赤い彗星の軌跡   作:賃現地

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 こっそりと初投稿です。







『我々の最後の戦いの映像、記録願います!』

――機動戦士ガンダム MS IGLOO オリヴァー・マイ技術中尉 より







2.5【赤い彗星の戦友】

――私の生涯と共にあったのは一人の技術士官であった。

 

 

 私はシャア・アズナブル。

 多くを裏切り、殺戮の限りを尽くした死神さ。

 

 狡猾に生きた私を信頼する友人は、

 生涯において一人も居ないと”言われていた”

 

 青年期の友人『ガルマ・ザビ』

 彼は私を心底信頼していたが、見せかけの友情は私の欺瞞による工作の仲であった。

 

 最初から彼を敵として『仮定』していたのだ。

 そうだ。未熟だったあの頃、自分の全てが復讐に染まっていた。

 

 生前の記憶の『シャア・アズナブル』・・・

 いや『キャスバル・レム・ダイクン』は共和国議長の息子だった。

 

 偉大な父は暗殺された。デギン率いるザビ家一党によってである。

 私は心底憎んだ。奴らが父を殺したからという陳腐な理由ではない。

 

 『病弱な母”アストライア”を幽閉し無残に病死させた』

 『私の愛しい妹”アルテイシア・ソム・ダイクン”を変えてしまったこと』

 

 

 二つの屈辱を私は到底許すことが出来なかった。

 私の世界は『復讐』によって動いていた。

 身の回りの全てを復讐に利用したことも記憶している。

 交友関係の全てが、私の駒であった。

 

 復讐に全てを費やしていた時、インドで決定的な出会いがあった。

 『ララァ・スン』と呼ばれる少女との出会い。

 これが私の世界を大いに狂わせた。

 出会いは同時に私が生涯、苦しみ続ける原因にもなった。

 

 彼女との出会いは、

 私に初めて『駒』ではなく『友人』という関係を見いだした。

 

 友人という関係は『恋』に発展したが、その結末は呆気ないものだ。

 彼女をフラナガン機関という場所に私は送り込んだ。

 結果はニュータイプという才能を開花させることになった。

 しかし、ニュータイプへの覚醒は別れへの道でもあった。

 

 離別の物語にはもう一人を紹介しなければならないだろう。

 

 

 『連邦の白い悪魔 アムロ・レイ』

 

 

 彼と私はライバルであった。

 ララァ・スンを取り合う仲で、ニュータイプという才能の同士だった。

 

 少女への愛を思えば、私の一方的な愛情であり、彼女を悩ませたと後悔している。

 ガンダムの少年に花束を送るべきだったのだ。

 彼女は私の中でいるべきではなかったのだと・・・

 

 物語は悲劇で終わる。ララァ・スンは死んだ。

 ガンダムの少年との決戦で、私を庇った戦死であった。

 彼女の死、復讐を遂げた後に私は生きる目的を見失った。

 復讐に生きた男は愛を得て失い、宇宙に投げ出されたのだ。

 

 

 

――それは生涯を共にする『戦友(トモ)』との始まりでもあった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

――部屋の小窓から夜空を見上げて私は回想をやめた。

 

 私が滞在しているのはアメリカのケンタッキー州だ。

 この土地に在住することも航空宇宙局に所属する父の仕事の一環であった。

 

 私は成長を続けていた。

 生理的な変化は初経が訪れたことだろう。

 生前に男性として生まれた私が苦労したのはこの点だ。

 

 良い点は成長期がやってきたことだ。

 ウマ娘は人類と同じく段階がある。

 人生で初めての成長痛があった。

 

 私の身長は子供という背丈から、女性へと変化した。

 母よりも少しだけ低い程度におさまったが、甘えることが恥ずかしくなったものだ。

 

 成長痛は私の筋肉と骨に耐久性を与えて多少は壊れない程、丈夫にした。

 人類の場合、幼少期の頃に過度な運動をすることが、成長の阻害に繋がると言われていた。

 しかし、ウマ娘の場合は別らしい。

 

 幼少期のオーバーワークは、私を現役のウマ娘と同程度にまで成長させた。

 

 実験の成功に父は大きく喜び、更なる協力を約束してくれたことはいうまでもない。

 母は私を心配することが多くなった一方で、

 『ウマ娘』としての私を応援してくれるようになった。

 

 後は『専属トレーナー』が付いたことだろう。

 

