「や、やめ、やめろ!!俺とチェア様の絆は誰にも引き裂けない!」
俺を力づくで離そうととしてくる教師に必死で抵抗する俺。
「ぼ、暴力反対!そうだ!俺たちには言葉がある!そうやって力づくで離そうとするのではなく、言語を使って話そうとするべきだ!!」
「最初にこちらの意見を聞かなかったのはそちらだろう。……全く……どうせDクラスなのだろうな」
力づくでついにチェア様から離された俺は、荷物と俺を持つ教師に廊下へと引き摺られていく。
くそ……坂柳有栖、だったか……絶対に、絶対に絶対に許さない……理事長の娘だかなんだか知らないが、絶対に…………なのに声を出さないのは、別に?相手が権力者だからじゃないですよ?ほんとですよ?ただ単に椅子から離れて声を出す気力がないだけですからね?俺が本気を出せばここからでも、突如として全財産が消費されて、お猿さんの大群に変化する呪いを絶対にをかけてやる、と叫んでいただろう。全く、俺からの慈悲に感謝してほしい。……だ、だから権力を振り翳して俺を退学とかにしないでくださいお願いします。
「……本来ならばどこのクラスか確認して送るべきなのだろうが……間違いなくDクラスで合っている。というか、そうでなかったら恐ろしい」
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴る中廊下を引き摺られる俺。
「……あなたはちっとも分かってない。椅子とはどれほど素晴らしきものなのか?俺がそれをあなたに教え込んでさしあげましょう!」
「……はぁ……そんなことに興味はない」
「そうやって何にも興味を持たず、何も欲を持たず、果たしてそれが生きていると言えるのか!?まずは話だけでも聞くんだ。分かるか?椅子というのは、至福の発明だ。誰が作ったのかは知らないが──」
「知らないのか」
「──と、とにかく、素晴らしき発明なのだ」
「おい、目を逸らすな」
くっ、論点をずらしやがって……。
「そ、そんなことはどうだっていい!」
「いやよくないと思うが」
「……そうやって人の揚げ足取りばかりをしていると嫌われますよ」
「お前のような生徒にだけは言われたくないな」
くそ、ああ言えばこう言ってくる。……というか、椅子もないし布団もないし……めんどくさくなってきた…………いや、だがここで何かいうのをやめてしまえば逃げた、ということになり………いや、別に逃げてもいいか。めんどくさいし。
思えば今の状況は理不尽だがそこまでクソ面倒な状況ではない。
俺に自らの足を動かせというのではなく、この教師は俺を引きずってくれている。
すると突然、感謝の念が湧いてきた。口に出すのは面倒だから言わないが、ありがとうございます!とだけ思っておこう。
俺が引き摺られ始めてから少し。
ついに教師は俺を引き摺り回すのを止め、とある教室のドアを開けた。
「新入生諸君。私はDクラスを担任することになった──なった……おい、どういう状況だ?」
ポニーテールの婚期を逃した感じの女性が偉そうに喋っていたところ、侵入してきた教師に驚愕し、その動きを止めた。
「……間違いなくDクラスの生徒であろう存在が、何故か、本当に何故かうちのクラスに平然と紛れ込んでいた。だから渡しに来たわけだが、失礼したな」
引きずっていた俺から手を離し、教室をさっていく教師。
皆の視線が俺に刺さる。
「???…………………あっ!こいつ!校門で警備員にお姫様抱っこされてたやつだ!!」
!?……衝撃の表情を浮かべる皆と女性と俺。
そ、そういうお前はまさかあの時吹き出していたクソ野郎……ふっふっふっ、まさかここでまた会えるとはな。精々夜道と朝道と昼道に気をつけるがいい。いやめんどくさいからなんもないかもだけど。
「……た、確か、車で運ばれてきて、親らしき人物に放り投げられてたやつじゃ……?」
!?……またもや衝撃を受ける一同。
