ようこそ怠惰至上主義者の教室へ   作:贋作者

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男子高校生

「いや、無理があるだ──」

「違うんです」

「いや、流石に──」

「違うんです」

 

 何が違うのかはわからないが、とにかく違うんです。

 

「北アメリカに位置し、大西洋および太平洋に面する連邦共和制国家である国、首都はコロンビア特別区通称ワシントンD.Cの国、つまりアメリカ合衆国において、ブッ・コロスゾという名を蟻につけることは何より自然であり、それこそが後世に引き継がれるべき素晴らしき風習であります。むしろ逆に蟻を見かけたならその名をつけなければ罰を与えられるのです。故に俺がその名を唱えたことはなんら不自然なことではなく、あなたにアリが視認できなかったのはあなたの視力が落ちてるからで、何もおかしなことはないんです。本当です。嘘じゃないんです。事実です。証拠もあります。ほら、コロンビア特別区という首都の名前にご注目ください。先程俺が蟻につけた名前はブッ・コロスゾ、そしてコロンビア特別区、二つには共通点がありますよね?そう、コロ、という点!これこそが証拠!!動かぬ証拠です!!」

「は、はあ……」

 

 怯えたように一歩足を引く青い服を纏う怪物、通称警備員。

 俺がついている職業、自宅警備員の下位互換だろうか。

 ここは一つ、先輩としてお灸を据えてやりたいところだが……今はそれどころではない。

 

「……と、とにかく!ここ、高度育成高等学校の敷地内に入ったものは、卒業するまで外部へ出ることが禁止されている。君が何故あの車に連れてこられ、君の親と思わしき人物が君を引き摺り回してこの門の中へと放り込んだのかは知らないが、これは規則だ」

 

 俺を妖怪でも見るかのように眺めている警備員は、早口でそう告げて、門の警備へと戻っていった。

 

 ……今日は最悪の日だ。なぜこんな理不尽な目に俺が合わなきゃいけないんだ!?……し、しかしなんとかあの警備員の猛攻を防げたのはよかった……

 

 ……が、ここからどうする……?さっきの警備員の説明から分かったことだが、どうやら俺は捨てられてなんかいなかったようだ。

 そうだよな、そんなことするわけないよな。だって親だもんな。

 

 どうやら俺は捨てられてはおらず──ここに監禁されたらしい。

 

 えー、どうみても捨てられた方がマシです本当にありがとうございました!

 

 ……今思い出したことだが、俺が受験したのはこの高校だ。だから悲しいことにここを追い出される、ということはない。

 いやでも流石に校内のガラスを全て破壊したり、校長のカツラを奪ったり、人の消しゴムを奪ったりすれば、退学、はさせられるんじゃないか?

 

 ……でも退学してどうする……?家にはもう……帰れない。俺は素晴らしき人格者だからな。もう親に迷惑をかけるのはやめだ。……べべべ別に?妹の蹴りが怖いわけじゃないからな!?本当の本当のリアルガチで違うからな!?

 

 ……ちっ、となると俺は学校生活をしなければならないことになる。ああ、なんと面倒な話だろう。

 

 俺がしばらくそうやって絶望に浸っていると、と、門のほうへと帰っていった警備員が物凄く迷惑そうな顔で俺の方へと向かってきて、口を開いた。

 

「……そこにいると通行人の邪魔になるからさっさと校舎へ行きなさい」

「……でも俺、実は……」

 

 俺が独白を始めると、警備員が息を呑んだ音が聞こえた。

 そう、俺は実は

 

「足が痛くて……動けないんです……」

 

 大嘘だった。

 

「……まさか、さっきの……」

「い、いえ!あなたのせいにするつもりは毛頭ないです!例えあなたに足を引っ掛けられたから足を挫いてしまったとしても、不注意だった俺にも責任がありますし、そもそもこの学校のルールを知らなかった俺が悪いんです!俺が転んだのは、俺のせいだ!」

 