 ウマ娘のトレーナーに就くためには、『URA』の国家試験を受けなければならない。

 逆を言えば、資格を取得していれば誰でも名乗ることが可能だということだ。

 

 私も自らの可能性と今後を考えて、専属トレーナーとの契約を望んでいた。

 

 

 

 

 私の成長と共にその機会は突然訪れたのだ……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 アメリカに来たのは、フランスの山崩れから数年経った頃だった。

 私とブロワイエが”再会の約束”を交わした後の話である。

 

 

 私のウマ娘人生は、過去の私と似ていた。

 家族が居ない点を除いて、移動しながら生活することに変わりなかった。

 

 信頼出来る”何か”が欲しかった。

 アメリカに来た頃、私の抜けている欲望とは何かを思考した。だが原因が分からない。

 

 人生において私は悩みを抱えたことが無かった。苦しむことは何度もあったのだが。

 それは生前も一緒であり、悩む前に行動を起こして問題に取り掛かっていた。

 

 しかし、今は頼れる人物がいるではないか。

 悩みを共有できる人物。母のアストライアである。

 思えば母に対して、悩みを相談したのはその時が初めてだった。

 

 

「母上、よろしいでしょうか?シャア・アズナブルです」

母の寝室を訪れて私は扉の前で確認した。

 

「シャアですか? どうかしましたか、入りなさい」

母は生前の記憶に残る瓜二つの声で私を招き入れた。

 

「少し相談があって参りました。失礼します」

夜中に訪れたこともあり、相手は桃色の寝着を纏っていた。

 

 

 シャア・アズナブルは質問する。

 悩んでいることの原因が理解できないのだと。

 

 父と母の愛情を受けて自分は満たされており、

 父には協力を与えられ、母からは庇護を受けている。

 

 これ以上ない最高の環境であることを私は誇らしいと感じているし、

 それに苦痛を感じたことも無いのだと。

 

 母は私の内容をゆっくりと静かに聞きながら答えた。

 

 

「シャア、よくお聞きなさい。貴方に足りないのは指導者よ」

私はその言葉に大きな衝撃を受けた。

 

「貴方は聡いわ、私が小さい頃は何も考えていなかった」

 

「私達夫婦はむしろ貴方に学んでいた。私は貴方に教えることが何も無かった」

 

「だから初めて道を示します。シャア、トレーナーを得なさい」

トレーナーという言葉に私の理性ではなく本能が突き動いた。

 

「トレーナーとはどういう存在なのですか、母上」

私は自身の本能が溢れないよう冷静に発言を行った。

 

「トレーナーはね、特別な存在なのよ。シャア」

母は寝室にある窓を見上げて言った。

 

「・・・。母上と父上の出会いは、トレセン学園でしたよね?」

そうして母は語り出したのだ、父との馴れ初めを。

 

 

 父も航空宇宙局に在籍する前は、アメリカのトレセン学園にいたのだという。

 トレーナーであるのに、彼は専属ウマ娘を持たなかった。

 

 ただひたすらに、宇宙とウマ娘の研究に励むという生活を行っていたのだ。

 そして母と運命の出会いを果たした。

 

 天体観測地点で、二人は偶然一緒になった。

 二人はそこで時折愛を深め合い、結婚に発展する結果となった。

 

 父はトレーナーを辞職し、母は特別良い成績を修めずに卒業した。

 

 

 そうして私が生まれた。

 

 

「父上と母上は後悔していないのですか?」

私は疑問に思っていた。それは二人とも競走の道を諦めたからだ。

 

「そこに後悔はないわ。だって一緒になれたんですもの」

母は嬉しそうに頬を染める、それは二人の仲が今も良好だと示した。

 

「それではウマ娘にとってのトレーナーとは?」

自らの中にある答えを知りたかった。

 

「・・・。ウマ娘にとってのトレーナーは戦友よ」

難しい質問だっただろうか、母は悩んでいる様子であった。

 

「戦友ですか、確かに私に必要な(モノ)ですね」

 

「戦友は生涯の友人、私達のように恋人のようにも成り得るわ」

それは私のトレーナーが、どちらに転ぶかを想像しているようだった。

 

「そうかもしれません。ですが、出会いは運命的なものでしょう?」

父と母の出会いは運命だ。それは全員が必ず得られるものではない。

 

「三女神を信じていれば必ず訪れるわ。それがウマ娘の真理だから」

 