まさか貴様は笑っていたゴミ野郎……感動の再会だな。再会の証として、俺からの罵詈雑言を贈呈する。
この!メクラチビゴミ虫が!!……いや、これではメクラチビゴミ虫が可哀想か。この!エメラルドゴキブリバチが!!……いや、これではエメラルドゴキブリバチが……じゃ、じゃあ!この人間が!!……うん、これなら良いな。満足だ。
「……そ、そうか……あそこの席が空いているので不思議だったが、お前だったようだな。では、席につけ」
「嫌ですけど」
「は?」
元来微妙な顔で俺を眺めていた女性が、さらに複雑怪奇な顔となって魔の抜けた声を出す。
「いや、普通に嫌ですけど。歩きたくないんですけど。俺を運んでほしいんですけど」
「お、お前…‥何言ってるんだ……?」
これは圧倒的理不尽かつクソ面倒な状況だろう。声を上げざるを得ない。あの教師が俺を席まで連れて行ってくれればそれでよかったのだが……どうして俺を捨てたんだ……あいつ、俺のこと、遊びだったのかよ……最後まできちんと、責任、取れよ……………………おえええええ。自分でやっててなんだが、なんとも気色の悪いセリフだった。
「日本語ですが何か」
「いやそうではなくだな……というかお前、名前は
「何故それを……!?個人情報保護法に則り、あなたは今から法廷へと出向くことになるでしょう。もし嫌ならはよう!早く俺を席まで運んでください!」
「……生徒たちの中学のデータを我々が所持しているだけに過ぎない」
心底ゴミを見るような目で見てくる女性。そして本当にこいつは天羽快斗なのか?などどよくわからないことをぶつぶつと呟き出した。
「……本当に移動する気はないのか?」
「はぁ?何を当たり前のことを。バカなんですか?」
ヒェッ……。
ピキッ、とどこからか謎の音が聞こえた気がした。……目から謎のオーラを発信し続ける女性……い、いやだがここで屈してしまえば妹の件の二の舞……俺は強大なる権力には屈するが、暴力には決して屈しはしない!……いやめんどくなったら屈するかもだけど、この場合屈したら面倒になるわけで……
「…………はぁ……天羽の席は……窓側の最後尾のひとつ前の席か……その隣は……女子だから………………綾小路。天羽を運んでやれ」
女性に指名されたであろう少年は、茶髪で少しイケメンっぽくて今すぐ死んでくれ頼むから……じゃなくて、なんだか影の薄そうな奴だった。
そして無表情なのに凄く嫌そうな雰囲気が伝わってくる。何故だろうか。皆が綾小路に注目する中、綾小路は何か抗議しようと口を開いて、閉じた。
そして注目されたくないのか、背をかがめて俺の方へと向かってくる。
「……注目!思わぬハプニングがあったせいで時間を随分と食ってしまったが、もう一度説明させてもらう。私はDクラスを担任することになった
皆が話し始めた茶柱なんとか先生に注目する中、後方で綾小路という少年に荷物と共に持ち上げられていた俺は、驚愕していた。
すごい筋肉だ。
「……オレは綾小路清隆だ。よろしく」
突如として小声で話しかけてくる綾小路きよ……清姫?とかなんとかいう存在。
当然ながら、もう疲れ切っている俺は口を開かない。
本当に小声で、友人ができるかもと思ったんだが、と悲壮な声をして呟きはじめた綾小路。
先ほどと同じように、至福の時、つまりはお姫様抱っこを堪能する俺。
周囲を見渡すと、大体のやつは何故か既に先生の話を聞いておらず、俺たちの方を奇異の目で眺めていた。
……綾小路はしきりに周りを気にしながら俺を席へと運び終える。
椅子へと下ろされる俺。どうにも俺の隣の席の少女と、綾小路の隣の席の少女が心底ドン引きした目で俺を見ている気がする。
生憎と俺はドMではないのでそういった目線はやめて頂きたいところだ。
荷物を置き、椅子に座らせられた俺は今、天国に居た。
聖なる布団?チェア様?はっ、ばっかじゃねーの?俺の嫁はこの椅子……この椅子………………この椅子だ!
べべべべべ別に?名前が思いつかながったわけじゃないぞ?本当にな?
