少女となった竜の教員生活 作:落ちてるご飯は落とし物
薄弱、故に不可侵。霹靂、故に唐突。
溢れ出るほどに芳醇、そして溌剌。噛めば零れる果汁はどこに。ゆらりゆら、と朧気で、そしてどこまでも深遠な。
だから、私は今日も歩くのだろう。
「──うん、それはとても良いことだ」
照らす日に目を凝らし、それはもう楽しげに。私はそう言ったのだった。
◆◇
「ふうむ、ふぅむ」
手を掲げる様にして、それを見上げる。視線の先。一枚の紙。
一人の人間──学生の叡智が積み込まれた、これまた奇怪で奇妙な何か。
『人の叡智が奇怪とは何事か』と、語る者もいるかもしない。私の見た目が人の少女であるが故に、人間を不思議がることに疑問を呈するのも仕方がなかろうが、だがそれは間違いである。
これでも元は竜である。中身は成竜、見た目は少女。ああ、これこそ奇怪で奇妙であろう。呵々大笑の大笑いである。
私としては
この見た目で人の世の学術機関の教授とやらをやらせて貰っているのも、私が元は竜であることをこの国の王とやらが承知しているからに他ならない。
「……しかしなぁ、しかしだよ」
手に持つそれに、問いかける。返らぬ問も、だが投げかける価値はある。届かぬのでなく返せないのだから、私は時に空へと呟くのだ。
自然は問を返さない。だが、稀にヒントを零してくれるのだ。実にありがたい事である。我ら知恵を愛する竜にとって、それはまさに僥倖と言えた。
「これはどうかな?いやはや、余りに『倫理』とやらに反していないか?」
倫理とは、同族愛護である。意義立ても受ける。拒絶も理解す。だが、この考えは間違いではなかろう。少なくとも、『間違いである』と面向かって言う者はいないはずだ。まさに悪魔の証明である。
同族を嫌うのも、愛するのも、それは個人の自由であろうが。そう考えるのは、果たして如何に。
「私は、許容するのだがね?リィアくん?」
しかしだ。しかしだよ。人の少女よ。リィアよ。一応、教え子とも言うのだが。それはさておき。
この内容は『倫理』故に受けいれられなかろう。そう、同族愛護の思考は、だがそれは確かに納得できる物であるからだ。
私もそれを否定も嫌いもしない。受け入れるし、なんなら両手を挙げて取り込もう。竜を殺して捌くとなれば私も嫌悪を示すに違いない故に、それは言ってはならぬ事柄だ。
それ故にだろう。とある感情が沸々と湧き出る。人などどうでもよい。勝手に生きて、死ねば良い。勝手に殺し、殺されればよい。
それは自由だ。自由であろうが。ならば、教え導く私が、この少女の『自由』を阻めるものか。
うーんと唸り、紙を持ち上げる。
「うぅん……どうしたものか、いやはやさてさて」
そして一滴の。小さな小さな興味が湧くのを感じた。