『いよいよ、全国魔法科高校親善魔法競技大会───通称、九校戦が開幕です。今回は例年通り、本戦と新人戦を各5日間ずつ、計10日間に渡って開催されます。今年の注目は、一高が前人未到の三連覇を達成できるのか。それとも、三高が再び三連覇を阻んでしまうのか』
開会式を終え、本戦最初の競技スピード・シューティングが始まろうとしている中、総司は普通の生徒とは違う場所へと向かっていた。
自分が出る競技の本戦にも関わらず、総司はそんなこと関係ないとばかりに歩いていた。
「……ここか」
そこは応接間のような場所であり、要人が使う部屋だ。総司はそこのドアをノックする。
「……失礼します」
「入れ」
その部屋の中にいたのは日に焼けた肌をした男臭い風貌の男、一条剛毅だ。
「……なんの御用でしょうか、父上」
「……畏まるな、別に公の場でもない。普通に父さんでいい」
「父さん、何かありましたか?」
総司は剛毅に座るよう促され、座ってから用を聞く。
「2つ、用があった。1つ目は、お前の人脈についてだ」
「……父さんには話が通っているものかと思っていました」
「あぁそうだな……会社の社長が多いとはよく言ったものだ……とんでもないモンが出てきたじゃないか……!」
憎々しげにこちらを見る剛毅。総司は飄々としながらその視線をひらりとかわす。
「ホクザングループの総帥が出てくるとは思わなかったぞ。しかも他にも色々な著名な企業の社長がこの前のパーティーで挨拶してきた……!」
胃が痛そうにする剛毅。剛毅は海底資源採掘会社の社長をしているのだが、何故かホクザングループのパーティーに呼ばれたのだ。断るのも忍ばなかったので受けると、潮やこの前のパーティーの赤山などが挨拶してきて心中で仰天していたのだ。
「……他にもだ、お前…私兵を溜め込みすぎじゃないか?」
「……なんのことでしょうか?」
「この前俺が知っていたお前の私兵の1人である霧雨 正雪が見知らぬ者を連れて挨拶に来てたんだよ…!」
総司の代表的な私兵は正雪と石山の2人だが、他にも魔法師や幻術使い、はたまたエクソシストなんかも抱えている。
これらの給料は全て総司の稼ぎから出ているから剛毅も文句は言えない。ちなみに総司は他にも色々なものに手をつけているが、それを剛毅が知ることになるのは当分先だろう。
なんにせよ、剛毅の胃は穴あき寸前だ。財界のビッグネームに優秀な知らない私兵……総司は隠し事が多すぎるのだ。
「……まぁ、いい。やりすぎるなよ、総司」
「わかりました。それともうひとつのご用件は?」
胃が痛くなるのを我慢して、剛毅は総司のことを総司自身に丸投げした。なんかもう自分の手に負えないような気がしてきたのだ。
「九校戦だ。十師族関係は気にするな。全力でやれ。俺の言葉が虚言では無かったということを世間の馬鹿どもに見せつけてこい」
「わかりました。完膚なきままに、新ソ連と同じような気持ちになるくらいやってきます」
「……それはやめてやれ」
あっはっはと、2人は個室で笑い合う。笑い声を通りがかりで聞いた者たちはなんだなんだと思っていたが。
途中から七草真由美の試合を観戦し始めた総司。その試合は圧巻だった。正確すぎる射撃で一つ一つのクレーを丁寧に潰して行き、100点を決めていく。
流石は十師族の子息連中の中でもトップクラスと言われている魔法師だなと思っていると、総司の目の前にひょこっと1人の少女が現れた。
「探したよ?」
「すまない、現地入りしていた父さんに呼ばれててな。そういう雫こそどうしてここに…光井さん達はどうしたんだ?」
「ほのかは深雪達と達也さんたちの所で観戦してる。私は総司を探しに色んなところを駆け回ってた」
「……一緒に見ようか」
「うん、そうする」
総司は少しいたたまれない気持ちになりながら雫と観戦する。
「総司なら勝てる?」
「……スピード・シューティングの土俵ならやはりあちらの方が強いな。クラウド・ボールの場合なら勝てる可能性はスピード・シューティングよりも高くなるが……」
スピード・シューティングの場合、総司が新人戦で取ろうとしている戦法では勝てない可能性がある。ドライ・ブリザードというドライアイスを撃つ魔法を主に使っているため、水を司れる総司なら溶かすなりなんなりと何とか出来そうではある。
だが、妖精姫と呼ばれている七草真由美がドライ・ブリザードしか使わないとは考え難い。サイオンの塊を放出してくる場合、総司は妨害が出来なくなる。その場合は単純な魔法勝負となるため、総司が勝てるかは少し分からない。
それに七草真由美には魔弾の射手やマルチスコープがある。スピード・シューティングで勝てるかは、本当に微妙なのだ。
クラウド・ボールの場合、総司にはどうとでも打ち返すことが出来る。水流で打ち返してもいい、氷の兵に打ち返させてもいいのだ。
クラウド・ボールで使うであろう、ベクトルを反転させるダブル・バウンドは厄介な魔法ではあるが、総司の魔法力でベクトルを強制的に変えることも可能であるため、総司はクラウド・ボールの方が勝率は高いと踏んだのだ。
「……まぁ、それも戦ってみないと分からないし、俺の目下の敵は将輝と真紅郎だ。俺はどちらかというと一高の方が通っていて楽しいと思うから…負ける訳には行かない」
「……」
「……どうしたんだ?」
「そう言ってくれると誘った甲斐が有る」
そう言う雫の顔はいつもの無表情でも、総司に甘えている時の表情でもない、純粋に嬉しそうな表情を浮かべていた。
翌日のクラウド・ボールは何も無く、ただ雫と観戦するだけで終わったが、その翌日、バトル・ボードとアイス・ピラーズ・ブレークの日に事件は起こった。
総司は1人でアイス・ピラーズ・ブレーク男子本戦の観戦に向かっていた。雫はバトル・ボードの観戦に行きたいから、という理由でその時は1人だった。
「(あれが、十文字家のファランクス)」
ファランクスと呼ばれる魔法を見ていた。4系統8種、全ての系統種類を不規則な順番で切り替えながら絶え間なく紡ぎ出し、防壁を幾重にも作り出す多重移動防壁魔法。
その魔法を使うには4系統8種の魔法全てを完璧に使えねばならないのだろう。雄々しく立ち塞がる
「……ファランクスか」
総司の魔法はどれも水が含まれている。水が含まれない魔法も使いたい総司としてはファランクスはとても貴重な情報が詰まった魔法だ。
「(ファランクスとまでは行かなくとも、それと同じような魔法を開発したいものだな……)雫からか」
九校戦で新たに固まった決意を胸に刻みながら震える端末を見る。そこには雫からのメッセージがあり、久しぶりに達也達とご飯を食べないかという誘いが書かれていた。
断る理由もないので受けようとし、一足先に食堂に向かおうとした、その瞬間───
「なんだ?」
先程連絡が雫から来ていたにも関わらず、雫からまた連絡が来ていた。
それを見ると、総司は顔を青ざめさせた。
一高のエースの1人である、渡辺摩利がバトル・ボードで事故に巻き込まれた、という連絡だった。
次回から新人戦です。スピード・シューティングをどうやって乗り越えるのか、ご期待下さい。