トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
時折点滅を見せる電光が僅かに照らす地下街を進む。
寂れた装いに反し意外な賑わいを見せる通りだが、このジメジメとした湿気だけは誤魔化しようもない。男の後に続いて道を進む少女は不快そうに顔を顰めた。
「……おい、こんな場所に連れてきて何のつもりだ」
「不満かい? 折角君の暇潰しにと足を運んだというのに」
「抜かせ。どうせお前の目的ついでに私をあやそうという魂胆だろう」
「はぁ……感の良すぎるレディは好かれませんよ? 確かに私個人の目的こそあるが……君のためというのも事実だ。少しは我慢してくれ」
隠すことの無い嫌気を向けるも男が足を止めようとすることはなかった。無駄を悟り、一応はその言葉を信じ矛を下げてやるとする。
だが最悪な居心地なことに変わりはない。男の目的が果たされるまでの間、せめてもの退屈潰しにと辺りを見回した。
「……しかし、随分と賑やかなものだな。あまり目にしない顔もいる。グローザ星系人にファントン星人……アクマニア星人までいるとは」
「˝シェルター˝は君も知ってるだろう? 他の惑星との交流が盛んではない星における異星人の隠れ家……これはその大規模なものだと思ってくれればいい」
「ふん……それで、そんな場所にお前は何をしに来た?」
「なに……ただの取引さ」
そう言って男が足を止めたのは昆虫を思わせるような複眼や触覚を持つ宇宙人が構える露店。
マーキンド星人。死の商人の肩書きを持つ、怪獣や兵器の売買を生業とする種族だ。
『なにかご所望で?』
「そうだな……これを頂こうか」
薄汚い台に並べられたカプセルのようなものを舐め回すように吟味した後、その内の一つを手に取った。
『ご生憎それはディスプレイとして飾っているものでしてねぇ……。お得意様ならともかく、貴方のような見ず知らずの方に売るようなものでは―――、』
「相応……いや、それ以上のものを出すと言ってもか?」
渋る仕草を見せたマーキンド星人の眼前で零れ落ちる幾つかの指輪。男の力で生み出した代物であるそれらを目にした奴の目の色が変わる。
『これは魔王獣の……!? こんなものを一体どこで……!』
「そこまでは答えられないなぁ……今君に取れるのは、私と取引するかどうかの選択だけだ。さあ、どうする?」
『ぜ、是非とも! 喜んでお渡し致します!』
「では、取引成立ということで……ああそれと、少々この星で使用できる通貨も頂けると助かる。それだけの価値はあるだろう?」
終始主導権を握ったままであった交渉が終わったのを見届け、足早にこの場から抜け出そうと歩を進める。その傍らで今しがた手にした戦利品を眺める彼へと問うた。
「いいのか? 奴は˝ヴィラン・ギルド˝の者だろう。あまり調子づかせると後々面倒だぞ」
「所詮は協調性のない有象無象の集まり……多少活性化したところで大した害にはならないさ。それよりも―――」
手を出せと、視線だけで呼びかけられる。
首を傾げつつも一応は言葉に従い広げた掌。与えるようにして落とされたのは数枚の紙幣と硬貨だった。
「私は暫くこれの加工で手が離せそうになくてね。君の相手は出来そうにない。その間はこのお小遣いで地球の文化でも楽しんできたまえ、オグリス」
「……逐一客人に対するものとは思えん態度と取るなお前は。舐めてるのか」
「まあそう言うなよ……早めにお暇する必要も出たんだ」
流された男の目線を追った少女―――オグリスの視界が何やらざわめき始めた地下街を俯瞰する。
その渦中で明らかに地球人である少年が顔を覗かせるのと、男が姿を消すのは同時だった。
『―――ウルトラマンタロウ。それが俺の父親だ』
