戦闘シーンは先と言ったな。
あれは嘘だ。
『おいお前ら! チャンプが見てるんだぜ! もっと盛り上がっていけよな!!』
『『『『『『『『『『ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』』』』』』
スマホから中継先のスタジアムで巻き起こる歓声が聞こえる。
その声は、転校した学校の教室でも響き渡っていた。
あまりの音量の大きさに、俺は思わず顔をしかめる。
しかし、それは仕方のないことだ。
入場者数、およそ一万人。
それほどの人数がいれば、当然その歓声も大きくなる。
そんな彼らの声援を受けながら、二名の戦士がリングに上がっていく。
『さぁ! 赤コーナーからの紹介だ! まずはコイツ! 異国からこの大会を聞き付けて、遥々海を渡ってやってきた! おっと、流石に泳いではきてねぇぞ? その筋肉量なら十分あり得るけどな! 【重戦車】タンクマンだぁあああ!!』
『『『『『『『『『『ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』』』』』』
『フゥウウウウ……』
その紹介と同時に、会場が沸き上がる。
それに応えるかのように、筋肉を見せつけるポーズをとる男。
ブレッドとまではいかないが、それでも相当な筋肉量を誇るであろう大男――タンクマン。
その体は全身鎧のように分厚い筋肉に覆われており、まさに重戦車という言葉が相応しい。
その体格を活かした戦い方は、間違いなくパワーファイターだろう。
しかし、力任せじゃこの大会では勝てない。
『さぁ! ある程度あったまってきたところで青コーナーだ! 次のやつも癖があるぜ! タンクマンが海を渡ってきたならば、こいつは陸を渡ってきた! 生粋の山育ちでジャパンの神秘! 【忍者】フーマだぁあああ!』
『『『『『『『『『『ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』』』』』』
『フッ……』
次に紹介されたのは、忍装束に身を包む小柄な少年だった。
顔はマスクで隠されており、体つきからして鍛えられてはいるが、筋骨隆々としたタンクマンほどではない。
見たところ、スピード重視のタイプだろう。
タンクマンの肉弾戦に対して、相手の土俵で戦うつもりだろうか。
いや、忍者を名乗るからには搦手を使ってくるのだろう。
そう予想を立てていると、実況が選手の説明を始めた。
『片や文字通りの重戦車! 片やジャパンの神秘、ニンジャだぜ!! さぁ、どっちが強いのか、会場の皆様! それにチャンプ! ご一緒にカウントダウンをお願いするぜ!!』
実況に合わせて、観客たちも盛り上がり始める。
それに合わせるようにして、俺も心の中でカウントを開始した。
『『『『『『『『『『3!!!!』』』』』』』』』』
『『『『『『『『『『2!!!!』』』』』』』』』』
『『『『『『『『『『1!!!!』』』』』』』』』』
『『『『『『『『『『Fight!!!!』』』』』』』』』』
カーンッ!!!
『オォオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
『…………』
試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。
それと同時に、先に動き出したのはタンクマンだった。
彼は、自慢の拳を振りかざし、一直線に相手に向かって走り出す。
それに対し、フーマと呼ばれた男は、その場から動かずに構えた。
その様子はまるで居合抜きをする侍のようであった。
そして、タンクマンの拳が接触する瞬間――
シュン!!
『なっ!?』
『あぁっと!! タンクマンの拳が接触する寸前でフーマの姿が消えてしまったぞ!? その代わりにフーマが立っていた場所には丸太があるのはどういうことだ!?』
『マジかよ!?』
『あれはカワリミノジツ!?』
『ジャパニーズニンジャは本当にいたのか!?』
実況の言葉通り、タンクマンの攻撃が当たる直前、フーマがその場に丸太だけを残して消えたのだ。
そして、消えた彼の代わりに存在していた丸太をタンクマンは思いっきり殴りつけていた。
その光景に会場がざわめく中、俺はフーマが使った技の正体を理解した。
(あの術の名は……隠れ身の術。何かを身代わりにし、それを遮蔽物にすることで相手の視界から逃れる技。普通なら身に纏っていた衣服のように、広がって視界を遮りやすいものを使うはずなんだが……あのフーマは、漫画のように丸太を使っている。……相当な実力だな)
俺は、冷静に分析しながらも、その技術の高さに感嘆していた。
この世界では、魔力を用いた魔法が存在するため、そういった非現実的な事象に対する耐性が一般人よりも高い。
そのため、こういった隠れた技術を目にする機会は多いため、驚きはしなかったが、それでも素晴らしい技術であると思った。
だが、タンクマンにとってその事実はあまり関係なかったようだ。
彼は、攻撃が不発に終わったことに驚くこともなく、すぐに視線を周囲に巡らせ始めた。
その行動は恐らく、姿を消したとはいえ、まだ近くにいるかもしれないという警戒心によるものだろう。
しかし、その判断は間違いだ。
何故なら、もうすでにフーマは
そして、そのことを証明するようにタンクマンの背後に人影が現れた。
その人影は……フーマだった。
『なっ!?』
『シィッ!』
『ぐおっ!?』
『いつの間にか背後に回っていたフーマがタンクマンへ強烈なサマーソルトキックを炸裂させた! これは効いているぞぉおおお!!』
