ようこそ怠惰至上主義者の教室へ   作:贋作者

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因果応報

「死にたい」

 

 俺は堀北によって人生最大レベルのトラウマを植え付けられた。

 しかもどうやらここはコンビニの前だったらしく、堀北にちょっと近くの路地まで連行されてから、思い出すのも恐ろしいようなことをされまくった。

 

 帰ってくると、綾小路はどこかへ消えていた。歩くのが面倒なので路地裏から動かない、という選択肢も当然取れたのだが……も、もう当分路地裏は勘弁して欲しい。路地裏=堀北、という式は既に1+1=2、という式と同じくらい常識的だ。

 

 面倒だが食料を買うため、コンビニの中へふらふらと入ると、レジ前に、堀北と綾小路と赤髪のいかにもクレイジーなやつらがなにやら色々と争っていた。

 もはや堀北がいるというだけで関わりたくない俺は、おにぎりコーナーへと直行し、置いてある限りの塩むすびを全てとり、籠に突っ込む。

 

 ……そしてレジへ行くと、何故か未だに赤髪のやべえやつと綾小路たちが話し合っていた。

 いや待つのクソめんどくせえ。あー、すっげー強盗してーなー。

 

 堀北の襲撃によって心がやさぐれている俺はそんなことを考える。

 ふと、実行しようかと迷ったが、そんなことより堀北に仕返しをするべきではないのか、という思考が少しずつ生まれ始める。

 

 そうだ。あれはあまりにも理不尽すぎるだろう。……もしかすると堀北の弱みを握ることができるかもしれない……よし、とりあえず俺は、聞き耳を立ててみることにした。

 

 ……状況を完全に把握。あの赤猿は須藤、という名前で、財布を忘れた大馬鹿野郎で、綾小路はそれを助けるためになんか色々と話していたわけだ。

 丁度今、赤髪は何かを綾小路に指示すると、外へと出て行った。

 

「初対面なのにこき使われてるわね。従順な奴隷にでもなりたいの?……それとも友人作りの工程かしら?天羽くんしかり、友人は選んだほうがいいわよ」

「いや、天羽は友人というか……」

「友人というか、むしろオレは親友だ、と思っている」

「そう、むしろオレは親友だ、と……って、天羽!?……お、お前、生きてたのか…………あと勝手にオレのセリフみたいにするのはやめろ」

 

 衝撃を隠さない綾小路。直ぐにまた無表情へと戻ってしまったものの、やはりたまには表情筋を動かすらしい。

 

「……お前らしくないな綾小路。お前はいつだって何事もめんどくさがってて、息をするのも、口を開けるのも、何もかもかったりーな、とか言っていた癖に、自ら人を助けるとは」

「……綾小路くん……まさかあなた……天羽くんと……どうる」

「いじゃない。だからさっきも言ったけど、オレは別にそんな面倒くさがってなんか──」

「──でもあなた、自分で事なかれ主義がどうこう、と宣っていたじゃない」

 

 堀北の言葉に崩れ落ちる綾小路。いや実際には崩れ落ちてないが、そんな感じの雰囲気が醸し出されている。

 ……と、いうか堀北は相変わらず俺をゴミを見る目で見てくるが……あまり当たりは強くないな。さっきの事件で少し鬱憤が晴れたのだろうか?

 

「……そ、そんなことより会計を早く済まそうか。後ろもつっかえてるみたいだし」

「誤魔化したな」

「誤魔化したわね」

 

 俺たちの言葉にふい、と目を逸らす綾小路。そのまま会計をし始める。奴らの会計が終わったので次は俺がしよう、として俺の体は完全に凍った。コールドスリープだ。

 

「……お、おい、こいつは一体何を言っているんだ?」

「一応どうなっているか見に来たら……どうかしたのか?」

「い、いや、学生証がうんたら、と。まるで意味がわからない。……っていうかそもそも俺お金持ってないじゃん。悪い、綾小路、ここは一つ親友の頼みだと思って」

「絶対に奢らないぞ」

「な、なんだと?お前、俺を見捨てたことに罪悪感はないのか!?あの赤髪のやつに奢るくせに、俺に奢らない、とでもいうつもりか!?…………………あ、あの、ほんとに死活問題なんで本当にお願いします」

