トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~   作:がじゃまる

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ファルコン1なので無事グリージョのアーツを確保できてハッピーハッピッピ―です


14話 中川菜々の憂鬱

 

まだ通学する生徒も少ない時間帯のモノレール車内。

腰掛けた席に体重を預けた虹ヶ咲学園生徒会長―――中川菜々は、魂の抜けたような顔色で自らのスマートフォンを覗き込んでいた。

 

『走り出した 想いは強くするよ』

 

流れるのは誰かが撮影し勝手にアップロードした、スクールアイドル˝優木せつ菜˝のライブ映像。

全力で歌い、踊り、表現した……最後のステージ。

 

『悩んだら 君の手を握ろう』

 

画面をスクロールし、コメント欄を表示してみる。幾つかは読み取れない多言語の感想もあったが、日本語で綴られたものの多くはライブの感想ではなくせつ菜の選択を悔いるものだ。

 

どうして辞めちゃったんだろう。勿体ない。ラブライブで見たかった。そんな投稿を見てどこか安堵のような感情を覚えた自分が腹立たしかった。

 

『なりたい自分を 我慢しないでいいよ』

 

何を未練がましく動画なんか見ているんだ。己のなりたい自分を突き求めた結果がこれだったじゃないか。

 

『夢はいつか そう 輝きだすんだ』

 

皆の夢を、大好きを否定した分際で何を歌っている。

耐え兼ねて動画を閉じる。微かに震えている腕は未練の証拠だった。だからそれすら手放すようにスマートフォンを仕舞い込んだ。

 

(さよなら……もう一人の私)

 

 

優木せつ菜の正体は自分だ。

 

幼少の日より憧れ続け、ようやく立った高校生というステージで自らの大好きを皆に届けるために活動してきた……つもりだった。

 

けどそんなものは所詮独りよがりな我儘でしかなくて。ファンどころか、仲間にすら届いていなかった自分勝手な大好きは他の誰かの大好きを否定する結果になった。

 

だからもう終わり。自分にもうあのステージに立つ資格はないから……ここで幕を下ろすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中川会長」

 

「…? どうかしましたか?」

 

生徒会の朝は早い。特に虹ヶ咲学園ではその生徒数に比例し業務も多い。故に始業時刻前から仕事に取り掛かるのが常のことだが……今日は少し、普段とは違うようだ。

 

「3年生の方が訪ねてきていて、会長に用があると……」

 

「私、ですか?」

 

同じ生徒会役員である双子の姉妹に言われ、一度手を止める。

こんな時間に何用かはわからないが、立場上用があるという生徒を無下に扱う訳にもいかない。

 

「朝早くからごめんなさいね。放課後は仕事があるから、この時間じゃないと尋ねられなくて」

 

開いた扉から覗けた顔は見覚えのあるものだった。全ての生徒の顔を記憶している自分には当たり前のことではあるが、その中でも特に印象の強いものだったというべきか。

 

「ライフデザイン学科3年の朝香果林さん……何の御用です?」

 

「あら、やっぱり生徒全員の名前を知ってるって話は本当だったのね。……じゃあ、優木せつ菜さんのことも知ってるわよね?」

 

初対面である彼女が口にした名前に心の蔵が跳ね上がるのを感じた。

どうして自分を。そんな動揺が走るが、努めて表には出さずに無機質な表情を貫く。

 

「……何故あなたが彼女を? モデルの仕事の参考にでもするおつもりですか」

 

「いいえ。ただちょっとスクールアイドルってものに興味があって。一度お話してみたいと思っただけよ」

 

含みのある物言いに眉を寄せた。嘘だ。果林には何か裏がある。別の目的があってここにいるんだ。

 

心当たりがあるとすれば、彼女と仲の良い、同好会で共に活動していた留学生の先輩。彼女に相談でもされて訪ねてきたのか。

 

「でも誰に聞いてもクラスも学科もわからなくてね。生徒会長さんなら、彼女がどこにいるのかわかるかと思って」

 

目的まではまだ見通せないが、少なからず果林がせつ菜を探している。それだけはわかる。

だが彼女はもういない。他でもない自分自身が闇に葬ったのだ。だからこう答える。

 

「スクールアイドルの話なら、彼女はもう会わないと思いますよ。同好会の廃部を申請しに来た際に、そんなことを仰っていたので」

 

「あらそうなの……それは残念」

 

方便を並べて突っ返そうと試みるが、果林は余裕を持った顔を崩そうとしなかった。

その視線に何か嫌な予感を覚える。まるでこちらの心を見透かしてくるような、そんな視線だ。

 

「もしかしたら、芸名なのかもしれないわね。優木せつ菜っていうのは」

 

「っ…!?」

 

再度胸の奥に大きな衝撃を与えた。

やはりバレているのか。全てわかった上でここにいるのか。脳裏を過る憶測が齎す脂汗が背筋を流れてゆく。

 

「モデルの仕事をやってるとね、たまにいるのよ。今までの自分とは別の何かになりたいとか、家族にバレたくないからとかの理由で芸名を使う子。もしかしたらせつ菜って子もそうなんじゃないかって思って」