『どうやら、先程の技で攻撃を回避し、リングの上――照明足場に上がっていたようです』
実況の言うとおり、タンクマンの巨体が軽々と宙に浮くほどの蹴りだった。
しかも、その勢いを利用して回し蹴りまで繰り出した。
その一撃によって、タンクマンはリングの端へと飛ばされる。
若干空気になっていた解説のMr.ブローの言う通り、フーマはその足で跳躍し、飛び上がることで足場にいた。
おそらく、あの跳躍力もニンジャの技術の一つだろう。
そう推測しながら、俺は目の前の戦いに集中した。
『ッ! ウォオオオオオオオオオオオオ!!』
吹き飛んだタンクマンは、すぐさま体勢を立て直すと、そのまま突進してきた。
それに対して、フーマは再び姿を消す。
しかし、今度はタンクマンも慌てずに周囲を見渡している。
それは、一度失敗したことで学習したということだろう。
『ふんっ!!』
『……っ!』
それが功を奏したのか、タンクマンが拳を振るうと、その拳圧により風が巻き起こった。
その風に煽られて、フーマの姿が現れる。
やはり、タンクマンから見れば、フーマは完全に姿を消しているわけではない。
そして、自身よりも小さい相手ならば、拳が届く範囲にいることは分かっていた。
だからこそ、あえて拳を振って、風を巻き起こしたのだろう。
それによって、フーマの姿を露わにした。
だが、タンクマンの攻撃はそれだけではなかった。
『おぉっ!!』
『くっ!』
拳を振りぬいた勢いそのままに体を回転させ、裏拳を放ったのだ。
それにより、フーマの顔面に直撃すると思われたが、フーマはそれをしゃがみこむことによって回避する。
その後、フーマは忍者刀を抜いて斬りかかる。
しかし、タンクマンは、忍者刀の軌道上に腕を置くことにより、受け止めることに成功した。
刃を受け止めても傷がつくことはないようで、驚愕に目を見開くフーマを見て、不敵な笑みを浮かべるタンクマン。
効果がないと判断したフーマはすぐさま距離をとり、タンクマンは距離を詰めて拳を繰り出していく。
それにしても……
「刃を通さないほどの筋肉……目の肥えてるジョンの視界から外れることができる速度……二人ともこの大会に出る資格はあるみたいだな」
「感心してないで説明してくれよ小嶋ぁ!? これ何の大会だよ!?」
「アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」
「筋肉で刃物を受け止めた!? どうなってんだ!?」
俺がスマホに映る戦いを食い入るように見ていると、先程まで話していた淳史たちが騒ぎ始める。
正直言ってうるさいのだが、話さない事には何も進まないので、仕方なく説明することにした。
「これは俺も出場している格闘大会――『ザ・ファイターズ・オブ・キングダム』の中継。さっき、俺に電話をかけてきたのは、この大会の名物実況者「Mr.ジョン」だ。その実況者が言っている通り、この試合はトーナメント形式の格闘技大会。今戦っている二人は、『ザ・ファイターズ・オブ・キングダム』の出場者。タンクマンは、あの肉体が自慢のファイターだな。フーマの方は、あの身のこなしから見て、忍者の家系に生まれたと思われる。まあ、あれだけの技術を持っていれば、本当の忍者でもおかしくはないけどな。ちなみに、ニンジャは現存しているそうだ。このあたりで言えば、八重樫ってところもそうらしい」
「!? えほっえほっ!?」
俺が解説をしていた時、「八重樫」の名を出したところで、誰かがむせたらしい。
取り敢えず、それは無視して話を続けることにした。
「この大会は、基本的に12歳から参加でき、俺は中学校に入ってからはずっとこの大会に出場し続けた」
「中が……!?」
周りから驚きの声が上がる中、俺は気にせずに言葉を続けた。
別に隠すことでもないし、知られたところで避けられるなら今知ってもらった方がいい。
……下手に仲が良くなって、後々後悔するぐらいならな……。
「大会には勿論賞金が出る。優勝すれば、日本円にして1000万前後。大会の興行収入によって変動するがここらへんだろう。だから、腕っぷしがあり、金に困った奴らがこぞって参加する。だが、それだけでなく、こういった大会で名を売れば、さらなる強者が挑みに来る。つまり、ここに参加する連中は、強さを求めているわけだ」
「そ、そうなのか……」
「そして、俺もここに出場するためだけに努力を続けてきた。……しかし、一度も勝てなかった。毎回、ベスト8くらいで終わっていた。……そんなある時、ある男達に出会って、初めて優勝することができた。日本の格闘家。海外の陽気なファイター。とある財閥のトップ……様々な人との戦いの経験が、俺を強くしてくれた」
「おぉ……」
そう言うと、周りの連中の顔つきが変わった。
警戒心……というよりかは、興味深そうな表情をしているように思える。
俺は、それを確認してから、再び口を開いた。
「この大会は、強者を決めるための戦い。そして俺は、強い奴に会うためにその頂点にいる。自分の高みを目指すために……。だからこそ――」
そこで、俺は言葉を区切って、視線を鋭くさせる。
すると、それを感じ取ったのか、周囲の空気も張りつめたものに変わった気がした。
その空気の中、俺はゆっくりと立ち上がる。
そして、右手を前に出し、拳を握るような仕草をして見せた。
「――俺は勝つ。絶対に」
そう宣言する俺を尻目に、タンクマンとフーマの戦いは、さらに激しさを増していった。
次回も頑張る。