トライ×ライブ! ~Rainbow Generations~ 作:がじゃまる
昔からヒーローというものが好きだった。
女の子としてどうかと思ったこともあったけれど、それでも大好きな気持ちに嘘はつけなくて。親に隠れてその手の番組を見たり、ショーに参加することもよくしていた。
スクールアイドルを始めたのも、もしかしたらその影響があったのかもしれない。精一杯に自分の大好きを表現し、誰かの心に明かりを灯す姿……その様はある意味ヒーローとも言えたから。
だから。だからこそ。
そんな存在に憧れたはずの自分が誰かを傷付けてしまったことが、どうしようもないくらいに許せなかったんだ。
『テェヤッ!』
その圧倒的なパワーで相手を薙ぎ払うタイタスに対し、タイガは小回りを利かせた動きでギャラクトロンへと仕掛ける。
宇宙警備隊の訓練生時代に培った基礎的な戦闘技術。経験として共有されるタイガの技術の影響か、これまでよりもずっと彼と一つになって戦っているという感覚があった。
『●▲■―――♪』
『ハァッ!』
振り下ろされた大剣を前転の形で回避。即座に背後へと回り、遠心力を乗せた踵蹴りを奴へとヒットさせる。
だが苦い顔をするのは雄牙達の方だった。命中こそしているが、通じているという手応えは皆無に等しい。
『●▲■―――♪』
『ぬ……がッ……!』
その訳は次に奴の一撃を受け止めた際に判明した。
防御自体は完璧に決まったはずなのに、じりじりと身体が後方へ運ばれる自覚があった。力負けしている証拠だ。
ギャラクトロンの持つ理不尽なまでに頑丈な装甲……これを打ち破るだけのパワーがタイガにはない。
『タイガッ!』
『ッ……!』
『受け取れェ!』
徐々に増してゆく物理的な重圧を前に突破法を模索していた頃、横から上がったタイタスの声と共に飛来する一筋の光。
それはタイガのカラータイマーを介して雄牙の元へ渡ると、左腕へ宿ると共にタイタスを思わせるブレスレットの形を成した。
『私の力を込めたブレスレットだ。きっと君の力になる!』
『タイタス……わかった。雄牙、それにタイガスパークを翳すんだ!』
「わ、わかった!」
《カモン!》
《タイタスレット!》
《コネクトオン!》
言われるがままにブレスレットの真上へ右腕を重ねれば、手甲の水晶体が黄色に発光。次の瞬間にそれは両腕へと広がってゆく。
『オオオォォォッ!』
漲ってゆく力のままに左右の拳をギャラクトロンへと打ち出す。その一つ一つの重みが違った。砕き、揺らし、奴の小綺麗な機体を瞬く間にスクラップへと変えてゆく。
『これがタイタスの力……これならいけるぞ!』
パワー不足はこれで補える。立て続けに破壊された部位からオイルを噴き出すギャラクトロンを見据え、タイガは右腕にエネルギーを集約させた。
『˝プラニウムブラスター˝ッ!』
生成された光球がT字の光線に乗り突貫。
ギャラクトロンへと着弾したそれは胸部の装甲を粉々に砕き、奴の心臓部である赤いコアを露出させた。
『よし…! あと一撃だ。˝ストリウム―――』
あとはアレを破壊するだけ。そう思い再度光線のチャージに入った時だった。
「ぅあっ……」
強烈な浮遊感が全身を襲い、高まっていたはずの熱量が霧散する。その理由を象徴するのは点滅を開始した胸の光だった。
『なっ……ん……! どうしてこんなに早く……!』
本来タイガの肉体に備わっていないレベルの筋力を行使した影響か、急激に消耗した身体は遂に膝をついてしまう。
とにかくこの状況で動きを止めてしまうのはマズイ。装甲を破ったとはいえ、ギャラクトロン本体はまだ健在で―――、
『●▲■―――♪』
『があぁぁぁッ……!!』
白銀の大剣から漏れ出る光が形成した殊更に巨大な白い刀身がタイガを貫き、その巨体を主の足元へと崩れ落とした。
「瀬良……さん……」
確かに聞いた。自分に指輪を嵌め込んだあの怪しげな男が彼をそう呼ぶのを。
確かに見た。自分の目の前で彼があの巨人へと姿を変える瞬間を。
今目の前で戦っているあの巨人は、再びこの星にやってきたウルトラマンの正体は―――自分の級友だったんだ。
『●▲■―――♪』
