九校戦・本戦も一段落し、新人戦が始まろうとしていた。今日の新人戦の種目はスピード・シューティング。男女合わせて総司、雫、栞、真紅郎が出る種目である。
総司は控え室でスピード・シューティングのウェアを着てアーカイブのダウングレード版を持ってイメージトレーニングをしていた。
昨日摩利が怪我をしたと聞いて顔を青ざめさせていたが、無事と聞いてそれ以上の心配はせず、己の競技に集中している。
「……ここから、俺の下克上が始まる。立ち塞がる奴らは……」
「新ソ連のゴミ共、USNAのスパイ共と同じように蹴散らしてやる……ッ!」
剛毅の言葉は届いていなかった。
総司の端末には剛毅や将輝、愛梨達や雫、取引先の社長さんや私兵からの激励が送られてきていた。総司はその言葉と今までの苦汁を混ぜ合わせて敵を蹴散らして行こうと考える。
「まずは父さんを嘘つき呼ばわりした十師族のゴミ共と数字付きのゴミ共をあっと言わせてやるさ……ッ!」
「雫の試合が見れないのが残念だが……」
総司がそろそろかと時計を見ると、係の人がそろそろ出てきて欲しいと言ってきたので総司は出ることにした。係の人は総司の真っ黒なヤバそうなオーラに恐怖していた。
『スカイアイランドTVは4日目も完全生中継!!本日はやっと始まった新人戦!スピード・シューティングだぁ!!!』
『スピード・シューティング新人戦男子の注目株はやはりカーディナル・ジョージと名高い吉祥寺選手ですね』
『いえいえ、ブランシュ撃退で名を上げ始めた一条総司選手も忘れてはならないでしょう』
テレビの中継の話に少しイラつきつつもアーカイブを掲げる。対戦相手も、観客席の有象無象も、総司の持つCADを疑問に思っている。
なぜライフル型では無いのか、と。
そんな疑問が会場を覆い尽くしている中、総司はそれら全てを無視して魔法力を高め、今から発動する魔法に集中する。
試合が始まり、規定エリア内にクレーが打ち出された瞬間、総司の魔法が発動する。その瞬間、会場中が一瞬で驚愕に包まれた。
規定エリア内に雨が降り始めたのだ。しかもシトシトとした小雨な雨ではなく、圧倒的な水のはじける音がする豪雨が。
そして雨が自分のクレーに触れると、自分のクレーが割れ、相手のクレーは凍りつき、防御力を上げ、相手の魔法では簡単に砕けなくなるのだ。
これこそ、総司の力を知らしめるための、
『あまごい』と『ドライ・ブリザード』と『共振破壊』を組み合わせた複合魔法……『振動氷結雨《レイン・ブリザード・バイブレーション》』
この魔法に総司は1時間の時間を掛けた。世の中の魔法開発者からしたらふざけんなと言いたいくらいの構築スピードだ。なんなら拾った魔法開発者の1人(五徹目)から端末を情報強化を掛けた上で投げられた。(無論避けた)
ちなみにこれは総司が使えば戦略級魔法にもなる。敵兵を凍らせて動きを停めたり、体を振動して破壊してもいい。しかも広範囲にできるからタチが悪い。
クレーが出終わり、総司が100個目のクレーを破壊すると、結果が出た。
『100対7』
100はもちろん総司。7は対戦相手だ。凍ったクレーは破壊することが難しく、2桁にも到達しないまま、負けてしまっていた。
会場の観客、そしてVIP席で見ている魔法界のお偉方ひいては十師族の当主達。全ての人がどのような表情をしていたかは分からないが、驚いていた。
総司はそんな様子を無視して、控え室まで戻って行った。その勝利に、少しの高揚感を覚えながら。総司が纏っていた黒いオーラはいつの間にか消えていた。
「……雫も、栞も勝ち進んだか」
1人で、濡れたタオルで汗を拭きながら端末を見ると、『北山雫選手、新魔法で無事1回戦突破!』『十七夜栞選手、パーフェクトで1回戦突破!』と知人の名前が書かれたニュースを見る。
「次は、どう勝つかな……振動氷結雨だけじゃ、物足りないよな……」
総司の目に映るのは雫が使った魔法と栞が使った魔法。
「……司波くんと雫、栞には悪いけど、水だけじゃないってところ、見せとかないといけないよね……」
雫と栞の試合の様子を見て総司は妖しく笑う。その笑い方を私兵たちが見れば、『よからぬ事を考えているんだろうな』と思うだろう。
総司はアーカイブのダウングレード版から短銃型の特化型CADに持ち直して次の試合に望むことにした。
『1回戦のあの魔法で一瞬にして評価を塗り替えた一条総司選手!次の対戦相手にどのような魔法を使うのか!?』
「この前見た超汎用型を持っていない……どういうことだ?」
達也は1人、総司の試合の観戦に来ていた。雫の調整と作戦は事前に伝えているため、気になっている総司の試合を見に来たのだ。
「(師匠からは気にしなくてもいいと言われたが……あまりにも評判と実力が違いすぎる……!雨を降らせた魔法と言い、次はどのような魔法を────!?)」
試合が始まり、総司がどんな魔法を使うのか己が持つ『
クレーが振動魔法で破壊され、その破片が他のクレーを破壊して行く。そして破壊されたクレーはその破片をまた違うクレーに飛ばして破壊する。
つい先程見た光景を総司が再現している。達也は十七夜栞だからこそできる魔法だと思っていた。だが目の前にいる男はそれを完璧にコピーしていた。
『
1回のクレーの破壊で30個以上のクレーをスーパーコンピューター並の脳で計算して破壊する特殊な魔法を土壇場で完璧に使う総司は、どう見ても
「総司がまさか栞の魔法を使うなんて思わなかったわ」
「……使えるのは知ってたわ、私ほど完璧でないけど」
「?完璧に使えてたように見えるけど」
「……総司は頭もいい、空間把握能力も悪くないけど……あれは数字的連鎖、では無いわ。強いて言うなら
「……まさか」
「数字的連鎖の補助に水を使ってるわ、計算をやりながらも誤差を水で調整してるのよ」
「……」
「それでもパーフェクトを取れるのはすごいけど……昔教えた側としては……ここだけでやって欲しいところね」
栞は自分の頭に指さしながら、やや不満そうな目で数字的連鎖・水の型が使われた試合のリプレイを見ていた。
「ぶぇっくしょん!……風邪なわけないか……誰か噂してんのかな」