 

果林の瞳が菜々の顔を捉えた。吸い込まれるような蒼がただ一点に注がれている。

メイクや衣装、髪形で人の印象とは大きく変わる。それこそ別人にようにすら、だ。

 

モデルという仕事の中でそのような変化に多く触れてきた故なのか、培われたその目は菜々を見つめて離さず―――、

 

「……考えすぎよね。ごめんなさい、話が逸れたわ。それより本題なんだけれど、少し生徒名簿の方見せてもらってもいいかしら」

 

「生徒名簿をですか……? あれは個人情報でもあるので、基本的に生徒への貸し出しは認められてないはずですが……何か手続きの方はなされましたか?」

 

「いいえ。……この場でちょーっと見せてもらいたいだけなのだけれど、それでもダメかしら」

 

「規則は規則なので。また正式に許可を取ってからお越しください」

 

「そう……わかったわ。お邪魔してごめんなさいね」

 

どんな風に詰められるのかと思いきや、意外とあっさりその身を退く果林に少し拍子抜けする。

 

「はぁ……」

 

それすらも何か裏があるように感じるが、一先ず嵐は去った。そんな安堵からか、脱力し切った身体は座り込んだ椅子へと深く深く沈むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして今になってせつ菜を探しているのだろうと考えてみる。

 

ただ同好会を復活させたいだけなら自分は必要ないはずだ。その手はもうかすみを通して打った。だからあとは残った5人でまた活動を再開すればいいだけのはずだった。

 

それなのにまだ、部外者の手まで借りて捜索をする理由は他でもない。優木せつ菜自身に用があるからだろう。

 

「……あ」

 

ならそれは何か。思案が次の段階へと至った途端に鳴り響く授業の終了を告げるチャイム。

 

慌てて意識を現実へと引き戻すが時既に遅し。こんな時に限って教壇に立つのは厳しいことで有名な数学教師。瞬く間に黒板の文字は無へと帰されてゆく。

 

「…すみません瀬良さん。少しノートを写させてもらってもいいでしょうか」

 

「…ん? あぁ、うん。お好きに」

 

生徒の模範たるべき会長が何たる有様か。そんな自戒を刻みつつ、隣の席の男子に頭を下げた。

 

「珍しいな、中川がノート取り忘れるなんて」

 

「少し考えごとをしてまして……」

 

1年次から通じて同じクラスの彼が隣席なのは運が良かった。ある程度気が知れているし、何より警戒しなくていい。今朝の件もあり普段にはない安堵まで覚えるようだった。

 

「……そう言えばさ、ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」

 

「…? えぇ。ノートのこともありますし、構いませんよ」

 

だがその気の緩みがアニメや漫画などで言う、所謂フラグを建設することになったのか。

次に彼が向けてきた言葉は、束の間の安息を奪うには十分すぎる威力を伴っていた。

 

「優木せつ菜って人がどのクラスの生徒なのか―――」

 

「ッ!?」

 

「中川!?」

 

折れた鉛筆の芯が額を直撃し思わず机に突っ伏す形で蹲る。

痛みを知覚出来たのは一瞬だけだった。全ての神経が今し方の彼の発言へと注がれる。

 

「だ、大丈夫か…? てか今の質問そんなにマズかったか……?」

 

「いえ……少し驚いただけなのでお気になさらず……」

 

「少しってレベルじゃないだろ……」

 

どうして彼まで。これもエマや彼方の差し金かと考えるが、心配げに顔を覗き込んでくる雄牙を見てそれを取り払う。そこに果林のような含みは感じ取れなかった。

 

では何故なのか。それを知るべく今度はこちらから投げかけてみる。

 

「…瀬良さんからその名前を聞くとは思いませんでした。興味があるんですか、スクールアイドルに」

 

「いや、俺じゃなくて会いたいって言ってるのは侑の奴。少し前に見たライブで一目惚れしたらしくてさ」

 

特別深い理由はなかったようで一先ず肩の力を抜いた。これならばいくらでも誤魔化しは利くか。

 

「…てか、その様子だとやっぱ知ってるみたいだな」

 

「……まあ、そうですね。彼女の申請を受理したのは私なので。その際に少しお話も伺ってます」

 

「ふーん……じゃあやっぱ学科とかクラスもわかる感じか?」

 

「残念ながらそこまでは。優木せつ菜というのは本名ではないので。恐らく学園の誰かが芸名を使って活動していたんだと思います」

 

今朝は肝を冷やしたが今になっては有難い。少しだけ果林に感謝しつつ雄牙と向き直った。

 

「芸名……なんでそんなまどろっこしい真似を……」

 

「さぁ、そこは私には伺い兼ねますね」

 

「そうだよな……まあ、ありがとな。それ知れただけでも十分だ」

 

「いいえ。……こちらからも一つ宜しいでしょうか。優木さんを探しているのなら、同好会の方々にはお会いしましたか?」

 

僅かながら興味が勝り、少しだけせつ菜として聞いてみる。

 

