『当たらなければどうということはない』
――機動戦士ガンダム シャア・アズナブルより
――私は『敗残兵』である。
私の名前はキャスバル・レム・ダイクン。ウマ娘として生まれた者だ。
運命とは酷なものであり、ある種の定めをもっているのだろう。
もし運命の女神が私の人生を操っているならば、私はやはり神など信じない。
私は前世の記憶を保持して生まれてしまった。
多くの戦いと出会い、裏切りと別れ。どうして覚えているのだろうか。
そして、ウマ娘は生まれてからすぐに耳が聞こえる。
両親に囲まれている。
あぁ・・・なんという皮肉なのだろうか。
あんなにも憧れた父と母の健全な姿。
前世では記憶の無い二つが、今ここにあるのだから。
しかも”前世と同じ容姿”なのだから皮肉なものだな。
父。『ジオン・ズム・ダイクン』
母。『アストライア』
こんな残酷なことがあるだろうか、
全てに敗北し、多くの者を手に掛けた殺戮者に夢を見せるのか。
彼らは生前と違う格好であった。
父は人として、母はウマ娘としてそこにいた。
これはあまりにも……あまりにも……残酷ではないのか。
そうすると奥から一人の神父が現れて次の言葉を述べた。
――立派なウマ娘ですよ。名前のお告げがありました。
「『シャア・アズナブル』と名乗りなさいと三女神からのお告げです」
私をその名前で呼ばないでくれ。
どうして私をあの時『時の海』に連れて行かなかった。
私は”あの最期の戦い”で死にたかったのだ。
ライバルとの戦い。
全人類を巻き込んだ悲劇の戦いで散るべきだったのだ。
『聞こえていますか、反逆者』
『聞こえているか、心優しき無垢な男』
『お聞きなさい、指導者』
頭に響いてくるのは女性の声。
美しい女性が三人重なり合う。
それらは私を怒り、慰め、褒め称えているように聞こえた。
『貴方はかの世界に叛意を翻した。これはその苦役なのです』
『お前は自分の妹と正義の為に戦った。これはその慰めなのです』
『貴殿は指導者として多くの者を導いた。これはその続きなのです』
3つの声の意見は違った。
ある者は罪、そして慰め、前の世界の続きだという。
何故私を殺さなかったのか、あの時に宇宙に溶けたかったというのに。
『『『それはなりません』』』
『『『別世界の女神に貴方を助けて欲しいと言われていますから』』』
誰かはすぐに理解した。
私とガンダムのパイロットを導いた少女。
”ララァ・スン”
彼女は何故私をこの地に送り出した?
君の声は最期まで聞こえなかった。もう私には何も残っていなかった。
『『『伝言があります。”少女達を頼みます”と』』』
それが君の望みならやってみるしかないな。
私はボヤける思考と小さな体で、決意した。
この世界で君の願いを叶えようと、その為に努力をすることを。
『『『幸運を祈ります。シャア・アズナブル』』』
それ以降、頭に響き渡る声は消えた。
こうして私は新たな生と名前を手に入れたのだ。
人とウマ娘の間に生まれたウマ娘。
『シャア・アズナブル』
これが今の私なのだから。
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私は自身の思い出せる全てを日記に綴っていた。
産まれたあの日から、私は運命の枷の中にいる。
ウマ娘として順調に成長した私は、
子供の頃から自分の可能性を伸ばす為にトレーニングを行っていた。
かつての軍学校時代よりも激しいものだったが、
ウマ娘という身体は存外に耐久があるらしい。
父のジオン・ズム・ダイクンが、
航空宇宙局の職員であったことが功を奏し、
私は幼い頃から無重力の環境でトレーニングすることが可能であった。
父は私が”ウマ娘と無重力”の実験に付き合うことを大いに喜んでいた。
母は反対していたが、私の覚悟を理解してくれた。
私が幼い時代に最も幸福だったのは、母の手厚い介護であった。
だが、私は満たされることがなかったのだ。
かつてあれほど求めた母の愛情をこの手に得ても、抜けていく感覚が続いていた。
それは私が何かに飢えていることを示唆していた。
だがそれが何なのかは今でも分からない。
人生を歩んでいく中で、私にも『最初の友人』が出来た。
彼女と出会ったのは、幼い頃に私が両親とフランスを訪れた時のことだ。
全世界に散らばる航空宇宙局は多くの場合、田舎にある。
その田舎で出会ったウマ娘こそ、後の『ブロワイエ』であった。
始めて会った時は、ただの田舎娘であった。
私と同じ髪色で背丈も一緒だということから、すぐに仲良くなった。
彼女は現在と違い、薄汚れた黄色の短髪で見た目も貧しい少女だった。
それでも私は彼女から溢れるオーラを理解していた。
どうやら生前にあった『革新性を見抜く力』は健在のようで、
私はそのことから彼女を気に入っていた。
「待って~待ってよぉ~! シャアちゃん~!」
「ハハハッ、ブロワイエはまだまだ遅いな」
私達は登山を行っていた。