 俺は地球にキスしかけた状況のまま、めんどくさかったため、ここまで顔以外を全く動かしていなかった。故に足をくじいたと言う大嘘にはないはずの信憑性がある。

 

 俺のせいだ、と自らを責め立てるこの素晴らしき台詞を言う時、何故か無性に土下座をしたくなったが、面倒なのでやめておいた。

 

「くっ……確かに、そう……だが…………少し待ってろ」

 

 警備員は苦しそうにそう告げると懐からトランシーバーらしきものを取り出し、連絡を始めた。しばらくが経過すると、警備服を着たもう1人の人間がここに到着し、2人で何かを話すと、今到着した方は門のほうへ、俺がずっと話していた方は俺のところへと来てしゃがみ、背中を差し出してきた。

 

 察するに、門の警備を別の人に任せ、俺を運んでくれる、と言うことだろう。………ふっ、計画通り……!

 

 しかし……おんぶか……おんぶは手の力を使うから嫌なんだよな……よし……

 

「……ぐっ、す、すみません。どうやら俺、その背中にたどり着くためにしゃがむ事もできそうになくて……」

「……そ、そこまで痛いのか……わかった」

 

 警備員はそう言うと、地面に寝転がっている俺の体を両手で持ち上げた。ついでに俺と共に散らばっていた荷物も。

 これぞ至福の時。己の筋肉何一つ使わず、何もする必要性がない。……お姫様抱っここそ、至高の存在だ。

 

 視線が一気に上へ上がると、すごく変な気分だ……周りがよく見える……と、なり、どれだけの人が俺を眺めていたのかを今更ながらに理解した。

 

 俺がお姫様抱っこをされているのを見て、吹き出すものが何人か見える。……ふっ、嫉妬か……くだらないな…………………く、くだらないが、一応、念のため、なんかあった時のために、俺は今吹き出した奴らの顔を全て覚えた。精々背後には気をつけるんだな。

 

 俺が心中で警告を行う中、ついに警備員が発進した。

 しかし、この警備員は中々役に立つな!はははははは!馬鹿でアホだが、だからこそ操りやすい!これからも精々俺の下僕として使ってやろう!はーっはははは……は?

 

 俺は、あることに気がついた。……気がついて、しまった。

 

「お、おい……この風は……なんだ?」

 

 さっき突然、俺の顔に風が当たった。そしてそれは今もなお、継続中だ。……ふと俺に当たる風が気になって上を見上げてみると、そこには──

 

 

 ──()があった。

 

 

「ね、ねえ……警備員さん、何をそんなに、興奮……していらっしゃるんですかね……?」

 

 俺が上を見上げたところ、そこにあった悪、とは鼻息を荒くした警備員の野郎の顔面だった。

 まるでこの世のものとは思えないほどのおびただしい顔面。鼻息を荒くした警備員を見た瞬間、俺は本能で理解した。こいつは、悪だ……と。

 

「……まさか、女子高生に興奮してるのか……?や、やめましょうよ!!」

 

 この役職を!!

 俺は警備員の男にそう叩きつけてやりたかった。俺と同い年の女子を変質的かつ変態的な視線で見ながらふへへへと笑うのはやめて欲しい。非常に気持ちの悪い興奮の仕方に、俺はついに鳥肌がたった。

 

「……??まさか、そんなわけがないだろう。ここは政府が関わっている施設だぞ?それでは警備員審査は通れまい」

 

 俺の疑問に意味がわからない、と言った様子で答えてくる警備員。ここって政府が関わってたの!?と俺が驚く暇もなく、確かに政府が関わってるなら審査通れないか、と、筋の通る論を言われ納得してしまう俺。

 

 …‥いやまあ確かによく考えたらそうだよな。政府が関わっているにしろしないにしろ、女子高生に興奮するような変態が警備員になれるわけが──

 

 

 

 

「──私が興奮しているのは男子高校生の方だ」

 

 

 

 

 ──俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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