 

 くっ、屈辱だ。

 

「……そういえば天羽は話を聞いてなかったのか……多分、どこかに渡された学生証があるはずだぞ。そこには10万……って、おい急に顔を近づけるな。……10万円と同価値のポイントが入っていて……って現金じゃないと知った瞬間あからさまに冷めたな。その冷えた目はやめてくれ。……と、とにかくそれが学生証に入っていて、自由に使っていいとの事だから、自分で払えると思うぞ」

「なんだよ先に言えよクソ。俺のお願いを返せ。そして俺をもう一度抱えろ。足で立つのはクソ面倒だ」

「理不尽にも程があるだろ……」

 

 ブツブツとうるさい綾小路をよそに、要領を得た俺は瞬間的に会計を済ます。

 その過程において俺の膨大な量の塩むすびに目を疑っていた綾小路だったが、わざわざ買いに来るのが面倒だろ、と言ったら納得していた。いやでも賞味期限が、とかなんとか言っていたが、俺に賞味期限などという低俗な概念は通用しない。

 

 ……外へ出ようとすると、綾小路はカップ麺にお湯を注ぐのだ、と勇猛果敢にいきりたっていた。一体何が楽しいのだろうか。

 不思議に思いながらも、足を動かすのは面倒なのでそのままそこで綾小路を待つ。

 

「……あ、終わったか?じゃあさっさと俺を持ち上げ」

「ないぞ。というかそもそもカップ麺持ってるのに持ち上げられるはずないだろ」

 

 イカれた暴論を振りかざしたにも関わらず、いかにも正論をいった感を出す綾小路。やはりこういうところは怠惰の道を歩むものとしての才覚が見え隠れしている。

 というかマジか。俺は今から綾小路に抱えられるものだと思っていたから怠さを感じながらも喋っていたのだが……

 

 最悪の気分のまま、ゆっくり、ゆっくりと足を動かし始める。

 外へ出るとコンビニのの前には、赤髪のモンキーと堀北が口論している様子が映し出されていた。

 

 赤髪は綾小路に気がついたのか手を振り、堀北をどうにかして欲しそうな視線を向けている。

 

「彼、どうしたのかしら。突然怒り出して」

「あぁ!?てめえが品位がどうとか言い出したから………っと綾小路!こいつが、話を聞かないやつで……!!」

 

 その風貌から簡単に予測できるように、奴は間違いなくヤンキーであり、中々に沸点が低い様子だった。

 ふっ、その程度のことでキレるなどくだらない……

 

「って、まさか……そこにいるのは今日暴れ回っていたイカれた奴……」

「あぁ!?ぶち殺すぞゴラ!!誰がイカれた奴だ!?ふざけんなよてめえクソが!今直ぐてめえのケツに爆竹詰め込んで体内から爆破してやるよ。こちらとらストレスが溜まってんだよストレスが!!今日ほどひどい目にあった日は未だかつてない!!」

「お……おう……っててめえなんだ急にキレやがって!やっぱ頭イカれてるのか!?」

「はぁ!?てめえ、本当に俺に殺されたいみたいだな?コンパスで目ん玉抉り出してやろうか!!」

「おい天羽、お前多分今、堀北と須藤を合体させた最悪のモンスター状態だぞ……」

 

 綾小路が何か言っているが聞こえない。正直言って、大声を出すのはクソめんどくさい、クソめんどくさい……が、もう、我慢の限界だ。俺は人を見下すのは大好きだが、人に見下されるのは大嫌いなのだ。特に自分より劣っている存在に。

 

 これがもし、何も起きていない平穏な日常に突如現れたアホ猿だったらどれほどよかっただろう。その時は俺はきっと、くそめんどくせえ、と思い、口を開くことなくこの知能の足りないレッドヘアーを無視していたはずだ。しかし、今日は。今日だけは。もう無理だ……!