「ありがとうございます、その運命が訪れることを神に祈ります」

 

 

 私は母の寝室を去った。

 ”戦友(トモ)“を得る。それは私の人生で必要なことだ。

 

 この時から私は母に相談を持ちかけることが多くなった。

 母との絆が、この夜から深まったことは私の中で嬉しい誤算だった。

 

 

 

 そして数日後、運命の日がやってくるとは思わなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――母の言った運命が訪れたのは流星群が降る夜だった。

 

 

 父の仕事仲間が催してくれたホームパーティーに私は出向いていた。

 

 そのパーティーに参加していた、ある一人の男性にデジャヴを感じていた。

 

 

「紹介しよう、シャア。こちらがオリヴァー・マイだ」

 

 

 紹介されたのは生前に聞いたことがある名前であった。

 生真面目そうな風貌であり、髪は私と同じ金色のオールバックが特徴の男だった。

 

「!? シャ、シャア・アズナブルです」

私はあまりにもそっくりな彼に驚いて、言葉に躓いてしまった。

 

 

「私の名前はオリヴァー・マイです。気軽にオリヴァーとでもお呼びください」

彼は紳士で躓いたことに言及せず、ただ肯定してくれた。

 

 

「よろしくお願いします、オリヴァー。私のこともシャアとお呼びください」

 

「シャア。マイ君は優秀だ。この若さでトレーナー資格も保持しているらしい」

 

「ただ家庭の事情で取得しただけです。私は根っからの宇宙馬鹿ですから」

 

「ハハッ、それもそうだな。君は優秀なエンジニア主任だからね」

 

 私はこの時、運命の歯車が回り始めたと確信した。

 同時にそれが彼だというのなら、私の運命に関わって欲しくはなかった。

 

 

「父上、オリヴァー・マイさんをお借りしても?」

私はいつもの甘え声で父上に頼んだ。

 

「もちろんだ娘よ、マイ君もいいかな?」

 

「えぇ、ダイクン氏の娘さんと一度喋ってみたかったのです」

 

「それは何よりだ、後は若い二人に任せるとしよう」

そう言うと父は私と彼を置いて会場に戻った。

 

 

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

 

 

 二人はパーティー会場のバルコニーで一緒になった。

 見上げると夜空には流星群が降り注いでいた。

 そうして二人の時間は無言のままで過ぎていった。

 

 最初に言葉を発したのは、オリヴァー・マイであった。

 

 

「私が間違っていたら、すみません」

彼は星空から視線を動かして私に振り向いた。

 

「貴方は・・・キャスバル・レム・ダイクン。ではありませんか?」

彼は競走バとしての名前ではなく、『生前の本名』を知っていた。

 

 

「さあな、私はシャア・アズナブル。それ以上それ以下でもないさ」

私は理解していた、目の前の人物が生前に知っている者であることを。

 

「貴方が行方不明になった後を知りたくはないですか?」

 

「――ッ!?」

その言葉に私は大きく動揺した。

 

「これは私の独り言です」

 

「貴方が『第二次ネオ・ジオン抗争』で消えた、あの日は語り継がれました」

 

「ミネバ・ラオ・ザビは生存し、ある少年と我々の夢を叶えてくれました」

 

「”ラプラスの箱(宇宙世紀の真実)”を解き明かして、宇宙移民者の参政権を世界に発表したのです」

 

「……」

 

 私は言葉を失った。

 目の前に居る人物は私の死後を知っており、それを赤裸々に語っていた。

 

 

「貴方は何故この世界に呼ばれたのですか、シャア大佐」

 

「その名前で呼ばないでくれ、マイ中尉。今の私はシャアというウマ娘だ」

 

「私に近寄らないでくれ、私は独りでいい」

 

「何故私を避けるのですか、シャア大佐」

彼は私に一歩、近寄った。

 

「触れるな! 今の私はかつての君の友ではない!!!」

私自身、なぜ罵声を浴びせたのか分からなかった。

 

「・・・君を置いていった私をどうして怒らないんだ」

ふと目から涙が溢れてきた。これは悲しみか、彼への償いか。

 

「貴方は私の幸せを願ってくれたのでしょう、だからあの時に私を置いていった」

 

「あれはシャア・アズナブルの最終決戦だった」

彼は私の瞳を見て真剣に語る。

 