「ああ、うん。……南雲先輩と、あと中須って1年に至っては今侑達引き込んでまた同好会始めようとしてる」

 

「そう、ですか……」

 

背負った荷が下りるような感覚があった。

よかった。少なからず自分が残そうとしたものは守ることが出来た。それだけで幾分か救われた気がした。

 

「同好会が復活すれば、もしかしたら優木が戻ってくるんじゃないかって、アイツ等も期待してるよ」

 

「え……?」

 

だがそれもまだ終局には至らない。雄牙によって明かされた現状が更なるステージへと場面を移行する。

 

「……中須さんから何があったのか聞いていないのですか?」

 

「何かトラブルがあったのは知ってるけど……詳しいことは何も。なんか知ってんのか?」

 

「いえ……知らないのなら、それに越したことはないです」

 

戻ってくることを望まれているのは初耳だった。それもエマや彼方ではなく、最も激しく衝突してしまったはずのかすみから。

 

一番傷付いたのは他でもない彼女だろうに……どうしてまだ。

 

「俺はスクールアイドルとかは大して知りもしないけど、優木って凄いんだな」

 

ほんの少し羨望の混じった声音に、スカートの裾を握った。

 

「…どうして、そう思うんですか?」

 

「どうして……か。まあ、そうだな。まずこんだけ戻ってくることを望まれてるってこともあるけど……単純に俺がライブを見てすげぇって思ったからかな」

 

「……!」

 

今日何度目かもわからない心臓の跳躍。

 

「見て、いたんですね……」

 

「偶然だけどな。まっすぐで、全力で、ただただ圧巻されたよ」

 

正体を隠して活動していた都合上、直接自分の活動に対する声を聞くということは少なかった。だからこそ、今こうして目の前で語られた想いはまだこの心をせつ菜のまま留めてしまう。

 

「それにさ、どんな理由があって辞めて、同好会が無くなったのかは知らないけど。結果としてあのステージが侑を刺激して新しい同好会の基盤になった訳だろ。最後のステージが仲間の為になってることも含めて、凄いなって思った。……それだけにやっぱ勿体ないよな」

 

なんで、今更そんなことを言うんだ。

もう決めたのに。踏み切ってしまったのに。どうして引き戻してしまうようなことを言うんだ。

 

「……俺なんか、何一つ上手くいかないまま終わったからさ」

 

最後に差した影が何であるかは知る由もないけれど。

 

封じ込めたはずの情動が燃やす熱。それはもう、誤魔化しきれないものになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路を進み始めた頃には既に夕陽が空を染め上げていた。

何も珍しいことじゃない。生徒会長に就任して以降、この時間の下校となることなど常のことだった。紅に染まるお台場の街も今となっては見慣れている。

 

けれどあの日以降、その色も違って見えた。

 

「……」

 

吸い寄せられるように立ち寄った場所で足を止めた。円錐状に広がる階段の中腹、その踊り場。

スクールアイドルとして、優木せつ菜として最後のパフォーマンスを見せた場所だ。

 

「走り出した 想いは強くするよ」

 

何を思ったか、ステップを刻み、あの時と同じ歌を口ずさむ。

立つ場所は同じだ。けど見える景色は全く違う。夕暮れ時の閑散とした通りに自分のパフォーマンスを見るファンはいない。

 

誰向ける訳でもないメロディを虚空に響かせてゆく。パチパチと、孤独な拍手が送られたのは歌唱が終わった頃だった。

 

「ざわめく予感に足を運んでみれば……これはいい歌と出会えた」

 

誰もないと思っていた広場で孤独に両手を叩く一人の男。ピエロを思わせる白黒の衣服に身を包むその姿に、異様な悪寒を覚えた。

 

「けれど妙だなァ……君からは迷いの芳香がする。内なる己を無理矢理封じ込めているような、そんな迷いだ」

 

一歩、また一歩と男は距離を詰めてくる。離れなければ、逃げなければとわかっているのに。得体の知れぬ何かが渦巻く双眸に捉えられた身体は、まるで蛇に睨まれた蛙のように動こうとはしてくれなかった。

 

「うら若き乙女には人には言えない秘め事もあるだろう。私にはその手助けをすることは出来ないが……せめてそれが良い結末を迎えることを祈って、これを贈ろう」

 

気付けば眼前までに接近していた男は硬直したままの菜々の右腕を取ると、さながらエンゲージリングを通すかのような所作で何かを嵌め込まれた。吐き出しそうなほどの恐怖と拒絶感が全身を駆け巡る。

 

「……良き、旅の終わりを」

 

気色の悪い風が吹き抜け、真横を通り過ぎてゆく男の影。

途端に硬直が解け、振り返ったその先にはもう、その姿は微塵ほども見当たらなかった。

 




ウルトラマン達が一言も喋らない上に常時原作キャラ視点の回が出来上がってしまった……
最後に気持ち悪いことしてった奴は勿論アイツだよねって


それと今回楽曲使用というのを初めて使ってみたのですが、正直これであってるのか不安しかないんでなんかミスってたら教えてください

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