 

「……はぁ……くだらない。私はもう帰るわよ」

 

 堀北は俺たちが言い合いを始めたのを見て、背を向けて寮の方向へと歩き始めた。

 しかし、お前だけは絶対に逃さない。今日の俺は怠惰だけじゃない。ひどい目に遭いすぎて、憎悪の道が今だけは開かれている。

 

「おい、お前ら一年生か?そこは俺らの──」

「おい堀北!お前さっき路地裏で俺に凄いことやったんだから責任ちゃんと取れよ!!」

「──えっ?」

「「「「「えっ?」」」」」

 

 コンビニから出てきた3人組のよくわからない人たちが、何かを言いかけていたが、俺が言うことを言ってやると、皆一様に固まっていた。

 綾小路も、須藤も、例の3人組も……そして……堀北も……!

 

「な、な、なにをっ!!」

「おっと、とぼけるつもりか?お前は俺を路地裏へと連れ込み、襲いかかってきた、これは逃れようのない事実だ」

「でもそれはあなたに罰を与えるためで」

「罰?確かに罰は受けたかもな。俺の初めてを奪われたんだから」

 

 嘘は言ってない。

 俺は堀北に初体験を散らされた。そう、マーシャルアーツを生身で受けるという初体験を。

 

「ま、待ちなさい!変な勘違いは──」

「嘘つくなよ、天羽」

「……お前、天羽っていうのか?頭、本当にヤバいんだな」

「──えっ……」

 

 あれっ!?

 

 ちょ、ちょっと待て、なんで真っ先に俺が疑われてるんだ?堀北さえ驚いてるじゃねーか。え?なんで?思ってたのと違うんだが!?違うんだが!?

 

 綾小路と須藤が俺を何故か懐疑的な目でみてくるので俺が慌てる中、1人の男が立ち上がった。

 

「おいおい、そうやって決めつけるのは得策とは言えねーだろ」

 

 お、お前は……よく分からない三人組の1人……!いや誰だか知らんが!

 

「……おいお前らよく見てみろ!この襲われたと供述している被害者の男の制服、結構乱れてるぞ……!」

 

 はい。結構殴られたので。

 

「た、たしかに……!それに所々赤いあざみたいなのが……まさか、これがキスあと!?」

 

 はい。それはキズあとです。

 

「そしてよく見てみろ……こいつの無表情な顔を……間違いねえ……すごくひどい目に合わねえ限り、こんな感情の抜け落ちた顔になんてなるわけねえ……」

 

 はい。それがデフォルトです。

 

 三人組がそれぞれ決めポーズらしきものをしながら、一人一人俺が被害者たる証拠を述べていく。

 

 ………す、すばらしい!お前たちはなんて素晴らしいんだ!推理は全て的外れで、全くもって見当違いだが、あまりに素晴らしすぎる!!

 

「大体なんでこいつが一方的に疑われてるんだ?この証拠を見ればお前たちの考え方も──」

 

 ふっ、このよく分からない三人組は素晴らしいな。是非とも俺の手足となり、これからも共に歩んでいこ

 

「──いや、だってそいつの顔じゃ、なあ……」

「……堀北が天羽を襲うメリットがわからない」

 

 憐れみを交えて俺に告げてくる赤髪クソ野郎と茶髪のクソ野郎。

 な、なんと失礼なことを……だ、だが我が騎士たちにはそのような俗世的な理由は通用しはしない。

 じろじろと俺の顔と堀北の顔を見比べる三人組。ついに奴らは同時に口を開き

 

「あっ……あーー」

「……う、うーんと、これは……」

「……終わってる……」

「おいざけんな俺の顔面はそんなに変か!?特に最後のやつ!!終わってるのはお前の語彙力だ!!」

 

 く、くそ……裏切り者どもが……!

 

 俺が絶望に浸る中、突如として、俺の肩に何者かの手が乗っけられた。そのあまりの負荷に体が倒れそうになるも、そうなるとさらに面倒臭い、と思い直した俺は、手の主を探すため、嫌々顔だけを後ろへと振り向かせる。

 後ろを振り向くとそこには怪物──で、ではなく、堀北が。

 

 そして、堀北はにっこりと微笑んだかと思うと

 

「……………ふっ」

 

 心底ゴミを見る目で、鼻で笑われた。

 

 

 ち、ちくしょう!!なんか今日こんなんばっか!!

 

 

 絶対に報復してやる、俺はそう思い堀北をめいいっぱい睨みつけると──超高速で足を動かし、その場から離脱した。

 

 後ろから足遅っ、という声が聞こえたのは、きっと気のせいだと信じてる。

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