無事総司がスピード・シューティングで優勝を納めた翌日、新人戦・クラウド・ボールが始まっていた。
今年の注目株は一色家の令嬢で、リーブル・エペーの大会を数多く優勝してきたエクレールこと一色愛梨。
今日はひとつしか競技を行わないこととその注目株の選手から会場の観客席は満員だった。
「……愛梨の試合は人気だね」
「……それは分かるんじゃが……のう総司、お主ここにいて良いのか?」
「そうだよ、北山さんだっけ?その子と一緒に居なくていいのかい?」
総司は将輝や真紅郎、沓子に栞と試合を観戦していた。沓子と真紅郎がここにいていいのかと聞いてきたが総司は首を横に振る。
「いや、今日誘おうとしたらいなくてな」
「……ふーん」
真紅郎達は納得できないようだったが、総司は気にしてないようで、愛梨の試合をしっかりと観戦していた。
愛梨の魔法は異名と同じく稲妻。知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、動きを精神から直接肉体に命じる魔法の2つが合わさった魔法であり、CADを使用するのにタイムラグがなく、相手選手が可哀想になるほどのスピードでボールを返していく。
クラウド・ボールは制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技なのだが、愛梨の魔法によって落ちる前に打ち返しているのでもうすぐパーフェクトゲームが達成しそうである。
「相変わらずエグイな、愛梨の魔法は……総司だったらどうやる?」
「……氷の壁を貼る」
「……まさか」
「氷の壁をネットギリギリまで貼って、それで防ぐ。どれだけ早く打ち返されようとコートに落ちなきゃ意味が無いからな」
「クラウド・ボールどころか元となったテニスですらそんなことしないよ!せめてラケットを持って打ち返せよ!」
想像した真紅郎が総司と戦う愛梨の様子を思い浮かべる。半泣きになりながら永久に溶けることの無い総司の氷をテニスボールで削ろうとする愛梨が見えたのか、真紅郎はいつもの口調を放り捨てて総司の間違いを正そうとする。
「……ならアイス・ポーンに氷のテニスラケットを持たせて打ち返させるかな。満遍なくコート内に10体くらい置いて、打ち返す時射線上にいるアイス・ポーンには穴を開ければいいし」
「そういう意味じゃないわよ……貴方が!ラケットを持つのよ!」
今度は栞がその様子を思い浮かべる。どこに打っても自動的に打ち返しくるロボットみたいな氷の兵隊相手に涙目になる愛梨の姿が見えたのか、栞も総司を注意する。
「……ラケットを持つという決まりはないんだが、ラケットを持ってやりあえというなら、氷の伸縮自在のラケットで愛梨の打って来る球を打ち返すかな」
「おう」
「なんなら氷のラケットを俺の身体に接続して氷の壁にすればどんな球も愛梨のコートに……」
「それ最初と変わらねぇよ!なんでお前は相手を封殺することばっか考えるんだよ!」
まぁルール的には間違っていない。だがさすがに愛梨が可哀想すぎると考える。だってテニスじゃないじゃん……打っても打っても相手のコートに入らないなんてクソゲーすぎる。
「……相手の戦意を喪失させるのも立派な策のひとつだ。将となるならそれも念頭に入れておけ、俺はそれをどうやってさせるかでスピード・シューティングで使う魔法を選んでた」
「え、じゃあ振動氷結雨も?」
「あれは遊び八割の魔法だな。あのレベルの魔法ならアーカイブ内に大量に入れてある」
「……嘘じゃないか」
「残りの2割は相手の戦意を喪失させるための選択だから嘘じゃない。まぁ使っててすごい楽しかったが」
「俺の総司はいつからこうなったんだ?」
将輝が頭を抱えているとコツコツと足音を立てながら総司達の元へとやってくる人がひとりいた。
「ハァハァ……総司、やっと見つけた!」
