淳史たちを無視しながら、俺は再び試合の映像へと意識を向けた。
試合の状況に集中する俺を観察するように見てくる男子生徒に気づかぬまま……。
戦闘シーンはもっと先になりますので、気長にお待ちください……。