明かりを消した部屋の中、寝転んだベッドに全ての体重を預けた雄牙は体内の同居人に耳を傾ける。
『˝ウルトラ6兄弟˝っていう、宇宙警備隊の中でも最強とされてる1人でさ。過去に何度も功績を上げた、光の国でも尊敬されてるような人なんだ』
「……凄い人が父親なんだな」
『ああ。加えて父さんの両親、つまり俺の祖父母はそれぞれウルトラの父、ウルトラの母って呼ばれる、実質的な宇宙警備隊のトップだ。……当然、そんな一族に生まれた俺も期待の目を向けられ続けてきた』
タイタスも口にしていた名前で切り出された話は重苦しい含みに反し、語られる内容は輝かしいものだ。ただし当のタイガには何か、それだけでは片付けられないような影が落ちているように感じる。
『最初は俺も誇らしかったさ。俺も父さんや爺ちゃんみたくなれるようにって訓練に励んだ。……けどどんなに優秀な成績を出しても、周りは口を揃えてタロウの息子だから当たり前だの温室育ちのエリートだの……誰も俺をウルトラマンタイガ個人として見ようとしなかった』
すぐにその正体は明かされた。一体化しているが故か、直に伝わってくるタイガの感情はどうしようもなく悲痛なものだ。
『だから宇宙警備隊の任務に無断で参加して手柄を挙げようと躍起になってたんだ。けど結果はこの通り、実体化も出来なくなるくらいのダメージを受けて俺は宇宙を彷徨うことになった。それがこの星で大体、10年前のことだ』
タイガが肉体を失い、この地球へと流れ着いた理由が明かされる。
全ては彼が周囲に植え付けられた劣等感と自尊心の暴走……つまりはそういうことらしい。
『お前と一体化したのも、ある意味ではその延長線上だ。この星を守り抜いたんだって証明できれば、きっと誰かが認めてくれる……そう思ってた』
否定で区切られた理由は雄牙もよくわかっている。ほんの先刻にこの目で確かめたばかりのことだ。
タイガが現在取っている行動は光の国、宇宙警備隊においては規律違反に等しい。仮にこのまま戦い抜けたとしても、彼の働きが評価される可能性は低いだろう。
だがタイガの心中にあるのはそれだけではないようで―――、
『……ごめんな、雄牙。俺の身勝手な我儘で巻き込んじまって。お前だって、俺と同じで意志を持った一つの命だってのに……あの時の俺はそんなことも見えてなかった』
「……もういいって言っただろ。それより、お前これからどうする気だ?」
罪悪感を背負った声音を否定する。タイガの意図がどうであれ、最終的に戦うことを選んだのは雄牙の心だ。
けれどその意志すらも今は、大きな壁を前に阻まれようとしている。
『さあな。俺の意志でどうにかなるのかもわからない。……光の国にタイタスからの報告が届けば俺が連れ戻される可能性もあるしな』
「……」
ウルトラマンタイタスの来訪。タイガを上回る実力を持つ彼が任務を携えてこの星に飛来した今、自分達の存在意義は薄れていると言っても過言ではなかった。
加えてタイガの置かれた現状……僅かながらも二人で歩んできた道に迫る終わりをひしひしと感じる。
「……終わる、べきなのかな」
寝転んだまま、机の上に飾られた数枚の写真を見やる。両親と並ぶ幼き日の自分を切り取った一枚に目を細める。
写真の中の両親は、もうこの世にいない。10年前に起きた怪獣災害でその命を落としている。
ウルトラマンの姿がこの星で確認されなくなって間もなくのことだったが、そんなこと幼き日の自分には理解出来なくて。だからただ大切な人達を助けてくれなかったウルトラマンに恨みに近い感情を抱いていた。
『……お前はどうしたいんだ?』
「…わかんねぇ」
タイガと共に戦うことを選んだのもそれが理由だ。過去の自分と同じ想いを自らの選択で誰かに植え付けたくなかったから……だがそれも今となっては別の者が担える。強いヒーローであるウルトラマンは他で存在するのだから。