フランスの山は私達の絶好の遊び場であり、頻繁に訪れていた。
その時のことである。
急に土砂が私達の方に崩れてきた。
『!“#$?&』
頭に電流が流れるような強いイメージが投射され、私は直感した。
「!! 逃げるんだブロワイエ! 土砂崩れが来る!」
「そんなぁ……私、動けないよう……」
後ろを振り返れば、腰を抜かしたブロワイエがいた。
私だけなら逃げ切れるだろうが、彼女は不可能だと判断した。
『やってみるしかない、少女達を救うのが運命ならば』
過去の私であれば、友や部下の犠牲などその過程に過ぎなかった。
だが今の私は違う。送り出した”少女”の為に運命に従うまでだ。
『イメージはあの初陣のように、そして彗星のように加速を続ける』
私は自身の筋肉を瞬時に脱力させた。
『時の流れを掴み、本流に身を任せる。動いてくれ! 私の体!』
全神経を筋肉組織に集め自らを一つの『機体』として動かした。
私は斜面を駆けた。ウマ娘の人生の中での”初陣”はこの時だっただろう。
土砂崩れで倒壊する木や石などを全て躱していった。
感覚が戻ってくる……そうだ私は『戦場』だからこそ輝くのだ。
「ブロワイエ!!! 私に向かって飛び込んでこい!」
「・・・! うん、分かった!」
あの時、私だけの力では二人とも共倒れだったはずだ。
彼女が飛び込んでくるタイミングが完璧で無ければ。
そう、あの時からブロワイエも才能を開花させていたといえる。
ブロワイエをキャッチし斜面を駆け下りる。
土砂崩れの速度に追いつかれてしまえば、間違いなく我々は死ぬ。
命の危機だからだろうか、自分でも信じられないスピードであった。
だが反動と負荷がすぐにやってくる。
身体全体に響き渡る痛みと酸素が足りない危険信号が脳に流れる。
この身体はそもそも”機体”ではない。
幾ら厳しいトレーニングに耐えていても、幼い身体だ。
限界がすぐに来ることは分かっていた。
『麓までは意識を繋いでくれ、私は死んでもこの少女は助けなければならない』
不思議なことに私の思考は穏やかであった。
そうして駆け下り続けて、身体に感覚がなくなった頃。
立ち止まり後ろを振り向けば、土砂崩れはおさまっていた。
抱えた少女は私の目を泣きそうな顔でじっと見つめていた。
それは生前、多くの大切な人が私に向けていた視線と同じであった。
「シャアちゃん・・・その脚……」
私は自らの脚を見てみるとズボンから血が染み出ていた。
「大丈夫さ、ブロワイエ。私はこういうことに慣れっこだからね」
少女の涙を私は拭いながら少女の親の家へ歩き続けた。
「ダメっ! もう歩かないで!」
私はその意味を理解するのに数秒は掛かった。
その少女の言った通り、
私は身体が動かなくなった。既に限界にあったのだ。
意識を失い倒れたと後にブロワイエは語っていた。
これが私の初陣であった。
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私の名前はブロワイエといいます。
今、私の大切な人を家まで運んでいる最中です。
私の大切な人・・・
それは『シャア・アズナブル』
私は多くのウマ娘と違って、生まれた頃から身体が弱かった。
そんな私と遊んでくれる唯一無二の人。
最初はいけ好かない人だと思っていたけど、
一緒に居るとその優しさが理解できるようになってきた。
そんな私を守ってくれた彼女は、
脚から血を出して私の背中で眠っていた。
それは突然で、
山で土砂崩れが起きたんだ。
私も音で気づいたけれど、
彼女はその前から何かを感じ取ったみたい。
あれを人は『超能力』というのでしょうか。
私は土砂崩れの大きさに腰が抜けてしまいました。
一人でも逃げられたのに、
シャアちゃんは私を抱えて逃げてくれました。
その時の光景はまるで、
『赤い彗星』
その表現でしか言い表せません。
そこで私は理解しました。
私は彼女を尊敬しており、同時に愛してしまったのだと。
勿論、シャアちゃんには言っていません。
これは秘めたる恋です。
それはきっと未来まで続く恋なのだと思います。
私はそんな彼女の寝息を背中で聞きながら、
家へと急ぐのでした。
見ていてね、シャアちゃん。
貴方に似合うような強いウマ娘に私もなるから。
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ここはフランスのロンシャン競バ場。
この日、新たなロンシャンの女王が誕生した。
その二つ名は『ロンシャンの皇帝』
彼女は勝利インタビューでこう語った。
「この日の勝利は観客の皆様と赤い彗星に捧げます」
多くの者は彼女の勝利を喜んでいた。
そして少数の者は、後半の名前に驚きを隠せなかったという。
【ブロワイエ】:
原作においてスペシャルウィークとの死闘を繰り広げる事となる。
この世界では凱旋門賞を三連勝している。
二つ名は『ロンシャンの皇帝』