新人戦・スピード・シューティングもまもなく終了する。男子の試合は残すところ、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎と一条総司。
下馬評では真紅郎が勝つだろうと言われている。根拠は真紅郎がカーディナル・ジョージであり、長い間総司と一緒で弱点なども知り尽くしているだろうことから。
だがそんな下馬評が流れている中、真紅郎は額に手を当てて苦しそうにしていた。体調は悪くない。なんなら快調と言ってもいいくらいなのだが、対戦相手が総司ということで頭を悩ませていた。
「……勝つビジョンが見えない」
真紅郎は総司と何度も様々な勝負をしてきた。今回のようなスピード・シューティングだったり、アイス・ピラーズ・ブレイクだったり、知力勝負と言って徹夜で魔法の知識を競い合っていた。
だがほぼ勝てたことは無い。勝負ではないが加重系プラスコードを見つけれたことが唯一勝てたことだろう。
そんな真紅郎に総司の弱点などわかるはずもない。強いて言うなら女性問題だが、総司がそもそも好意に気づかないから意味を成さない。
弄って精神を動揺させようにもそんなの不可能だ。まぁ真紅郎はやるつもりは無いが。
「……精密的にやっても領域干渉で封じられたら終わりだ…それに森何とかくんにやってたようにあの八重奏が来たら負けるのは確実なんだよな…」
正直真紅郎に総司の魔法の予測は不可能だ。何個魔法があるか未だに分からないからだ。水関連なのは間違いないが、それでも液体なのか固体なのかそれとも気体なのか分からない。
「……一色さんに勝つよう言われたけど……勝てるか分からないな……」
そう思いながらも真紅郎は最高の調整を自分のCADに施す。何度も辛酸を嘗めさせられた相手に、今度こそ勝つために。
「とりあえず、おめでとうとは言っておかせてもらうよ、雫」
決勝前の総司の待機部屋に、1人の小柄な少女が座っていた。言うまでもないが雫である。そして彼女の手には彼女がスピード・シューティングで使っていた小銃形態自作汎用型CADがあった。
「ありがとう、総司にも次の試合頑張って欲しい」
「……それはもちろんわかっているが、何故ここに?」
総司も雫からの応援は嬉しい。だが、もうすぐ試合が始まるこの時に来た雫の意図が分からない。
「近くで応援したかったというのもある。だけど……これを使って欲しい」
「これは…司波くんが作った
「そう、これを使って欲しい。達也さんの許可は得てる」
「……わかった、使ってみよう」
傍から見れば使い慣れない魔法を決勝戦にぶっつけ本番で使う馬鹿な魔法師に見えるかもしれないが、雫には総司ならすぐに使いこなせると思っている。
その理由は八重奏を使っていたことと、長い間一緒にいたことから知っている。総司は全ての系統を満遍なく使えるのだ。振動系の魔法でしかない、能動空中機雷は完璧に使えるだろう。
そしてもうひとつ能動空中機雷を雫が総司に使わせるのには理由がある。
「(総司が私の使った魔法を使う……これはいいマーキング……というかこれからすり寄ってくるだろう雌共から総司を守るいい盾になってくれる……!)」
総司が好きで、総司と結ばれたい雫。まだ攻略すらできていないのに、総司はスピード・シューティングで己が実力を世間に晒してしまった。総司には手のひらを返したように有力な他家から婚約の申し込みの嵐が舞い込むようになってしまうだろう。
雫は政財界で有力な家の娘だ。だが魔法界ではそこまで有力では無い。血筋がどうのこうのの話になってきてしまうと十師族や師補十八家に負けることは必然。
それを回避するために前々からアプローチをかけまくっていたのだが、総司は全く気にもとめない。まぁ仲がいい友達以上彼女未満でしかない。
いずれは攻略して落としてみせると思っていても、その前に強制的な政略結婚なんてやられたら困る。
だからこそ、雫は動いた。今はまだ落とせなくても、周りが勝手に誤解して総司に婚約やらを迫ることを躊躇させればいいのだ。
総司が決勝で能動空中機雷を使う➝雫となにか特別な関係でもあるのか!?と周りが思う➝その間にアタックして雫大勝利!
これが今の雫の頭の中にある考えである。正直穴がありすぎて考え通りにならないと思うのだが、今の雫にそんな余計な考えはない。ただ総司を守り、総司を手に入れる。それしかない。
「(ふふっ、我ながら完璧な計画……!)」
どこぞの恋愛頭脳戦やってる副会長のような思考をして総司との甘い未来を考えて恍惚とした表情をしているが、総司は雫ではなくCADを見て、能動空中機雷を自分のCADにコピーして使えるようにする。
「そろそろ試合か、雫……勝ってくるよ」
「……ハッ!?い、行ってらっしゃい」
「総司、真剣勝負で勝ったことは今のところほとんどないけれど……負けるつもりは無いよ!君の魔法の対策は完璧だ!」
「真紅郎、こちらも負ける気は無い。連敗記録をまた更新させてやる!」
2人の言い合いはカウントダウンが始まるまで続き、カウントダウンが始まると総司はアーカイブを構える。
「(総司が使うのは神之怒?いやいずれにせよ使う魔法は変わらない!僕が選んだのは
「……発動」
カウントダウンが終わり、総司が発動させた魔法は、真紅郎の期待を裏切った。
総司は空中に無数の仮想立体を構築し、仮想的な波動を送り込んでヒットしたところに本物の波動を送る能動空中機雷を発動したのだ。
「……嘘だろう?君が北山選手の魔法を使うなんて……!」
「栞の魔法も使ったんだ、雫の魔法を使わない道理はないよ、真紅郎」
「だが北山選手の魔法は対策できている!」
「そうだよな……だからさ……」
砕けたクレーが今度は計算されたかのように他のクレーを破壊していく。真紅郎はその様子を見て危うくCADを取り落としそうになる。
「…………
「……お前が俺の水を対策するのは目に見えてたよ……だから俺は……栞と雫の力でお前に勝たせてもらう!」
仮想立体内に入ったクレーを破壊し、その破片がほかのクレーを破壊していく。数字的連鎖と能動空中機雷を使い分けた、総司だからこそできる戦術で総司は真紅郎を追い詰めていく。
「負ける訳にはいかないんだ!」
真紅郎は風で計算が狂うように熱乱流の威力をあげる。そして自分のクレーを破壊するためにお得意の不可視の弾丸を放つが……
「……残念だけど風が強くなるならそれを加えて計算すればいいだけの話だよ……」
意味はほぼなかったようだった。
そして試合が終了し、電光掲示板には、
『100対89』
総司が100、真紅郎が89。真紅郎が熱乱流を使わなかったらもしかしたら同点だったかもしれないが、真紅郎は総司が水魔法を使ってくると思って挑んだ。これが敗因だろう。
「……深読みしすぎたか」
「……まずは俺の勝ちだ。三高に俺は行く気は無い」
そう言って立ち去っていく総司。真紅郎はそれを見続けることしか出来なかった。
総司の待機部屋にて地団駄を踏んでいる少女が1人……
「……(数字的連鎖も一緒に使われたら意味ないッ!)」
「(これじゃあ総司に雌共が群がってしまう……!)」
雫の目論見が完全に滅んだ瞬間である。
「……雫、助かったよ。いつもの魔法を使ってたら負けるかもしれなかった」
「……おめでとう」
「雫のおかげで勝てたんだ、ありがとう」
「!……ど、どういたしまして」
総司の言葉が頭の中でリピートされていく。雫の機嫌はすぐ良くなった。まるでさっきまでの目論見がどうでも良くなったかのように。
……尚、雫の心配事が現実となる時は近い。