そもそもタイガがいなくなれば戦う力すら無くなるんだ……束の間の使命だったが、もうその荷を下ろす時が来たのかもしれない。
「わかんねぇよ……そんなの」
捲られた袖の内から痛々しい包帯の跡が露出する。先日の戦いで負った傷だった。祖父や侑達には悟られぬよう振舞っては来たが、同じことが続くようであればそれも限界が近いだろう。
未だに疼くそれらを擦りながら目を閉じた雄牙は、何かを手放すように、暗闇の中に身を沈めた。
(……ま、わかっちゃいたがそう簡単に素人が探れるようなモンでもないよな)
メモに纏めた単語を見下ろし眉を寄せる。
数日前から出来る範囲でタイタスに与えられた任務への協力を試みているところだが……やはり思ったようにいかないのが現実だった。
『無理に協力する必要はないのだぞ? 君には君の生活があるんだ。私としては、それを優先して欲しい』
(それじゃお前にメリットがないだろ。……せめてこれくらいはやらせてくれ)
彼方を守るためにこの力を手にした時から背負うと決めたものだ。いくら彼が気を遣っているからと言って簡単に下ろす訳にはいかない。
幸と悲運が一律に収束しないように、陰徳陽報や因果応報も必ず起こり得るものではない。だから可能な限りはこの手で返すべき……これまでの生で培われた価値観による信条であった。
(しっかし宇宙人の巣窟当たっても手掛かり一つねぇとはな。ホントにこの星にいるんだろうな)
『確かな筋からの情報だ。間違いはないと思うが……手掛かりが掴めない以上はどうしようもないな』
タイタスが本来の目的通りE.G.I.S.の人間と接触出来ていればこうはならなかったのだろうが……過ぎた事ばかりをぼやいても仕方はない。今その任を共有しているのは昂貴なのだから。
ともあれ彼の言う通り手掛かりがない以上はどうしようもない。今は学生としての本分に集中すべきだろう。
とは言えど既に放課後。やることなど帰宅一つに決まっているのだが。
(……そういや、瀬良達の方はどうすんだよ)
『光の国への報告は既に済ませてある。後はその返答を待つだけだからな。それまでは特に私から行動を起こすつもりはないさ』
国際交流学科からライフデザイン学科へと続く廊下を進む傍らでタイタスと交わすのはもう一方の戦士達のこと。
以前忠告をして以来大人しくはしているようだが……まだその危なっかしさが抜けた訳ではない。タイガが光の国へ戻るその日まで警戒の糸は緩めぬ方がいいだろう。
そんな思案も程々に辿り着いた棟で彼方を探すが、当該の者は意外な人物と共に発見される。
「どうも。一応初めまして……かしらね? 彼女さん、ちょっと借りてるわよ」
「へへっ、彼方ちゃん寝取られちまったぜ」
「文字通りってか。……で、何の用だ朝香」
横になった姿勢のままひらひらと手を振ってくる彼方の悪ノリを軽く流し、彼女に膝を貸す女生徒に目をやる。
「あら、私のことご存じだなんて嬉しいじゃない。南雲クン」
「この学校でお前のこと知らない奴の方が珍しいだろ。いいから用件だけ話せ」
理由はとある人気雑誌の読者モデルを務めているから。言動や体形が醸す雰囲気は生業によって培われたものなのだろう。
で、問題はそんな有名人が自分に何の用があるかだが……、
「はいはい。彼方なら返してあげるから嫉妬しないの。ちょっとスクールアイドル同好会のことで話があるのよ」
「エマちゃんが相談したらしいよ~」
彼方の捕捉に短くありがとうと返した果林は僅かに口角を吊り上げて続けた。
「優木せつ菜さんって人を探しているのだけど……協力してくれるわよね?」
謎の少女の名前である˝オグリス˝、そして雄牙の過去が一部判明となりました。
そんな中最後に登場したのはセクシー先輩……やっとラブライブ方面のお話が進められるぜ……