将輝は愛梨のバウンド・ボールの試合の翌日の朝、つまりは新人戦アイス・ピラーズ・ブレークが始まる少し前に総司の部屋に向かっていた。
総司は黒い軍服を着て、黒いコートを羽織り、軍帽を被っていた。アイス・ピラーズ・ブレークは好きな衣装を着てもいいのだが、総司は雫から
「これを着て試合に出て欲しい。あの金髪を説き伏せて来たんだから……!」
と言われてこの服を着ていた。どう見ても厨二病感が抜け切れないが、雫が選んでくれたんだから着た方がいいと思って総司はこの衣装を着た。雫が眼帯を進めてきた時はさすがに断ったが。
これ着て大丈夫かな、一応軍の施設だよねと今更ながら心配になりだした総司だったが、扉がコンコンと叩かれたのを聞いてその心配を頭から追い出して部屋に入るように言う。
総司は入ってきた人物を見て顔を顰めた。これからアイス・ピラーズ・ブレークの舞台で戦うことになる兄である将輝が来たからだ。
「対戦相手の部屋に来るとはどういうつもりだ?」
「悪い悪い、だが俺は少し総司に話があるから来たんだ」
「……わかった、それで何の用だ?」
「俺はお前に勝つ、それだけ伝えに来たんだ」
総司は少しの間唖然となった。そんなことを伝えるためだけに将輝は来たのかと。そして再起動するとこう言い放った。
「俺は負ける訳にはいかない、負けたら三高に行かねばならないからな。将輝、悪いが今回も俺が勝つぞ」
総司と将輝は何度も訓練やら勝負やらでお互いの魔法の腕を競い合っている。勝率は総司の方が高いために、将輝に対して今回もと言ったのだ。
「そうか……じゃあ次に会うのはアイス・ピラーズ・ブレークで当たった時だ」
「そうだな……後で会おう」
総司がそう言うと、将輝は去っていった。総司はダウングレードされたアーカイブを持って控室に向かう。
「……爆裂の解禁だ。速攻で終わらせる」
総司はブランシュ戦で見せたあの総司に最適化された爆裂を将輝との勝負で世間に見せるのではなく、将輝との勝負の前座で使うことにした。理由は簡単で、想子を節約するため、そして将輝と早く戦うためである。
総司と将輝は爆裂を使うことで着々と決戦の場である決勝戦まで、着々と駒を進めるのだった。
男子のアイス・ピラーズ・ブレークを観戦している男女がいた。どちらも感激したかのような表情を浮かべて総司が爆裂を使って他校の選手を倒していく様を見ている。
「正雪さん、私ものすごく感動しているんですが、私の気持ちが分かりますか?」
「分かりますよ、総司様が苦心していたあの爆裂を自由自在に使って敵を瞬殺しているのを見るとものすごく心にくるものがあります……あと他校の生徒が爆裂を使っている総司様を見て口をポカーンと開けているところを見ると何故か笑えてきますね……」
「それ分かります……あーもう笑いが止まりません!」
見ているのは石山と正雪。他にも総司の部下が何人もその周りで総司の無双を見に来ていた。
「しかしまぁ……雫様もいい趣味してますね〜」
「あぁ、あの軍服ですか。まぁ似合ってるからいいんじゃないですか?……一色のご令嬢が悲しげにスーツを持ちながらトボトボ歩いていたのはものすごく気になりましたけど……」
「……あれは多分雫様と激突したんじゃないですかね〜どっちが着せるかって。まぁスーツは見慣れてますから、軍服を着ている総司様はレアですよ!雫様が勝ってよかったです……!」
「私はスーツ姿を見たかったです。いつもの姿で九校戦に臨む総司様のお姿が見たかった……!」
石山の軍服派発言と正雪のスーツ派発言、総司の部下たちはふたつに別れてあーだこーだ言いながら観戦していた。
……部下たちが観客席を全部埋めていた訳では無いので、総司の衣装について公衆の面前で熱烈に語っているのを見た他の観客は、総司の部下たちをやべーやつらと思ってしまったのだった。
なんのハプニングもなく、総司と将輝は決勝に進出した。別に爆裂を使用した消化試合にしかならないから細かく描写しなかった訳では無い。
「俺の全身全霊、今までの研鑽、全てを持ってしてお前を倒す。覚悟しろ、将輝!お前にも敗北の文字をその身に刻んでやる!」
「そのセリフはこっちのセリフだ、この勝負に勝って、お前につけられた敗北の数々を精算し、兄の威厳をお前に教え込む!」