「ん?雫じゃないか、どうしたんだ?」
朝から行方の知れなかった雫が総司の所へと来ていたのだ。しかも肩で息をしながら。何が起きていると皆で注目していたら、雫が説明しだした。
「総司の部屋に行ったら総司がいなかったから探してた。そしたら総司のいるところはどこかなって総司の匂いを辿ってたらこんなことになってた……ハァハァ……」
「そ、そうか」
雫は少し汗をかきながらも総司の膝の上に座って頭と身体を総司に寄せる。いつもの雫と同じことをしているのだが……
「(……愛梨、これは割とライバルが強そうよ…公衆の面前でこんなこと出来るほどあなたはプライドを捨てられるかしら?)」
「(総司のこと好きなんじゃな、この娘は……というか匂いって言っとったよな、聞き違いではなかろう?)」
「(…………司波深雪さんにもこんなことしてもらえないだろうか)」
「(……これ、総司の恋愛事情というか総司を巡る女性のことを知らない剛毅さんとかが見たら驚くんだろうな……まさか一条家の若い男は朴念仁やらヘタレやらだとは思ってないだろうし)」
「(雫は俺なんかに身を預けてそんなに嬉しいのか?……深くは考えないことにしようか、雫が幸せそうならそれで構わないし)」
1人は友のこれからの恋路を心配し、1人は雫の言ったことを少し引き、1人は想い人にこんなことをして貰えないかと妄想し、1人は同じ家の友2人の性質を嘆いていた。総司は普通に雫が嬉しいならいいかという思考である。
……コートの端の方で休んでいた愛梨が総司を見つけ、その膝を上に座る雫を見て舌打ちしたのは言うまでもない。
「……あっという間に決勝か」
「愛梨の試合はワンサイドゲームで終わってきている。このまま愛梨は勝つよ?」
真紅郎が総司と雫に宣言する。だが、雫の顔は曇らない。総司がスカウトし続けているエンジニアと同級生の力を信じているからだ。
雫の同級生で共に鍛えた選手である里美スバルは愛梨とコート内を目にも止まらぬ速さで打ち返しあっている。
「これならいけ「無理だ、里美スバルはここで負ける」……え?」
同校の選手の応援すらしないでここで負けると断言する総司に久しぶりに雫は総司に疑問を持つ。
「少し雫は
そう総司は言うと、愛梨のスピードがさらに早くなる。まるでボールにしか意識を向けてないかのように、スバルに対して意識を一切向けてないかのように。
「今の一高は確かに司波深雪を筆頭に数字付きを圧倒できる粒が揃っているが、圧倒されている数字付きは魔法師の才能に胡座をかいているやつらだけだ。日頃から自分の才能に慢心せずに自分を鍛え上げている数字付きを超えることは容易じゃない。……里美スバルは固有のスキルを使った戦術を使って上手く戦えているが……」
愛梨のどんどん早くなる打ち返すスピードにスバルは反応出来ずに、60対20で愛梨のストレート勝ちが決まった。最後には同時に球が全てスバルの横を通り過ぎていき、戦意を喪失したかのようにスバルはへたり込んだ。
「子供の頃から鍛えている愛梨に勝てる可能性は少ないよ」
雫やほのかは家族が優秀な魔法師であるから愛梨や栞達に勝てる可能性は高いし、雫は栞に勝っているけどね。と付け加える総司。
だが雫は総司の言うことを念頭から外していた。自分も勝てたからスバルも勝てるかもしれないという淡い希望を抱いていた。それがとんでもなく難しいことだと忘れていたのだ。達也の調整があるから勝てる訳ではなく、達也の調整は絶対の勝利を約束するものでは無いと思い知ったのだった。
尚、作者の当初の予定では石山の血を継いでいる少女が愛梨の敵になるはずでしたが、結局スバルと同じような結果になりかねないのでやめました。あとオリキャラ増やすと作者の脳が死にますし。
能力は忘却術の出力低いバージョンを連発する的な感じですね。何をやろうか忘れるくらいの忘却です。