「だから唯一の友を置いて出た貴方を、私も怒る気にはなれませんでした」

彼は私の手を掴んでいた、その手は温かい。

 

「この世界に呼ばれたのは、貴方を愛した女性に導かれたからです」

手を握り彼は宇宙を見上げていた。

 

「貴方もそうなのでしょう、キャスバル・レム・ダイクン」

 

「迷惑をかけたマイ中尉。しかし、君が巻き込まれることはない」

私は彼の手を除けようとする。だがしっかりと繋がれた手は離れない。

 

「嘘ですね」

 

「何がだ」

 

「貴方は求めているのでしょう、嘗ての戦友を」

 

「それは君の妄想さ」

 

「いいえ、だからこそ。今、私がここにいます」

 

「だからダメなのだ。この運命は私が全て背負わなければならない」

 

 

 自分でも意地っ張りだということは理解している。

 望んでいるものが大切だからこそ、遠くに置きたい。

 

 それは嘗ての私が、ララァ・スンを失ったことから学んだ経験であったからだ。

 もう何も失いたくないのだ、そして私を独りにしておいてくれ。

 

 

「貴方は変わってしまった。その頑固さだけが残ってしまった」

 

「頑固なのは昔からだ。あの『ア・バオア・クー』から変わらない」

 

「全てはララァ・スンの導きですか?」

 

「貴様に何が分かる! 知らない世界で……」

そこで思い出した、彼もまたこの世界に生まれ変わったことを。

 

 

「・・・すまない失言だった」

 

「分かりますよ、大佐。私も見知らぬ身分を渡されて産まれました。亡命者の気分です」

 

 

 彼は私の発言に怒りもしない。

 むしろ昔のように私を肯定してくれる。

 その優しさが罪だということを彼はなぜ認識しないのか。

 

 

「嫌ならばなぜ運命に抗わなかった。三女神など無視してよかったのだ」

 

「最大限に無視しましたよ、私は名門のトレーナー家系に産まれた」

 

「そしてトレーナー資格を取った後は、宗家と連絡を取っていません」

 

「ならなぜここにいる」

 

「運命ですよ、シャア大佐。結局は逃れられないのです」

 

「・・・嫌ではないのか。私は君に傷ついてほしくはない」

 

「実は私にも叶えたいことがありました、それは戦友に再会するということ」

彼は几帳面な顔を恥ずかしそうにして私を見た。

 

「これは嘗ての親友を助けるために、間に合わなかった自分への贖罪です」

 

「まだあの日のことを後悔しているのか、あれは君のせいではない」

 

「理解しています。でも私は貴方を今度こそ守りたいのです」

 

「修羅の道だぞ、多くを敵にすることになる」

 

「よいではありませんか、かつての貴方も地球全体の敵だった」

 

「皮肉だな。しかし、君は私の戦いに参加していない」

 

「あの『ナイチンゲール』を改修したのは私です」

 

「ダメだな、君が関わっているじゃないか」

 

「ハハハッ、これで言い合いっこはなしですね」

 

「参った、これでは君を拒めない」

 

「これからはあの時と同じように運命共同体です。シャア大佐」

 

「よろしく頼む、マイ中尉」

 

 

 私はこれまで男性という存在を父以外に近寄らせなかった。

 だが、彼ならば良かった。戦場を共に駆けた彼ならば。

 

 二人は流星群を見上げていた。

 自分達のことや懐かしい生前のことを語りながら。

 

 

 この世界に来て久々に笑った気がする。

 この出会いは神が与えた、私への慰めだったのかもしれない。

 

 

 

 

 




【シャア・アズナブル】:

 機動戦士ガンダム、その他多くの作品に登場。

 原作では『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』以降、
 行方不明扱いとなっている。

 『ア・バオア・クー攻略戦』では、
 復讐を成し遂げた後に前線にてある兵士を救っていた。

 そのことが原作と大きく乖離した点である。



【オリヴァー・マイ技術中尉】:

 機動戦士ガンダムMS IGLOOに登場。

 原作では『モニク・キャディラック』のヅダに救出され、
 一年戦争を生き延びている。

 だがこの世界線では『赤いヅダ』も共に彼を救ったようである。

 このウマ娘の世界において『シャア・アズナブル』が、
 『キャスバル・レム・ダイクン』だと知っている数少ない人物。

 今回の言動から考えれば
 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』以降も、
 生存している可能性が示唆される。


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