俺は椅子に癒されながら、机に手をだらーんと置き、至福の時をたしなみつづける。
凄く、良い気分だ。
そのまましばらくの時を過ごしていると、突如として先生が教室を出て行った。ごちゃごちゃごちゃごちゃと、なんの話をしていたのだろう。
「思っていたより堅苦しい学校ではないようね」
「確かに、というかむしろ優遇され過ぎてるくらいだ」
突然、背後から話し声が聞こえてきた。
察するに、俺のことをゴミを見る目で見てきた少女と、影の薄い……あ……あ………愛の工事清水寺、みたいな感じの名前をしてた奴が会話をしているのだろう死ねクソリア充が。
「……ああ確かにそれなわかるー」
「……!?……………突然何かしら……?」
リア充共の会話を荒らすために後ろを振り向き適当に相槌を打った俺に衝撃を受けたのか、俺をゴミ虫を見る目で見てくる少女。愛の工事清水寺さんは無表情で固まっている。
「…………あなた、さっき綾小路くんに運ばれていたわよね。察するに極度の面倒くさがり屋のようだけど、どうして会話を?」
「……確かに、椅子に座っているとはいえ俺は全てが面倒だから、それだけじゃわざわざ体の向きを変えるなんてことはしない。だが、圧倒的理不尽かつクソ面倒な事態ゆえ、俺は口を出させて頂いた」
「面倒くさがり屋もここまでくるともはや病気の域ね。とはいえ今のだけじゃ要領を得ないのだけど」
「まあつまり、俺に彼女がいないのにリア充がいるという圧倒的理不尽な事態に、俺の背後でいつもいちゃこらされるとクソ面倒くさい、という事象が重なり合って、俺が動く事態へと至ったのだ」
「あなた……人としてどうなの?……それに、私と綾小路くんは全く関わり合いのない他人よ。赤の他人。鳥肌が立つから、下衆な勘ぐりはやめてもらえないかしら」
少女の言葉に、その綾小路くんとやらは死んだ気がする。
で……
「俺が運ばれたっていう綾小路って誰だ?」
「いや嘘だろ?オレなんだが」
愕然とした、と言った感じで口を開いた愛の工事清水寺さん。
「は?お前は愛の工事清水寺だろ?俺を運んでくれた」
「そいつは一体どこの何だ」
嘘、だろ……こいつの苗字、愛の工事じゃなくて綾小路だったのか……?
「あとのときよくらいしか合ってないじゃないか。オレの名前は
「哀れね」
綾小路を可哀想なものでもみるかのように見ている少女。そして何故か俺のことはゴミ虫を見るような目で見てくる。この少女はドSなのだろうか。
「だってクソ面倒だったし、疲れてたからな。なあ、衝撃の事実を教えてやろうか?間違いなくお前たちは驚くと思う。賭けてもいい」
「……なんだ?」
無表情で続きを促す綾小路。
「実は、俺は今の先生の話を……」
興味なさげにしていた少女ですら俺が今の先生の話、という単語を出した瞬間、真剣な顔で俺の続きを待ち始めた。
「──一ミリたりとも聞いていなかった!」
「殺すわよ?」
「はいすみません」
……こ、こわい。この少女はまずいやつだ。妹と似た気配を感じる……というか、初対面の相手に殺害予告……そして脅迫……なんという犯罪フルコンボ。間違いなくこいつは頭のおかしい女だ。……だが、さっき俺は妹の件の二の舞にならぬようこの世で一番俺が嫌いな、努力をした。それを無駄にしてはいけ──
「私のコンパスに刺されたくなったらいつでも言ってくれて構わないわ。本当に、いつでも待っているから」
──ないだろうか?果たして、暴力に屈することを拒む理由があるだろうか?単に俺のプライドの問題ならば、そんなものは破って仕舞えばいい。プライドなんて、守るのが面倒臭いのだから。そう、俺は決して屈したわけじゃない……俺は自らの意思で選択した……べべべ別に、少女が怖いから意見を変えた、なんてことは決して、ない……俺の元許嫁である聖なる布団に誓って。
氏名:天羽快斗 (あまば かいと)
学力:B
知性:B
判断力:B-
身体能力:E-
協調性:D
【面接官からのコメント】
学力、知性共に平均以上のものを持ち、世間的にはいわゆる卑怯と言われる手段ではあるが、すぐに問題を解決できる能力を持っている。一方身体能力は壊滅的、恐らくは全国で一番レベルに身体能力が低い。協調性は高く、中学のイベントなどでは物事の中心役を担っていた様子。しかし、女性と話す時にたまに怯えていたり、何故かカップルに対しては並々ならぬ憎悪を募らせており、さらには子供っぽさから喧嘩っ早く、それらが絡むと暴走してしまう模様。よって、Cクラス所属とする。 追記:対象は受験終了後、登校拒否をし始めた様子。単に受験が終わったから遊んでいる、というわけではなく、誰とも会わず、卒業式すら来なかった、とのこと。もしかするとサボり癖がついてしまっている可能性から、Dクラス所属とする。しかし、標準よりかは高い能力を有していることには変わりないので、主に身体能力や精神面においての成長を期待する。
【担任のコメント】
このコメントを書いた面接官の解雇を望みます。彼はコメントから読み取れる人物像とは遠く離れた存在であり、クラスの中心を担うのではなく、クラスを中心から破壊しています。
とはいえ、自らがだらけるためではありますが、彼は他者を巧みな話術で動かし、楽をすることに成功している事もあります。一時的ではありますが、すぐに問題を解決できる、という能力を持っているのは間違いではないようです。
彼の自堕落な思考回路が変わることを期待します。