理解が追い付かない反面、どこか腑に落ちるような感覚があった。
怪獣と交戦するもう一人のウルトラマンが現れて以降、彼の評判があまりよくないものへ変わっていることを菜々は知っている。
弱っちい。情けない。数度に渡って助けられた事実は変わらないというのに、それを早くも忘れた人々は心無い言葉を彼へ向けるようになった。
そしてその想いはきっと、彼自身にもあったのだろう。ここ暫く姿を見せていなかったのも、先程感情のままに菜々へと吠えた理由もきっとそこにある。
自分が戦ったところで迷惑にしかならないとわかっている。あの時雄牙が見せた色はそう言うことだと今ならわかった。
「……」
同じだった。己を不要な存在だと理解し、自らその物語に幕を閉じた優木せつ菜と重なる。
ならどうして再び彼は立ち上がったのか。その理由まではわからないけれど。
『グアァァ……!』
「瀬良さんっ……!」
立ち上がっては薙ぎ払われる姿にいつだかの記憶が呼び覚まされる。
昔、幼き日のことだ。同じものを見た気がする。
10年前にこの地球に降り立ち、戦い抜いたウルトラマン。テレビの中ではない、本物のヒーローの登場に当時の自分は大層沸いたものだった。
でも当時はまだ彼を快く思わない声も確かにあって。街が壊れるだとか、迷惑だとか。度々耳にするこんな声に傷付くことも少なくなかった。
けれどもそのウルトラマンは戦い続けた。きっと自分の気持ちなど届いてはいなかっただろうけど、それでも彼はあの頃の菜々の理想であり続けてくれたんだ。
『シュ……アァ……!』
雄牙が再びあの場所に立った理由も、何度も立ち上がる理由も知る由は菜々にはない。
けど少なからず今の彼の姿があの日に見たヒーローに、憧れた背中と重なる。それだけは確かだった。
「っ……」
また一つ思い出す。どうして自分がヒーローという存在に憧れたか。
ヒーローとは決して完璧な存在ではない。人並みに悩み、誰かを傷付けてしまうことも時にはある。ウルトラマンもまたその例外でないことは雄牙が証明している。
でも自分がこれまで目にしてきたヒーローは誰一人として目の前の試練から逃げなかった。背を向けなかった。
そんな姿に、自分は憧れたんじゃなかったのか。
「……」
今の自分を見つめ返してみる。憧れた姿とはまるで逆だった。いつの間にか消えていた男の並べた言葉は正しかったのだろうと思う。
同好会の仲間のことを想っての行動だったのは事実だ。でもそれと同じくらい、誰かを傷付けてしまうことで他でもない自分自身が傷付くことを恐れていた。そんな己の心に蓋をし、目を逸らそうとしてただけだ。
それ自体はきっと悪いことではない。でも、˝彼等˝に憧れ続けてきた自分の心にはきっと反する。
「私、は……」
誰に辞めろと言われた訳でもない。むしろ戻ってくるのを待ち望んでいる人達がいる。雄牙の言葉が今になって鳴り響いた。
このまま逃げ続ければ、自分の心だけじゃない。優木せつ菜を望む誰かの心も否定することになる。
それは真の意味で誰かの大好きを否定し、奪うことになる。それこそ自分が本当に忌避した事態になるんじゃないだろうか。
「私は……!」
だから今は、この気持ちに正直に。
「わかりましたよ……瀬良さん」
滾った感情が湧き出るように、胸に灯った
「……あなたに、言わなければならないことが出来てしまいました」
迷惑をかけた仲間。応援を裏切ってしまったファン。伝えるべき相手は数多くいる。
でも、今は。
今はあの、自分にとっての新しいヒーローに―――伝えたいから。
「だから……瀬良さん! 負けないでください!」
幼き日にテレビの前でそうしたように、目の前のヒーローに向けて上げた応援の声。
叫んだ心は紅く瞬き、彼の元へと想いを運んだ。
「ッ……!」
自らの名を呼ぶ声に意識をやれば、淡い光が尾を引きながらこちらへと伸びていた。
優木せつ菜の情動を表すかのような、熱い紅。カラータイマーを通してタイガの中へ渡った炎は滾るような熱さを以って雄牙を包む。
そして―――、
『これは……!』
その熱はタイガスパークへと集約され、やがては新たな形を成して雄牙の左腕へと宿る。