新人戦・アイス・ピラーズ・ブレーク決勝戦、片手にアーカイブのダウングレード版を持って、一高に残るため、将輝を倒そうと最高の調整をして将輝の前に立つ総司と、クリムゾン・プリンスの異名通り、赤い拳銃型CADを持って、総司に勝って兄の威厳というものを思い知らせようとする将輝の戦いが今始まった。
「(爆裂は防がせてもらうぞ、将輝)」
総司は自分ができる最高の爆裂に対しての防御を発動した。氷を気化しようとするその作用を水を司る力で強引に押さえつけて爆烈を無効化するという荒業で、将輝の爆裂を無効化したのだ。
「相変わらずその力は健在か!だがお前の爆裂も俺は防御できる!」
総司の爆烈を領域干渉で無効化する将輝。そして偏倚解放という空気を圧縮し破裂させ爆風を一方向に当てる空気弾より発動が難しい魔法を発動する。
「絶甲氷盾!」
偏倚解放が引き起こした爆風を総司は氷の壁を氷柱の前に作り出すことで打ち消す。そして負けじと将輝の氷柱に同じ偏倚解放を発動して傷を付ける。
氷を何も無いところから作り出して、氷柱よりも大きい氷の壁を建てるという、明らかに現代魔法に喧嘩を売っている絶甲氷盾に会場が騒然とするも、将輝と総司は気にせず勝負を続ける。
「ちまちまやるのも面倒だ、アイス・バーサーカー!」
絶甲氷盾を発動したことによってできた氷の壁を変形させ、人型へと変貌させ、今まで作り出してきた『アイス・ポーン』や『ハイパワーライフルを持った彫像』より大きな氷の戦士を将輝の方へと向かわせる。もう会場は氷の戦士の登場というとんでも現象を見てポカーンとしている。
「アイス・バーサーカー!削れ!」
アイス・バーサーカーが巨大な拳を振るう。すると総司の偏倚解放によって傷ついた氷柱が叩き潰される。だがすぐさま将輝の爆裂でアイス・バーサーカーは気化してしまった。
「よし!」
「……忘れてないか、将輝」
アイス・バーサーカーは気化された。だが総司は水の形を自由自在に操ることが出来る。アイス・バーサーカーが再び蘇って将輝の氷柱を削り始める。
将輝はアイス・バーサーカーをもう一度爆裂で破壊しようとするが、総司がアイス・バーサーカーの気化をまたも力づくで止めて、さらに偏倚解放を放つことで将輝を慌てさせる。
「(これは総司の作戦だ……俺を慌てさせて領域干渉をとかせるための……!ならこれで行こう!)」
将輝はアイス・バーサーカーを偏倚解放の起こす爆風で総司の方へと吹き飛ばすと爆裂を連発して発動する。総司は必死で抑え込むが、将輝はこの作戦が有効と気づいて爆裂をさらに撃ち込んでいく。
将輝の猛攻を受けて総司は冷や汗が出てくる。
「(…………将輝、確かにこれはいい作戦だ。俺はこのままだと処理しきれなくなって爆裂を受け入れてしまうだろう……だがな、そう上手くは行かないんだよ!)」
総司は手を伸ばすとアイス・バーサーカーと総司の氷柱12個中11個を水に変化させる。そして空中に、会場中に浮かんでいるであろう水素を操作して水を生み出してゆく。
そして空中に水のレンズを何層も生み出し、光を収束させる。その間も将輝の爆裂が残った1本しかない総司の氷柱を襲うが、1本だけになったので防御が簡単になり、将輝の爆裂を全く意に介さない。
総司は位置調整に角度調整をきちんとすると、ついにその魔法を発動させた。
佐渡島防衛戦でも新ソ連の兵士を駆逐するために発動し、総司が『
「これが威力を強化し、全てを焼き切る魔法!」
とんでもない熱と光が将輝と観客を襲う。こことは違う世界の光の巨人が放つようなレーザーが放たれ、将輝の必死の防御すら意味はなく、氷は全て溶け、会場の地面が黒く焼け焦げている。
そして将輝の氷柱が溶けたことが確認され、レーザーの発射というとんでもない衝撃から運営が回復すると、総司の勝利が表示され、歓声が……起こることはなかった。
いや歓声は起きていた。総司の部下たちが歓声を起こしていたのだが、ほかの観客はそうはいかない。魔法が浸透しているこの世の中でも、こんなレーザーを見れば放心してしまうものだろう。
総司は何も言わずに立ち去った。インタビューが来ることは無かった。スピード・シューティングの時はあったが、衝撃が大きすぎたのか、テレビの人達も動けなくなっていた。
総司の発動した魔法は、九校戦で発動するにはとんでもない魔法だった。規模を変えれば戦略級魔法を遥かに超えるであろうその威力に、世の中が動き出すことは間違いないだろう。…………その前に総司を下に見ていた人間がひっくり返ることになるのは間違いなさそうだが。
投稿遅くて申し訳ないですが、また遅くなりそうです。