力の賢者から渡された代物と同じ、何かの形を模したブレスレット。炎のような深紅は正しく燃えるような熱意の象徴に相応しいと言える。
これならいける―――根拠はないが、そんな確信が雄牙に走った。
『ウルトラマンの力……? だがどうして彼女が……』
「よくわかんねぇけど……コイツで行くぞタイガ!」
悲鳴を上げる身体を無理矢理突き動かし、正真正銘最後の力でギャラクトロンの突進を押し返す。
《カモン!》
タイタスレット同様にレバーを引いた手甲をブレスレットの上に重ねる。備わったクリスタルが赤色へ発光するのと同時に膨大な熱量が全身に広がるのを感じた。
《ロッソレット!》
《コネクトオン!》
先程とは違う。タイタスのそれが暴れ回る熱さだとするなら、こちらは抱擁するような温かさ。
だけど決して熱量で負けている訳ではない。根本的に違う何かを実感しながら、雄牙はタイガの肉体を介してそのエネルギーを増大させた。
「『おおおおぉぉぉぉッッ!!」』
纏うは、火。
極限までその爆発力を高め―――紅蓮の炎を解き放つ。
『˝フレイム……ブラスタァァァァァァ˝ッッッ!!!!!!』
残されたもの全てを注ぎ込んで放出した爆炎の槍は軌道上の大気を焼き焦がしながら突き進み、ギャラクトロンへと突貫。
猛烈な熱量は純白の装甲を崩壊させる間もなく黒へと還し、その刹那には奴の全てを吹き飛ばした。
『ほぅ……ただの腰抜けと思っていたが、意外とやる』
轟音と共に消し飛んだギャラクトロンの最期の音がコングとなるように、昂ぶりの中にあったゼッパンドンは両腕を下げる。
『メインイベントは終わってしまったようなのでな。我々もそろそろお開きとしようか』
『首を振ると思うか?』
『まあそう言うな。あくまでもお前の足止めというのが私の役割だったのでな。心惜しくはあるが、今日はここまでだ』
エネルギーを使い果たしたらしいタイガが崩れ落ちるように消滅してゆく様を片目に眺めながら、奴もまた肉体の実像を失わせてゆく。
『また遊ぼうじゃないか……今度は、
『ッ……! 待てッ!』
遠ざかる気配目掛けてタイタスの拳が振り抜かれるが、それは何も捉えることなく空を切った。
『逃がしたか……』
「何だったんだアイツ……」
傾いていた陽が沈む。
帳に包まれてゆく街の中、姿のない放浪者の笑い声だけが虚空に反響し続けていた。
「ん……ぅぁ……」
軋む全身を襲った痛みに、失っていた意識が表層へと浮き上がってくる。
ギャラクトロンを撃破した直後、完全に力を使い果たし気絶したところまでは覚えている。恐らく今は瓦礫塗れの街中で果てている状態だろう。
だが、それなら何故。
今自分の後頭部には、人肌のような温かさと、柔らかさが伝わっているのだろうか。
「中、川……?」
「……今は、せつ菜ですよ」
明瞭になった視界に、直前まで共にいた少女の顔が映る。
でもその雰囲気は違う。眼鏡を外し、結っていた髪を下ろしただけだというのに。まるで別人であるかのような少女がそこにいた。
「瀬良さんの行動が何を考えてのものだったのかは私にはわかりません。けど、そんなあなたの背中は私の理想を守ってくれた……思い出させてくれたんです。だから、伝えさせてください」
遅れて気付く。雄牙の頭部を支える柔らかさは彼女の腿。どうやら膝枕をされている状態にあるらしい。
だけどこの状況を否定する余力も無ければ、気恥ずかしさを覚えるような余裕もない。未だ限界の真っただ中にある肉体は再び戻ったばかりの意識を手放そうとする。
「……ありがとう」
眠るように全てを黒に染めた、その瞬間。
また別の温かさが頬へと落ち、流れていった。そんな気がした。
戦闘回がようやく一区切り
雄牙の姿勢を通し逃げていた自分を自覚し、再び大好きと向き合う選択をしたせつ菜。そんな彼女から受け取った光がロッソレットとなりギャラクトロンを倒すに至りました
そもそもロッソレットの元となったせつ菜の光とはなんだったのか。反動の大きかったタイタスレットとの違いとは何なのか……それも後々明かされてゆくことでしょう
とりあえずせつ菜のお話はあと1話だけ続きます